027 戦う理由なの
「はい革命。で、これであがりっと……」
「嘘!? 何でAが4枚も残ってるのよ!」
夕食も食べ終わり、現在みんなで大富豪をやっています。堅実にプレイして、ずっと大富豪にいる達也君を何とか引き摺り下ろそうとアリサちゃんが頑張っていましたが、残念ながら失敗したみたいです。アリアちゃんの手札も悪くなかったみたいだけど、達也君が比較にならないくらいよかったみたいです、っていうか、2が3枚にAが4枚、おまけでKが2枚とかどうあがいても勝てる気がしません。
「アリサ、いい加減達也に勝つのは諦めたら?」
半ば呆れながらアディリナちゃんが言いますが、私もそう思います。カード交換したあとに革命食らっても大富豪維持するような人には勝てる気がしません。
「でも1回くらい引き摺り下ろしたいじゃない!」
「気持ちは分かるけど……。あ、私もこれであがりだね」
すずかちゃんが富豪かー。あ、じゃあ私ももうあがりだね。
「で、私がこれであがり、と。アリサ、また大貧民から頑張ってね」
アディリナちゃんまであがったので、アリサちゃんが大貧民です。まあ、終盤で革命されたら、荒れるよね……。
「でもそろそろ寝た方がいいんじゃない?」
すずかちゃんがそう言うので時計を見ると、もう9時近くになっていました。確かにそろそろ布団に入った方がいいのかもしれません。
「うーん、まだ眠くはないんだけど」
「アリサちゃん、どうせ布団に入ってもすぐに寝ないでお話ししてると思うから、早く入ってもいいんじゃない?」
少し悩んだ様子を見せるアリサちゃんでしたが、それもそうね、と頷くと布団の準備を始めました。
「じゃあみんな、僕はそろそろ母さんたちのいる部屋に戻るよ」
男の子だということで、こうやってみんなで寝るときは、達也君は別の部屋に行くことが多いので、今日も行こうとしています。それ自体はいつものことなのですが、何故か今回はアディリナちゃんが不敵に笑っています。
「ふっふっふっ、達也、君は今日この部屋で寝るしかないのよ!」
ビシッと音が聞こえそうなほど勢いよくアディリナちゃんが指を突きつけます。
「いや「寝るしかない」って、何をしたのさ……」
どこか疲れた様子で達也君が抗議をしています。
「朱美さんを筆頭に、ここに来ている大人組に根回ししただけだけど?」
さらっと言っていますが、いつの間に……。よくよく考えてみたら、「子供部屋」として割り当てられていたので、旅行の計画段階で既に根回しは終わっていたのかな?
「という訳で、諦めなさい……っと地震? まあ大丈夫みたいね。じゃあ達也がそこで、両隣がすずかとアリサね。で、なのはと私はこっち」
確かに少しだけ揺れたみたいですが、すぐに収まり大したことはなかったみたいです。
アディリナちゃんは地震のことなど気にしないで、てきぱきと布団の配置を決めていきます。これ、どう考えてもアリサちゃんとすずかちゃんのためにやったんだよね。ちらっと2人を見てみると、それはそれは嬉しそうな様子をしていました。
「それでね、アディーったら珍しく悲鳴を上げてたのよ」
みんな布団に入りましたが、お話をしているので誰も眠る様子はありません。いつでも出来るような、他愛の無い話ばかりなのですが、やっぱり旅行先だからか、とても楽しくていつまでも続けていられそうです。
「ちょ、ちょっとアリサ!?」
いつも冷静で落ち着いて……いるばかりじゃなくて、結構みんなをからかったりもしていますが、とにかく普段のアディリナちゃんアディリナちゃんの様子からは想像もできない話なので、私を含め、誰もアディリナちゃんの言葉には耳を貸そうとしていません。
「たまにはいいじゃない、いつもこうやってからかわれるのは私ばっかなんだし」
ジトッとした目をするアリサちゃんにため息をひとつ吐き、アディリナちゃんはそれを受け入れました。
「もう……。なら私は3日前の達也のことを……」
……受け入れたけど、被害を被るのが自分だけ、というのが納得いかないようで、達也君を巻き込みました。
結局この後は、誰彼構わずの暴露大会になってしまいました。うぅ、あんなことまで話さなくてもいいのに。
「なのは、みんな。そろそろ寝た方がいいわよ」
みんなでのお喋りを続けていると、お母さんがやってきました。時計を見てみると、もう10時を過ぎようとしています。
「それじゃ、電気切るわよ」
みんなが返事をして、布団に入ったのを確認してお母さんが電気を消します。私も目を瞑って寝た振りをしますが、みんなと遊んでいるときとは別にユーノ君とお話がしたかったので、いい機会です。
(ユーノ君、起きてる?)
