みんな大好き、弓兵さん視点でお送りする無印・なのは編のダイジェスト版です。
030 ふむ、ようやく介入できるようだね
突然だが、私は転生者だ。何やら神の娯楽のためとかで、都合良く死んだ私を別の世界に飛ばすらしい。しかも、特典をくれるというのだから、チート転生者キター! と思った私は悪くないだろう。どこに飛ばされるのかを聞いたところ、「魔法少女リリカルなのは」の世界らしい。原作知識もあることだし、オリ主として大活躍が、と思ったがそう甘くはないみたいだった。
原作知識を持っていると、原作の開始まで介入は出来ないらしい。もちろん、本来存在しない存在がいるので、全く影響を与えないという訳にはいかないらしいが、少なくとも登場人物達に積極的に絡んでいくことは不可能だと言われた。さらに、転生者は私だけでなく他に9人もおり、誰が一番原作に影響を与えられるかを競う、ということだった。つまり、あのバトルアニメに干渉し、さらに強い印象を与えなければあっという間に埋もれてしまうだろう。
色々と悩んだが、私は特典は無限の剣製——Unlimited Blade Works——をもらうことにした。もちろん、本来の使い手と同じだけの剣を内包して、だ。類似品とも言える王の財宝との選択は本当に難しいものがあったが、結局ただの素人である私にとっては、無限の剣製で得られる武器の憑依経験は何物にも代えがたいだろうと思ったのでこちらを選択した。
現在は新暦64年。来年には原作が始まるので、そのための準備に手を抜くわけにはいかない。もちろん、管理局にバレたらいいようにこき使われるだけだろうから、訓練は誰にも見つからないようにひっそりとやっている。ふふふ、他の転生者たちよ、見ていたまえ。特典のオマケとしてやってもらったこの容姿も含めて、アーチャーとして原作介入を——。
「ビューノ? ビューノー? そろそろご飯だから戻ってらっしゃーい!」
……ちなみに、今声をかけたのが私の母である。母よ、せっかくいいところだったのだから、もう少し空気を読んでもらいたい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
新暦65年になり、現在第97管理外世界——原作の舞台へと向かっている。今までは、なのはたちと同じという年齢のこともあり、管理外世界への渡航はやろうと思っても出来なかった。しかし、ここにきて、いきなり両親からの一人での旅行の許可が下り、今までの苦労が嘘のように簡単に手続きが進んでいった。母親などは、
「もう……そんなに魔法の無い世界に行きたいんだったら行ってらっしゃい。でも、魔法のことについて知られちゃだめよ?」
などと、さも私の熱意に負けたかのように言いながら許可をくれたが、これこそが神の言っていた「原作介入できない」ということの一端だったのだろう。なにはともあれ、これから私の物語が始まる——。
現在、2つ目のジュエルシードが発動すると思われる神社の階段脇にある茂みに潜んでいる。最初のジュエルシードの発動には間に合わず、なのはとは顔見せだけで終わってしまったが、今日会う約束が出来たので上出来だろう。会う約束をした場所はジュエルシードの発動予測地点だったことも幸いだ。現在、他の転生者の姿もなく、まずは先手を取ることに成功した形だ。
む? ジュエルシードの発動はまだだが、なのはが近づいてきているようだ。千里眼のスキルまで付けてくれているとは、あの神、本当に至れり尽くせりだ。
「ふむ、奇遇だね」
さも今降りてきた風を装い、怪しまれないようなのはに話しかける。途中、ユーノに念話で魔導師であることの確認を取られたたが、すぐにジュエルシードが発動、封印のために2人と1匹で駆けていくことになった。
「は……?」
なのはがレイジングハートを立ち上げたところで、思わず驚きの声が漏れる。馬鹿な、何故いつものバリアジャケットでなく、巫女装束などを着ている!? なのはが何か言っているようだが、それどころではない。まさか、私が知らない間に既に転生者の干渉を受けていたとでもいうのか? だが巫女さんだと? それもいい……ではなく、自分の趣味を押しつけるような転生者だ、どうせ碌なやつではあるまい。やはり私がしっかりOHANASHIせねば……!
