026 温泉で一休みなの
あれからまた1週間がたちました。結局2週間の間に見つけたジュエルシードは、あの女の子にとられちゃった1つだけです。ユーノ君と話してみても、この先きっとぶつかり合うことになるだろうという結論が出たので、魔法の練習は前以上にしっかりとやっています。
それから、くーちゃんがいない時のことだったので、くーちゃんはとても気に病んでいたのですが、今日明日と連休で、アリサちゃんたちと遊びに行くのでくーちゃんは那美さんといます。本当はついてきてもらったほうがいいのかも知れませんが、那美さんのほうでもお仕事があるみたいなので、そっちに行ってもらうことにしました。
ジュエルシードを探しに行くわけでも無いし、今まで見つかった場所からはずっと離れるから大丈夫だとは思うんだけど……。
ちなみにこの旅行は、前々から予定に入っていたので、翠屋は店員さんたちに任せて、お兄ちゃんお姉ちゃんだけでなく。お父さんもお母さんも一緒に行きます。達也君の家もお父さんお母さんが、すずかちゃん家からはすずかちゃんの他に、忍さんとノエルさん、ファリンさんが、バニングス家からはアリサちゃんアディリナちゃんと、アディリナちゃんのお母さんが参加して車3台、合計15人という大所帯での旅行になりました。
忍さんが運転している車に、お兄ちゃんとノエルさん、ファリンさんが、達也君のお父さんが運転する車には、達也君のお父さんとアディリナちゃんのお母さんが、それから、お父さんの運転する車に残りのみんなが乗っています。
達也君は、はじめは達也君のお父さんの運転する車に乗ろうとしていたのですが、アリサちゃんとすずかちゃんに連れられて、私たちと同じ車に乗ることになりました。ちょっとだけ人数が多いですが、大人数が乗れるレンタカーを借りているので全然平気です。
達也君は、一番後ろの席でアリサちゃんすずかちゃんに挟まれています。
「なのは、なのははあそこに参加しなくてもいいの?」
そう言って、お母さんが振り向きます。お母さんの視線の先には達也君がいますが……。
「うーん、別に温泉に着いたらみんなで一杯遊ぶからいいかなって」
それに、何だかんだといいつつも達也君もあまりいなかったらしいので、達也君が好きな2人は少しでも一緒にいたいのだと思います。
「そう。でもなのは、美由希みたいに男が出来ないって悩むことになっても知らないわよ」
「お母さん!」
お姉ちゃん、彼氏さんいないんだ。見た目も性格も悪くないどころか、いいほうだと思うのに……。
「うーん、なのはにはまだよく分からないです」
達也君のことは確かに好きですが、アリサちゃんやすずかちゃんみたいに恋をしているってわけじゃあないと思います。
「まだ9歳だし、焦らなくてもいいんじゃないですか? ……高校生にもなってこの調子じゃ困りますけど」
アディリナちゃんの言葉に、車内が笑いに包まれます。さすがになのはでも、高校生までには彼氏の1人や2人作っています!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ええと、この姿でははじめまして」
現在、ユーノ君とお父さんお母さんとの対面中です。前々から花話せるということは明らかにしていましたが、人の姿をとれることは知らせていませんでした。
「恭也から久遠ちゃんのことを聞いていたからそこまで驚きはしないが、人間だったんだね。でも、どうして今まで黙っていたんだい?」
「僕自身の回復を急ぎたかったのが大きいのと、あとこの姿に戻ると、食事の量とかも増えるので、ご迷惑をかけたくなかったんです」
ユーノ君、前言ってたもんね。でもお母さんもお父さんも気にしないと思うけど……。
「なるほど。だが、君のような子供が無理をしなくてもいいんじゃないのかな? 少なくとも、余裕があるのだったらこれからは人の姿をとっていればいい。俺たちとしては、子供に我慢をさせたくはないしね」
お父さんの言葉に、少しだけ考え込んでいたユーノ君でしたが、神妙に頷くとお礼の言葉を言いました。これからは、もう少しユーノ君とお話しやすくなるかな?
「それじゃあなのは、ユーノ君。話はこれで終わりでしょう? みんなの所に行って遊んでらっしゃい」
そうだね、折角の旅行だし楽しまないとね。
「あ、なのはちゃん、話は終わったんだ」
「達也君?」
お父さんたちとお話していた部屋から出ると、達也君が待っていました。
「どうせそんなに時間はかからないと思ったからさ。それに、みんな一緒にいた方が楽しいしね」
こういう気遣いを何の気負いもなくやるから、達也君は人気があるんだよね。アリサちゃんたちは気が気じゃないだろうな、などと思いながら頷きます。
「あら、なのは。ユーノはどうしたの?」
あれ、アディリナちゃん?
