039 幽霊と機械の接続は大変みたいです
さて、アディリナちゃんに泣かれた日から1日経ちました。
明日はみんなで遊ぶことになっているので、今日は特に会う約束をしているわけではありません。ただ、アリシアちゃんがプレシアさんと会話をしたそうにしていたので、今日はプレシアさんを訪ねることにしました。僕もアリシアちゃんの媒体となるインテリジェントデバイスがどうなっているのか気になりますしね。
「あれ達也君、どうかしたの?」
「ルフェーブルさん? ちょっとプレシアさんとアリシアちゃんの会話の中継に」
アリシアちゃんと念話をしながらプレシアさんの療養場所に向かっていると、ルフェーブルさんが歩いてきました。ルフェーブルさんもプレシアさんに何か用事があったのかな?
「あ、そうだ。それからインテリジェントデバイス、だっけ? 上手くいきそう?」
ルフェーブルさん主導で開発するみたいなので、彼女に聞くのが一番でしょう。アリシアちゃんに聞いても、『話せなかった』としか答えてくれませんでしたしね。いきなり上手くいかないのは分かっていたことですし、詳しいところが知りたいものです。
「ここで話すと長くなりそうだから、とりあえずプレシアさんのところまで行こっか」
まあすぐ近くですし、行って座るなりしてからの方が楽かもしれませんね。
「さて、それでアリシアの件なんだけど——」
ルフェーブルさんによると、取り合えず不可能ではないことが分かった、ということでした。一応那美さん同席の元で、AIを搭載していないインテリジェントデバイスのコアにアリシアちゃんが憑依できるのかを試したところ、「比較的幽霊などが取り付きやすい人形」と同じくらいの相性だったみたいです。これを踏まえて、アリシアちゃんへの最適化を行いつつ、他の幽霊が取り憑かないようなものにしていくとのことでした。
あ、ちなみにこの話をしている間、アリシアちゃんとプレシアさんは親子の会話をしていました。ルフェーブルさんに教えてもらったこの情報伝達の魔法にも大分慣れたものです。
「それで、さ。達也君にお願いなんだけど」
「……とりあえず、聞くだけ聞くよ」
よく考えてみたら、頼まれてばかりで僕からの頼みごとってしたことがないんですよね。
「そう大したことじゃないから。アリシアとインテリジェントデバイスの相性チェックをやって欲しいんだ」
「あれ、それって昨日やったんじゃないの?」
僕が嫌そうな表情を浮かべていたのか、ルフェーブルさんは苦笑しながら言いましたが、那美さんが手伝ってたんですよね?
「それとは別だよ。昨日のは出来るか出来ないかを確かめるのが目的。今日はどういうのが相性いいのかを調べようかなって」
つまり、もう少し進んだテストになるわけですか。まあ、そのデバイスが上手くいけば僕の負担も軽くなるわけだし、別にいいかな。それに、アリシアちゃんも気軽に話せたほうがいいだろうし。
横目でアリシアちゃんとプレシアさんを見ると、2人とも楽しそうにしています。制限なくああして会話できるようになるのなら、多少の苦労は構わないかな。
「じゃあさっさとはじめようか。とりあえず簡易テストからだから、この部屋でも出来るしね」
僕が頷くと、ルフェーブルさんはあっという間に部屋を出て行きました。
「達也? ってことはアリ……姉さんもいる?」
ルフェーブルさんが出て行ってすぐに、テスタロッサさんがやってきました。アリシアちゃんのことは姉さんと呼ぶことにしたんですね。2人の姿が見える身としては違和感を感じますけど。
「うん。ちょっと待ってね」
テスタロッサさんにもアリシアちゃんの姿が見えるようにして、4人で取り留めもない会話を続けます。
『それでね、お兄ちゃんは女の子の友達ばっかりなんだよ?』
男の友達もいますよ? 西本君とか坂野君とか。
「まあ、こんな年齢だからまだ男女の区別が甘いところもあるんでしょうけどね」