考え事をしながらではあったが、なのはについて行っていたようだ。ふと気付くと既に神社に到着しており、アニメでも見た犬の暴走体が目に入った。いや、それは問題ない。問題なのは、暴走体と向かい合うように立っている、金色の髪をした少女である。
「くっ、他の転生者にこんなに早く会うことになるとは思わなかった!」
先ほど、転生者の残り香は感じたが、本当に会うことになるとは思っておらず、思わず悪態が口をつく。だが、女性? 彼女も巫女のような格好をしているので、お揃い、とでも言うつもりか? しかしそれにしても、元から女性だったらそういった思考になるとは考えづらいが……まさか、TS転生者か?
「なのは、あちらの女性は私が抑えるので、ジュエルシードをさっさと封印してくれ!」
あれがなのはとどういった関係なのかは知らないが、好き勝手やられたくはないからな。ここでいいところを見せて、私の強さを刻みこんでみせるさ。
そんなことを思いながら、投影した干将・莫耶を両手で構え、全力で踏み込む。
「……」
な!? それなりの魔力を使った身体強化のスピードをあっさりかわすだと!?
無言のままかわす少女に二度、三度と切りつけるが、あっさりとよけられる。く、接近戦じゃ分が悪いか? ならば——。
「投影(トレース)、開始(オン)」
本来なら、伏せておくつもりだった札を切る。まずは様子見を兼ねて、宝具ですらないただの剣を複数本投影する。
「工程完了(ロールアウト)。全投影(ソードバレル)連続層写(フルオープン)!」
速度にまかせた攻撃ではなく、多角からの同時攻撃。果たしてよけられるかな?
「な……!」
少女は焦点位置からずれると、自身に向かってくる剣を飛ばした電撃によって落ち落とした。先天性の変換資質持ちか?
「てき……?」
質問、というより独り言だったのだろう。その声は小さく、こちらの解答を待たずに電撃を飛ばしてきた。
「ふん、その程度の攻撃は効かんよ。バリアジャケットと聖骸布の守りは……」
そこまでいったところで、視界が真っ白に染まった。
「む、ここは……?」
目を開けると、板張りの天井があった。一体なにが……?
「あの少女は!? なのははどうなった!?」
自分が何をしていたのかを思い出して辺りを見回すと、高校生くらいだと思われる女性がいた。
「あ、目、覚めた?」
それにしても、この人も巫女なのか……。知らない間に、リリカルなのはの世界は巫女が主流にでもなったというのかね?
「あぁ……すまないが、あれから何が起きたのか教えてもらえるかね?」
「うん。そうだね——」
女性……那美、というらしいが、彼女に聞いた話によると、先ほど私が争った少女は久遠、といって狐の変化らしい。詳しい話は聞けなかったが、何やら近くで怪しい力が発生していたので、抑えるために行動していたのだとか。しかも、なのはの友達だとか。……これは、まずいか? 何も知らなかった訳だから、しっかり謝ればまだリカバー出来るとは思うが……。
「それで、すまないがその久遠という子は今どこにいるのかね?」
「久遠なら、なのはちゃんの家にいるよ? 何かあった時にも久遠ならなのはちゃんを守ってくれるしね」
あれ、もしかして私がいなくても平気じゃないか? いやいやいや、もしフェイト側にも転生者が現れたら、その時はそいつを止めることで私の存在価値が——。
たった今、なのはは5つ目のジュエルシードを封印した。恐れていた通り、私がいなくても封印は上手くいっている。アタッカーとして久遠が敵を抑え、なのはがジュエルシードを封印する。ユーノはその間街への被害を抑えるという分業体制がうまく機能しており、何の問題もない。ただ、このままフェイトとぶつかることになったら、フェイトが惨敗するのじゃないか、というのが懸念ではある。
だがなのは、来なくてもいいんだよ、というのはいただけないな。
「これだけの危険性を秘めたロストロギアだ。戦力がいて困ることは無いだろうから付き合わせてもらうよ」
なのはとフェイトの激突によって次元震を引き起こすような代物だ。予備戦力はいくらあっても困るものではないだろう。
