022 伝えられない秘密なの
突然手にした魔法の力。この力をくれたフェレットさんは、ただ今倒れています。それから、今度は男の子が声をかけてきたのですが……。
「それで、ここで何があったのか聞いてもいいかね?」
男の子は電柱から何の気負いもなく飛び降りますが、初対面の人にそんな姿を見せるのはどうかと思います。黒っぽい鎧? みたいなのと赤い外套を着ていますが、やっぱり男の子はこういう格好が好きなのかな?
「えと……親とかにも黙って出て来ているので、早く戻りたいのですが……明日じゃダメですか?」
「ふむ。まあここであった事件は終わっているようだし、私はそれでも構わないさ」
やたらともったいぶった喋り方をしていますが、見た目通りの年齢じゃないのかな?
「なら、明日この片づけを頼んだ人に説明するので明日の……4時ごろにあの山にある神社に来てもらっても大丈夫ですか?」
「明日の4時か、了解した。……それではな」
少しだけ考え込む様子を見せた男の子でしたが、すぐに頷き、そのまま立ち去ろうとしました。
「あ、あの! 私は、高町なのはっていいます。あなたの名前を教えてもらえませんか!?」
お互いまだ自己紹介すらしていませんでした。とりあえず、明日お話を聞くのだから、名前くらいは聞いておかないと!
「あぁ、名乗っていなかったな。ビュー……」
何かを言いかけましたが、すぐに止めてしまいました。何か楽しい事でも思い浮かんだみたいににやけていますが、どうかしたのかな?
「いや、アーチャーと呼んでくれ」
そう言うと、アーチャーさんは屋根の上を飛んでどこかへ行ってしまいました。うーん……。あれも魔法の力なのかな? もしそうなら、なのはにもああいうことが出来るようになるのかもしれません。
家に帰って来た私ですが、このフェレットさんどうしよう……? 明日みんなで病院に行くっていうのに、病院はあんなだし……。
「すいません……」
そっと机の上にフェレットさんを横たえると、か細い声が聞こえました。
「あ、起こしちゃった? ごめんね……。怪我、痛くない?」
「怪我は平気です。もうほとんど治っているから」
そう言うと、器用に巻かれていた包帯をほどいていきます。そして、現れた毛並みには、確かに怪我が残っているようには見えませんでした。
「助けてくれたおかげで、残っていた魔力を治療にまわせました」
魔法……。前も言ってたけど、やっぱりこの力って魔法なんだ。
「そうなんだ……。ね、自己紹介してもいい?」
フェレットさんを持ち上げて、確認を取ると頷いてくれました。
「私、高町なのは。小学校3年生。家族や仲良しの友達は、なのはって呼ぶよ」
「僕は、ユーノ・スクライア。スクライアは部族名だから、ユーノが名前です」
ユーノ君、だね。名前も分かったので、机の上におろすと、ユーノ君は頭を深く下げました。
「すいません、あなたを……なのはさんを巻き込んでしまいました」
確かに、巻き込まれた形にはなるんだけど……。
「多分平気! こういう不思議なことに巻き込まれるのは、はじめてじゃないしね」
前にも、幽霊に襲われたことがあるし、そもそもすずかちゃんも結構不思議な存在だし。
「そう、なんですか? でも、とりあえず僕の方の事情を話しておきます」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
少しだけ、遅くまでユーノ君とお話をしていたので、今日は少しだけ眠いです。しばらく話していたら敬語が抜けてきたので、大分打ち解けられたと思います。
そのときに聞いた話によると、私が封印した宝石——ジュエルシードは、ユーノ君の世界の古代遺産だったみたいです。手にしたものの願いをかなえることが出来るみたいですが、簡単に暴走してしまうそうです。何故そんなものが、と尋ねると、ユーノ君が発掘して輸送してたのだけど、その最中に事故にあってしまったみたいです。その時にこの世界ばら撒かれてしまったので、責任を感じたユーノ君が回収しようとやってきたそうです。
自己責任が強すぎるみたいだけど、見つけてしまったことを後悔しているユーノ君は真面目なんだな、と思いました。
「そうだ、ユーノ君。今日私が学校から帰ってきたら、昨日の後始末をしてくれた人に事情を話しに行くから、一緒に来てね」
朝、出かける前にユーノ君にそう声をかけると、かなり慌ててしまいました。
「えぇ!? 困ったな……管理外世界の人に無闇に魔法のことを教えちゃいけないんだけど……」
管理外世界? というのが、何なのかは分かりませんが……もしかして、まずいことをしちゃったのですか?