「どうしたのよ、そんな不思議そうな顔して……。まさか、私に気付いてなかったわけじゃないよね?」
「ええとですね、別に気付いてなかったわけじゃなくて、その達也君に話しかけられたから……」
言い訳をしていると、アディリナちゃんがおよよ、と音がしそうな感じに泣き崩れます。
「いいのよ、所詮女の子の友情なんて、男が出来れば失われてしまうものなんだし」
ええと、アディリナちゃんはどうしたのだろうと思って、達也君の様子を伺ってみると、呆れた顔をしてアディリナちゃんを見ていました。もしかして、からかわれてる?
「アディリナちゃん、そこまでにしたら? なのはちゃんも気付いたみたいだし」
「そうなの? でも達也ももう少し協力してくれてもいいんじゃないの?」
アディリナちゃんは、さっきまでの様子が嘘だったみたいに達也君と話しています。っていうか完全に嘘だったよね……。
「もう、アディリナちゃん!」
なのはだって、怒るときは怒るんだよ?
「ごめんごめん……。でも本当にユーノはどうしたの? 「お母さんたちにユーノ君が人間でいてもらうことを認めてもらうんだ」って張りきってたじゃない」
「あ、うん。それは認めてもらったよ。でも、さすがに人数が決まっている旅行だったから、家に帰るまではフェレット状態でいるんだって」
これはもう仕方が無いことなので、お互い納得しています。
「ふーん。じゃあ温泉行きましょう? アリサとすずかは先に行ってるわ」
あ、そうだね。でもユーノ君はどうしよっか? さすがに男の子だから、フェレットの姿でも一緒に行くのはまずい気が……。
「なのはちゃん、ユーノは僕が一緒に連れて行くよ。ペットを温泉に入れていいのかどうかは分からないけど」
確かに、達也君に頼めば大丈夫かな? ペット、って言い方はあれだけど、他の人から見たらペットにしか見えないもんね。
「じゃあ温泉にいる間くらいは、人型をとるよ。さすがにそれくらいは大目に見て欲しいかな」
入湯税とか色々あるみたいですが……今回はしょうがないかな? 旅館の人、ごめんなさい。
「もういいわね? じゃあ行きましょう。……達也、一緒に入る?」
いたずらっぽく笑って言うアディリナちゃんだけど、い、一緒に入るって何を言っているのかな!?
「遠慮しておくよ。風呂場でも玩具にされるのが目に浮ぶようだし」
呆れた目をしてそう言うと、達也君はユーノ君と一緒に行ってしまいました。
「もう、アディリナちゃん?」
いくらなのはが達也君のことを意識していないっていっても、男女が同じお風呂に入るのはどうかと思うよ?
「はいはい。でも別に嫌なわけじゃないんでしょ?」
……そりゃあ、まあ。3歳から遊んでるから、一緒にお風呂に入ったこともあるわけだけど。
「でも、やっぱり恥ずかしいよ?」
「別に第二次性徴もはじまってないし、平気だと思うんだけどなぁ……」
色々といっていますが、達也君はもういないんだし、関係ないでしょ。それに、ユーノ君も一緒っていうのはちょっと勘弁して欲しいかな?
「あら、アディー、なのは、意外と早かったのね」
脱衣所に着くと、丁度アリサちゃんたちが脱ぎ終わったところでした。
「うん。あれ、でもお姉ちゃんたちも一緒なんだ」
「そうだよ。やっぱり温泉に来たんだから、堪能しないとねってことで、みんな一緒に来たんだ」
やっぱり、そうだよね。海鳴温泉は温泉としては結構近場だけど、そうそう沢山来れるほど近くってわけじゃないから、目一杯入らないとね。
「じゃあなのは。背中流してあげるから、早く脱いじゃいなよ」
「あ、うん。じゃあ私も流してあげるね」
じゃあささっと着替えて、早く温泉にはいろうっと。
「お姉ちゃん、気持ちいい?」
お姉ちゃんに背中を流してもらったので、現在私が流しています。家のお風呂は狭いわけじゃないけど、なかなかこういうことをする機会は無いのでちょっと新鮮な気分です。
「あの、アリサちゃん、私の胸をじっと見てどうかしたのかな?」
? なのはからは丁度お姉ちゃんの影になって見えないけど、向こう側ではアリサちゃんとアディリナちゃんが体を洗いあっていたはずです。
「ううん。忍さんの胸が大きいのは知ってたけど、美由希さんも結構着痩せするんだなぁと思って」
そういえば、お姉ちゃんも結構大きいよね。
「あはは……アリサちゃんはまだまだこれからこれから。今から気にしててもしょうがないでしょ」
「それは分かってるんだけど、すずかは忍さんがあんなだからきっと大丈夫だけど、私はどうなのかって」
そういえば、アリサちゃんのお母さんはどちらかというと、スレンダーな美人さんでした。
「んー……やっぱり達也君に絡んで?」
アリサちゃんは頷きますが、さすがに早すぎないかな?
