041 あちこちで問題を起こしていたみたいです
「その必要は無いわ」
フェイトちゃんと少年の会話に割り込むようにローザちゃんが声をかけます。僕は僕で、どう思っているのか不安ななのはちゃんの方を確認しますが、やっぱり驚いているみたいですね。
「……分かった。とりあえず、これで全員だな?」
プレシアさんも関係者ですが……とりあえず、すぐにいけるのはこれでみんなですね。
「エイミィ、転送してくれ」
僕たち8人が頷くのを確認すると、少年は虚空を……って何か画像が出てきました。なのはちゃんより少し濃い茶色の髪をした女の人が映っています。僕はローザちゃんの試験とかに付き合ってきたので慣れているんですが、なのはちゃんと久遠は随分驚いたみたいで、目を白黒させています。
そして、もはや慣れてしまった転送魔法による移動です。移動した先は、無機質な壁に囲まれた部屋でした。魔法という言葉からすれば違和感を感じるのかもしれませんが、科学と同じで理論化されていることや、デバイスという明らかに機械技術が要求されるものの存在を考えれば、ある意味当然とも言えるSFチックな部屋でした。
僕たちをここまで連れてきた少年が歩き出したので、それに着いていきます。事前にある程度知っていたであろう、フェイトちゃん、ローザちゃん、アルフさん、ユーノは自然に歩き出したのですが、こんな場所に来るとは思っていなかったのか、なのはちゃんはこわごわとあたりを見回しています。
僕ですか? もはや完全に諦めの境地ですね。とりあえず、敵対しているわけでは無いみたいなので、なるようになると思って着いていっているだけです。
「ああ、いつまでもその格好というのも窮屈だろう。バリアジャケットとデバイスは解除して平気だよ」
扉を開けたところで、少年が言いました。個人的には、それよりもまずは名前を聞きたいのですが。
なのはちゃんは、納得の返事をすると巫女さんの格好から、いつもの制服姿に戻りました。フェイトちゃんも過激な格好から私服に戻っています。それにしても、黒好きなんですね。黒のシャツに黒いスカートですか。可愛いのだから、もっと色々な服を着ればいいのに、とは那美さんの言葉ですが、その通りですね。
「それで、そっちの子は……?」
狐の姿のまま、なのはちゃんに抱かれて丸くなっている久遠を見ながら少年が言います。でも、久遠はこれが本来の姿なんですよね。
「くーちゃんはこれがいつもの姿だから、大丈夫です」
「そうか。なら艦長のところまで案内するから、詳しい話はそこで聞いてくれないか」
そうして案内されたのは、こう……「Oh, I love Japan!」と日本にかぶれた外国人の彷彿とさせる部屋でした。
所狭しと置かれた盆栽、お茶を入れるための道具が一式——しかも、わざわざ畳が敷いてあるのに、赤いマットまで用意してあります——それから、ししおどしまで準備してあるなんて……。
あまりの光景に固まっていると、後ろから歩いてきたなのはちゃんがぶつかりました。なのはちゃんが何か言っているみたいですが、耳に入ってきません。訝しげに僕を見たなのはちゃんは僕を避けて室内に入って——同じように固まりました。
「まあみんな楽にして、ね?」
ある程度衝撃が和らいだのか、何とか正面に座っている緑色の髪をした女性の話は聞くことが出来ました。
「なるほど、あのロストロギア、ジュエルシードを発掘したユーノさんというのはあなただったのですね」
まずは、ということで、事件の発端を担ったユーノが説明をしました。
「立派だわ」
「だが、無謀でもある」
……まあ、ロストロギアがどれだけ危険なのかは分かりませんが、今日の木の怪物を見たら子供が1人で回収って言うのは相当問題でしょうね。
「あの! でもユーノ君がいなかったらもっと被害が大きくなっていたと思うので……」
最初は勢いよく言い出したなのはちゃんでしたが、みんなの注目が集まるにつれて、徐々に勢いを失ってしまいました。
「まあなのはの言うとおり、ユーノが対処しなかったらまずいことになっていたと思いますよ? 現時点で回収済みのジュエルシードは10個。そのうち4つ、いえ5つね。5つはこちらで別に対処できましたが、残りの5つについては……ユーノ、どうだったの?」
ローザちゃんがしたその後の話をまとめると、5つというのは、フェイトちゃんが僕たちの世界に来てから発動したジュエルシードの数のようでした。つまり、なのはちゃんとユーノが5つ回収しており、なんとそのうちの4つが暴走していたそうです。
「……そうね、それについてはこちらの不手際ね。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
ユーノとなのはちゃんがした説明を聞いて、リンディさん(先ほどの緑色の髪の女性です。最初に自己紹介をしました)が深々と頭を下げました。
「それで、彼らの立場は分かったが、君たちはどういう立場なんだ?」
なのはちゃん、久遠、ユーノを順番に見た後に、僕たちのほうに向き直ってクロノさん(僕たちを案内した少年です。14歳だとは思わなかったのでびっくりしました)が言いました。
「えっと、私は母さんに言われて……」
「……まあフェイトが説明したらそうなるよね。とりあえず私から説明します。フェイトには実働として回収しかしてもらっていないので」
……まあ僕が知っている限りでは、この事件に関わる決定的な情報をフェイトちゃんは持っていないはずなので、ローザちゃんがしなきゃいけませんよね。
「まず、プレシア・テスタロッサという名前に聞き覚えはありますか?」
ローザちゃんの言葉に顔を見合わせたリンディさんとクロノさんでしたが、クロノさんが頷くとリンディさんはこちらに向き直りました。
「続けて」
「はい。プレシアさんは次元空間に浮ぶ時の庭園にいたのですが、そこで次元航行艦の事故に遭遇しました。その際にたまたま乗り合わせていた私を救助してくれたのですが——」
その後もローザちゃんの説明は続きました。時空管理局が人手不足なのは分かっていたこと。現地の安全のためにも速やかなジュエルシードの回収が必要だと判断したこと。自身は病のために大規模な魔力の発揮が困難なため、娘であるフェイトちゃんにその回収を指示したこと。
「たまたま次元航行艦の事故現場に居合わせたので、火事場泥棒的にジュエルシードを回収しようとしていたらしいですよ? 襲撃することは考えていたみたいですけど」
ちょ!? いい話だと思っていたのに、プレシアさんは完全に自分の利益のために動いてたんですね……。ほら、リンディさんとクロノさんも眉をひそめていますよ?
