023 ジュエルシードとの戦いなの
「なのは! なのはもレイジングハートの起動を!」
「え、き、起動って何だっけ?」
走りながらなので、少し苦しいですが、聞いておかないとまずいかも。そう思って問い返すと、思いもよらない答えが返ってきました。
「我は使命を、からはじまる起動パスワードだよ!」
え、えぇ!? あんな長いの覚えてないよー……。そもそもあの時は、目の前のことをどうするかでいっぱいいっぱいだったし。
「まあ、しょうがない、のかな? とりあえず、もう一回僕が言うから繰り返して」
「わ、分かった」
『No probrem』
え? レイジングハート?
「レイジング、ハート……?」
思わず呟きが漏れます。私が何かやったわけでもないのに、手に持ったレイジングハートからは強い光は溢れていました。
『Stand by Ready, Set up』
レイジングハートの言葉とともに、昨夜と同じ杖が手の中に現れました。
「パスワード無しでレイジングハートを起動させた!」
「え、それってすごいことなの?」
ユーノ君は何かに驚いているみたいでしたが、なのはには何に驚いているのかよく分かりません。
「もちろんだよ。レイジングハートはインテリジェントデバイスっていって、人工知能……自分の意思を持っているんだ」
ふえー。昨日から色々あったけど、まだまだ知らないことが沢山あるみたいです。
「だから、パスワード無しで起動させるためには、レイジングハートに認められなきゃダメなんだ」
つまり、私はレイジングハートに認められたってことでいいのかな。
「そっか。レイジングハート、よろしくね」
杖の先に付いた赤い宝石をじっと見てから、改めて一緒に戦う仲間に挨拶をしました。
『Of course』
「さて、主従の挨拶をするのは構わないが、そろそろバリアジャケットを着たほうがいいのではないかね? 暴走体までの距離はもうさほど残っていないぞ」
アーチャーさんが半分叱るようにいいますが、確かにその通りです。もう鳥居も見えてきてるし、そのすぐ奥から禍々しい魔力を感じます。
「そうだね……お願い、レイジングハート」
何か期待した様子で、アーチャーさんがこちらを伺っていますが、どうかしたのかな? でも、とりあえず着替えないと。そう思ってレイジングハートに頼むと、やはり昨日と同じように自分が着替えさせられる様子が思い浮かびます。装着状況の確認とかのためにやっているのかな?
疑問は尽きませんが、何はともあれ巫女さんの姿に変身完了、戦闘準備オッケーです。
「は……?」
私がバリアジャケットに着替えると、アーチャーさんはありえないものを見る様な目で私を見てきました。
「アーチャーさん?」
私の問いかけも全く聞こえていないみたいで、まさかもう他に、とか、いやでも変わった様子は、とか呟いています。何かあったのかな、とも思いますが、もう神社に着いてしまいます。無駄なことはおいておいて、これから何が起きても大丈夫なように気を引き締めます。
鳥居をくぐると、そこにいたのは犬、みたいな何かと、倒れている女の人と、尻尾をつけた女の人……ってくーちゃん? 女の人のすぐ側に首輪やリードの残骸みたいなものが落ちているし、多分あの女の人が連れていた犬がジュエルシードを暴走させちゃったんだと思います。たまたまそこに遭遇したくーちゃんが守ってあげたのかな?
「現地の生物を取り込んでる……」
「どうなるの?」
「実体がある分、手ごわくなっているんだ」
どれくらいかは分からないけど、昨日のは、レイジングハートを起動させたらすぐに終わりました。今日のも大丈夫。多分……。
少しだけ不安でしたが意を決して足を踏み出すと、こちらに気付いたのか、ジュエルシードの暴走体がこちらを向きました。
「くっ、他の転生者にこんなに早く会うことになるとは思わなかった!」
さすがに、こっちに敵意が向いたからか、今までずっと自分の世界に閉じこもっていたアーチャーさんも我を取り戻したみたいです。
「なのは、あちらの女性は私が抑えるので、ジュエルシードをさっさと封印してくれ!」
「あ、待って!?」
……我には戻っても、冷静じゃあないみたいです。私の話も聞こうとせずに、くーちゃんに飛びかかっていきました。くーちゃんはひょいっと軽く避けましたが、アーチャーさんが敵だと認識したのかアーチャーさんと向き合いました。
「なのは、あの人は?」
「大丈夫、私の知り合い。とっても強いから平気だと思うよ」
ユーノ君が心配してるのは、アーチャーさんがくーちゃんを傷つけてしまわないかだと思いますが、なのはとしてはくーちゃんがやり過ぎないかの方が心配です。
「そう……。ならさっさと封印しちゃおう!」
そうだね、とユーノ君に同意して暴走体のほうに意識を戻しますが……あ、あれ、いない!?
どこにいったの、と慌てて周囲を見回しても、何も見つかりません。どんどん焦りが募っていきますが……小さくなうなり声を何とか聞きとることができました。……上!?