(うん、まだ起きてるよ)
私たちと同じ部屋に寝床が置いてあるユーノ君に念話を飛ばすと、すぐに返事が返ってきました。
(昼間の人、こないだの子の関係者かな?)
(多分、ね)
そっか、やっぱりそうだよね。
(なのは……もし今日、あの子たちとぶつかることになっても、絶対無理しないでよ)
(どうして?)
(前のときは、僕となのは、それからアーチャーがいてもあの子とその使い魔に完全に出し抜かれたんだ。もちろん不意を突かれたというのが大きいけど、今回はアーチャーがいない。その上、最悪向こうの人数が増えていることを考えると、ここで無理して回収するのは危険なんだ)
えっと……。確かにあの子に勝つのは難しいと思うけど。
(もちろん、こっちで封印できればそれがベストだ。でも、無理に回収しようとして、今まで集めた分を全て奪われるような事態は避けたいんだ。前回の戦いだけじゃ相手の実力は把握できないけど、久遠がいてそれでもこっちが不利だっていうのは考え辛いから)
そっか、くーちゃんがいれば簡単に負けたりはしないもんね。
(でも、私はあの子が何であんな寂しそうな目をしていたのか、知りたいんだ)
こっちの話を聞こうともせずに、ジュエルシードを回収していったあの子。実際のところはどうなのか分からないけど、もし本当に寂しがっているのなら、私が達也君にしてもらったように、出来るだけ力になってあげたい。そう、思いました。
(……まあ、そこはなのはに任せるよ。でも、ジュエルシードを賭けて、とかそういう危ないことはしないこと)
ユーノ君、いくらなのはでも、回収しなきゃいけないものを賭けてまでお話しようとは思わないよ……。
(それじゃあ、今晩出ることになるかもしれないから、そろそろ寝ておこうか)
そうだね。もし夜中にジュエルシードが発動したら、明日一日寝不足のまま過ごすことになっちゃうしね。
! 今、どこかで何かが起きたような……。
ジュエルシードの魔力を感じたような気がして、目が覚めましたが、今は何も感じません。……気のせいだったのかな?
完全に目が冴えてしまったので、周りを見てみると、達也君がアリサちゃんとすずかちゃんに抱き付かれていました。アリサちゃんとすずかちゃんは、とても嬉しそうな顔で寝ていました。
(なのは!)
2人を微笑みながら見ていると、今度は間違いなくジュエルシード発動の気配を捉えました。
(うん! 行こう、ユーノ君)
みんなを起こさないようにそっと布団から抜け出し、旅館の外へと行きます。わざわざ着替えるまでもなく、外に出てしまえばレイジングハートをセットアップして飛んでいけます。
「お願い、レイジングハート」
幸い今夜は月が出ているので、何もしなくても視界には困りません。レイジングハートを立ち上げて、一直線にジュエルシードの元へと向かっていきます。
「ジュエルシード、シリアルXVIII、封印」
私がやってくると、丁度女の子がジュエルシードを封印するところでした。
「3つ目……」
3つ? 前に会ったときの以外にも封印してたのかな?
「あーらあらあらあら……。子供は子供らしくって言わなかったかい」
あの子と一緒にいたのは、昼間にあった女の人でした。
「それを……ジュエルシードをどうする気だ。それは、危険なものなんだ!」
ユーノ君の言うとおり、勝手にどうにかしていいような、そんなものじゃないんだよ!
「それは、知ってる。じゃあ、君たちに渡しても本当に大丈夫なの?」
「それは……」
確かに、私たちがそれを危ないことに使わないって保証は無いけど……。
「でも、それを見つけたのはユーノ君なんだよ? あなた達に渡すよりは……」
「ユーノ君……? じゃあ君が……」
「ふむ、また争いになっているようだね?」
アーチャーさん!? ここ最近で聞きなれた声に驚きます。アーチャーさん、あの子が何か言おうとしてたんだから、それくらい聞こうよ。
「その子のいうとおり、君が発掘者だったとして、他の2人は何なんだい?」
「なのはは、負傷した僕を手伝ってくれているだけの、現地協力者だけど……」
確かに、私はただの現地協力者だけど、アーチャーさんは……。ユーノ君と2人して困ったような目でアーチャーさんを見ますが、アーチャーさんは女の子たちを見るばかりで気付いてくれません。
「答えられないような人が協力者にいるのに、信用はできない」
答えられずにいる私たちを見て、女の子が杖を構えます。一緒にいた女の人も、こちらを睨みつけると、変身して狼さんに……ってええ!?
