028 三度目の邂逅なの
フェイトちゃんとの戦いが終わりしばらく呆然としていましたが、夜中に黙って出てきているので、あまりボーっとしている訳にはいきません。……さすがに、アーチャーさんを放っておくのは可哀想かなぁ、と探してみたのですが、怪我ひとつ無いまま、森の中に倒れていました。
ユーノ君によると、魔力ダメージによるノックダウンだったら、こんな風に相手を怪我させることなく無力化出来るみたいです。さすがに高い空でノックダウンさせた場合は、地面とぶつかった衝撃とかでどこまで大丈夫かは保障しきれないみたいですが、それでもバリアジャケットが生きていれば、そう簡単に命に関わるような怪我をしないというのだからすごいです。
とりあえず、ユーノ君に治療魔法を使ってもらってから、木の幹に寄りかからせます。意識が戻らないようだと、旅館まで運んだ方がいいんだろうけど……。
「う、うぅん……」
しばらく悩んでいましたが、どうやら意識は戻ったみたいです。アーチャーさんは2、3度首を振って自分の様子を確かめているようです。
「む? なのはか。……そうだ! さっきのジュエルシードはどうなった?」
「とられちゃった。アーチャーさんは、これからどうするの?」
アーチャーさんの質問に首を横に振ります。
「ふ……。やられっぱなしというのは性に合わないのでね。ジュエルシード集めは続けるのだろう? なら、あの少女の相手は私がさせてもらうよ」
えっと、聞きたかったのはそういうことじゃなくて……。
「もう夜遅いけど、アーチャーさんは大丈夫なの?」
「……」
アーチャーさん? 無言になられても困るのですが……。もしかして、親さんとかに黙ってきているから気まずいのかな?
「アーチャーさん?」
「ああいや。そう! これくらいの時間まで出歩いているのは珍しく無いからね。今日は少し遅くなったが、すぐに戻れば問題ないさ」
問題ないのならいいのですが……。でも、もう月が大分傾いてきてるし、さすがに遅いんじゃないですか? 一緒にお話している私が言うのもなんだけど。
「それじゃあ、もう今日は遅いのでまた……」
アーチャーさんに挨拶をして、離れていきます。うぅ、さすがに眠い……。
「なのは、まだ彼に手伝ってもらうの?」
「どうしよっかなって。きっと悪い人じゃないんだろうけど、フェイトちゃんが言うみたいに怪しい部分があるのも本当なんだよね」
今までもわたしを助けてくれたし信用したいとは思うのですが、もしアーチャーさんがいなかったら、フェイトちゃんとしっかりお話できたのかもしれません。
「……うん。ただ、じゃあ、あのフェイトって子が信用できるのかって言ったら、彼と同じくらいには分からない子だからね」
そうなんだよね……。でも、ユーノ君が見つけたっていうことは知ってたし、そのあとは協力してくれようともしてたみたいだから、フェイトちゃんたちも悪いことに使うわけじゃないと思うけどね。
「それでなのは、あの子たちをある程度信頼して、ジュエルシードの探索から降りるっていう選択肢もあるけど……」
「ううん、続けるよ。一度やるって決めたことだし、それにフェイトちゃんとも一度しっかりとお話したいから」
私の答えを予想していたのか、否定するでもなく、ただ苦笑しているユーノ君でした。
何とか誰にも気付かれずに、寝ていた部屋まで戻ってきたのですが……。
「うわぁ……」
ユーノ君がなんとも言えない声を上げていますが、私も同じ思いです。出て行く前は、達也君の腕に抱きついていだけだったアリサちゃんとすずかちゃんが、達也君の体にしがみついていました。
「達也君、ちょっと苦しそうかな?」
それなりに体重がかけられているみたいで、達也君の顔が少しだけ歪んでいます。……でも、前にお母さんが私たちの写真を撮った気持ちは少しだけ分かるかな?
とりあえず、今までは緊張してたから大丈夫だったけど、もう、限界……。
「……のは! なのは!」
うぅん……もう少し寝させて……。
「なのは、いい加減に起きなさい!」
起きる、起きるから〜……。それ以上揺さぶらないでぇ……。
「ったく、やっと起きたのね」
半分寝ぼけた目を擦りながら周りを見回すと、少しだけ頬を赤くしたアディリナちゃんがいました。そういえばみんなで旅行に来たんだっけ。
「ふぁ……。おはよう、アディリナちゃん」
「おはよう、なのは。で、そろそろどいてあげないと、アリサとすずかの邪魔になるわよ」
言われて見てみると、アリサちゃんよすずかちゃんに重なるように寝ていたみたいです。そっか、昨日戻ってきてそのまま寝ちゃったんだっけ。
「それにしても達也君も人気者よねー」
あれ、お母さん? 起こしに来てくれたのかな?
