034 お医者さんが見つかったみたいです
家に帰ってきましたが、アリサちゃんにも怒られました。さすがに地球上にいなかったら、携帯電話が通じるわけないですよね。素直に謝ったので、次からは気をつけるだけで済みましたが。
さて、ルフェーブルさんに頼まれたお医者さん探しですが……どうしたものでしょう? 時期的に素直に話してしまえば、アディリナちゃんたちには感付かれかねませんしね。もちろん可能性はそんなに高くないですし、一応手出しはしないという約束はしていますが、大切な人たちをわざわざ危険に晒す必要もありません。それに、下手に話そうものならなのはちゃんにも知られてしまいますし。
そうなると、アディリナちゃんたちに聞けなくなってしまいますが、打てるだけの手は打った、と嘘偽りなく答えるためにも、確認をしないといけません。どうしたものか……。
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色々と悩みましたが、結論が出ないまま翌日になってしまいました。さすがに学校では話せないので、このままだと那美さんから聞くだけになってしまいますが……。
「それじゃあアリサちゃん、すずかちゃん。アディリナちゃんも達也君もまた明日」
そのまま放課後になってしまいましたが、なのはちゃんは例の件(おそらく魔法が絡んでだと思いますが)で一足先に帰るとのことでした。うーん……なのはちゃんもいないし、上手く話せば大丈夫かな?
「あーあ、折角私たちの都合が合ったのに……。でも、あの様子だとなのははしばらく遊べそうにないわよね」
「そうだよね。なのはちゃん、無理しないといいけど……」
どう切り出すか、というのが非常に難しいのですが……。まあなのはちゃんは、本当にまずかったら、士郎さんなり那美さんを頼るだろうからそこまで心配はしてないけどね。
「達也、ずっと何も喋ってないけど、達也も何か悩み事?」
おっと、どう話そうかと悩んでいたら、アディリナちゃんに気付かれてしまったみたいです。
「え? いや、えーと……」
さて、どうしたものでしょうか。
「……何か忘れてる気がするんだけど、何だったかなぁと」
結局、告げることが出来ずに、誤魔化してしまいます。折角僕のところで止めたんだし、藪をつついて蛇を出す必要はありませんよね。
「そう……? ならいいけど。でも、体調悪いとかだったら、さっさと病院行きなさいよ」
納得していないのか、アディリナちゃんはどこか訝しげな表情をしています。正直、完全に嘘となっているので申し訳ないのですが……。ん? 病院か。上手くやれば、さも今思い出した風を装ってできるかな?
「あ、それだ。病院……っていうか、お医者さんかな? えっと……親戚、じゃなくて知り合いか。とにかく、母さんの知り合いが近くで入院することになったみたいで、3人ともいいお医者さん知らないかって聞こうと思ってたんだ」
ちょっと苦しいかな、とも思いますが、話し始めてしまった以上このまま押し通すしかないですね。
「私の方は、一族の特殊な体質もあるから、基本的には普通のお医者さんにはかかってないから、ちょっと……」
あ、しまった。この聞き方だと求めている、裏にも詳しいお医者さんを紹介してもらえないか。……最悪、忍さんを通して聞くかなぁ。
「私たちは普通に海鳴病院に任せてるけど……。もし本当にまずいんだったら、パパに頼んで紹介状とか書いてもらおうか?」
「んー……今朝ちらっと母さんに聞いただけだから、もう少し詳しい話聞いてみて、重い病気とかだったら頼むかも」
正直、普通のお医者さんだろうからそのまま頼むことはないと思いますが。
「そう……。そういえば、お見舞いとかいった方がいいのかな?」
……。しまった、アリサちゃんたちならこう言い出すことは予想できたことでした。想像以上に追い詰められてたのかもしれません……。
「実際たいしたことないかもしれないし、行っていいかどうかもいっしょに確認しておくよ」
さて、これで追及はかわしましたが、お医者さんのことについてこれ以上3人から聞きだすのは難しくなりましたね。まあ、最悪忍さんに事情を話して紹介してもらうっていう手段が出来ただけよしとしますか。
「分かったわ。さて、なのははいないけどこのまま遊ぶ?」
アディリナちゃんもすずかちゃんも、アリサちゃんの発言に乗り気ですが、ルフェーブルさんとの約束もあるし僕は行くわけには行かないんですよね。
「ごめん、僕はさっきのことの確認もしたいし、今日は家に帰るよ」
アリサちゃんたちは少しだけ残念そうでしたが、一応納得してくれました。……聞くついでにウチで遊ぼう、と言い出さなかったので、気遣ってもらったのかもしれませんね。
「うん、いるよ」
3人と別れてから、昨日聞き忘れたお医者さんのことについて那美さんに確認しにきました。事情も全て話せるのでこういった面では楽ですね。
「ただ、魔法については全く知らないから、そっちの技術とかが原因だったら何も出来ない可能性はあるよ?」
「本当? じゃあ向こうに連絡とってみるね。正直お医者さん見つけてからどうするのかは聞いてないし」
そう那美さんに断わってから渡されたボールペンを持っていることを確認して心の中で念じます。
(こちら達也。ルフェーブルさんいますか?)
正直、こうやって念話で連絡する場合ってどうやるのが正しい手順なんでしょうか? どうでもいいことを考えているな、と思いますが、すぐに返事は返ってきました。
(はいはい。いますかもなにも繋ないだ先が私個人だから、私しかありえないけどね。……でも連絡してきたのね、感心感心)
当然でしょう? 約束でもありますし、何かされたら僕からは何の対処も取れないんですから。
(で、お医者さんは見つかったのかな?)
(一応見つかったよ)
(そうよね、やっぱり……ってえぇ!? もう見つかったの!?)
