025 初めての戦いなの
あれからまた1週間が経ちましたが、ジュエルシードが見つかる気配はありません。アーチャーさんも見つけていないそうです。サッカーの応援をした日の翌日に会った時にはとても疲れた様子でしたが、何かあったのかな?
それはともかく、今日はすずかちゃんの家にお邪魔することになっています。たくさんいる猫に、ユーノ君が絡まれないのかがちょっと不安ですが……折角の休日なので、思いっきり遊びたいと思います。
「なのはちゃん、なのはちゃんの用事ってまだ終わらないの?」
「うーん、今週はずっと空振りだったから、まだまだかかるかも」
達也君が聞いてきますが、本当に進展がなくて困っています。最初の頃は続けていくつも見つかったから、すぐに終わると思ってたなのになぁ。
「そう。あーあ、達也の方もまだまだ終わらないし、いつになったらまた何の気兼ねもなくみんなで遊べるようになるのかしら」
そ、その件につきましては本当に申し訳なく……。
「別に怒ってるわけじゃないから気にしなくていいわよ。急かしたりはしないから、あんたが納得するまでやってきなさい」
苦笑しながら言うアリサちゃん。達也君やアディリナちゃん、すずかちゃんも苦笑していました。詳しい事は何も説明できずにいるのに、問い詰めずにいてくれるみんなを見ていると、なのはは本当にいい友達を持ったんだなぁと感じます。
「お嬢様〜、お茶をお持ちしました」
やって来たのはメイド服を着た女性、ファリンさんです。ノエルさんの妹さんで、この春から月村家でメイドさんをやっています——というのは建前で、本当はノエルさん共々、自動人形、というロボットさんらしいです。ノエルさんを参考にして忍さんが組み上げたそうですが、まだまだ調整不足みたいでよく転んだりしています。
「でもユーノ、ここだったら元の姿に戻っても大丈夫じゃないの?」
ファリンさんが持ってきた紅茶を飲んでいると、ふと思い出したようにアリサちゃんが言いました。そう言えばそうだよね、ユーノ君が人間の姿になれば、普段から何の気兼ねもなくお話しできるもんね。
「うーん……大分回復してるから、戻ること自体に支障はないんだけど、戻るとどうしても負荷が増しちゃうからね。なのはに迷惑ばかりかけるわけにもいかないし、もうしばらくはこのままでいようと思ってるんだ」
「別にそこまで気にしなくてもいいんじゃないのかな?」
私も、すずかちゃんの言うとおりだと思います。私とくーちゃんとユーノ君で綺麗に役割分担できてるし、特に問題はないと思うんだけど……。
「もちろん、探し物に関わっている部分もあるけど、人の姿になるとやっぱりやっぱり食事の量も増えるしね。むしろ気になってるのはそっちだから」
「お母さんたちは気にしないと思うけど……」
実際家計には余裕があるし、私がやっていることについても基本的に応援してくれているから、ユーノ君が元に戻れば喜ぶことはあっても嫌がることはないと思います。
「確かに桃子さん達は気にしないだろうけど、そこはけじめかな? 早ければ来週には完全回復すると思うし、そうなったら挨拶もかねて桃子さんや士郎さんに説明するから、その時に確認取ればいいよ」
まあ、ずっとフェレットのままっていう訳でもないしこれでいいのかな?
「しっかし相変わらず、すずかの家は猫天国よね」
そうだよね。でも子猫はとっても可愛いよね。
「アリサ、やたらと犬を拾ってくるあなたには言われたくないと思うわ」
あはは……。アディリナちゃんの言うとおり、アリサちゃんの家にはすずかちゃん家に負けないくらい沢山犬がいるもんね。これには私だけじゃなくて、アリサちゃんもすずかちゃんも苦笑するしかないみたいでした。
「でも、里親が決まっている子もいるから、お別れもしなくちゃいけないんだ」
「里親、かぁ。ウチのマンションはペットが完全禁止ってわけじゃないけど、最後まで世話する自信は無いからなぁ……」
なのはは、お世話は出来るかも知れないけど、達也君と違ってお母さんが飲食店やってるから、無理なんだよね。
「でも達也、そうやってしっかり考えているだけえらいわよ」
「そう、かな? でも信頼を預けられるだけでも結構怖いものがあるのに、その命の全責任を負うとか考えたくもないよ……」
うーん……何か疲れているみたいだけど、どうかしたのかな。
「何か現在進行形で苦労してそうだけど、何かあったの?」
「あった、といえばあったのかな? 適当に言っただけなのに、命に関わる重要な仕事に応用されてさ……しかも、何かアドバイザー的な感じで、未だに意見求められてるし」
「それって、例の入院してる人のこと?」
「ううん、違うよ。いや、全く違うわけじゃないのかな? 娘さんの治療法になるかもってことで結構危ない橋渡るからさ、こう、胃の辺りがキリキリと……」
うわー、それは大変そう……。幸い、まだ知り合いがジュエルシードに巻き込まれたりはしてないからいいけど、もし巻き込まれてたら、なのはにかかるプレッシャーも大きくなってたのかもしれないなぁ。
でも、こんな小学生の意見でも参考にしなきゃいけないってことは、結構切羽詰ってたんじゃないのかな?