「えっと……女誑し、だっけ?」
プレシアさんは苦笑を漏らしながらではありますが擁護してくれました。でも、テスタロッサさんの一言が厳しいです。
「フェイト、言葉の意味分かってるの?」
「ローザが、達也は女誑しだって」
原因はルフェーブルさんでしたか。がっくりとうなだれている僕を見て、プレシアさんとアリシアちゃんは笑っています。それにしても、テスタロッサさんは世間知らずなんですね。以外なのか、と聞かれたら想像通り、と答えますけど。
「私がどうかした?」
4人で話していると、ルフェーブルさんが戻ってきました。ちょっと大きなノートパソコンに色々ついた機械と、宝石のようなものを10個くらい乗せた台車を押してきました。
「テスタロッサさんに変なことを吹き込んでいるなって」
ついさっきのことを話したところ、
「事実でしょ」
の一言が返ってきました。いや、事実だけを話しているのかもしれませんが、結論が飛躍していませんか、ってことが言いたいんですけど。
「あの……」
「テスタロッサさん?」
なんとも言えない眼差しでルフェーブルさんを見ていたところ、おずおずとテスタロッサさんが話しかけてきました。どうかしたんでしょうか。
「それ。母さんも姉さんも名前で呼んでるのに私だけ違うから……」
最初にテスタロッサさんって呼び出しちゃったから、後から出てきたプレシアさんやアリシアちゃんは名前で呼ぶことになっちゃったんだよね。
「じゃあフェイトちゃん?」
僕がそう声をかけると、フェイトちゃんは嬉しそうに微笑んでくれました。
が、プレシアさんとアリシアちゃんが何か難しい顔をしています。どうかしたんでしょうか?
(フェイトっていうのはプロジェクトF.A.T.Eからとってあるからね。しっかり考えてつけた名前じゃないから複雑なんだと思うよ)
ルフェーブルさんが念話でフォローしてくれました。確かに、そうなるとなかなか難しい部分がありそうですね。まあ何も知らないであろう僕は特に気にする必要も無いんですけどね。
「あ、そうそう。それじゃあ私もローザって呼んでね?」
あなたは、最初完全に敵でしたからね……。現状結構密な協力体制を築いている以上、もう気にしてもしょうがないんですけど。
「ん、分かったよローザちゃん。……それで、その機械が?」
「そそ。ゴメンね、アリシア。またお願い」
申し訳なさそうにしているローザちゃんですが、アリシアちゃんは特に気にしていないみたいでした。話を聞いてみると、僕がいるから昨日の試験よりもずっと意思疎通が楽だそうです。
……よく考えてみたら那美さんが通訳するしかないのに、その那美さんが専門知識が無いので大変だったのかもしれませんね。
「それにしても、話は聞いていたけど本当にデバイスに関しての技術はたいしたものね。リニスも相当だったけれど、さすがに一日でこれだけのコアは用意できないわ」
「まあそれが私の売りですしね。それに、機能としては最底辺のものに少しずつ手を加えているだけなのでそんなに手間ではないですよ」
プレシアさんに答えながらも、ローザちゃんはテキパキと用意をしていきました。技術とかはもらったものかもしれませんが、こういう準備とかは自分の力でやるものでしょうし、きっと相当数をこなしてきたんでしょうね。
「じゃあアリシア、とりあえずこれから試してみて」
『ん、りょーかい』
1つのコアにつき大体5分ほど行ったら次のを試すという作業を繰り返し、1時間程度で全て終わりました。
「一番相性がよかったのはこれかぁ……」
「何か問題でもあったのかしら?」
なにやら渋い顔をしているローザちゃんを見て、プレシアさんが声をかけました。
「問題、という訳ではないんですが、一番面倒なものになったなぁと」
色々と持ってきていましたが、やっぱり一つ一つにクセとかはあるんですね。でも、面倒って何がなんでしょうか?
