042 ようやく日常に戻れるみたいです
「ねぇ、何があったんだと思う?」
「いや、僕に聞かれても……」
とりあえず音のしたほうに向かって、部屋にいた人全員で向かっています。リンディさんがピリピリしているので、小声でこそこそローザちゃんと話しているのですが、慣れたからスルースキルが上昇しているだけであって、僕の知識自体は増えていないんですよ?
「まあ行ってみれば分かるかな。警報とかも鳴ってないし、致命的な事態じゃないだろうしね」
知らない場所につれてこられた挙句に、想定外の事故で死亡とか嫌ですよ……。
「クロノ、何があっ……たの?」
とある部屋に入ろうとしたところで、リンディさんが固まっています。理由は……まあ想像できますけどね。何か開いたドアから埃が舞い出ています。
リンディさんの脇から部屋をのぞいてみますが、これはひどいですね。もうもうと埃が立ち込めていますし、近くの見える範囲だけでも壁が焦げたり、配線が剥き出しになって火花を飛ばしたりしています。
「ゲホッ……。母さん……いや艦長、ちょっとこの子の力を見せてもらったら、ね」
咳き込みながらクロノさんが指差すのは、黄色い髪に狐の耳をつけた……って久遠ですね。珍しく成長した姿をとっていますが、耳が力なく垂れていて見るからに元気がありません。
「あら、この子は?」
「なのはが抱えていた狐です。久遠という名前だそうで、なのはのジュエルシード集めの主力アタッカーだったみたいなので、その力を見せてもらおうと訓練場まできたのはいいのですが……」
クロノさんはそこで言いよどみました。でも那美さんから聞いた話が本当なら、久遠に全力出されたら相当ヤバイはずなんで、こうなってもおかしくないのかもしれません。
「でもその子から魔力は感じなかったけど」
「どうやら現地にある魔力以外の力みたいです。……まあ、予想以上に強かったのでこうなってしまったわけですが。とりあえず、単純に出力だけから判断すると、魔導師換算でSSランクは超えていますね」
「それは、まあ……」
何かローザちゃんが絶句していたり、エミヤさんが青ざめたりしています。フェイトちゃんやアルフさん、ユーノも呆然としているなか、なのはちゃんと僕は何がすごいのか分かっていないみたいですね。
魔法を使うつもりの無い僕はともかく、結構危ないことをしていたなのはちゃんが分かっていないというのはどうなんでしょうか。
「あの……SSってどのくらいすごいんですか?」
おずおずと尋ねたなのはちゃんですが、ユーノを除く魔法関係者から冷たい視線で見られています。あ、これにはアリシアちゃんも含んでいますよ。
「そうだな……君があの樹木と戦っている時の様子から判断すると、推定だがAAA前後のランクになる。これでも、管理局全体の魔導師の5%を切っているからな。SSともなると、見たことが無い人のほうが多いくらいじゃないのか?」
いち早く衝撃から立ち直ったクロノさんが答えてくれますが、なのはちゃんも既に上位5%に食い込んでいるんですね。あとなのはちゃん、ふえー、とか驚いているみたいですけど、絶対どれくらいすごいのかは理解してませんよね? 僕も分かってませんけど。
「……とりあえず事情は分かりました。全く未知の文化体系の中にいるので責めることはしませんが、これからはもう少し気をつけてくださいね」
久遠となのはちゃんは少しだけ元気を取り戻したみたいですが、クロノさんはばつの悪そうな表情をしています。どうかしたんでしょうかね。
「こちらの話も終わりましたし、まずは今後どうするのかをしっかりと話し
いましょう」
そういえば、現状確認しかしてませんでしたね。さて、これからどうなることやら。
「それでは、フェイトさんはジュエルシードの封印に協力、なのはさんも余裕のあるときは手伝ってくれる、ということでいいかしら」
なのはちゃん、フェイトちゃんがそれぞれ肯定の返事をします。ローザちゃんはフェイトちゃんをさらに外からフォロー、僕はプレシアさんとの面談にちょっとだけ顔を出してアリシアちゃんと中継、あとは完全にフリーです。
「それから、あなたはもう少し詳しい話を聞きたいから残ってもらいます」
「……承知した」
まあそうなりますよね。エミヤさんも自分のことについて話していましたが、いまいちしっくり来ない部分があったので、そのまま解放してもらえませんでした。
「それじゃあね、なのは、達也。なのはは、また土曜日に」
ユーノは、発掘責任者ということもあってアースラに残るそうです。アースラというのは、次元空間を渡るための管理局の次元航行艦……よく分かりませんでしたが、とりあえず別世界に行くための船という立ち位置みたいでした。
