閑話として、神様sideの話を割り込み投稿しています。
気になる方はそちらもどうぞ。
読まなくても、特に支障はありませんが。
021 不思議な力、魔法なの
「きゃぁぁぁぁ!」
現在、よく分からない何かに襲われている真っ最中です。
病院に着いたと思ったら、夕方に見つけたフェレットさんが逃げてきて……。何事かと思ったら、よく分からないけど影みたいな何かが追いかけていきました。しかも、明らかに敵対する意思を持っているみたいで、減速する様子もなく突っ込んでいきました。
幸い、フェレットさんはその体当たりを回避できましたが、あんなのに襲われ続けたら、いつかはぶつかってしまいます。
「あっ」
フェレットさんと目が合った、と思ったら、そのままなのはに飛び移ってきました。
「なに、なに!? もしかして、またなの!?」
飛び移ってきたフェレットさんを何とか抱きとめて、そのまま振り向いて走ります。残念ながら、なのはは幽霊さんと戦えるような力はありません。
「来て、くれたの……?」
フェレットさんが喋っているような気がしますが、今はそんなことを気にしている場合ではありません。とにかく、少しでもここから離れることが先決です。
「走りながらでいいから、聞いて欲しいんだ。君には、資質がある……僕に、少しだけ力を貸して」
なのはには、そんな力は無いです。まずは、少しでも距離をとって、那美さんに連絡しないと……。
「僕は、ある探し物の為に、ここではない世界から来ました」
え、もしかして、フェレットさんも、幽霊なの?
「でも、僕一人の力では思いを遂げられないかもしれない。だから、迷惑だと分かってはいるんですが、資質を持った人に協力して欲しくて」
……とりあえず、少しは離れたかな?
「お礼はします。必ずします。僕が持っている力をあなたに使って欲しいんです」
携帯、携帯は確か……。
「僕の力を、魔法の力を!」
え、魔法……? フェレットさんの言葉に、いけないと分かっていても手が止まってしまいました。那美さんやくーちゃんみたいな、不思議な力がなのはにもあるの?
「魔法……?」
疑問を声にしたところで、空から何かが降ってきました。……何か、じゃなくて、この状況だったら、さっきのしかいないよね!?
このままじゃ逃げ切れない、それだけは分かりました。空も飛べる相手に、運動音痴な私の足だと、いつまでも逃げ切れるものではありません。
「お礼は、必ずしますから」
とりあえず近くの物陰に隠れて、フェレットさんに解決方法があるのなら聞こうと思いましたが……。
「お礼とか、そんな場合じゃないでしょ!? 」
そっと覗き見てみますが、地面にめり込んでしまったのか、まだジタバタとあがいています。達也君なら、どうするか。想像してみても、那美さんとくーちゃんに助けられたときに、すぐになのはの手を引いて逃げ出せた姿を思い出すばかりでした。
「……とりあえず、どうすればいいの?」
でも、すぐに逃げるためには落ち着いてなきゃいけないよね? 普段から冷静沈着だからこそ、緊急事態でも落ち着いていられる、そう思ったので、慌てないように、パニックにならないように気をつけて、フェレットさんに問いかけました。
「これを」
器用に、首輪に付けていた宝石だけをくわえて、私に差し出しました。受け取った宝石は、不思議な暖かさを持っていました。
「それを手に、目を閉じて心を澄ませて……僕が言うとおりに繰り返して」
この状況で、心を澄ませるのは難しいんじゃないのかな? そんな無駄なことを考えていられる自分に気付いて、少しだけ、焦っていた心が静まるのが分かりました。
もう、フェレットさんの言うことを信じるしかないよね。そう、覚悟を決めて目を閉じました。
「我、使命を受けし者なり 契約の元、その力を解き放て」
言葉を言っていく度に、手の中の宝石が熱を帯びていくのを感じました。
「風は空に、星は天に そして、不屈の心はこの胸に」
途中からは、フェレットさんが言う言葉と重なるように言っていました。何かが、私が言うべき言葉を教えてくれている、そんな不思議な感覚がありました。
「この手に魔法を レイジングハート、セット、アーップ!」
『Stand by Ready, Set up』
何かに導かれるように手を掲げると、はじめて聞く声が聞こえました。この声、宝石から……?