もうも何も、見つけてこいと言ったのはルフェーブルさんじゃないですか。
(うん。普通のお医者さんだけど、裏の事情を知ってる人らしいから頼めばやってくれるって。それで、プレシアさんをこっちに連れてくるの? それともお医者さんをそっちに連れて行くつもりなの?)
(……個人病院の医者だったら連れて行きたいんだけど、その辺りどうなの?)
(ちょっと待ってくださいね)
一旦念話を切って、那美さんの方に向き直ります。
「那美さん、そのお医者さんってどこの病院にいるの?」
「海鳴病院だけど……もしかして、さっき話してたの?」
あ、そういえば那美さんには話してなかったですね。
「うん。念話っていって、向こうだと割と一般的な連絡手段みたいだよ?」
テレパシーみたいなものかしら、などと那美さんは呟いていますが、そんな超能力者みたいな人もいるんですね。表面的には何も無いみたいですが、実際は色々と特別な力を持った人たちが沢山いた世界だったみたいです。
(確認したら、大きな病院に勤めてるってさ)
さて、大病院な以上は身元不明人の受け入れというのは難しいものがあると思いますが、どうするのでしょうか。
(っていうか、2人で話せばいいのに、何で僕が仲介してるんだろう。僕を送った側にある神社にいるから、こっちに来たら?)
(それもそうね。ちょっとだけ待ってて頂戴)
そう言って念話が途絶えました。こちらからの了解の返事も届いてない気配があったので、念話自体が届いていないのでしょう。
「那美さん、向こうが話し合いのためにこっち来るって」
とりあえず、このままボーっとしてゐ手もしょうがないので、那美さんと話すことにしました。それにしても、魔法でも一瞬で移動してきていたわけじゃないんですね。
「へー、そんな人なんですね」
「お待たせ、達也君」
那美さんに、紹介してもらうお医者さんの話を聞いていると、後ろから声をかけられました。階段を上がって来たにしては早いので、ここに直接来たのでしょうか。、
「ん。那美さん、こっちがローザ・ルフェーブルさん。お医者さんを探してた張本人。それから、この人が神咲那美さん」
お医者さんを紹介してくれた人、と紹介しようとしたところで、那美さんがルフェーブルさんにつかつかと歩み寄り、その頬を叩きました。
ちょっと、那美さん!? いきなり何やってるんですか!?
「どんな事情があったのかは知らないけど、いきなり他人を、それも私の大切な人を襲ったりしたからね。……でもとりあえずは、これで許してあげる」
叩かれた直後から呆然としていたルフェーブルさんでしたが、那美さんの言葉を聞いているうちに、反省した様子をみせました。
「それで、お医者さんだったよね。おかれてる状況とかを聞きたいんだけど」
「あの、いいんですか……?」
僕もそれは思います。今までに見たことがないくらい厳しい様子だったのに。
「よくない部分もあるけど、達也君に頼まれたしね」
「那美さん……。僕を気遣ってくれるのは嬉しいけど、他の当てがないわけじゃないから無理しなくてもいいよ?」
「いいのよ。それに、お医者さんが必要なのはこの子じゃないでしょ?」
まあそうなんですけど……。
「その、すいません。ありがとうございます……」
ルフェーブルさんはしおらしい様子で那美さんにお礼を言うと、僕の方に向き直りました。
「達也君もゴメン! よく考えたら、私謝ってなかったよね。全然意識してなかったけど、結構焦ってたみたい」
そう言って、勢いよく頭を下げました。
「達也君……。謝ってもらってもいないのに、よく信用する気になったね」
那美さんが呆れた目で僕を見てきますが、僕にも理由があるんですよ?
「いや、ちょっと色々あって誤解だって気付いたときに謝るタイミング逃しちゃってるし。それに、アディリナちゃんのこともあったしね」
僕を浚う理由が薄いことが分かった後は、原作改変ノート(仮)や一夫多妻制のことで大騒ぎでしたしね。
「私は入ってないんだ……」
「いや、那美さんを狙うとは考えづらかったからだよ?」
さすがに、転生者ということを話すだけの勇気はないですしね。いや、それ自体は構いませんが、何故襲われるのか、ときかれたらその主目的まで話さないといけませんから。「物語」のことだ、と告げる気にはなれません。
「とりあえず、納得しておこうかな。さて、それじゃあ本題に戻ろうか」
那美さんとルフェーブルさんが話した結果、プレシアさんがフィリスさん(お医者さんの名前だそうです)の近くに家を借りて、時間がある時にみてもらうことに決まりました。専門的な設備がなくても平気なのかな、と聞くと、設備不足の場合は諦めるそうです。それでいいのか、とも思いますが、ある程度の時間さえ稼げれば、ルフェーブルさんに治してもらうアテがあるそうです。
とりあえず話が終わった後はすぐにルフェーブルさんは戻っていきました。移動自体は明日行うそうですが、その準備などをするみたいです。
僕は僕で時間が中途半端になったので、もう少し那美さんと話していくことにしました。
「あ、そういえば那美さん。プレシアさん……ルフェーブルさんが連れてくる人だけど、その人に何か憑いてるみたいだったよ?」
その途中で、プレシアさんに会った時に気付いたことを那美さんに伝えます。
「そうなの? もしかして、そっちが原因だったら私が何とかできるかもしれないね」
まあ後ろ暗いことをして立って言ってましたしねぇ。幽霊とかだったら那美さんの独壇場ですよね。
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更新しました。
引き続き、前回の話でも主人公がおかしいのじゃないのか、という指摘があったので少し手を加えています。
具体的には、達也が周囲の安全を求めて協定を結んでいます。