024 つかの間の休息なの
「リリカルマジカル、ジュエルシードシリアルXX、封印」
今日も何とかジュエルシードを封印しました。封印したジュエルシードは、これでようやく5つ目です。
「なのは、おつかれ」
「ううん、くーちゃんが相手を押さえてくれたから全然平気だよ。くーちゃんこそお疲れ様」
くーちゃんが労ってくれますが、暴走体の相手はくーちゃんがしてくれたので、私はただ封印しただけです。もちろん、くーちゃんがいないときのために、時間があるときに魔法の練習はしているのですが、くーちゃんによるとまだまだ危なっかしいそうです。要練習、です。
「ふむ、お疲れ」
アーチャーさんも一緒にいます。くーちゃんにはあの後謝っていたみたいなのでとりあえず、一応、問題はありません。あの後も1回手伝ってくれているのですが……くーちゃんが前に出るとそれだけで終わってしまうので、あんまり出番はありません。
「アーチャーさん、とりあえずなのはとユーノ君、それに久遠がいれば大丈夫だと思うので、来なくてもいいんですよ?」
邪魔をしているわけではないのですが、アーチャーさんがいるとくーちゃんが少しピリピリするので、今のままならいなくてもいいのじゃないのかな、と思います。
「確かに余り役に立っているとはいえないが……」
情け無い顔をするアーチャーさん。正直、そのことに関してはフォローも出来ません。
「だが、これだけの危険性を秘めたロストロギアだ。戦力がいて困ることは無いだろうから付き合わせてもらうよ」
何かあったときのためにいたほうがいい、というのは分かるのですが……。
「ねえユーノ君、ロストロギアって何?」
「ロストロギアっていうのは、過去に滅んだ文明や何かから見つけられた、現在再現不可能な物や技術の事を言うんだ。当然、詳しい原理とかが分かっていないものの方が多いから、ふとした弾みで暴走する危険性がある。だから、管理局にはこれの管理を専門とする部署もあるくらいなんだ」
ふえー……。そうだよね、勝手に生き物の想いを読み取って、あんなふうに歪めて叶える、なんていう機能を持ったものが、量産出来たら怖いもんね。
「そうだな。特に、ジュエルシードは1つですら次元震を引き起こしかねないからな。暴走のしやすさも含めて、その危険性がしっかり伝われば、第一級捜索指定ロストロギアに指定されてもおかしくないからな」
そうなんだ。それにしても、アーチャーさんって意外と物知りなんだね。
「そんなはずは……」
耳元で何か聞こえた気がするので見てみると、ユーノ君が考え込んでいました。言い遅れましたが、ユーノ君は現在家に住んでいます。お父さんとお母さんを説得するのが少し大変でしたが、何とか魔法のことは明かさずに済みました。
「ユーノ君、どうかしたの?」
「なのは……ううん、なんでもないんだ」
(いや、彼が言っていることが事実だとは思えないんだ)
言葉では否定していますが、念話で何に悩んでいるのか教えてくれました。アーチャーさんを見ても、こちらを気にした様子は無いので、秘密にしておきたいお話みたいです。
(どういうこと?)
(僕たちがジュエルシードを発掘する際に確認した資料だと、単体のジュエルシードだと次元震を起こせないはずなんだ。もちろん、そのエネルギーはすごいものがあるけど。小規模なものでも、次元震を起こそうと思ったら最低5つは共鳴させなきゃ無理だって書かれたものしか見たことが無いんだ)
えっと、つまり、ユーノ君の知識とアーチャーさんの知識に矛盾があるってことだよね?
(でも、アーチャーさんは別の資料を見てて、それにはもっと危険だって書いてあったのかもしれないよね?)