「なのはー? そろそろ時間だけど大丈夫ー?」
っと、ユーノ君とのお話も大事だけど、学校に遅れちゃいけないよね。
(なのは。続きは念話でしよう)
慌てて出て行こうとすると、頭の中にユーノ君の声が響きます。えっと……。
(ユーノ君、聞こえる?)
(大丈夫だよ)
頭の中で、伝えたいことを念じると、どうやら無事に伝わったみたいで、ユーノ君から返事が返ってきました。
「それじゃあ、行ってきまーす」
お母さんとお父さんに声をかけて、家を出て行きました。いつも乗るバスには間にあわず、次のバスにもギリギリだったので、本当に危なかったです。
(なるほど。この世界に魔法は無いけど、別の力があるんだね)
ユーノ君に那美さんのことを説明すると、とりあえず、ではありますが納得してくれました。それから今まで全く知られていなかった力に、どうやら興味を持ったみたいです。
(魔法が本当に無いのかは分からないけど……。でも那美さん、魔法やジュエルシードのこと感付いていたみたいだから、私が言わなくても関わることになったかもしれないよ?)
最初に受けた印象通り、那美さんは優しいから。きっと、昨日のことから、なにか超常の力が関わっていることに気付けば、動いていたと思います。
(じゃあ僕から説明するから……悪いけど、迎えに来てもらっていいかな?)
(うん、いいよ。それまで……)
あ。こっそり帰ってきたから、ユーノ君のこと誰にも話して無いよ!? ど、どうしよう……。
(ユーノ君、大変言いにくいのですが……)
(なのは? どうしたの?)
(えっとですね、多分家に誰も居ないと思うのですが、お昼とかどうしよっか?)
小動物は、ご飯や水が長時間取れないとかなり衰弱すると聞いています。このまま放置というのは、大変まずい気がするのですが。
(うーん、辛くないって言ったら嘘になるけど……まあ、僕は本来人間だから、一食くらい抜いたってどうって言うことはないよ?)
(え!? ユーノ君、人間だったの?)
最初からフェレットだったから、それが本当の姿だと思ってました。でも、思い返してみれば、最初に見た夢でジュエルシードと戦っていたのは男の子だった気がします。
(そうだよ。大分消耗しちゃったから、この姿になって回復を図っていたんだ)
省エネモード、みたいな感じなのかな? くーちゃんも、人間の姿でいると、すぐにお腹が空くって言ってたし。
(じゃあ、水道の水を自分で出して飲んだりとかはできるんだ。あ、それから、なのはの部屋にあるお菓子なら食べたりしても平気だよ)
(何から何までありがとう)
(ううん、気にしないで。じゃあ、もう学校に着くから、またね)
「おっはよー」
いつもより1本遅いバスになってしまったので、今日はすずかちゃんやアリサちゃんと一緒には行けませんでした。だから、挨拶をして教室に入って2人を探そうとすると、私が気付くより先に2人が駆け寄ってきていました。
「なのは、昨夜の話聞いた?」
随分と慌てた様子で、アリサちゃんが言いました。何のことだか分からずに首をかしげると、すずかちゃんまで不安そうな様子でした。
「昨日、フェレットを連れて行ってもらった病院で、事故があったみたいで……」
病院で事故って、ジュエルシードがらみのことだよね?
