040 管理局の人が来たみたいです
フェイトちゃんは連絡してから程なくやってきて、あっという間にジュエルシードを封印してしまいました。封印作業自体は相当大きな魔力をぶつけるだけ、といった様子で特に複雑な技術は必要なさそうでしたが、確かに魔力が高くないと難しいんだろうな、と思いました。
そうやって、フェイトちゃんの行動を見ていたので少しだけ時間をロスしたのですが、何とか30分以内になのはちゃんたちとの約束の場所にいくことはできました。まあそこでローザちゃんと会っていたことが知られていて、そのことで責められるなんて思ってもいませんでしたが。
それからは試合の応援、翠屋での食事と特に変わったことはなかったんですが、なのはちゃんの部屋でユーノに人の姿をとってもらった事だけは、イベントとして挙げてもいいかもしれません。なのはちゃんからフェレットは仮の姿ということは聞いていましたが、僕たちと同年代だとは思っていなかったので少しだけ驚きました。
さて、現在はローザちゃんに連絡をして、アリシアちゃんのためのデバイス試作一号機を受け取る為にプレシアさんのところまで来ています。どうやら上手くいったらそのままプレシアさんのところに残るみたいなので、わざわざ病室まで来ているんですよね。
「あ、ごめん。ちょっと遅くなったみたい」
ローザちゃんを待つ間、プレシアさんやアリシアちゃんと話していたのですが、やっぱり話す機会が無いこともあって、本当にいろいろなことを話しているので、早く上手くいってくれるといいと思っています。
「それで、これなんだけど」
ローザちゃんが差し出したのは、先端に琥珀色の宝石が金属に挟まれている杖でした。
「とりあえず、待機形態の設定とかフォームチェンジとかは組み込まずに全部リソースに振ってあるから。仮組みだし、問題があったら改善していく予定もあるからどんどん言って」
ローザちゃんが説明している最中にも、アリシアちゃんがふわふわと近づいていきました。そして、杖の宝石に手を触れるとアリシアちゃんの姿が消えてしました。
「アリシア!?」
『ん……大丈夫だよ、お母さん』
声は聞こえるので大丈夫だとは思うんですが……。
「よし、とりあえずは成功みたいね」
まだ念話を繋いでいなかったローザちゃんが、軽くガッツポーズをしながらこう言っているということは、僕が中継しなくても聞こえているんでしょうか。そう思ってプレシアさんへの念話の中継をとめてみます。
『ちょっと大変だけど……』
よく見ると、アリシアちゃんの声が聞こえるたびに宝石が明滅していました。でもアリシアちゃんが言っている通り、僕が直接聞いていたときよりも少し聞き取りづらく、アリシアちゃんには負担がかかっているみたいでした。
「そう? じゃあちょっとログ調べてみるから出てもらっていい?」
今度は目の前に突然アリシアちゃんが出てくることになるのでちょっとびっくりします。
「んー……確かにあちこちで余計なループしてるね。達也君、アリシアにデバイスと繋がってたときの感想聞きたいから中継お願い」
はいはいっと。
『えーとね、普段よりもこう、ちょっと気合を入れないと何も出来ない感じ?』
さすがに専門知識がないのでしょうがないのですが、アリシアちゃんのする感覚的な説明を聞きながら、ローザちゃんは次々と手元の紙に書き入れていきます。
「なるほどなるほど。とりあえずぱぱっと直してくるから待っててもらっていいかな? これで無理だったらまたちょっと時間かかるかもしれないけど。
……あ、しまったな。負担がかかってるって言うのなら那美さんにも見てもらったほうがいいかもしれないから、達也君お願いね」
あ、それはそうですね。変な負担がかかっていきなり消えたりするのは勘弁して欲しいですしね。あわただしく転移していくローザちゃんを見送ってから、那美さんに連絡を取ります。
「それにしても、あなたといいローザといい、一体なんなのかしら」
那美さんへの電話が終わると、プレシアさんが話しかけてきました。ローザちゃんが色々すごいことをやっているのは、知識の無い僕にもわかるのですが。
「ローザはあっという間に完全に新しい概念のデバイスを完成間近まで持ってきているし、あなたはあなたで何の関係も無い私たちの事情に巻き込まれただけなのに、文句も言わずに手伝ってくれているでしょ?」
僕が首をかしげていると、苦笑しながらプレシアさんが補足してくれました。プレシアさんの言葉に僕も思わず苦笑が漏れていますけど。
「別に文句を言ってないわけじゃないですよ? まあ最初はともかく、今は那美さんも手伝ってますし、僕が負担を減らせるのなら喜んでやろうとは思っていますが」
「そう……。お互いに信じあえているのね」
前に那美さんと何か話したのか、少しだけ遠くを見るような目をしながらプレシアさんは呟きました。
その後すぐにローザちゃんが来て、試作二号機を試したところ、ずっと楽になっているとのことでした。さらに、しばらくしてやってきた那美さんに見てもらったところ、すぐにどうこうなるような問題は無いとのことだったので、データを集めを兼ねながら、プレシアさんがデバイスを持つことになりました。
そういえば、家に帰る途中でフェイトちゃんに会いました。軽く挨拶はしたのですが、一緒にいたオレンジの髪の女の人は誰だったのでしょう? まあフェイトちゃんとは仲がよかったみたいなので、知り合いだとは思うのですが。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アリシアちゃんがプレシアさんの元に戻ってから2週間が経ちました。あれからは何度か新しいタイプのデバイスを試験するときに呼ばれたくらいで、基本的には特に大きな事件はありませんでした。なのはちゃんは、これまでと違ってすぐに帰る、ということもなく少しは一緒に遊ぶようにもなっていましたが、何か心境の変化でもあったんでしょうか?