「やっぱり、使い魔……」
使い魔って何!? ……でも、完全にお互いが歩み寄れる空気ではなくなってしまいました。違うの。私は今日はお話をしに……。
「ちぃっ……なのは、ユーノ! 使い魔は私が抑える! 君たちはもうひとりの相手をしてくれ!」
アーチャーさん、私はお話を……。そう思っている間にも、少し離れていたアーチャーさんは捩れた、不思議な矢を弓に番えます。
「
「邪魔、しないでもらえるかな?」
アーチャーさんが何かを唱えようとしたとき、菫色の光弾が飛んできて、アーチャーさんを吹き飛ばしていきました。
「……ローザ?」
「そうそう。あいつは適当に相手しておくから、話したいことがあったら話しちゃって」
ローザと呼ばれた菫色の髪をした女の子は、そういい残すと、吹き飛ばされたアーチャーさんを追って森の中へ入っていきました。
「えっと……?」
正直、事態が急に動きすぎていて、どうしたらいいのか分かりません。
「……君、両親は元気?」
「? うん。大きな怪我したこともあるけど、今は元気だよ」
女の子に話しかけられますが、急にどうしたんだろう。
「なら、尚更こんなことをするべきじゃない」
そう言うと、こちらに向けていた杖を握る力が増すのが分かりました。
「君の実力じゃまだまだ危ない。……それを、分からせてあげる」
言葉が終わらないうちに、女の子が突っ込んできます。くっ……!
『Flier Fin』
背後に回られて振られた杖を何とかかわして、レイジングハートが緊急展開した飛行魔法でそのまま離脱。このまま距離をとれればいいんだけど……。そう思って振り返ってみても、女の子はもういません。
慌てて上空に視線を戻すと、女の子が杖を振り上げていました。速い! 正直、私の機動力じゃ接近戦は無茶みたいです。
『Protection』
何とかバリアを張って攻撃を防ぎます。魔法を使い始めて1月経っていない私の練習量だと、一番適性のあった遠距離戦以外では勝機を見つけられそうにありません。攻撃を防いだバリア魔法を相手に向けて炸裂、その爆風で相手を弾き飛ばすのとともに、全力で反対方向に飛行、出来る限りの距離を作ります。
「なのは、援護を!」
「させないよ!」
ユーノ君が援護をしようとしてくれていますが、使い魔さんに妨害を入れられて失敗しています。ユーノ君はユーノ君で、使い魔さんの相手で手一杯かぁ。
ユーノ君たちの短いやりとりの間に、先ほどの爆風も晴れて、お互いが視認で来ます。ここで落としきれないと、私に勝ち目はありません!
『Thunder Smasher』
それだというのに、女の子はおそらくは私と同系統の魔法を発動させようとしていました。正直、死角が見つからないのですが、今までに比べれば反撃できるだけこの距離の方がマシです。
『Divine Buster』
ほぼ同時にお互いの魔法が発動、お互いの中間でぶつかり合います。
拮抗しましたが、これくらいなら押し切れる!
「レイジングハート、お願い!」
魔力をさらに注ぎ込むことで出力を上げ、相手の魔法を圧倒しました。……でも押し切るのにかかった力の分だけ、スピードが落ちています。女の子は少しだけ驚いたようでしたが、私の魔法があたる前に離脱していくのが見えました。
『Scythe Slash』
前のときにも使われた鎌の形ですが、前よりもずっと刃から感じる魔力が大きいです。避けなきゃ、とは思いますが、大きな魔法を使った後の硬直で身動きが取れません。
動け、動け、と念じながら硬直が解けるのを待ちますが、ゆっくりとした速度で鎌が首に迫ってくるのが見えるだけでした。
「私の勝ち。鍛えれば違うのかもしれないけど、今のままなら私がいれば十分」
少しの間、私に鎌を突きつけていましたが、すっと私の首から離すとそういいました。
「帰ろう、アルフ」
「待って!」
そのまま私に背を向けて、去っていこうとする女の子に、溜まらず声をかけます。
「もう、こんなことは続けない方がいい。本当に危険な目にあったとき、親が悲しむと思うから」
さっきから、親が親がって気にしてるけど、何かあったのかな……? ううん、そんなことよりも。
「名前! あなたの名前は?」
私の声にちらりとこちらを向くと、小さな声で言いました。
「フェイト。フェイト・テスタロッサ」
「私は」
女の子——フェイトちゃんの名前を聞けたので、私が名前を言おうとしましたが、フェイトちゃんは聞こうともせずに、そのまま立ち去ってしまいました。
更新しました。
アーチャー……。ただそれだけしか出てこないです。
困ったら色々やってくれる彼は本当に助かっています。
あと2〜3回でなのは視点は終了予定。……3回以内に終わるよね?