なのはと別れて宿へと戻る。管理局の伝手を頼って、少年でも問題なく泊まれる場所を用意してもらえたのはありがたい。どうやら、管理外世界でもある程度の場所ごとに滞在用の施設が確保してあるようだが、海鳴に設置されていたのは本当に幸運だった。
さて、今回学校のジュエルシードを回収したということは、明日にはサッカー少年が発動させるのだろう。街への危険を回避するためなら事前に回収してもいいのだが……なのはの決意を固めるためには発動してもらった方が都合がいいだろう。そうと決まれば、明日は発動の側だろう翠屋周辺で張り込みだな。
先週のサッカー少年によるジュエルシードの発動は何故か起こらなかった。もしかして発動前になのはが回収したのだろうか。理由もなく会いに行くには久遠が恐ろしくて行けないのが歯がゆいが……。だが今日はすずかの家で、フェイトとの邂逅があるはずだ。こちらはなのはが関わらなくとも、「他に回収者が現れた」ということで、話をする機会は作れるはずだから、参加しなくてはならない。そう思って月村邸の近くに身を隠していたのだが……よかった、今回は原作通りみたいだな。
「ふう。今回は間に合ったようだな」
なのはに向けて放たれたフォトンランサーを撃ち落とす。今回は久遠がいないことだし、なのははまだ対人戦をするには覚悟が足りないだろう。さて、フェイトよ。悪いが私の印象を良くするための踏み台になってもらおうか!
「な……バインド!?」
自身の体が締め付けられるのと同時に、ユーノの声が聞こえる。この魔力光は……アルフか! しまった、原作では登場していなかったので油断した!
「ち、こうもあっさり出し抜かれるとはな……」
結局ジュエルシードの回収を止める事はかなわず、そのまま転移で逃げられてしまった。なのはに確認をしてみても、原作においてサッカー少年の持っていたジュエルシードは回収していないという。ならば、どこに行った?
さて、あれからまた一週間。結局ジュエルシードは回収できていないらしい。今日明日は旅行に行くので、封印に参加できないから無理はしないで、となのはから昨日念話があった。
それから、こちらは全くの偶然であるが、那美嬢が久遠を連れて同年代かやや年上の女性……月村忍だろうか? とどこかに出かけて行くのを見かけた。別段ここでジュエルシードを取られることに問題はないだろうが、さて、どうするべきか。考え込むのは一瞬、すぐに結論が出る。多少不自然でも参加するべきだ。相手にはこちらの存在はばれている。さすがに油断していなければアルフごときに無力化はされないだろうし、他の転生者がいたとしても引きずり出すことができればそれはそれで問題ない。つまり、どう転んでも大きなメリットが存在するわけだ。
「さて、今回はどうなることやら」
そして夜半過ぎ。予想通り、発動したジュエルシードをフェイトが封印し、少し遅れてなのはがやって来た。すぐに出て行ってもいいのだが、さすがに多少時間を置かないと不自然だろう。
「ふむ、また争いになっているようだね?」
適当なタイミングを見計らって出て行くが、フェイトはおろかなのはにまでジト目で見られている。……なにがあったのさ。
よく分からないまま事態が進行するが、どうやらフェイトは私達と争うことに忌避感はないようで、こちらに対して構えてきた。
「ちぃっ……なのは、ユーノ! 使い魔は私が抑える! 君たちはもうひとりの相手をしてくれ!」
そちらがやる気ならば問題ない。幸いこの距離なら、
「
「さて、と。君が何考えてるのかは知らないけど、あの子たちの邪魔はさせないよ」
少女はそう言うと、菫色をした多数の魔力弾で攻め立ててきた。ち、この密度じゃ回避しきるのは無理か、ならば——!
「投影開始(トレース・オン)」
両手に干将・莫耶を生み出し、魔力弾を切り払いながら相手に近づいていく。これだけの弾幕を苦もなく生み出す魔導師だ、接近戦には——
「がっ」
「はい、残念♪」
あと1m、というところまで接近したところで強制的に動きが止められる。何事かと思って体を見てみると、幾重にも鎖が巻き付いていた。バインド!?
「見た目にもこだわるから、能力が分かっちゃうんだよ」
視線を少女に戻すと、突きつけたデバイスの先に魔力が集まっていた。く、こんな距離から砲撃を受けたら!