「今の試験で分かったこととして、演算領域は広ければ広いほど相性はいいんですが、即応性がないとアリシアの意思を反映させるのに不便そうなんですよね。しかも、その上で関係ないような部分でも相性が変わるみたいですし。
これなんかはシステム構成が昨日と一緒なんですけど、この魔力残滓の排出機構がちょっと違うだけでこれだけの違いがあるんですよね」
画面に出ているグラフを示しながらローザちゃんが言いますが……僕には何も分かりません。一応プレシアさんは分かっているみたいですけど、他の2人も僕と同じで頭の上にクエスチョンマークが踊っている状態ですね。
「つまり、ハイエンドで作ったうえでさらに細かい調節が必要なわけね。とりあえず資金については余裕があるから、パーツは好きに取り寄せてくれて構わないわ」
「それじゃあ取り掛かりますけど……失敗しても怒らないでくださいよ?」
「新しいものの開発、っていうのはそういうものよ。致命的な事故さえ起こさなければ私は何も言わないわ」
真剣な面持ちでプレシアさんが言いますが、過去に何かあったんでしょうか? まあわざわざ聞くほどの事でも無いんですが。
「それじゃあ今日はここまでかな? 達也君もありがとうね」
予定より長くはいましたが、もともとの予定通りプレシアさんやアリシアちゃんと話していただけなので平気ですよ。
「じゃあ私もジュエルシードの探索に戻るね」
フェイトちゃんはそう言うとさっと出て行ってしまいました。
「あれ、ジュエルシードって危険なものなんだよね? わざわざ探してるの?」
「ん? ああ、封印さえかけちゃえばそこまでだしね。ただ、その作業をするためには大きな魔力が必要だから、私や達也君だとちょっと厳しいかな」
なるほど、だからフェイトちゃんに連絡しろって言ってたんですね。
「それに、プレシアさんが色々やったのも事実だから、管理局との司法取引にもなるしね。ちなみに管理局っていうのは、警察とかだと思ってもらえば大体あってるよ」
へー、そういう組織もあるんですね。あれ、でもそれなら最初からそこにジュエルシードの回収を任せればいいんじゃないですか?
ふと浮んだ疑問を尋ねると、
「一応何回か要請は送ってるけど、管理局って万年人手不足だしね。ジュエルシードの発掘責任者も現地に落ちてるから、そっちの救難届けもあわせて出したしそのうち来るはずだけど」
つまり時間がかかる可能性が高い、と。管理するのに全然管理できてないんじゃないですかね? ローザちゃんが管理外世界って言っていたので、その関係かもしれませんが。
とりあえず聞くことも聞いたし。
「それじゃあ僕も戻るよ。アリシアちゃんはどうする?」
『私もお兄ちゃんと一緒に戻る。ここにいても何も出来ないしね』
まあ、それはそうですよね。
「それじゃあね。あと、明日には仮組みだけどデータ取り用のデバイスが出来るから渡したいんだけど、いつなら大丈夫?」
「明日はなのはちゃんたちと出かける予定が入ってるから、夕方以降になっちゃうけどそれでいいかな?」
さすがに結構前から入っていた予定なので、無視するわけにはいかないんですよね。ただでさえ最近はみんなと一緒にいられなかったわけだし。
「ああ……もうそんな時期なのね。了解、了解。どっちみち次からは1日2日で終わるようなものじゃないし、パーツの注文もあるから急いでもしょうがないから気にしないで」
ローザちゃんは何かブツブツと呟いていましたが、何かあったんでしょうか? とりあえず、急がなくてもいいというのはありがたいですけど。
「明日時間が出来たら連絡するよ。じゃあ、また明日」
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そうして次の日になったんですが。
「ジュエルシードってこれだよね……?」
『うん、たぶん……』
家を出て、試合があるというグラウンドに向かう途中で、ふと何かが光っているのに気付いたのが運のつきでした。いや、暴走前に見つかったから悪いわけではないんでしょうけど。
『とりあえず、フェイトかローザに連絡しないと』
ん、そうだね。ほっといて誰かが拾ったりしたら目も当てられないしね。
(えー、こちら達也。現在目の前にジュエルシードと思しき宝石が落ちているのですが、どうすればいいですか?)
(……とりあえず、回収かな。フェイト、いける?)
(いけるけど、ちょっと離れてるから時間がかかるかも)
(了解。どれくらいでいける?)
(達也の位置が分からなくて……。ちょっと魔力を活性化してもらっていい?)
魔力を活性化? えーと……どうすればいいのかな?
(……出来ないのね。まあ魔力の操作なんてやってないから仕方ないか)
(じゃあ大体の位置だけ説明して)
どうもすいませんね……。ええと、今は——。
(分かった。すぐに向かうけど、念のためそこに残ってもらっていい? 20分くらいで着くと思うから
約束の時間に遅れるからよくはないけど、暴走させるよりはいいのかな?
(了解。じゃあ待ってるよ)
さて、とりあえず皆には遅れるって連絡しておかないと。
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更新しました。
基本的なアリシアの扱いも決まり、次からある程度加速します。
とりあえず、アリシアの話を挟みつつなのは視点まで1〜2話で追いつきたいと思います。