(もちろんその可能性はあるよ。実際この文明はジュエルシードの暴走で滅んだって言われているし、僕の調べた条件だと早々簡単に滅びるとは思えない。
……でもそうすると、彼の最初の様子がおかしいんだ。僕が説明するまで、彼はジュエルシードのことをよく知らないみたいだったのだから)
そういえば、また会った時に色々と説明しましたが、そのときはジュエルシードっていう名前すら知らないみたいでした。
(彼の目的が何なのかは僕には分からない。……けど、無条件で信じちゃいけないと思うんだ)
無条件で信じられない、というのはとても悲しいことだと思うけど、ジュエルシードっていう本当に危険なものに関わっている以上仕方ないのかな? ちょっと心が痛むけど、これからも気をつけていようと思いました。何かあったら、ユーノ君とくーちゃん、それから那美さんに相談しないと……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なのは、なのはってば!」
朝になりましたが、今日はとても眠いです……。やっぱり、昨日「明日は日曜だから」って無理をして遅くまで探していたのがダメだったのかな? でも結局暴走自体は同じ時間に起きただろうから、どうしようと今日は寝不足になる運命だったのかな……。
それからユーノ君、なのはは眠いのです。ユーノ君も遅くまで起きてたんだから、もう少しゆっくりしていようよ……。
「もう……昨日のことで疲れたのは分かるけど、今日は約束があるんでしょ? もうお昼過ぎてるよ!」
え!? 慌てて飛び起きて時計を見てみますが、12時はとっくに過ぎていました。急いで着替えていけばまだ間にあう、かな……。
「た、大変、急がなきゃ〜」
達也君やアリサちゃんたちとも、放課後あまり遊べていなかったので、今日はとても楽しみだったのです。遅れるわけにはいかないよー……。
「あら、なのは。何とか間にあったわね。でも、こんなにギリギリになるなんて珍しいわね」
「ちょっと、寝坊、しちゃって……。急いで、走って、きたの」
何とか説明しますが、家からグラウンドまでの全力疾走は、運動音痴のなのはにはかなり辛いものがありました。息が切れて、上手く喋れません。
「そう……。メールででも連絡くれればよかったのに」
「そうだよ。達也君もちょっと遅れるって連絡くれたし」
え? そういえば、達也君がいません。今日は、お父さんがオーナー兼監督をやっている翠屋JFCの試合があるからみんなで応援しようって言ったのに……。ちょっと残念に思いながら、携帯を取り出してみると、確かに達也君からメールが届いていました。
「そっか、30分くらい遅れちゃうんだ」
残念。でも、私もメールすることに頭が回っていればここまで走らなくてもよかったんだよね……。
「でも達也も一体どうしたのかしら。なのはが色々やってて遊べないっていうのは知ってるけど、達也も最近付き合い悪いのよね」
え?
「そうだよね。なのはちゃんみたいに毎日ってわけじゃないけど、今までみたいにいつ誘っても遊べるってわけじゃないよね」
まだ私が魔法に関わってから10日くらいしかたっていないわけですが、私の知らない間に何かあったみたいです。
「2人とも、達也君のこと心配じゃないの?」
アリサちゃんもすずかちゃんもアディリナちゃんも苦笑しているけど……何か変なこと言った?
「達也はある程度話聞いてるしね。知り合いの人が近くで入院してるみたいよ」
「そそ。私やすずかに良い医者知らないかって聞いてたしね。海鳴には不慣れみたいだから、達也が世話とかを手伝ってるらしいよ」
そうなんだ……。やっぱり、ジュエルシードのことばっかりで、一緒に遊べなかった影響が出てるなぁ。これからはもう少し日常のことも考えないと。
「じゃあ、お見舞いとか行った方がいいのかな?」
「私たちもそう聞いたんだけど、何か向こうの人が人嫌いみたいだから、いかない方がいいみたいだよ」
そっかぁ。相手の人が嫌がってるのなら行かない方がいいのかな?
「そんなことよりなのは、なのはの方はどうなのよ?」
私? 私はまだまだ終わりが見えないからなぁ。しかも、どこまで話しても大丈夫なのか未だにわからないし。
「うーん……まだまだ時間がかかりそう、かな。ごめんね?」
「ま、無理してないならいいわ。そんなことよりユーノ見せてくれるのよね?」
アリサちゃんがため息をついて言いますが、そうでした。先週、今日会わせるって約束したんでした。
「ほら、ユーノ君挨拶」
(……なのは、本当に大丈夫なの?)
ユーノ君の疑問も分かりますが、これくらいならいいんじゃないのかな?
「うん。くーちゃんのことも知ってるし……多少なら平気だと思うよ」
「なのは?」
おっと失敗、失敗。思わず声に出してしまいました。ユーノ君はため息をついていますが……納得してくれたのかな?