「なんて魔力だ……」
呆然としたように呟いているフェレットさんですが、これどうしたらいいのー!?
「落ち着いてイメージして。君の魔法を制御する、魔法の杖の姿を。そして、君の身を守る強い衣服の姿を!」
きゅ、急に言われても……。えっと、とりあえず衣服はこれで、あと杖は……。
「えと、ええと……」
何も思い浮かばずに焦るばかりでしたが、何故か先端に大きな赤い宝石のついた杖のイメージが浮んできます。
「と、とりあえずこれで!」
何故かはよく分からないけど、浮んできたのならそれでいいや、という思考の元、とりあえず決断をします。
「成功だ……」
自分の衣装が全て脱がされて、全く別の……私がイメージした、巫女さんの服に着替えさせられました。巫女さんなのは、不思議と戦っている那美さんやくーちゃんの姿が印象に残っているからです。服を着替えるのと同時にさっきの杖を受け取るイメージが脳内に浮んだけど……イメージだけだよね? 決断する前とほぼ何も動いて無いみたいだし。
何なの、これ? という気持ちが無いわけではないけど、不思議なことに出会うのははじめてではないので、「そういうものだ」と受け入れます。くーちゃんの服もどういう原理で作られてるのかわかんないしね。
「Grrrrrr……」
私が変身? したからか、怪物さんが私を睨みつけてきます。
「ええぇぇぇ……」
力を貸すって、もしかしてこの怪物さんと戦うのかな……。
「ど、どうすればいいの!?」
「来ます!」
私の問いかけにかぶせるように、フェレットさんが鋭く言ったけど……もう少し時間に余裕が欲しいな。
無駄とは分かっているけど、そんな思いが沸いてきます。もちろん、怪物さんが待ってくれるわけもなく、ついさっきと同じように私めがけて空から体当たりを繰り出しました。
「きゃぁ!」
思わず目を瞑り、手に持った杖を前に出すけど……きっと無駄だよね? 重そうなあの体重で降ってきたら、きっと杖ごと押しつぶされちゃうのでしょう。そう、思っていました。
『Protection』
再びあの声が聞こえて、いつくるのかと身構えていた衝撃は、思っていたよりもずっと小さなものしか来ませんでした。
何かが倒れるような音がして恐る恐る目を開けると、電柱が塀に倒れこんでいて……でも、怪物さんの姿はどこにもありませんでした。
「僕らの魔法は、発動体に組み込んだプログラムと呼ばれる方式です」
フェレットさんに言われて、よく分かっていませんが逃げています。まだ終わっていない、って言っていましたが、走りながら色々と説明をしてくれているので、前とは少しだけ状況が違います。説明が終わればどうにかできる、という言葉を信じていますが……大丈夫だよね?
「そして、その方式を発動させるのに必要なエネルギーは、術者の精神エネルギーです。そして、あれは忌まわしい力の元に生み出されてしまった思念体」
あれが、みんなに歓迎されるようなエネルギーから生まれたものだとは、到底思えません。
「あれを停止させるには、その杖で封印して、元の姿に戻さないといけないんです」
「よくわかんないけど、どうすればいいの!?」
「さっきみたいに、攻撃や防御などの基本的な魔法は、心に願うだけで発動しますが、より大きな力を必要とする魔法には、呪文が必要なんです」
……那美さんが、前に言っていたことと同じだ。
「想い、というのはそれだけでも外に何らかの影響を与えることが出来るの。なのはちゃんたちが見た、あの幽霊なんかは負の方向だけどその例ね。でもね、その想いに名前を付けてあげると、もっとハッキリとした形をとって、ずっと強い力を発揮できるの。
なのはちゃんたちには、いらないかもしれないけど……でも、忘れないで。名前、というのは本人が思っている以上に大きな影響を与えるものだから」
「心を澄ませて。心の中に、あなたの呪文が浮ぶはずです」
今は物思いにふけっている場合ではありません。余計な考えを振り払って、目を閉じて集中しなきゃ。
「…………」
何か、物音が近づいてきていますが、関係ありません。……あと少し!