「それじゃあすずか、またね」
「すずかちゃん、また明日」
月村家でのお茶会が終わりました。すずかちゃんに別れを告げて、これからみんな家に帰ります。アリサちゃんとアディリナちゃんは車が迎えに来ていて、達也君は送ってもらうそうです。私も一緒に乗せてもらってもよかったんだけど、ユーノ君と一緒に少しだけジュエルシードを探しながら帰ることにしました。
(なのは、せっかくの休みなんだし、無理しなくてもいいんだよ?)
(無理してるつもりはないけど……。それに、こっちのほうは全然見てなかったよね? 折角だし、確認しながら帰ろうかなって)
今までは、ジュエルシードを見つけたところを中心に、少しずつ広げるように探していましたが、もう1週間何も見つけていないので、気分転換も兼ねてこの周辺を探してみてもいいんじゃないのかな、と思った次第です。
(! なのは!!)
(うん!)
達也君たちと別れてほとんど時間は経っていませんが、ジュエルシードが発動する気配が感じられました。距離は……すぐ側! もしかして、すずかちゃんたちに何か!?
(なのは、結界を張るから、レイジングハートの準備を!)
そ、そうだった。もし、すずかちゃんや忍さん、お兄ちゃんが関わっていたら大変です。少しでも早く封印しないと!
『Stand by ready, set up』
ユーノ君の結界が展開されるのと同時に、レイジングハートを起動させます。いつものように巫女さんの姿になることで、普段より一段と気が引き締まります。
周りの空間から色が抜け落ちて、外の世界からは隔離されたことが分かります。ジュエルシードは、と思って周りを見まわすと、大きな猫がいました。それも、すずかちゃんのお屋敷にも負けないくらい。とりあえず、すずかちゃんたちじゃないから、ほっとはしたんだけど……。
「えっと、これは……?」
「たぶん、あの猫の「大きくなりたい」って願いが正しくか叶えられたんじゃないかな……」
う、うーん……。とりあえず今までと違ってすぐにどうにかしなきゃいけない、っていう感じはしないけど……。
「と、とりあえずささっと封印しちゃうね」
そう思ってレイジングハートを猫さんに向けると、後ろの方から何かが飛んでいきました。
「なに!?」
思わず後ろを振り返ると、電信柱の上に金色の髪をした女の子が立っていました。
「バルディッシュ、フォトンランサー」
女の子が何かを呟くと、女の子の持っていた杖から光る玉? みたいなのが撃ち出されました。
「な……! 魔法の光!? 別の魔導師が……?」
え、ってことは、あの子も魔導師なの?
「ユーノ君、もしかして管理局ってとこの人が来たの?」
「……ううん、それは考えづらいよ。もし管理局の魔導師だったら、現状の確認のためにも僕に連絡をくれるはずだ。仮に緊急事態だったとしても、未確認の魔導師がロストロギアと相対していたら、警告と確認くらいはするはずだ」
け、警告って……。管理局って、思ったより物騒な組織なのかな? ってそんなこと考えてる場合じゃないや。とりあえず、よく分からないけど……。
『Flier Fin』
さすがに、あのまま猫さんが攻撃されているのを見たくはなかったので、猫さんのところに行くために、使えるようになったばかりの飛行魔法を使います。この魔法単体なら、もっと早くから使えたのですが、「飛行魔法を使いながら他の魔法が使えるようになるまでは原則使用禁止」というユーノ君のありがたい言葉をいただいたので、緊急回避以外では使ったことはありません。
『Wide Area Protection』
猫さんの背中に立ち、飛びながら構築した広域防御魔法を発動させます。くーちゃんの攻撃を防ぐのは荷が重いけど、さっきみた感じだと、とりあえずこれで防げるはず!
予想通り初撃は防げましたが、女の子に気付かれてしまいました。女の子はそのまま気にせずに、次の攻撃をしてきました。あれくらいなら全然大丈夫だけど……。
「きゃあ」
狙われたのは、足元!? 立て続けに地面に炸裂する魔法に、猫さんがバランスを崩し、私もそれに巻き込まれます。
「同系統の魔導師……ロストロギアを求めているのか」
何とか体勢を立て直して着地すると、女の子がすぐ近くまで寄ってきていました。
「バルディッシュと同じ、インテリジェントデバイス……」
バル、ディッシュ? 女の子が持っていたのは、レイジングハートは全然似ていない、ある程度近接距離での攻撃も考えてあるような杖でした。……ってまずい、絶対に至近距離にまでは踏み込まれるなって言われてたんだ。
「僕と同じ世界の出身、そしてあの子もジュエルシードの正体を」
ユーノ君は、女の子の丁度茂みを挟んだ反対側で呟いています。この子も、ユーノ君と同じ世界から来たんだ……。
「ロストロギア、ジュエルシード。回収させてもらいます」
一瞬集中が切れたのが分かったのか、女の子が持っていたデバイスがいつの間にか変形して、鎌みたいな形になっています。そして、言葉が終わらないうちに突っ込んできました。——ダメ、避けられない!