「さすがにそこまで色々とやっていると、そのまま看過するわけにはいかないのだけど……」
「……ですが、こちらにも相応の事情があるので」
何か不自然な間がありましたが、どうしたんでしょうか?
「分かりました。クロノ、なのはさんとフェイトさんを連れて魔法の説明をしておいてもらっていいかしら? 特になのはさんは管理外世界出身ということで分かっていない部分も多いと思うから」
「艦長? ……分かりました。それじゃあなのは、フェイト。それからアルフとユーノもか。着いてきてくれ」
クロノさんがいなくなったんですが……いいんでしょうか? そう思っていると、なのはちゃんたちが出て行くのを見届けた後に、リンディさんは表情を引き締めて僕たちのほうを向きました。
「さて、それでフェイトさんに聞かせたくない話というのは何かしら」
えっと……? あぁ、さっきの僅かな時間に念話でもして頼んだのですね。
「ただ説明するだけよりも、実際に見てもらったほうが早いと思います。……達也君、お願い。あ、そこのエミヤさんにもね」
ようやく僕の出番です。いや、本当にただアリシアちゃんと他の人を繋ぐだけの役割なんですが。それにしても、アーチャーじゃなくて、エミヤなんてしっかりした名前があったんですね。
『はじめまして、リンディさん』
「え……?」
「な!?」
リンディさんとエミヤ? さんの反応が随分違いますが……。エミヤさんなんて何かありえないものを見るような目でアリシアちゃんを見ていますし。
予想以上に大変でしたが、何とかアリシアちゃんが幽霊だということを納得してもらえました。よくよく考えてみれば当然のことなのですが、最初から信じてくれた人ばかりだったので、認めさせるのが大変だということは想像もしていなかったんですよね。
「違法研究の産物、ね……」
「はい。ジュエルシードも彼女の蘇生手段として求めようとしたものでした」
僕はこうして話すことなくいるだけというのが予想できていたので、特に疑問もなく話を聞いているのですが、エミヤさんは話についていけないのか、黙ったままでした。
「……まあ動機にも情状酌量の余地が無いわけではないけれど、本人からも話を聞かないといけませんね」
「安静を言い渡されているので、こちらに来るのはちょっと……」
「それならこちらから向かいます。後でスケジュール調節をするので、そちらからも一言言っておいてください」
とりあえず、一段落ですね。プレシアさんが結構大変な事になっているので、アリシアちゃんは不安そうに2人の会話を見ていました。
『ねえ、お母さん大丈夫なのかな』
「そうね、しっかりと見積もったわけじゃないけど、自首してさらに更生する意思はありそうだから、管理局への協力をしてくれるのならそうひどいことにはならないと思うわ」
管理局への協力って……司法取引とかよりももっとたちが悪い気がするんですけど。いや、それすらも出来ないで投獄、とか処刑、とかと比べたらずっといいんですけどね。そんな考えが顔に出ていたのか、リンディさんが苦笑しながら補足を入れてくれました。
「管理局は常に人手が足りないから、こういう優秀な人材だと、本人が結構強力な取引材料になっちゃうのよね。それに、航行艦の襲撃は……未遂なのよね? それから、フェイトちゃんを生み出した研究についてもどこまで罪に問えるのかも怪しいのよ」
あれ、そうなんですか? 記憶を引き継いだクローンなんて、完全に真っ黒な研究なんだと思っていましたけど。
「クローンの研究は禁止されているけれど、その記憶の引継ぎとなると……。いえ、痴呆とかへの対処のために外部への記憶保存技術の開発はむしろ奨励されているくらいなのよね。もちろん途中で人体実験なんかをしていたら問題なんだけど、話を聞く限りだとフェイトちゃん1人しか作ってないみたいですしね」
なるほど、テーマ自体の問題性しか問えない可能性があるんですね。
「……何とかなりそうなら、フェイトだけでも管理外世界に移住させられませんか? ほぼ対人関係が無い状態で来ていて、折角知り合いが出来たので」
ここまでは、プレシアさんと話していた内容のままです。フェイトちゃんも、プレシアさんのために働こうとしていましたが、それを嫌ったローザちゃんとプレシアさんが管理局にかかわりづらくするために移住させようとしていました。
「つまり、大丈夫そうってことだよ」
リンディさんの話がいまいち理解できていなかったのか、首を傾げていたアリシアちゃんを安心させるように、笑いながら声をかけます。
『そっか、よかったぁ……』
「さて、次はあなたの番なんだけど」
あ、そういえばエミヤさんは何も説明していませんでしたね。なのはちゃんたちと一緒に出て行こうとして止められていましたけど。
「いや、私は——」
エミヤさんが何かを言いかけたところで、何かが裂けるような轟音が聞こえ、同時に部屋が大きく揺れました。
今度は一体なんなんですか?
*
更新しました。
ちょっと短いのですが、キリがよかったので投稿しました。
それから、10万ユニークをこえました(二回目)。
KASASAGIの障害があったからなんですけどね。
とりあえず、障害当日以外は記録してあるので特に問題は無いわけなんですが。