なのはちゃんは両親に魔法関係のことを話す許可ももらえ、さらに高ランク魔導師の勧誘を名目に、仮にこのまま別れたとしても定期的にユーノと話す機会を得たのでご機嫌です。
でもリンディさん「名目で」なんて、仮にもこの船の責任者がそんなことを言っちゃっていいんですか? いや、なのはちゃんが管理局にいくことになったら助かるというのは嘘では無いでしょうけど。
「じゃあね、達也君」
臨海公園に戻り、フェイトちゃん達と別れます。フェイトちゃんは協力するみたいですが、自力での転移が出来るので毎日家に帰るみたいです。
「でも達也君がフェイトちゃんに力を貸してるなんて思わなかったからびっくりしたの」
フェイトちゃんたちが見えなくなるまで手を振ったあと、2人きりになったところでなのはちゃんが言いました。
「んー……成り行きで? まあ僕はフェイトちゃんというより、ローザちゃんやプレシアさんに力を貸してたんだけどね。あと、僕だけじゃなくて那美さんにもかなり手伝ってもらったし。それに僕もなのはちゃんが魔法に関わってるのは知ってたけど、フェイトちゃんと戦ってるなんて知らなかったし」
本当に知らない間に色々起きてたんですよね。ここまで起きていることがお互いわかっていなかったのは、本当に久しぶりな気がします。
「でも久遠も頑張ってたんだよね」
狐の姿に戻った久遠の頭をなでてやります。木の怪物に会った時も、あっという間になのはちゃんが片付けてしまいましたが、守ってくれようとしていましたしね。
気持ちよさそうにしている久遠を見てなのはちゃんと2人で笑いあってから、僕たちも帰路へとつきました。
家に帰って、大きな出来事があった後の恒例、原作改変ノート(仮)のチェックです。恒例というほど繰り返しているわけではないんですけどね。
まずはいつも通り最初から見ていきます。最初に目に付いた変化として、クロノさんとリンディさんの名前が登場人物欄に追加されていました。数字自体も比較的大きく動いているはず……なのですが、物語開始前と比較してなのはちゃんが約50万の増加、フェイトちゃんがおおよそ80万の増加。もう数字が大きすぎて何がなにやら、といった感じです。折角なので、記録をとっていってみましょうか。どうするの、と言われたらどうにもならないわけですが。
それから、バルディッシュが登録されていました。……これ、登場人物でいいのかなぁ? まあアルフさんも厳密には人間では無いので、この辺りは結構曖昧みたいですね。
続いて、転生者欄。アディリナ・バニングス。ローザ・ルフェーブル。ビューノ・ソラス。誰これ?
人物的には、登場人物欄にいなかったエミヤさんが最有力候補なんですが……。とりあえず分からないから保留ですね。原作欄は、僕とローザちゃんが30万前後増えているくらいです。
「何かこう、謎が増えていくばかりだよね……」
頑張って考察してみても、増えていく疑問点の方が多くてどんどん謎ノートになっていっている気がします。
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まあ嘆いてはいましたが、特に期待していたわけではないので忘れないうちにメモだけっとってさっさと寝ました。今日も今日とて学校ですが、久しぶりに平日にみんなの予定が合いそうですね。今までも休日は5人で遊んだりしていましたが、平日に遊ぶというのはまた別です。
「アディリナちゃん、今日の放課後って都合つく?」
「もちろん平気だけど……あれ、達也はまだ聞いてないの?」
教室に入ったところでアディリナちゃんを見かけたので声をかけると、当然といった表情で返事をしました。何故だろうと僕が首を傾げるとアディリナちゃんは訝しげな表情を浮かべました。
「聞いてないも何も何の話かさっぱりなんだけど」
「あ、ごめん。昨日の夜になのはから「用事が一段落したから明日の放課後遊べる?」ってメールが来たのよ」
ああ、昨日の時点でメールしてたんですね。なのはちゃんたちからの誘いを断わったことはほとんど無いから、大丈夫だろうと思ったんだろうけど、一言くらいは相談して欲しかった……。
「聞き方からして達也のほうも大丈夫みたいだけど、本当に平気なの?」
アディリナちゃんが心配そうに見てきます。まあ大丈夫なんじゃないのかな? とりあえず僕がしなきゃいけないことなんて、もうほとんど無いみたいだし。
「あとは頼まれた仕事が一つだけだし大丈夫じゃない?」
そもそも僕自身に魅力的な能力があったりするわけじゃないから、転生者でもなければ関わる必要性って薄いですしね。あ、そうだ転生者といえば。
「そういえば、また転生者に会ったよ」
多分、エミヤさん。推測でしかないけど、他に候補の人っていないしね。
……あれ、アディリナちゃん、怖い顔してどうかしたんですか?
