038 思った以上に心配をかけたみたいです
「とりあえず、出来るかできないかの話を進める前に、インテリジェントデバイス? の実物を見ておきたいんだけど、誰か持ってる?」
ああ、そういえば出来そうだという予想が立っても、実際に見てみないとわからないんですよね。というか、僕も知ってるデバイスってこのボールペンもどきだけですし。
『ねえ、フェイトのバルディッシュじゃダメなの?』
僕がルフェーブルさんに渡されたデバイスを取り出してじっと見ていると、アリシアちゃんが言いました。テスタロッサさんが持ってるんですか、えーと……インテリジェントデバイス?
「そうね、現状手元にあるのってそれだけだし、フェイトを呼ぼっか」
そう言ってルフェーブルさんは目を閉じて集中しました。たぶん念話をしているのでしょうが、この時に何かの力が動いているのを感じられたのは、念話に慣れたからなのか那美さんに力を流してもらったからなのか……那美さんが流したのは霊力みたいですし、前者かな?
「ん、近くにいるからすぐに来るって」
考え事をしている間にテスタロッサさんへの連絡が終わったみたいです。近くにいる、ということですが、何をしていたのでしょうか。プレシアさんが病気だというのに付添にも来ていないので何か重要な用事があったんでしょうけど……。
「えっと、その……ごめんなさい!」
走ってやって来たテスタロッサさんは、僕に目を合わせるなり勢いよく頭を下げました。えっと、どういうことです?
「あの時は、問答無用で攻撃してしまって、その……」
……あーあーあー! あの神社前の出来事ですね。完全に主犯がルフェーブルさんという認識だったので、テスタロッサさんが関わっていたことを完全に忘れていました。そもそも、攻撃されたことによる痛みとかってほとんどなかったので、恨む気持ちとかもないんですよね。
「あーうん、気にしてないからいいよ」
っとそうだ。
(ルフェーブルさん、テスタロッサさんってアリシアちゃんのこと知ってるの?)
僕はテスタロッサさんには念話を繋いでいないので、アリシアちゃんが見えていないはずですが、知らせても大丈夫なのでしょうか? 結構重たい話とかも混じっているのですが。
(大丈夫。一応、クローンのことやアリシアの事は簡単に話してあるから。……ただ、記憶やアリシアの代替品として作られた事は話してないから、そのことは言わないでね)
了解です。とりあえずむやみと傷つけるようなことは言わなければいいんですね。那美さんには伝わってないけど。そう思ってちらりと那美さんを見ますが、少し不安そうにテスタロッサさんを見ていました。一応、軽くでも伝えた方がいいかな?
「とりあえずテスタロッサさん、アリシアちゃんと話が出来るように念話繋ぐね」
え? え? と混乱しているテスタロッサさんを半ば無視して念話を繋ぎます。言葉で説明するよりも、実際に見てもらった方が早いのです。
『やっほー、フェイト。聞こえる?』
突然聞こえてきた、自分によく似た第三者の声に、テスタロッサさんは随分と驚いています。
「アリシア……?」
『むー、私の方がお姉ちゃんなんだから、呼び捨てはダメだよ』
さて、姉妹の会話を続けている内に、那美さんに伝えておかないと。大きな声を出すわけにもいかないので、那美さんの服を引っ張って、しゃがんでもらいます。
「テスタロッサさん、アリシアちゃんのことは表面的にしか知らないみたい」
「そう、分かったわ」
小声で那美さんに伝えます。とりあえず、これですぐに問題になることはないでしょう。
「はいはい、そこまでよ。今は話せてるけど、達也君がいなくても会話くらいはできるように、インテリジェントデバイスにアリシアの意識を組み込むの。そのためにフェイト、バルディッシュを見せて欲しいんだけど」
手を叩いてアリシアちゃんとテスタロッサさんの会話を止め、ルフェーブルさんが2人の会話に割り込みます。すると、テスタロッサさんは何かを隠すように手を後ろに回し、1、2歩後ろへと下がりました。
「バルディッシュの意識を消しちゃうの……?」
ああ、そういう勘違いをしたんですね。ルフェーブルさんも苦笑しています。
「違うよ。第一できるかどうかも分からないし、仮にできたとしても新しく専用のデバイスをつくるから。とりあえず、インテリジェントデバイスがどういうものかを見せたかっただけ」
ルフェーブルさんの説明にほっとしたのか、テスタロッサさんの肩から力が抜けるのがわかりました。懐から金色の台座に乗った宝石のようなものを取り出しました。あれが、バルディッシュ?
