029 管理局の魔導師さんなの
今回のジュエルシードもフェイトちゃんに取られてしまいました。フェイトちゃんともしっかりとお話できませんでしたが、アルフさんがまた今度、と言っていたので、その今度に期待です。約束をしっかりしたわけじゃないから、いつになるか分からないのが問題なんだけど……。
現在集めたお互いのジュエルシードは、私が5つでフェイトちゃんが4つ。……フェイトちゃんに会ってから一つも回収できていないのですが、やっぱりまずいのかなぁ。
「なのは……なにかんがえてるの……?」
「えっとね、フェイトちゃんに会ってから見つけたジュエルシード全部回収されちゃってるなぁって。ユーノ君、大丈夫かな?」
フェイトとちゃんと分かれて、家に帰る途中に考え事をしていたら、くーちゃんが不安そうに見てきたので、大丈夫だよ、と頭をなでながら答えます。
「うーん……問題ないって訳じゃないけど、完全に暴走を許してこの世界に重大な被害を与えたわけじゃないから、そんなにひどい叱責は受けないと思うよ」
「え、ユーノ君怒られちゃうの?」
「ジュエルシードの発掘の責任者だったからね。さすがにお咎めなしとはいかないと思うよ? でも、この話って前にもしなかったっけ?」
私は黙って首を横に振ります。発掘したって話は聞いたけど、まさか私と同い年の子が責任者をやってるなんて想像もできないよ。
「そっか。まあ那美さんにも言われたけど、管理局側の対応が甘かったのもあるから、このまま全部回収できれば大丈夫だと思う」
なら、いいのかな? そういえば、ジュエルシードが絡んできたときにアーチャーさんがいないのははじめてだけど、どうしたのかな?
「そう言えばそうだね。前に来た新しい子の相手をしたがってたから、その子を探しに行ったのか、その子の妨害にでもあったのか……」
そのことをユーノ君に聞いてみましたが、ユーノ君にも分からないみたいです。さすがに本人がいないと分からないよね……。
「なのは……おなか……すいた」
立ち止まってユーノ君と悩んでいると、抱きかかえたくーちゃんが空腹を訴えてきました。そうだね、考えても分からないし、とりあえずお家に帰ろっか。
急いで家に帰ってご飯を食べました。ちょっと遅くなってしまったので、みんなにも謝りました。ちょっとだけ怒られてしまいましたが、
「なのははやると決めたんだろう? ならそのことについては何も言わないさ。でも、皆に心配かけないようにすること」
お父さんがそう言ってくれたので、頑張ろう、という元気が沸いてきました。……さすがに、時間にはもう少し気をつけないとだけどね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
日付が変わって、今日は4月27日です。もう少しすればゴールデンウィークに入って時間が取れます。それから、レイジングハートが本調子ではないみたいなので、普段学校で行っていた、レイジングハート主導の実戦シミュレーションは中止です。
レイジングハートの不調の原因は、正しくは分かりませんが、至近距離でジュエルシードの暴発した魔力を浴びたせいみたいです。原因を確認するために、ユーノ君がレイジングハートのログを調べたところ、昨日のジュエルシードが封印を破ったのは、いくつもの偶然が重なっていたそうです。その中でもジュエルシードが生物の願いに応えたのではなく、街中にあった残留思念に反応したために過剰の魔力が周囲にばら撒かれ、封印に干渉したのが大きかったみたいです。
しかも、周囲に漂っているだけの魔力でもあれだけのことが出来たのだから、より強力な刺激をしていた場合、レイジングハートが破損するくらいのエネルギーを放出した可能性もあったみたいです。
そんなこともあったので、大事をとって昨日の晩からレイジングハートは自己修復中でした。
「あれ、なのはちゃん?」
夕方、ジュエルシードを探すために公園にやってくると、達也君がいました。
「達也君? どうしてこんなところにいるの?」
達也君の家はここからは結構遠いので、ここで会うのははじめてです。
「いや、何かここに来いって言われてさ」
「アリサちゃんやすずかちゃんに?」
声に出してから思いましたが、アリサちゃんたちなら車で一緒に来るだろうから、待ち合わせになったっていうのは考えづらいよね。
「ううん。前にもちらっと話したことあったよね? 病院に入院してる人の関係者だよ」
そういえば言ってたよね。アリサちゃんとかとも余り話さなかった時に、知らない間に進んでいた件。それでも、病院で待ち合わせた方が簡単な気はするんだけど……。
「まあ何でこんな場所に呼び出されたのかは分からないんだけどね。なのはは……って久遠やユーノと一緒だから、例の件か」
私の質問に答えた後、達也君はくーちゃんを呼んで頭をなでました。でも、確かに達也君やアリサちゃんたちなら、アリサちゃんたちの誘いを断わって、こんなメンバーでうろうろしてたら分かっちゃうよね。
「うん。でもなかなか進まなくて困ってるんだ。ちょっと早いけど、もう今日は切り上げようかなって。昨日は帰るの遅くなって怒られちゃったし」
にゃはは、と苦笑すると、達也君が真剣な目で見てきました。えっと……ど、どうしたの?