「また巻き込まれてるのね……。あんたが持ってる情報全部話しなさい」
いや、話すのはいいんですけどそろそろ……ほら。
「とりあえず、次の休み時間には聞けるだけ聞くからまとめておきなさい」
休み時間が終わってしまい、話は授業が終わるまで持越しです。詳しく話したら10分20分じゃ終わらないから、授業中にまとめておかないと。
「なるほど、ね。前なのはが言ってた管理局が来たからなのはも達也も基本的に自由になるのね」
「自由といえば自由だけど、なのはちゃんは休みには向こうを手伝うみたいだよ? 自分で決めたことだからって言ってたけど、フェイトちゃんに関わる機会が欲しいっていうのが本当じゃない?」
「ふーん、フェイトちゃん、ね」
あれ、また地雷踏みました?
「ま、達也が誰をどうしようと勝手だけど、あんまり放置されるとアリサもすずかも機嫌損ねるわよ」
「……アディリナちゃんは気にしてくれないんですか?」
とりあえずやられっぱなしというのも癪に障ったので、個人的に少し気になったことを尋ねてみると、そのまま黙り込んでしまいました。
「アディリナちゃん?」
僕より少しだけ低い位置にあるアディリナちゃんの顔を覗き込もうとすると、勢いよく顔を背けました。
「私もいい気分じゃないよ」
小さな声でしたがそう言って、自分の席へと戻っていきました。
そっか、気にしてくれてたんだ。それが分かったので、感じた嬉しさの余韻を楽しみながら、僕も席へと戻って行きました。
「さて、達也。キリキリ吐きなさい」
放課後にみんなで遊ぶ予定だったのですが、何故か僕の尋問と化しています。いや、口を滑らした僕の自業自得だとは分かっていますが。
「いや、だから例の病気だった人の娘さんだって」
「でもそれとは別にローザちゃん、だっけ? のことも聞かないと」
何とか頑張っているところにすずかちゃんから追撃がきました。2人を煽った張本人であるアディリナちゃんを見ますが、こちらを見て楽しそうに笑っています。いや、微笑ましそうにアリサちゃんたちを見ている、というのなら何も言いませんが、ニヤニヤと僕を見ていることからすると、今日の休み時間の意趣返しなんでしょうね……。
さすがに魔法が絡むこともあるので全部、というわけには行きませんでしたが、それなりに詳しく話をする羽目になりました。しかも、フェイトちゃんとあわせる約束までさせられてしまいました。こちらはどちらかというと、なのはちゃんからの期待のこもった目に押し切られた側面が強いんですけどね。
まあフェイトちゃんも同年代の友達はほぼいないみたいだし、交流がもてるのはいいことだとおもうので気にしないことにします。でもプレシアさんが拘束されることになったらフェイトちゃんはどうするんでしょうか? プレシアさんも最近は研究一直線だった見たいなので知り合いもいないみたいですし……。
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更新しました。
前回の輸送船襲撃シーンは事故に変更してあります。
あの時点で介入するのは無理なので、後からのフォローも厳しく、作者の原作に対する理解が足りないと改めて感じる結果になってしまいました。
それにしても、「クロノさん」って書いててすごく違和感を覚えるのですがw