036 幽霊とも話が出来るみたいです
一応、ルフェーブルさんと和解? が出来た次の日になりました。当然のように、なのはちゃんは一足先に帰宅です。日曜には士郎さんが監督をしているサッカーチームの試合があるそうで、みんなで応援に行くので、残念そうにはしていましたが、それを楽しみにしているためにそこまでひどくは無いみたいです。
今日はお昼をなのはちゃんたちとは一緒にとらず、クラスの友達(当然、僕にもなのはちゃんたち以外の関わりはありますよ?) と取ったので、しっかりと話をするのは、この放課後が今日はじめてです。
「そういえば達也、知り合いの病気の人どうだったの?」
あ……すっかり忘れていましたが、何とかなったんですよね。伝えるのを忘れてしまいました。
「あ、ごめん。那美さんの知り合いにお医者さんがいるみたいで、その人に見てもらうことになったよ」
「そう、ならよかったけど……もっと早く連絡しなさいよね」
だからごめん、って……。いや、全面的に僕が悪いからいいんですけど。
「それでお見舞いとかはどうしたらいいの?」
助け舟を出すかのように、すずかちゃんがわ話題を切り替えてくれます。でもお見舞いかぁ。一応昨日の様子を見る限りでは、大丈夫だとは思いますが……まあ近づかずに済むのなら、その方がいいですよね。
「何か、人嫌いであんまり知らない人とは会いたくないんだって。世話とかも僕と母さんでやるから平気だってさ」
もちろん嘘ですが。いや、正確に言うと話したことがないから、人嫌いかどうかなんて知らないというのが正しいのですが……。
「そうなの? でも達也に何が出来るの?」
アディリナちゃんに突っ込まれましたが……どう答えましょう?
「基本は母さんだけど、僕たちと近い年齢の子供がいるから、僕の話も聞きたいんだって」
テスタロッサさんがプレシアさんの娘なので、間違いではないです。
「そうなんだ……女の子?」
いやすずかちゃん、そんな目で僕を見られても……。女の子は女の子だけど。
「そうだけど、名前くらいしか知らないよ?」
あとは、何か僕を襲ったらしいとしか。
「ま、とりあえずはこれで勘弁してあげる。その人が回復したら、ちゃんと私たちにも紹介しなさいよ」
えと……そういえば、いつまでいるんだろう? ルフェーブルさんに治療のアテがあるって言ってたし、もしかしたら完治前にいなくなるかも。
「一応、地元まで行けば本人が信頼してるお医者さんがいるみたいだから、安定したらそっちに戻っちゃうかも」
こう、嘘で固めていくのって大変ですね。正直、どこかに矛盾が無いのかがすごく不安です……。
「そう。でも紹介できるんだったらしなさいよね」
それはもちろん。当然のように首を縦に振ります。
「それじゃあ達也君、今日は遊べるの?」
んー……基本的にはプレシアさんの移動だけだし、そもそもこれ以上僕が絡む必要ってないんですよね。
「今日は平気かな? どうしよっか?」
どうしましょうか。昨日は昨日でアリサちゃんの家に集まったそうなので、そこは却下みたいです。
「うーん……家にする?」
「あ、いいわね。久しぶりにすずかの家で猫と戯れるのも」
じゃあすずかちゃんの家ですね。
「あはは、このっ!」
月村家に来たのですが、こう、来るたびに猫が増えていますよね。もちろんいなくなった猫もいるのですが。それにしても、アリサちゃんは犬を飼っていますが、猫も嫌いじゃないみたいなんですよね。とても楽しそうに仔猫とじゃれています。
「……?」
そんなアリサちゃんを見ていたのですが、ふと気付くと目の前に三毛猫の子供らしき仔猫がちょこんと座って、じっと見てきていました。
「……」
こう、真っ直ぐな目をしていますが、僕に何を求めているんですか?
「達也君、なにしてるの?」
僕と仔猫の様子に気付いたのか、不思議そうな声ですずかちゃんが聞いてきました。
「いや、何って訳じゃないんだけど……」
もう少し自分が求めていることは分かりやすくして欲しいですよね。例えば、なでて欲しいのなら寄ってくるとか。
(達也君、今ちょっと大丈夫?)
そうやって楽しく過ごしていると、急に念話が飛んできました。声色が本当に申し訳なさそうなので、何かあったのでしょうけど……。
(内容にもよるかな? とりあえず、念話を続けるだけなら大丈夫)
1年の頃から鍛えていた多重思考は伊達ではないのですよ。アディリナちゃんたちとは普段と同じように会話を続けながら、ルフェーブルさんの念話に答えます。……そういえば、この多重思考が役に立ったのは初めてかもしれません。
(そう……。無理じゃなかったら、私たちのところに来て欲しいけど、来られる?)