「それじゃあね?」
何とかバインドを外そうとするも、解除する前に砲撃が放たれ、菫色の光が意識を飲みこんでいった。
その後は、フェイトとの戦いを終えたなのはに助けてもらった。本格的に何も出来ていない、と思うが、今回は相手の戦力の一端を曲がりなりにも抑えた……そう、思うことにする。
それに、戦った時の感覚からするに、才能に恵まれているのではなく、頭で組み立てた戦闘を上手くこなしただけ、という感じだった。現に、魔力ダメージでノックダウンこそされたものの、久遠にやられたときのようにバリアジャケットを完全に打ち抜かれたわけでもない。もちろん、こちらの対応が悪かったのは否定しないが……。
「さて、原作通りなら、そろそろジュエルシードを強制発動させるころだが……」
「ふうん、それで? そのあと君はどうするのかな?」
夕方も過ぎた街を眺めていると、急に声をかけられた。
「な!? 貴様!」
完全に背後を取られていた。くそ、何で気付けなかった?
「はあ……折角弓兵さんの能力もらってるのに、運用する人が下手だとここまで使えないものなんだね」
な……! 馬鹿な、投影もそれを生かした戦闘技術もも完璧とはいえないがそれなりに磨いてきたんだぞ!?
「大体、温泉で分かれてからずっとサーチャー張り付けてるのに、見向きもしないし。ミスリードを誘うためかと思えば、完全に気付いて無いなんて……」
少女が呆れたように首を振りながら言う。だが待て、サーチャー、だと?
「……今までずっと見張っていたとでもいうのか?」
「まさか。何回も交代してもらってるよ」
……今までずっと1人で訓練をしてきたが、こんなところに落とし穴があったとは!
「ま、前にちょっとやりあった感想からすると、何とでもなりそうな感じだけどね」
何? それは一体……?
「おっと、ジュエルシードが発動したみたいだね。で、今度はどうする?」
「……いや、今回は絡むのは止めておこう。どうせ君が邪魔するのだろう?」
ご名答、とばかりに頷くと少女はそのままジュエルシードが発動した方向を見つめていた。……いや、フェイトがいる方向、だな。
「ふぅ。ちょっとヒヤッとしたけど、何とかなったみたいだね。それじゃあね、エミヤさん。明日のジュエルシードも、見学だけなら私は何も言わないよ。……じゃーねー」
そして翌日。本来なら、管理局が介入してくる日なのだが、本来なら前日に発生した次元震が、今回は単純な魔力の暴走になっっているのだが……はたして、アースラはやってくるのだろうか?
「……いや、これは考えても仕方ないか。ともかく、現地にいないと何も出来ないな」
そう思って、臨海公園にまでやってきたのだが……。
「……で、そっちの男は君の友人かな?」
なにやらなのはが楽しそうに同年代の少年と話していた。まさか、なのはの幼馴染だとでも言うのか? 全てを知ってここにいるとしたら……いや、だが原作知識を持っていたら、数週間前まで関われないはずだ。では偶々か……?
などと考えていると、なのはが慌てて彼(達也というらしい)にここから離れるように言った。なんだ? ジュエルシードの発動を感知したのか? 私には何も感じられないが……。そう思うのも一瞬、すぐにジュエルシードが発動し、なのはは飛んでいった。
途中フェイトの助けがあったとはいえ、今までで一番見事な手際でジュエルシードを封印した。さて、これからどうなるのかね?
「ストップだ! ここでの戦闘は危険過ぎる」
なのはと会話をしつつ様子を見ていると、
「私たちも構わないけど……」
な!? 馬鹿な、プレシアの言いつけどおり集めていたのなら、ここで管理局に従うわけが無い。逆に、あの菫色の髪をした少女の暗躍でプレシアとの関係に変化が起きているのなら、ジュエルシードを集める必要など全く無いはずだ。一体何がどうなっている!?
結局状況が把握できないまま、なのは、ユーノのほかに、フェイト、アルフ、それから転生者と思われる2人の男女とともに、アースラへと行くことになった。
更新です。
10話分を1回でやろうとしたので、かなりの駆け足になってしまっていますが、ご了承ください。