「僕たちは、なのはを信じて待ってるけど、心配はしてるんだからね? 久遠がいるから、並大抵のことじゃあどうにかなったりはしないと思うけど、やっぱり女の子が遅くまで帰らないのは不安になるよ」
うぅ、それについてはもう反省しています。だから、今日は早めに帰ろうと思ってるんだよ?
「ふむ。なのは、久しぶり……というほどでもないが、奇遇だな。……で、そっちの男は君の友人かな?」
達也君とお話をしていると、アーチャーさんがやってきました。でも、暴走したジュエルシードと向かい合っている時以上に厳しい目をして達也君を見ていますが……何かあったのかな? くーちゃんが懐いているからかな?
「あ、うん。なのはの友達で、清水達也君。で、達也君、こっちが、私を手伝ってくれているアーチャーさん」
2人と知り合いなのは私だけのはずなので、紹介をします。
「あ、うん、よろしく。でもアーチャー……? 弓兵ってどんな名前つけたのさ……」
後半は独り言だったのでしょうが、私には辛うじて聞き取れました。そういえばアーチャーって本名じゃないみたいな言い方だったけど、本当の名前があるのかな?
「あの……」
アーチャーさんにそのことを聞こうと声を上げたところで気付きました。アーチャーさんとは、ジュエルシードが絡んでいないところでは会ってないんだった!
「む?」
「達也君、今すぐこの公園から離れて!」
アーチャーさんが何か言おうとしたみたいですが、それどころではありません。もしジュエルシードがここで発動したら、達也君を巻き込んでしまいます。達也君も魔力を持ってるみたいだけど、何の練習もしてないし、そもそもデバイスも無いのじゃあ何も出来ないに等しいです。
「え? 待ち合わせが……。いや、うん。わかったよ」
最初は戸惑っていた達也君でしたが、私の顔を見ると、離れることを了解してくれました。私が焦ってるのに気付いたのかな、とそう思ったときでした。
「え……!?」
「なのは!」
発動しちゃった……? アーチャーさんが来た意味にもっと早く気付けば、達也君を巻き込まずに済んだのに。その想いに思わずへたり込みそうになりますが、今はそんなことをしている暇はありません。巻き込んじゃったのはなのはのせいだから、絶対に怪我させちゃダメ!
「くーちゃん、達也君をお願い! 行くよ、レイジングハート!」
封時結界自体はユーノ君がすぐに展開してくれましたが、近すぎたの達也君を結界の外に置けなかったみたいです。一定以上の自己防衛が出来ない達也君の身の安全は一番信頼できるくーちゃんに託します。
「なのはちゃん、その格好……」
レイジングハートを準備して、バリアジャケットを装着した私を見て達也君がびっくりしています。そっか、最近はもう慣れちゃったけど、
「このっ!!」
今回は木に憑り付いているみたいで、空を少し飛ぶと、すぐに見えてきました。そして、ジュエルシードの発動場所を確認するとすぐに砲撃魔法——ディバインバスターを発動させます。ディバインバスターだと簡易封印しか出来ないので、本来なら封印魔法の方がいいのですが、封印魔法は遠距離からは撃てないので、こちらを選びました。
万が一にでも達也君を傷つけるわけにはいかない。そんな想いをこめた魔法が一直線に飛んでいきます。こっちの攻撃に気付いたのか、根っこで攻撃しようとしていますが、私の魔法が当たる方がはやいです。
「嘘!? バリアを張ってる……?」
暴走体を貫かんと飛んでいった魔法でしたが、当たる直前で防がれてしまいました。
「お願い、レイジングハート!」
レイジングハートに頼んで出力を上げますが、簡単には貫通できそうにありません。幸い防ぐことで精一杯なのか、私を襲おうとしていた根っこの動きは止まりましたが、このままだと私が息切れする方が早い、かな?