「お願い、バルディッシュ」
『Yes, Sir』
テスタロッサさんが呼びかけると宝石から低い声がして、あっという間に斧のような姿になりました。……ああ、どこかで見たことがあると思ったら、神社で僕を襲った時に持っていたものですね。
「えっと、これが?」
「そうなんですけど……。しまった、バルディッシュは寡黙なんだよね」
あまり話さないとなると、
「ええと、バルディッシュさん? 初めまして」
確かに挨拶するというのは基本かもしれませんが、何も知らずに見ていたら、無機物に向かってあいさつするというなかなか不思議な女性に見えるのかもしれません。いや、物に憑いたりする幽霊がいるかもしれないので、那美さん的には特に違和感話ないのかもしれませんね。
『Nice to meet you, Miss』
……そういえば、英語なんですね。今まで気にしてもいませんでしたが、ルフェーブルさんはともかく、アリシアちゃんやテスタロッサさん、プレシアさんと普通に会話できていたのは何故なんでしょう? 魔法の力か、元々言語が同じなのか……。魔法の力と考えた方が自然でしょうね。
「バルディッシュがあんなに話してる……」
どこか呆然としたようにテスタロッサさんが呟いています。そんなに普段は無口なんですか? まあ今回は話をすることが目的なので、口数が増えるのは当然と言えば当然なんですけどね
「うん、これくらいしっかりしてればなんとかなりそうだね」
しばらくバルディッシュと話を続けていた那美さんが出した結論に、大きく息を吐きます。見れば、ルフェーブルさんやアリシアちゃんもほっとしているようです。テスタロッサさんはよく分かっていない部分があるのか、首を傾げたりしていますが。
「本当ですか? じゃあとりあえずAI用の回路だけ作るので、それで試験ですね」
これで目処は立った、と。上手くいくのかどうかは分かりませんが、今話しておかなければいけないことは終了ですね。
「じゃあとりあえずそれは任せるとして、アリシアちゃんはどうする? 今まで通りお母さんの所にいてもいいし、私と一緒に来てもいいし」
ああ、その問題がありましたね。プレシアさんが気になるのも事実でしょうが、僕がいなくなったら会話できなくなりますからね。他人との触れ合い、という意味では那美さんと一緒というのも選択肢に入りますか。
『うーん……お兄ちゃんと一緒にいちゃダメ?』
「達也君? そうね、達也君が私たちの作ったお守りをまだ持ってるなら大丈夫かな」
お守りはもちろん持っています。自分では対処できないことにわざわざ巻き込まれたくはないですしね。それにしても、僕と一緒ですか。僕もアリシアちゃんと話せるし、何かあったらルフェーブルさんを経由してプレシアさんにも連絡できることを考えれば、悪くない選択かもしれません。
「もちろん持ってるよ。じゃあしばらくは僕と一緒ってことでいい?」
アリシアちゃんが元気良く頷いて、このことに関しては決まりました。
「あ、そうそう達也君」
いざ帰ろうとしたところで、ルフェーブルさんに呼び止められました。
「何ですか?」
正直に言って、これ以上面倒事を抱えたくはないのですが。
「そうたいしたことじゃないよ。あのノートにも載ってたPT事件とか、今起きてる事についてなんだけどね」
それ、僕が聞いて役に立つんですか? 一般人に毛が生えた程度の能力しかありませんよ?