んー……。別に行ってもいいけれど、とりあえずは話を聞いてからかな?
(あ、待って。……那美さんからも来て欲しいって)
那美さんが? もしかしたら、昨日伝えたプレシアさんに憑いているやつに関係あるのかな?
(よく分からないけど、那美さん側にいるんだよね? じゃあ僕の携帯に電話するように伝えて)
ルフェーブルさんから了承の返事が届いて少しすると、僕の携帯電話が鳴りました。
「あ、ちょっとごめん。……もしもし?」
もしかしたら、このまま抜けることになる可能性もあるから、一応会話が聞こえないように距離をとって、と。
「あ、達也君? 那美だけど、その昨日教えてもらった憑き物についてなんだけど……」
那美さんの話を聞く限りでは、やっぱり何か憑いていたそうです。問題は、プレシアさんやルフェーブルさんの世界の常識ではそんな幽霊みたいなものは完全に信じられていないみたいです。……自分たちは魔法なんていうファンタジーなものを平気で使ってるくせに。
話はそれましたが、那美さんがそのことや、憑いていた人の言葉を伝えても、プレシアさんは耳を貸さないそうです。どうしたものか、と思ったところで、向こうの魔法技術と霊感とを両方持っている僕がいるから、もしかしたら通訳できるんじゃない? というルフェーブルさんの(余計な)一言のおかげで、とりあえず連れてこればいいという話になったそうです。
出来れば、無理な浄化などはしたくない那美さんとしても、相手に理解してもらえるのなら、それに越したことはないということで、僕が呼び出される事態となったみたいです。
「とりあえず、那美さんの頼みでもあるし行くよ。どこに行けばいいの?」
(適当に抜けてもらえれば、転移魔法で迎えに行くわ)
「だって。とりあえず、転移? してもらえる状況になったら教えて」
一瞬何事かと思いましたが、よく考えてみれば、那美さんとルフェーブルさんは同じ場所にいるのですから、念話の内容を実際に声に出せば伝わるんですよね。つまり、上手くやれば3人での会話も出来たんですね。
「分かりました。それじゃあ」
一旦電話を切って、アディリナちゃんたちに遊べなくなったことを伝えないといけません。
「ごめん、例のお医者さん関係で呼ばれたからいってくるね」
電話の内容自体は聞いていないみたいだったので、このまま抜けても大丈夫なはずです。
「ちょっと残念だけど、しょうがないよね……」
本当に残念そうなすずかちゃんやアリサちゃんを見ていると、申し訳ないとも思いますが、向こうの真意がいまいち読めない以上、軽々しく扱いたくは無いんですよね。
「本当にごめんね?」
「でもどうやっていくの?」
「迎えが来るらしいから、連れて行ってもらうよ」
嘘は言ってないんですよね……。やっぱり心苦しいですが。
さて、ここなら誰にも見つからないでしょう。
(とりあえず人気の無い場所には来たよ?)
おそらく転移魔法で迎えに来てくれるのはルフェーブルさんでしょうから、念話で連絡を取ります。
(ん、了解。それじゃあ行くね)
そう聞こえると、あっという間に視界が変わります。近くなら、転移魔法はすぐに移動できるのかな? 昨日少し待ったことを思い出しながら、そんなどうでもいいことを考えていました。
「あ、達也君。ごめんねー……」
那美さんが申し訳なさそうに言ってきますが、最終的に受諾したのは僕なので気にしないでください。
「それで、その子が?」
今日はプレシアさんは起きているのですが……僕が何かしたんでしょうか? なにやら非常に冷たい目で見られているのですが。
「プレシアさん、さっきの説明で納得しなかったのはあなたでしょう? 上手くいくかどうかはわかりませんが、試せるだけ試してみるので、もう少し落ち着いてくださいよ……」
あれ、プレシアさんとルフェーブルさんはルフェーブルさんが優位に立っているくらいかと思っていたんですが、むしろプレシアさんのほうが上位にいそうですね。
「……それで、僕は何をすればいいの?」
とりあえず、プレシアさんと説得しているルフェーブルさんは放っておいて、那美さんに呼ばれた理由を尋ねます。
「達也君、今もプレシアさんに幽霊が憑いているの、わかる?」
那美さんに言われて、じっとプレシアさんの方を見ると、確かに何か違和感を感じました。
「……うん。でも、僕には何かいるってことしか分からないよ?」
「だろうね。だから、私が手伝うからあの幽霊の声を聞いてみて。大丈夫、悪い幽霊じゃないから」
那美さんが、こういうのに僕が関わるのを良しとしないのは知っていたので、本当にどうしようもなかったのでしょう。大きく頷いて、違和感を感じる方をじっと見つめます。
「じゃあ、集中していてね……」
那美さんが僕の肩にそっと手を置くと、そこから何かが僕に流れ込んでくるのが分かりました。これが、霊力なのかな……?