「おはよう、お母さん。……人気者って?」
「ふふーん、これ」
「ちょ、桃子さん!?」
あ、いつものデジカメだ。また写真撮ったのかな? もうそのことに関しては、なのはは半分以上諦めています。……でも、何でアディリナちゃんが慌ててるのかな。
「うわー……」
見事に達也君の周りに私たち4人が集まってるなぁ。見事に重なり合っているから達也君は辛いんだろうけど、アディリナちゃんに頭を抱きかかえられているので、表情が全く分かりません。
「桃子さん、その写真みんなには見せないでくださいね?」
アディリナちゃん、諦めた方がいいと思うよ? 今まで散々なのははからかわれてきたし。
「えー、どうしようかしら」
ほら、焦ってるアディリナちゃんを見て、お母さん、とっても楽しそうだし。
「……分かりました。この間の遠足のなのはの写真を提供するので伏せて置いてください」
そんな条件でお母さんが……って遠足!?
「にゃ、ちょっと待って!」
「あら、何か面白い写真でもあったのかしら」
「ええ、それはもう。とても珍しいなのはの写真が」
えーん、話を聞いてよ!
「うぅん……もう、どうしたのよ」
「あ、おはよ、アリサ」
私たちが騒いでいたからか、3人とも目を覚ましました。アリサちゃんとすずかちゃんは何が起きているのか分かっていないみたいでしたが、達也君だけはお母さんを見て、全てを諦めたような顔をしていました。
「なのはちゃん、何か悩んでるの?」
みんなで朝ごはんを食べた後、旅館を出発する前にみんなでお風呂に入っていると、すずかちゃんに質問されました。
「うーん……悩んでるように見える?」
私としては、特に悩んだりしているつもりは無いのですが……。
「そうね。今朝から私たちと話をしてる時もどこか反応が鈍いしね」
「ちょっと寝不足だから、かな?」
さすがに、深夜のジュエルシード回収(失敗したけど)はきついものがありました。
「……まあそれもあるだろうけど、時々厳しい顔して眉間に皺がよってたわよ」
こーんな風に、とアリサちゃんがする様子が面白くて、みんなが笑いをこぼします。そっか、自分じゃ気付かなかったけど、そんな顔してたんだ。
悩んでいるとしたら、ジュエルシード……というより、フェイトちゃんに関して、かな。ジュエルシードは出来るだけ集めるって決めてるし。
「ええと、ね。なんて言ったらいいのかな」
ジュエルシードのことは説明できないから……。
「ちょっとこの間知り合った子がいて、寂しそうな様子だったからどうにかしたいなって。でも、全然お話が出来なくてどうしたらいいんだろうって」
きっと、そういうことなんだと思う。お父さんが怪我をしたときの私は、きっとあんな風に寂しい目をしていたと思うから。
「その子がどんな子か、とか、どうやって知り合ったのか、とか色々聞きたいことはあるけど、なのはの想いを真っ直ぐにぶつけなさい。そうすれば、きっと何かが伝わると思うから」
アディリナちゃん……。そうだよね! アリサちゃんの時も、上手く……はいかなかったけど、私の想いをしっかりと伝えたから、今の関係があるんだもんね。
「それに、もし失敗しても私たちがいるからね。ちゃんとフォローしてあげるから、当たって砕けてきなさい!」
砕けちゃダメだけど……うん、そうだね。でもこんな様なことをどこかで言われた気が……。
「どうしたのよ、なのは」
どこでいわれたのかを思い出して、思わず苦笑をこぼした私を、アディリナちゃんが怪訝そうに見つめてきます。
「前に、達也君にも似たようなこと言われたなぁって。普段はそうでもないけど、たまに達也君とアディリナちゃんってそっくりだよね」
「ちょっとそれどういう意味よ!?」
どうも何も言葉通りだよ? アリサちゃんもすずかちゃんも頷いてるし。
普段は一歩引いてる達也君と、私たちをからかってばかりのアディリナちゃんですが、こうやって困ったときには、私たちが立ち止まらないようにそっと背中を支えてくれます。そんな優しいところが、本当にそっくりです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「今日も見つからないかぁ……」
温泉から帰って数日、いつものようにジュエルシードを探しますが、当然の如く見つかりません。くーちゃんも一緒にいるのですが、探査、ということになるとユーノ君以外に頼れる人がいません。そのユーノ君も、デバイスがないので大規模な捜索魔法(サーチャーっていうらしいです)を飛ばすだけの余裕はないのだとか。