原作改変ノート(仮)の方は、アリシアちゃんがいなくなったのでチェックを入れてみたのですが、まず気付いたこととして、ローザちゃんの個別ページが出来ていました。アリシアちゃんの存在に気付いた前後で増えたことになるので、条件としては「僕が」味方であると認識する、か「ローザちゃんが」僕に味方すると決める、かのどちらかだろうと思います。さすがに早くから関わっていただけあって、プレシアさん・フェイトちゃんに対しては結構大きな数字がついていました。
他には、2週間の間に『PT事件』の欄にあった数字が、僕もローザちゃんも段階的に大きくなっていきました。現時点で僕が50万ほど、ローザちゃんが150万ほどの数字がついています。
さて、よく分からないノートの考察はさておき、今日明日とみんなで温泉まで旅行に行くので、移動中です。別に、旅行自体は構わないのですが、ローザちゃんから夜間外出を禁止されたので、何かあるんでしょうね……。
「まだ9歳だし、焦らなくてもいいんじゃないですか? ……高校生にもなってこの調子じゃ困りますけど」
いやアディリナちゃん、自分は関係ないとばかりに傍観者を気取っていますが、泣いたときのことを話したら大荒れですよ? 僕も巻き込まれるので簡単には切れないのが問題の札ですけど。
「まあなのはは20歳過ぎても「お友達だよ?」って言ってそうだしね」
「にゃー!?」
アリサちゃんにも言われてしまったなのはちゃんを笑いながら、車は進んでいきました。
「それにしても、その年で随分と女の子を落としたみたいだな」
ユーノや恭也さんと温泉に浸かっていると、恭也さんがそんなことを言い始めました。
「僕はほとんど達也とは接点がないけど、それでもかなりの好意を持たれてるなっていうのは分かるかな」
「ユーノまで……。でも、恭也さんだって忍さんとは別の綺麗な女の人と歩いてましたよね?」
小学生の話よりも、もう大学生になっている恭也さんの話のほうが色々な意味で大変なはず。そう思って話を振ると、恭也さんは照れたように頬を書きながら答えてくれました。
「まあ、フィアッセは、ね……」
なるほど、あのベージュの髪をした女性はフィアッセさんだったんですね。しばらく前にも翠屋で働いていまして紹介もされましたが、雰囲気が変わっていたので気付けませんでした。
「だが達也。君はその年でもう5人だろう?」
ええと、那美さんとアリサちゃんとすずかちゃんでしょ。後は……アディリナちゃんのことも気付いてるのかな? 恭也さんから見たら何か気付くこともあったのかもしれませんし。でも、後1人は誰なんだろう……?
「まあ、なのはのこともよろしく頼むよ」
はあ……。なのはちゃんは最初に出来た友達だし、力になれるだけなりますよ。
そんな話をしたり、女性陣にからかわれたりしながら夜は更けていきました。ローザちゃんの忠告も完全に忘れて寝ていたのですが、夜中にふと何かを感じて目を開けると、なのはちゃんが部屋から出て行くところでした。
何事かと起きようとしたところで、体が両側からしっかりと抱えられていて身動きが取れませんでした。左を見ればアリサちゃんが、右を見ればすずかちゃんが抱きついてきていました。
何とか抜け出せないか少し動いてみましたが、どうにも出来ず、途中でローザちゃんの忠告を思い出したこともあって、諦めてそのまま寝てしまいました。
……さすがに、朝起きたらアリサちゃんすずかちゃんに加えてアディリナちゃんやなのはちゃんまで一緒になっているとは思いませんでしたが。あと、桃子さん? 写真を撮るのはもう諦めましたが、変な場所で公開しないでくださいね?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
温泉から帰ってきたところ、ローザちゃんからそろそろアリシアちゃん用デバイスの試作五号機が出来るとの連絡がありました。もう少ししたら、調整に付き合ってほしいとのことです。今度は他の場所でテストをするって言っていましたが、何かあるんでしょうか?