はっと視線を向けると、鳥居の上に暴走体がいました。見つけたけど、今にも飛びかからんとしています。ダメ、避けられない!
『Protection』
思わず目を瞑ってレイジングハートを前に突き出すと、昨夜と同じように防御の魔法が発動しました。……レイジングハート?
「衝撃をノーダメージで……やっぱり、すごい才能を持っている」
多分、レイジングハートが張ってくれた魔法のおかげだから、すごいのは私じゃなくてレイジングハートだよ?
っと、暴走体はさっきの衝撃で動けなくなっているみたいです。
「えと……封印ってのをすればいいんだよね? レイジングハート、お願い」
『All right』
レイジングハートにお願いして、ジュエルシードの封印作業をします。
「リリカルマジカル、ジュエルシードシリアルXVI、封印」
『Sealing』
二度目ということもあってか、最初のときと比べるとずっと楽に封印できました。
「これで、いいのかな?」
「うん。これ以上、無いくらいに」
ユーノ君が褒めてくれます。こうやって頼られるのって、やっぱり嬉しいんだな。もしかして、達也君たちが色々してくれるのも、頼られるのが嬉しかったりするから、なのかな? でも、まだ集めたのは3つかぁ。あと18個も集めなきゃいけないなんて大変です。
などと、ユーノ君と話しながら考えていると、何かが爆発するような大きな音がして、その後すぐにくーちゃんの放つ電気の音と、男の子の叫び声が聞こえました。そうだ、くーちゃんとアーチャーさん!
「なのは、様子を見に行こう!」
もちろんだよ! くーちゃんもアーチャーさんも無事だといいけど。
「なのは、ひさしぶり」
いつもと同じように、くーちゃんが迎えてくれました。神社の境内には穴が開いていたり、いくつか武器が刺さったりしていますが、くーちゃん自身には何の怪我もありません。そのことにまずはほっとします。
「うん、久しぶり。ねえくーちゃん、アーチャーさんは?」
「あーちゃー?」
あ、くーちゃんにはこの名前で言ってもわからないよね。
「えっと……さっきくーちゃんを襲った男の子、かな」
この言い方はどうだろう、とも思うけど、一番分かりやすいのもこの言い方だし……。少し思うところはありましたが、そう答えると、くーちゃんは私の右後ろを指差しました。
「あれ」
指差された方に視線を向けると、体のあちこちを焦がして倒れているアーチャーさんがいました。いつの間にかあったときと同じ服とズボンに戻っています。
「すごい、バリアジャケットを完全に抜いてる……」
呆然としたように呟いているユーノ君ですが、それってどのくらいすごいの?
「えと、それってすごいの?」
「すごいも何も、魔導師にとってバリアジャケットは最後の砦だからね、気絶したくらいじゃ解けたりしないよ」
ふえー、そうなんだ。
「さすがくーちゃん、すごいね」
アーチャーさんのことが心配じゃないと言ったら嘘になりますが、なのはが止めたのに勝手に戦いを始めたので、自業自得だと思います。今もうめき声が聞こえたり、ピクピクと動いたりしているのでとりあえず大丈夫そうだし。
「なのはちゃん、さっきのが昨日言ってた厄介ごとでいいの?」
突然後ろから話しかけられたので、驚いて振り返ると、那美さんがいました。
「那美さん!? いつ来たんですか?」
「なのはちゃんが、あの犬に何かしてるところからね」
み、見られてたんだ……。苦笑しか出てきませんが、どの道全てを話すつもりで来たのです。話のとっかかりにはなるだろうから、結果オーライ、かな?
「なるほど、ね」
一通り那美さんに事情を説明しました。とりあえず、何が起きているのかを把握するためか、那美さんは質問をしたりすることなく、私たちの話を聞いていました。ちなみに、アーチャーさんは社務所の中で寝かされています。
「すいません、僕のせいで……」
「ユーノ君、もうそれは気にしないでって言ってるでしょ?」
やっぱり責任を感じているのか、ユーノ君には元気がありません。
「そうね。話を聞く限りだと、ユーノ君がそんなに気にすることではないと思うわ。発掘をしている以上、何かまずいものが見つかることはそう珍しいことではないんでしょう?」
「……はい。でも、ここまで危険なものが見つかることは滅多にないんです。だから……」
「ストップ。責任感が強いのはいいことだけど、強すぎるのも問題よ? 発掘の許可の申請、発掘したものの危険性の報告、さらにその護送の依頼……全てを管理局、だっけ?
にしてある以上、責任の大部分はそこにあるのよ?」
さすが那美さん、今回の事件の問題になる部分をしっかりと抜き出して、ユーノ君に示しています。とてもじゃないですが、成長してもなのはには出来る気がしません。
「そう、なんでしょうか……?」
「ええ。それに、方向は違うけど、私もこんな仕事に関わっているから分かることがあるわ。専門家がいるのなら、任せた方がいいの。中途半端な知識しか持っていない人が関わっても、碌な結果にはならないわ」
「それも、分かっています。管理局の方にはもう既に事故のあらましは伝えてあるので、時間はかかるかもしれませんが、来ると思います」
え、待って。こういう事件を解決するための組織なのに、すぐに来てくれないの?