レイジングハートに任せられないか聞いてみたのですが、残念ながら私に最適化されつつあるらしく、砲撃、射撃、防御にリソースが振られていて、現状満足にサーチャーを飛ばせないそうです。改めて思うと、暴力的な魔法のオンパレードだよね……。ユーノ君は回復に、結界に、補助と便利そうな魔法が一杯使えるのに。
「うーん、そろそろタイムアウトかなぁ……」
もう7時を過ぎているので、家に帰ってご飯を食べないとまずいです。
「僕が残って探してもいいんだけど……」
「ううん、フェイトちゃんが来たら、さすがにユーノ君1人だと厳しいと思うから、今日は諦めよう? それに、あの子とは私がお話したいし」
迷っていたユーノ君も頷きました。くーちゃんがいれば、負けないとは思いますが、封印をどうするのか、とか、ユーノ君に言ったみたいに私が相手をしたい、とかがあるので、今日は諦めて帰ります。
「じゃあくーちゃん、帰ろっか」
温泉から帰って以来、くーちゃんは寝起きも私の家でしています。ちょうどユーノ君が人型で暮らすようになったので、ユーノ君と入れ替わって、私の部屋で寝ています。
「なのは!」
家に向かって歩いている最中に、ユーノ君が鋭く叫び、同時に結界を展開しました。大丈夫、私も感じたよ。……でも、今までよりもずっと強い魔力を感じるけど、大丈夫だよね?
「レイジングハート、お願い!」
『Stand by Ready, Set up』
これから起きる事態に備えてレイジングハートを起動させます。
「いくよ、くーちゃん!」
「くぉん!」
くーちゃんとユーノ君と一緒に魔力の元まで飛んでいくと、やっぱりフェイトちゃんとアルフさんがいました。
「やっぱり、来ちゃったんだね」
フェイトちゃんは私をちらっとみると、そのままジュエルシードの封印作業を続けました。
「それで、今日はどうするの?」
ジュエルシードを封印したのを確認すると、フェイトちゃんは私に向き直ります。……よかった、今日はそのまま戦いにならないみたい。
「こないだは、自己紹介できなかったかけど。私なのは、高町なのは。私立聖祥大付属小学校3年生」
前は聞いてもらえなかった私の名前を、しっかりと伝えます。
「最初は困っていたユーノ君を助けただけだけど、その後は、前に私がしてもらったみたいに、力になれると思ったから協力しているの。フェイトちゃんは、何でジュエルシードを集めているの?」
私がジュエルシードを集めている理由を言うと、フェイトちゃんの瞳が揺れるのが分かりました。
「私は、母さんの——」
「フェイト、言わなくていい!」
何かを言おうとしたフェイトちゃんの言葉を、アルフさんが遮ります。何で、どうして言わなくてもいいの? 言葉にしないと伝わらない事だってあるんだよ?
そう、言うつもりでした。だけど、言葉にする前に、そんなことを考えている事態ではなくなってしまいました。
「嘘……封印を、破った……?」
呆然とユーノ君が呟いていますが、今はそんなことより再封印をしないと!
レイジングハートをシーリングフォームに変え、封印しようとすると、フェイトちゃんも同じことをしようとしていました。
「バルディッシュ、お願い」
再びの封印魔法ですが、今回も何とか成功したみたいです。念のために待機させていたレイジングハートを下ろし、ほっと息を吐きます。
「フェイト!?」
さすがに2度目の封印は厳しいものがあったのか、ジュエルシードを回収したフェイトちゃんがふらつきます。
「ありがとう、アルフ。……平気だよ」
平気だよ、とは言っていますが、今日会ったばかりのころと比べると、明らかに消耗しているのが分かります。
「あの、無理はしないほうが……」
「そうだね。……すまないね、まだ話がしたいんだったら、今度会ったときでいいかい?」
「あ、はい」
思わず声をかけると、アルフさんが申し訳なさそうに言ってきました。えっと、さっきのきつい言葉があったから、何でだろう、と考えているうちにフェイトちゃんはアルフさんに抱きかかえられて去っていってしまいました。
「なのは、僕たちも帰ろう」
あ、そうだね。遅くなっちゃったから、お母さんたちにも謝らないと
更新しました。
あるぇ、なのはvsフェイトが1戦消えた。
まあ色々とあるので、しょうがないのですが。
後半久遠が空気なのは反省点。でも、久遠は空気が読める子だよね!