なのはちゃんはなのはちゃんで色々と悩んでいるみたいでしたが、アディリナちゃんが上手くフォローを入れていたし、そこまで深刻ではないみたいでほっとしました。
そんなこんなで温泉から3日後、ローザちゃんから、「前に話したアリシアの中継してもらうことになるかもしれないから、臨海公園に来て」との連絡がありました。それで公園に来ているのですが……。
「……で、そっちの男は君の友人かな?」
なにやら、白い髪をして、赤と黒の服を着た男に睨まれています。
「あ、うん、よろしく」
とりあえず、なのはちゃんの知り合いみたいなので挨拶はしておきます。でも、アーチャー……? 弓兵ってどんな名前つけたのさ……。正直本名だとしたら親のセンスを疑いたいですね。世界が違ったらごくごく普通の名前なのかもしれませんけど。
「達也君、今すぐこの公園から離れて!」
そんなことを考えていたら、なのはちゃんが突然叫びました。でも、待ち合わせが……。いや、
「うん、わかったよ」
ここまで必死ななのはちゃんははじめてみるので、きっと何かがあるのでしょう。湧き上がってくる疑問にはとりあえず蓋をして、なのはちゃんの言うとおり公園から出て行こうとしますが。
「なのは!」
一緒にいたユーノがなのはに呼びかけると、周りの景色から色が抜け落ちていきます。一体何が……?
「くーちゃん、達也君をお願い!」
次々と疑問は浮んできますが、どんどん事態が進行していくので、一向に減る気配がありません。なのはちゃんの服もいつの間にか巫女服に変わっていて、そのまま飛んでいってしまいました。
「だいじょうぶ……。たつやは、まもる。それに……なのはもつよい」
不安そうな顔をしていたのか、安心させるように久遠が言ってくれました。
「さて、それじゃあ私は行かせてもらうよ」
アーチャー? はそう言うと跳躍を繰り返して障害物を避けながらなのはちゃんのいった方向……見てみれば木の怪物がいますね。少しだけ不安になりますが、金色の光が飛んできているので、フェイトちゃんも応援に来ているのでしょう。ローザちゃんも大丈夫だといっていましたし、ここは信じて待ちましょう。
「っと、達也君、巻き込む形になっちゃってごめんね」
急に後ろから声をかけられる形になって、思わず振り返ります。
「ローザちゃん……こうなるの分かってたんだよね? あ、それから久遠、この子は別に敵じゃないから、警戒しなくても大丈夫」
険しい目をして、ローザちゃんと僕の間に割り込むように入ってきた久遠をなだめながら、ローザちゃんに抗議します。
「ん、ありがと。……まあそうなんだけど、思ったより、ジュエルシードの暴走体が近かったんだよね。あと、管理局のことは一応言ったよ? 確証がなかったからはっきりとは言わなかったけど」
……そう言えば、デバイスのテストとは言ってなかったんですよね。
「あ、ほら」
ローザちゃんの指差す方を見れば、なのはちゃんとフェイトちゃんの間に見たことも無い少年がいました。あの少年が管理局の人なのかな? 随分若い、というか幼い気がするけれど……。
「さて、フェイトにも私と一緒に行くように言ってあるから。前にも言ったけど、達也君も一緒に来てくれる? アリシアのことも少し話したいけど、デバイスも伏せておかないと駄目みたいだしね」
前に管理局が来た時のことについては軽く話しましたね。何故僕が、と言う思いもありましたが、プレシアさんのやったことの説明には僕が必要ですしね。それから那美さんによると、アリシアちゃんに波長を合わせたから話せるだけであって、別段僕の霊感が上がったりしているわけではないらしいので相手に明かしてもデメリットはそう大きく無いはずです。
デバイスで交信しようにも、事前に相談したときに、那美さんにこの技術の拡散は止められましたしね。どうするにしても、僕自身はアリシアちゃんとの中継をするだけでいいと言う結論が出たんで気にしてもしょうがないんですけど。
『じゃあお兄ちゃん、行こう?』
ああ、アリシアちゃんも来ていたんですね。それじゃあ行きましょうか。僕は中継するだけの役割になりそうですけど……。
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更新しました。
ちょっと駆け足……。でも余りだらだらとやるのも、ということでスパッと追いつかせてもらいました。