「管理局ってとこがやってる事件って、今回のよりもずっと難しいの?」
「ううん、そんなことはないよ。もちろん、もっと緊急性が高くて危険な仕事もしてるけど、今回の事件はかなり優先度が高くなるはず、なんだけど……唯でさえ人手が足りていない上に、ここは本来管轄外の世界だからね。どうしても来るまでに時間はかかると思う」
そっか。人がいなかったり遠かったりしたら、すぐに来るというわけにはいかないもんね。
「だから、管理局が来るまでは僕が対処しようと思ったんですが……消耗が大きすぎて、僕には出来ませんでした」
「そう……。本当なら、私たちも手伝えたらいいんだけど、さっきのを見ている限り、技能系統が違いすぎるわね。全く別の力、ってわけでもなさそうだけど、私たちじゃジュエルシードを封印するだけの出力は出せそうに無いわ」
多分そうだろうなぁとは思っていましたが、やっぱり那美さんたちの力じゃダメみたいです。
「そうですか……。いえ、でも昨日の件では助かりました。僕自身が消耗してた上に、急にこられたので、封時結界が展開できなかったので」
ふうじけっかい?
「平気よ。警察には知り合いもいるし、私の仕事関係でも協力し合ってるからね。たまにああやって誤魔化してもらったりしてるの。ただ、あんまり続くとちょっと困るから、どうにかして欲しいんだけど……」
「いえ、僕が封時結界を展開できれば、こちらの世界に被害が及ぶことはまず無いと思います」
那美さんも疑問に思ったのか、封時結界について質問をしました。どうやら那美さんたち退魔の人には無い技術みたいで、何とかできないか試してみるそうです。
「うーん、確かに封時結界が出来れば被害は抑えられるでしょうけど、その状態で封印できるの?」
「それは……」
最初も、封印しようとしてすごく消耗しちゃった、って言ってたもんね。
「じゃあ、私がお手伝いするよ」
「え?」
「よく分からないけど、私の魔力は大きいんでしょ? だから、ユーノ君が結界を張って、私が封印。これなら大丈夫でだよね?」
何でも1人でやろうとするからダメなんです。私にしか出来ないこと、ユーノ君にしかできないこと。それぞれを上手くかみ合わせれば、きっと上手くいくと思います。それに、レイジングハートもいるしね。
「いいの?」
「もちろん!」
私が力強く頷くと、申し訳ないという様子でしたが、ユーノ君も受け入れてくれました。
「あ、そうだなのはちゃん」
那美さん? どうかしたんの?
「結構危ないことも起きるみたいだし、久遠も一緒に連れて行くこと。それさえ守ってくれれば、私からは特に何も言わないよ」
くーちゃんを見てみると、くーちゃんもビックリしているみたいでした。
「じゃあ……くーちゃん、一緒に来てくれる?」
「……うん。よろしく、なのは」
「よろしく、くーちゃん」
私とくーちゃんのやりとりを微笑みながら見ていた那美さんですが、ふと思い出したように尋ねてきました。
「そういえばなのはちゃん、どうして白衣に緋袴なんか着て巫女の格好してるの?」
あ、バリアジャケットの解除してなかった……。
「えーと、私が魔法を使うときの姿なんです。こうやって……」
逆になるけど、巫女さんの格好から、いつもの制服姿に戻ってみせます。
「そっか、それも魔法なんだね。でも、どうして巫女なの?」
「えーとね、幽霊さんから私たちを守ってくれた那美さんが格好良かったから」
あのときの那美さんの姿は忘れられません。もうだめかも、と思ったときに来てくれた那美さんは本当に格好良かった、ということを一生懸命伝えると、那美さんは照れたのか少し赤くなっていました。
「あ、ありがとう……。あ、それから、あの男の子には私から事情を話しておくから。じゃあね、なのはちゃん」
「バイバーイ」
那美さんに手を振って、くーちゃんとユーノ君と一緒に家に向かって帰ります。……お父さんたちには、事情話さないとダメだろうなぁ……。
更新しました。
雪が大変なことになっていました。車で通学しているのですが、普段の倍以上の時間がかかりました。
弓兵さんの結末その1、勘違いして突っ込んだ挙句にボロ負けです(笑)
それから、久遠がジュエルシードを発動させる、ということを一瞬思ったのですが、さすがに誰も勝てそうに無いのでやめました。
でも、実際久遠の強さってどれくらいなんでしょう? とらハ3の知識だけだといまいち分からないです。
とりあえず、魔導師換算でS〜SSくらいを想定していますが、皆さんはどうお考えでしょうか?
それにしても、4話使ってアニメ2話分。果たしていつ終わるのだろうか……。