『…………える……な』
どこか暖かいその力が流れ込んでくるにしたがって、何となく違和感があるだけだったものが、朧げながら見えるようになってきて、念話とはまた違った感じの声が届くようになりました。
『これ、やっぱり無理じゃないのかな?』
やがてはっきりとした姿をとったのは、5歳から6歳くらいの金色の髪をした女の子でした。……テスタロッサさんの妹さんとか?
「えっと……一応聞こえるよ?」
突然僕が言ったのに驚いたのか、幽霊少女はビクリと身をすくませました。
『……本当に?』
「本当に」
今までいたのに、見向きもされなかったら疑いたくもなりますよね。
『じゃあお兄さんの名前を教えて? 私はアリシアだよ』
「アリシアちゃんね。僕は清水達也だよ」
一瞬那美さんが慌てる気配がありました。もしかして、名前を言うのはまずかったんですか? 悪い幽霊じゃないって言ったのは那美さんだから、大丈夫だとは思いますが。
「……本当に聞こえているの?」
突然虚空に向かって自己紹介をはじめた僕に気付いたのか、疑いを含んだ、それでいて何かすがるような目でプレシアさんが僕を見てきました。
「聞こえてるし、見えてるよ? テスタロッサさん……フェイトさんを幼くした感じの女の子ですよね?」
「あんなのとアリシアを一緒にしないで!」
僕の言葉の何が気に障ったのか、とても病人とは思えない強い口調でした。
「プレシアさん! そのことは、とりあえずしばらく置いておいてくれるんでしょう!?」
ルフェーブルさんがたしなめてくれますが……何かこのあたりのことで、プレシアさんと取引でもしたんでしょうか?
「……そうね、そうだったわね。でも、私は、まだ、受け入れられない……」
プレシアさんは、落ち着いたようですが、肩を落としていて、気落ちしたように見えます。
「その……それで、僕はどうすればいいんですか?」
これをするだけだったら僕はいらないですよね、那美さんがいればすむことだし。 それに、アリシアさんが複雑な表情をしているのも気になりますが……全く交流が無い相手の家庭の事なので下手に首を突っ込むわけにもいきませんし。「あ、ごめん……えーと、ね。達也君の見てる視界の情報と、アリシアの声をプレシアさんに転送して欲しいんだけど……できる?」
「……えっと、どうやるの?」
プレシアさんまで、呆れたような目で見ないでください。念話の習得にすら苦労した人なんですよ?
「はあ……。そう言うと思ったから、こっちで専用の魔法は用意してあるよ。ほら、デバイス出して」
デバイスって……多分あのボールペンモドキですよね。
そう思って渡すと、近くにあった機械に乗せて、ルフェーブルさんは全く理解できない記号の書かれた画面を見ながら操作を始めました。
「これでよし、と。念話と同じ要領で視覚情報と聴覚情報が送れるはずよ」
そうなんですか。それじゃあ。
「……」
「……」
「……。無理です……」
色々と試してみましたが、全然出来る気がしません。
「はあ……。理論から教えればそう苦労なく出来るのに、何でデバイスからの起動は出来ないんだろう……」
そんなことを言われても、できないものはしょうがないじゃないですか。
「はいはい、泣かない泣かない。基本は念話そのままだから、すぐに終わるよ」
泣いてなんかいません。あまりの才能のなさに悲しくはなりますが。
「これで終わり。ね、すぐでしょ?」
確かに簡単でしたが、こうイライラとした様子でこちらを見てくるプレシアさんが怖いのですが……。
「……こ、これ以上待たせるのもまずいし、さっさとやっちゃおうか」
僕の目線をたどっていたルフェーブルさんでしたが、プレシアさんに行き着くと、焦ったように僕を促しました。
えっと、これはこうだから……。
『聞こえる、お母さん……?』
「アリシア? アリシアなのね……!」
どうやら、上手くいったみたいです。
*
更新しました。
なにやらアクセス解析が不調な模様。ちょっと前までは、ユニークとPVの区別がついていないみたいでしたが……また繋がらなくなっています。大丈夫なのでしょうか?
ずっと那美さんのターン
今回の話はもともと予定にありました。むしろこのためだけに那美さんに登場してもらったくらいです(ぇ