『Flier Fin』
レイジングハートが咄嗟に飛行魔法を起動させてくれたことで、何とか攻撃はかわせたけど……。
『Arc Saver』
女の子は特に動揺する素振りも見せずに、続けて攻撃してきます。今度の攻撃には、何とか防御魔法が間に合いましたが、離脱しきる前に距離をつめられてしまいます。
何とかレイジングハートを割り込ませられたので、直接的な被害は無いのですが……。近くで見ると、真っ赤な、とても綺麗な目をしているのが分かります。……そして、その目がどこか寂しそうなのも。
「どうして、こんなことを……?」
このままじゃ何も出来ないと思ったのか、女の子が力をこめて私を弾き飛ばそうとするのに合わせて後ろにとび、何とか距離を作ります。
「話しても、意味は無い……」
意味無いって、そんなことないよ。
『Device mode』
でも、女の子は私の話を聞こうともせずに、また杖を変形させて私に向けます。
このままだと、何も話せないままになっちゃう! でも、どうしたら……。心は焦るばかりですが、すぐにいい考えが浮ぶわけでもありません。防御魔法の準備をしつつ、何が起きてもいいように身構えます。
「にゃー……」
猫さん!? うめき声につられて、一瞬視線をはずしてしまったのが致命的でした。魔力の高まりを感じて、慌てて視線を戻してももう防御魔法の発動は間に合いません。回避しようにも構築していた防御魔法が邪魔をして、飛行魔法の緊急展開が——。
「ふう。今回は間に合ったようだな」
目の前で何かにぶつかって、女の子の魔法が消えたおかげで、その余波のちょっと強い風を浴びるだけで済んだけど……何が起きたの?
今度は女の子から意識を外さないよう注意しながら周囲を探ると、アーチャーさんがいました。今までは双剣状のデバイスを使っていましたが、今もっているのは……弓?
「それで、そこの少女。何を目的としてこんなことをしているのかね?」
アーチャーさんが問い詰めていますが、女の子は気にした様子もなく、大きくため息をつきました。
「さすがにこれ以上は伏せていられないか。……アルフ、お願い」
女の子が言い終わらないうちに、体が締め付けられる感覚がしました。慌ててみてみると、オレンジ色の鎖が巻き付いています。
「な……バインド!?」
声に振り向いてみるとユーノ君にも、それからアーチャーさんにも同じ色の鎖が巻き付いています。魔力を感じるけど、これも魔法なの?
「フェイト、全員止めたよ。……さっさと封印しちゃっておくれ」
狼さんが出てきて、私たちを睨みつけます。封印って……ジュエルシードがとられちゃう! 何とか解こうともがきますが、鎖による拘束は固く、脱出するにはしばらくかかりそうです。
「うん……ごめんね」
女の子は頷くと、さっきまで使っていた光を撃ち出す魔法ではなく、もっと強力な魔力の塊を猫さんに向かって撃ちました。
……電気? 今まで私が使ってきた魔法と違って、猫さんが苦しんでいます。あれだけの魔力をぶつけても、すぐに命に関わるような怪我はしてないから、非殺傷設定をはずしてはいないと思うけど……。
「ロストロギア……ジュエルシード、シリアルXIV……封印」
女の子はジュエルシードを回収すると、狼さんと一緒にそのまま立ち去っていこうとします。ダメ、あれは危険なものなのに! くっ、この、外れてよ!
「そのまま行かせはせんよ!」
何とか拘束をはずしたのか、アーチャーさんが両手にいつもの剣を持って飛び掛りますが、その攻撃が当たる前に女の子の姿は掻き消えました。
「行っちゃった、の……?」
女の子たちが消えるのとともに、鎖も消え、思わず地面にへたり込みます。
「そのようだな。……ち、こうもあっさり出し抜かれるとはな……」
アーチャーさんは悔しがっていますが、私にも反省点は沢山あります。
暴走体じゃなくて、他人と争うことになるとは思わなかったけど、戦いになったら相手から目をそらさないこと。那美さんやくーちゃんからしつこいほど言われていましたが、守れませんでした。今回はアーチャーさんのおかげで無事だったけど、次もそうだとは限りません。足を引っ張らないように、頑張らないと!
更新しました。
色々と余計なことを考えたりしたりしてている以上、素直に原作どおりに進めない……。一部は苦肉の策でごまかしたりしているけれど、違和感はないでしょうか?
そして予想以上に伸びた戦闘シーンもこんなので大丈夫なのだろうか?
不安は募るばかりですが、これからも頑張りますので、よろしくお願いします。