「ま、さっきも言った通り、今から気にしててもしょうがないと思うよ? それに、達也君はそんなことで人を好きになったり嫌いになったりはしないと思うけどな」
そうだよね、きっと達也君はそんなことを気にする人じゃないと思います。
「いや、今はそうでも将来は分からないんじゃないですか? あんなでも一応男だし」
アディリナちゃん、お姉ちゃんが綺麗にまとめようとしてるのに、わざわざ引っ掻き回さなくても……。それに、男の子だって分かってるんなら、お風呂に誘わないでよ。
「……まあでも、この件で一番危機感を抱いてそうなのは那美さんじゃないんですか?」
那美さんは、確かに小さかったような……。でもでも、和服美人さんだから、その方が那美さんらしいかな、とも思います。
「あー……そうだよね。この間も結構愚痴ってたし。まあ大丈夫大丈夫。結局こんなのは、本人と想い人との間だけの問題だし。もっと切羽詰ってから悩めばいいんじゃないのかな」
結局話はそこに留まらず、恋人のいる忍さんや、傍観しているだけったアディリナちゃんやなのはにまで飛び火しました。うぅ、正直まだよくわかんないよ。
「あ、ごめん。待たせちゃった?」
私たちが温泉から出ると、達也君がフェレットの姿をしたユーノ君と遊んでいました。
「ん。別に女の人のお風呂が長くなるのは分かってたから平気だよ」
それでも待たせたんだから、謝るのは当然だと思うよ?
「でも髪を下ろしたなのはちゃんもカチューシャをつけてないすずかちゃんも久しぶりだから、何か新鮮だね」
そういえば、もうずっと達也君とお泊りしてないし、学校でも髪は束ねてるから1年ぶりくらいになるのかな? すずかちゃんはもう少し長そうだけど……。
「達也、私たちはどうなのよ」
ちょっとだけアリサちゃんが不機嫌そうです。
「髪はいつもどおりだけど、思った以上に2人とも浴衣似合ってるね」
そういえば、アリサちゃんもアディリナちゃんも、日本での暮らしは長いのですが、こうやって和服を着ている姿を見るのは初めてでした。確かに2人とも悩むことなく浴衣を着ていたので、着慣れているのかもしれません。
「ちょっと、2人まとめてって手抜きじゃないの?」
アディリナちゃん、アリサちゃんの機嫌も直ったんだし、別にいいじゃない……。
「わーアリサちゃんは太陽みたいに、アディリナちゃんは月のようにきれーだねー」
達也君、それはそれで手抜きじゃないの?
「ならよし!」
アディリナちゃんもそれでいいの!?
「ふーん……」
6人で楽しくお喋りをしながら廊下を歩いていると、向こうからオレンジの髪をしたグラマーな女の人が歩いてきて、私をまじまじと見つめて来ました。
「えっと……?」
「君かぁ、ウチの子の邪魔をしてくれたのは」
邪魔って一体何の話なの?
「ま、悪いことは言わないから、子供は子供らしく遊んでればいいのさ」
(今のところは、挨拶だけさ)
念話!?
(忠告はしたよ。これ以上関わってくるというのなら、覚悟しとくんだね。オイタが過ぎるようなら、ガブっといくよ)
その念話は、言いたいことだけを一方的に告げるとすぐに切れてしまいました。
「なのはちゃん、知り合い?」
何が起きているのかわからない、という様子で見ていたアリサちゃんやすずかちゃん、アディリナちゃんが心配そうに見てきます。
「ううん。あったことはないんだけど……」
さっきの言葉とか、邪魔って言いかたとかからすると、やっぱりジュエルシードを探しているのかな?
「じゃーねー、ボウヤ」
達也君の肩にポン、と手を置いてそう言うと、女の人は行ってしまいました。
「へー、達也の知り合いなんだ」
アリサちゃんは、私不機嫌です、といわんばかりの態度で達也君を睨みつけています。
「私たちと遊んでくれないと思ったら、別の女の人と遊んでたんだね」
えっと、すずかちゃん? 似たようなやりとりをどこかでやったような気が……。
「いや、知り合いって訳じゃないんだけど……なんだったんだろうね?」
達也君も少し焦っているようで、冷や汗を掻いているのが分かります。
何とかして、とアディリナちゃんを見ても、無言で首を横に振るばかり。うぅ、空気が重たいよぅ……。
初の予約投稿とかしてみました。
バイトがいつもの更新の時間に入ってしまったので、試してみています。
次回はいよいよ温泉でのフェイト戦。久遠が絡むとフェイトがあっさり落ちてしまうので、何とかして抜けさせるのに苦労しています。