『Thunder Smasher』
どうしようかと悩んでいると、また別の魔法が飛んできました。金色に輝くこの魔法は——。
「フェイトちゃん!?」
魔法の飛んできた方を見ると、フェイトちゃんがいました。暴走体は2人の魔法を同時に防いでいますが、さっきまでと比べると余裕がなさそうです。徐々に押し込んでいく手応えがありました。
『Sealing mode, Set up』
バリアを貫いたのを確認するとともに、レイジングハートをシーリングモードに変更。
「リリカルマジカル、ジュエルシード、シリアルVII……封、印!」
そのまま一気に完全封印まで持っていきました。ふう、これで一安心、かな。
「驚いた……すごく、成長してる」
フェイトちゃんも、デバイスをシーリングフォームにしていましたが、私の方が先に封印できたみたいです。目を丸くして私を見ていました。……あれ、フェイトちゃんには初勝利、かな? 別に勝ち負けを競ってるわけじゃないけど……。
「ふむ。確かに、今回の封印する様子を見ていると、大分変わったみたいだな」
アーチャーさんが跳んできてそう言いました。成長はしてると思うけど、今回は達也君に怪我させちゃいけないって思ったから、練習以上の力が出せただけだよ?
「なのは、ジュエルシードを」
ユーノ君に言われ、はっとします。そうだ、このままだとまた危険なことになっちゃうかもしれないんだ。回収するために、レイジングハートを差し出す前にフェイトちゃんを見ると、頷いてくれました。少しは認めてくれたのかな?
「あの、フェイトちゃ——」
「ストップだ! ここでの戦闘は危険過ぎる」
フェイトちゃんに話しかけようと足を踏み出すと、私たちの間に知らない男の子が割り込んできました。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」
「あの、私たちは戦闘しようとしていたわけじゃあ……」
厳しい顔をしている男の子……クロノ君に手を上げながら恐る恐る言うと、男の子は困った顔をしました。
「何? ……だが、管理外世界での魔法の行使ならびにロストロギアについて聞きたいもある。艦まで同行願いたい」
時空管理局、だっけ。こういう事態の専門家が来たら、事情を全部話して任せようってユーノ君と話していたので、私のほうは問題ありません。ユーノ君を見ると頷いてくれたので、緊張を解きます。
「私たちは構いません」
「そうか、協力感謝する。……そちらは?」
少しだけ表情を緩ませ私たちに軽く目礼すると、クロノ君はまた厳しい目でフェイトちゃんを睨みつけます。
「私たちも構わないけど……」
「なっ!?」
アーチャーさん? フェイトちゃんの様子を見ていると、こういう組織に敵対するわけが無いけど……そういえば、話全然聞いてなかったんだっけ。
「けど、なんだ?」
「トップは別にいるからそっちに聞いて。今呼ぶから、もう少し待って欲しい」
そっか。フェイトちゃんが自己判断だけでやってたわけじゃないもんね。今までの話からすると、お母さんとかかな?
「……分かった。だが君達は先に」
「その必要は無いわ」
フェイトちゃんの後ろから声が聞こえました。
「えぇ!?」
誰だろうと思ってみてみると、アルフさんと、温泉で一度だけ見かけた、ローザって呼ばれてた菫色の髪の女の子と一緒に、達也君が来ていました。
え、達也君も関係者だったの!? ううん、それよりもフェイトちゃんに協力してたってことなの!?
もう一体何がどうなってるのー!?
更新しました。
投稿を始めた直後に比べると、書き出すのにちょっとだけエネルギーを使います。
書くこと自体は楽しいので、書き出せば気にならないんですが(笑)
そしてこれにてなのは視点は一旦終了。達也視点で本編か、みんな大好きEMIYAの受難か。
とにかく、張った伏線の回収をするわけなのですが……大丈夫か、私。