「車が突っ込んで、壁が壊れちゃったみたいで……警察の人も犯人を探すって」
「あのフェレットが無事かどうか心配で」
アリサちゃんとすずかちゃんが落ち着きなく言いますが、真相を知っている身としては少し居た堪れないです……。
「ええとね、その件はその……」
フェレット……っていうか、ユーノ君が無事なのは伝えてあげたいのですが、魔法のことを話すのは止められてるし、どうしようか。そう思ったので、挙動不審になってしまったのだと思います、アリサちゃんに気付かれてしまいました。
「……なのは? あんた、何か隠してるでしょ?」
ぎっくぅ。……でもこの2人なら、魔法のことを抜きに……話せないって正直に言った上である程度はなせば、分かってくれる気がします。
「あのね、詳しいところは話しちゃいけないって言われてるんだけど……」
何とか魔法のことは伏せたまま、昨夜のことについて説明できました。ただ、結構強引な部分もあったので、納得できていない部分もあると思います。……すいません、那美さん。もしかしたら負担をかけることになるかもしれません。
「ふーん……。ま、私が関わったって何か出来るわけじゃないし、フェレットが無事だって分かったからとりあえずはいいわ」
「うん。隠そうとするんじゃなくて、私たちに少しでも打ち明けてくれて嬉しかったよ」
アリサちゃんもすずかちゃんも、「話せない」ということを分かってくれました。私としては、2人になら話しても大丈夫だとは思うのですが、ユーノ君がダメだといっている理由がはっきりしないので、とりあえずは保留にしました。
「でもね、なのはちゃん」
ほっと息を吐いていると、アリサちゃんとすずかちゃんが、真剣な目で私を見ていました。
「どうしようもなくなったら、私たちにも言いなさいよ」
うん。話しても大丈夫になったり、私だけじゃどうにもならなくなったら、頼らせてもらうよ?
本当に、いい友達を持ったなぁ。そう感じた朝でした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それじゃあユーノ君、行こっか」
学校が終わるや否や真っ直ぐ家に向かい、すぐに神社に行けるよう準備をしました。お昼に達也君やアディリナちゃんにも、朝と同じ説明で分かってもらえたので「頑張ってきなさいよ」と送り出してもらえました。
「ふむ。奇遇だね」
神社へと続く階段を上っていると、上から昨日会った……えっと、アーチャーさんが降りてきました。昨日着ていた黒っぽい鎧に赤い外套という姿ではなく、赤いTシャツと黒いズボンを着ていましたが……この2色の組み合わせが好きなのかな?
「あ、こんにちは」
ぺこり、とお辞儀をするとユーノ君もそれに合わせてお辞儀をします。
(なのは、この人は?)
(昨夜、ユーノ君が倒れたあとに来た人なの。この人も、えと……魔導師? なのかな)
(……。もし聞こえていたら、返事をしてもらえませんか?)
じっとアーチャーさんを見ていたユーノ君でしたが、ふと気付いたように念話を送っていました。
「ああ、気にしなくても構わないよ。こう見えて、私も魔導師の端くれなのでね」
どこか皮肉げに言うアーチャーさんです。
「そうだったんですか。でも、どうしてこんな世界に?」
「ああ、いや。諸事情により世界を渡っている身でね。偶々この世界にいたのだが、何やらおかしな魔力を察知してね。念のため様子を見に行ったらなのはに会った、という訳さ」
ふえー、私には何となく力があるかなっていうのがわかるだけですが、アーチャーさんにはその魔力がどういうものか分かるみたいです。
「それにしても、昨日のあれはなんだったんだ? どうやら君にはある程度分かっているようだが」
確かに、全てが終わってからあの現場に着いたアーチャーさんには分からないかもしれません。
「あれはですね……」
……!
「なのは!」
今のは、私にも感じられました。すぐ側……神社の方から、強い違和感がする魔力が感じられました。
「なのは、レイジングハートを!」
急いで階段を駆け上がっていると、ユーノ君が声をかけてきました。昨日みたいな怪物さんを相手にするのなら、準備はしておいた方がいいかもしれません。
「うん!」
ペンダントにして着けていたレイジングハートを取り出します。……今日もよろしくね、レイジングハート。そう思いをこめて眺めると、レイジングハートがきらりと光ってこたえてくれた気がしました。
「また昨日と同じか。力を貸そうか? 生憎資質の関係で封印は出来ないのだが、それなりに出来るつもりだが」
「いいんですか?」
「もちろんだとも」
何がいるのかは分かりませんが、きっと大丈夫だと思います。
更新しました。
EMIYAの人気っぷりに驚きましたw
作者的にはそんなことよりも、巫女なのはが好評だったことが嬉しいですが。
帰るのが遅くなったので、今日中には出来ないかと思いましたが、何とかできました。
予定では、この次の戦闘までやるつもりだったのですが、伸びてしまいました。弓兵さんの活躍(?) は次回をお待ちください。
それから悩みましたが、差し障りの無いところは、なのはに暴露してもらいました。
すずかの件と、那美さんの件をお互い知っていること、そして何よりも魔法についてそこまで詳しいわけではないので、本策のなのはなら、話すかなぁと思った次第ですが……どうなんでしょうね。
それでは次回の「弓兵危機一髪」をお楽しみに! (違