その疑問が顔に表れていたのか、ルフェーブルさんが苦笑を洩らしました。
「ああ、別にどうこうして欲しいってわけじゃないんだけど、この街にジュエルシードがあるから見つけたら私かフェイトに連絡が欲しいんだ。
あ、ジュエルシードっていうのは青い菱形の宝石で、それなりに魔力を持ってるんだけど……未発動だと感知は難しいから気にしなくていいよ。那美さんもお願いします。達也君に連絡すれば、私たちまで通るので。あと、下手に触るとそのまま暴走とかしかねないので、注意してください」
なるほど、それはありがたい事を聞きました。確かに僕が何かできる問題ではありませんが、事故を未然に防ぐことくらいはできるでしょう。那美さんは理解していたように頷いているので、なのはちゃんから近い話を聞いていたのかもしれませんね。
アリシアちゃんと家に帰りましたが、アリシアちゃんと一緒にいると原作改変ノート(仮)が読めないことに気付きました。もちろん、読もうと思えば読んでしまえるのですが、あれを普通の人に知られたくないので自重しておきます。
特に、プレシアさん・テスタロッサさんが登場人物欄に入っていることは確認しているので、アリシアさんもまず間違いなく入っているでしょう。そうなると、もし見られた時に満足な返事をする自信がないのでできません。
ああ、ノートといえば、獲得技能に魔導師(ランクD相当)とありました。多分、念話をはじめとした各種魔法を教えてもらったからだと思います。ところでこのランクってどれくらいの幅があるんでしょうか。どこかの野球ゲームのようにAからGまでくらいだったら悲観するほど低くはないのですが……。まあ、ルフェーブルさんにも散々に言われましたし、どうせ一番下、とか一番下は魔法が使えないからその上、とかにきまってますよね。
『ここがお兄ちゃんの部屋?』
「そうだよ。ところで、何でお兄ちゃん?」
ずっと前から気になってはいたんですよね。聞く機会を逃し続けていたので、これはいい機会です。
『えーとね、何か頼れそうだから、かな』
そんなにしっかりしてますかね? まあアリシアちゃんもしっくりきていないようで、首をひねっているので他にも要因があるのかもしれませんが。
「とりあえず、納得はしておくよ……」
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日付が変わって金曜日。今日はさすがに、プレシアさんやルフェーブルさんに関係して何かしなければいけないという訳ではないので自由なのですが、残念なことにアリサちゃんやすずかちゃんは塾があるみたいです。ただ都合の良いことに、アリシアちゃんもインテリジェントデバイス? との接触試験があるとかでルフェーブルさんの方に行っているため、アディリナちゃんと2人きりです。ちなみにアリシアちゃんは那美さんが通訳するので僕は行かなくても構わないそうです。
せっかくの機会なので、アディリナちゃんとルフェーブルさんをはじめ、元となった物語と転生者についての話をしました。
「ふうん、知らない間に随分と大変なことに巻き込まれてたみたいね」
あ、あはは……。やっぱり怒ってます?
「気持ちは分からなくはないけど、私たちは無力なんだから気をつけなさいよ?」
……怒ってはいるけど、心配もしてくれているみたいですね。なかなか分かりづらいですけど、目をよく見ると不安の色を見て取ることができます。
「うん、ごめんね? でも、目をつけられちゃった僕と違って、アディリナちゃんはまだ知られていなかった訳だし、無理に巻き込む必要はないかなって」
そういうと、左頬に衝撃が走りました。一瞬何かわかりませんでしたが、アディリナちゃんの右手が振り抜かれていました。
……アディリナちゃんに叩かれた?
「別に、それくらいはわかるわよ。でも、心配なものは心配なの! 今回はたまたま話が通じたからよかったけど、これからはもっと私にも頼りなさいよね」
よく見ると、アディリナちゃんの目には涙があふれていました。そこまで心配かけてたんですね。それに、アリサちゃんを筆頭に、周りに誰もいないから無理に取り繕う必要もないのですから、ある意味で初めて触れたアディリナちゃんのそのままの感情なのかもしれません。
「その……ごめんね?」
こういう場合にどうしたらいいのか、というのはよく分かっていませんが、前に桃子さんがなのはちゃんにしていたみたいに、そっと、包み込むように抱きしめます。抱きしめた時はびくり、と大きく反応しましたが、少しすると僕の胸に顔を埋めてきました。
今度からは、もう少し頼るようにするから、ね?
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更新しました。
これからは大きなイベントはないので、もうすぐなのは視点に追い付きます。
それから、今までの分をある程度読みなおして、あまりにもひどかったので修正が入っています。
です・ます調とだ・である調がかなりひどく入り混じっていたのを直しただけなので、読み直したりする必要は特にありませんが、一応報告だけしておきます。