何かが飛んできた気配がしたけど、何とか間にあいました。目を開け、今度は自分の意思で杖を向けます。
『Protection』
今度は、しっかりと怪物さんの攻撃を受け止めます。驚いたのか、怪物さんは距離をとりました。
「リリカル、マジカル」
このチャンスに、思い浮かんだ呪文を言います。
「封印すべきは忌まわしき器、ジュエルシード」
「ジュエルシード、封印!」
フェレットさんの言葉にあわせるように言うと、手に持った杖が変形していきます。
『Sealing mode, set up』
杖にピンクの翼が生えて……そして、私の体から何かが吸われていくのが分かりました。そのちからは、怪物さんを縛り上げて、あれだけ暴れていた怪物さんの動きが完全に止まりました。
『Stand by Ready』
「リリカルマジカル ジュエルシード、シリアルXXI 封印!」
『Sealing』
私の言葉と、もうひとつの声が重なって、怪物さんに向けて私からさらに大きな力が飛んでいきます。
怪物さんがいたところには、もう何の姿も。
「あ……」
「これが、ジュエルシードです」
見えない、と思ったら、何か光るものがありました。あれが、ジュエルシード……。
「レイジングハートを向けて」
フェレットさんが、恐る恐る近づいていった私に言います。レイジングハートって……この杖でいいんだよね?
『Recept Number XXI』
レイジングハートをそっと近づけると、青い宝石がレイジングハートの宝石の部分に吸い込まれていきました。
終わり、かな。そう思って緊張を緩めると、巫女さんになっていた私の服が、出かけるときに着ていた、いつものものに戻りました。そして、手には赤い宝石が。
ちょっとだけ、残念かな? 那美さんやくーちゃんとおそろいの巫女さんだったのは、ちょっとだけ嬉しかったです。こんな考えが出来るのも、さっきまでいた怪物さんが目の前からいなくなったからだと思います。
「あ、あの……終わった、の?」
あれだけ危なそうな怪物さんだったのに、レイジングハートを使ってからはあっという間に終わったので、いまいち信じられません。
「はい、あなたのおかげで。……ありがとう」
呆然と立ち尽くしていましたが、何か軽いものが倒れるような音がしたのでふち見てみると、フェレットさんが倒れていました。
「ちょっと、大丈夫? ねえ!?」
大丈夫なのかな、と抱き上げようとしてふと気付きました。
「……も、もしかすると、私ここにいると大変アレなのでは……?」
非常にまずいかなとは思いますが、放置するのも……。
少しの間だけ悩みましたが、こういう不思議なことで頼れそうな人なんて……。
「あ、そ、そうだ、とりあえず……」
携帯電話を取り出して、少しだけ悩みます。このことを話しても大丈夫なのか。話して信じてもらえるのか。それでも、きっとこの人なら大丈夫だと思えたので、意を決して発信します。
「あ、もしもし、那美さんですか? なのはです。夜遅くにすいません。あのですね……」
那美さんにざっと事情を話しました。最初から信じてくれるなんて思っていませんでしたが、那美さんはすぐに信じてくれました。どうやら、那美さんのほうでも、幽霊とも祟りとも違う何かが街中を動き回っていたことと、自分たちとは違った不思議な力が使われたことを何回も観測していたみたいです。
おかげで、明日色々と話すことになってしまいました。もちろん、協力を頼んだ以上は話さないといけないのですが、何を言われるのか、と想像すると、ちょっとブルーになります。
とりあえず今日は遅いので、先に家に帰っていていいそうです。ため息をひとつついて、歩き出したそのときでした。
「ふむ。間にあわなかったか」
現れたのは、白い髪と褐色の肌、それに赤みがかった茶色の目という、海鳴でもとても珍しい組み合わせの男の子でした。年齢は……私と同じくらい、かな? でも、何で電柱の上に立ってるのかな?
更新しました。
巫女なのはについては、迷いましたが入れたほうが作者的に違和感がなかったのと、巫女なのはの魅力に負けて入れてしまいました(笑)
そして皆様が待ちに待った(かどうかは分かりませんが)転生者の登場です!
……登場しただけですが。
それにしても、 なんというテンプレw