「はじめまして、ユーノ・スクライアです。とりあえずこんな姿のままですいません。なのはに助けてもらって……それから、友達をこちらの事情に巻き込んでしまって、すいません」
ベンチに座っていた私たちの中央に来ると、ユーノ君はぺこり、とお辞儀をしました。
「話には聞いてたけど本当に喋るのね」
「本当だね。でも、こんな姿って?」
「ええと、今の姿は、体を休める為の仮初のものなんです。大分回復したから、戻ってもいいんですけど……」
そこで言葉を止めると、首をきょろきょろと振って周りを確認します。
「ここだとさすがに人が多いから、後にします」
確かに、30人以上の人がいると、注目されていなくても誰かに気付かれてしまうかもしれません。
「ごめん、お待たせ」
サッカーの試合も半分が終わったところで、ようやく達也君がやってきました。
「遅いわよ。……まあ来たからいいけど、今日は大丈夫なの?」
「うん。丁度家を出ようとしたところで、届け物をお願いされたからね。悪いとは思ったけど、向こうを優先させてもらったよ」
今日も病院に行ってたんだ。なのはが知らない間に色々進んでいるのは、仕方が無いとは言っても、ちょっと面白くないです。
(なのは)
ちょっとだけ不機嫌になってしまいましたが、ユーノ君が真剣な声色で念話をしてきました。
(ユーノ君、どうしたの?)
(彼も魔導師資質をもってる)
え!? 達也君も魔力を持ってるの?
(彼にならもう少し話してみてもいいけど……。彼の性格は?)
えーと達也君の性格でしょ? しっかり者で、勉強が出来て、でも運動は私と一緒で苦手。それから、私たちが困っていたら、助けてくれる優しい人、かな。
(なるほど。そうすると、こちらの事情は話さないほうがいいかもしれない)
え?
(魔導師資質を持っているから、現地協力者という形をとれば、話すこと自体に問題はなくなるんだ。ただ、彼の資質は悪くは無いかもしれないけど、なのはよりずっと弱いんだ。
でも、なのはに聞いた彼の性格だと、なのはが困ってて自分が助けられると知ったら、手を出しかねないでしょ? 自己防衛すらおぼつかない人が参加するのは、さすがにまずいからね)
そっか、残念。達也君と一緒に探せたら、少しは楽しかったかもしれないのに。そう思って達也君を見ると、ばっちり目が合いました。慌てて目をそらしますが、達也君は微笑んでいました。
「あんたたち……何やっているのよ」
アディリナちゃんが呆れたように言います。ちょっと、一人だけ別行動してるのが寂しいな、って思っただけだよ?
「いや、何かなのはが見ているみたいだったから。それより、ここ最近何かあった?」
「んー……。特にこれといってなかったわね。達也がいない間にユーノの紹介があったことと……」
あ、達也君にもユーノ君の紹介しないと。別に紹介したからすぐにどうこうって話じゃないもんね。
「あ、それから、達也が何か綺麗な女の子と歩いてたのを昨日見かけたくらいね」
ユーノ君の紹介をしようと思ったら、にやり、と笑ってアディリナちゃんが言ったことでタイミングを逃してしまいました。
「へぇ……。私たちからの誘いを断って何をしているのかと思ったら、綺麗な女の子と一緒にいたんだ。楽しくデートでもしてたのかしら」
えっと、その、空気が重いです。
「ひどいよね、達也君。私たちとは2人きりでお出かけなんてしたことないのに、私たちが知らない子とはお出かけできるんだね」
あの、ユーノ君の紹介を……。
「そうよね、私たちは達也のこと親友だと思ってたけど、新しい友達のことも教えてくれないような仲だったのね」
アディリナちゃん……この空気の中でよくふざけていられるよね。他の2人と違って、顔がにやけてるよ?
「いや、別に黙ってたわけじゃないんだけど……。ほら、前に頼んでお医者さん紹介してもらったでしょ? その人の知り合いで、お見舞いに行くときにたまたま会っただけだよ。……アディリナちゃんが見たのって、明るい紫の髪を背中の辺りまで真っ直ぐに伸ばしてた子でしょ?」
アディリナちゃんが肯定することで、何とか張り詰めた空気は消えましたが……達也君、もう少し、女の子と関わるときは気をつけてください。
結局その時にはユーノ君を紹介できず、後でなのはの部屋で人間の姿のユーノ君に会うまで、紹介するのはお預けになりました。
今日はみんなと一緒に遊べてリフレッシュできました。ジュエルシードの発動もなかったので、疲れも取れました。明日から、また頑張ろう。
早く全部集めて、またみんなと一緒に、何も気にせず遊べるようになりたいな。
更新しました。
何とか3話は1回で終わりました。
……え、何かイベントが足りないって? 気のせいですよ、多分。
またしても新キャラの登場フラグ。
そして未だになのは以外と遭遇しない弓兵さん。
これからどうなるのかをお楽しみに!