043 なかなか難儀な特性を持っているみたいです
さすがに人手が増えたことが大きいのか、はたまた管理局の技術がすごいのかは分かりませんが、ジュエルシードは順調に集まっていっているそうです。なのはちゃんが1つ、フェイトちゃんが4つ封印して残すところはあと6つとなっています。
プレシアさんとリンディさんの会談も昨日無事終わりました。アリシアちゃん、フェイトちゃんと胸を張って生きていく為に、プレシアさんはプロジェクトF.A.T.Eに関係したことはグレーゾーンも含めて全て明らかにしていました。
そのため保護観察が5年程度と、リンディさんが当初言っていたよりは重い予想に変わりましたが、プレシアさん本人はもっと厳しいものを覚悟していたみたいだったので満足そうでした。
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今日はゴールデンウィークの初日。みんなで遊ぶことも考えていたのですが、アースラに呼ばれたので行くことになりました。一応現地協力者として登録、という形にしたので、今のうちに僕のデータをとっておきたいそうです。
なので、これからアースラに泊り込んでジュエルシード探しに協力するなのはちゃんと一緒に集合場所に向かっているのですが、いつになくなのはちゃんがご機嫌です。
「なのはちゃん、何か楽しそうだね」
「うん! だって達也君が魔法使うところってはじめて見るから楽しみだもん」
えーと、なのはちゃん? ほとんど魔法に触っていない僕に期待されても困るんですけど……。
「でも僕って魔法はほぼ知ってるだけだから、何かすごいことが出来るわけでは無いんだけど……」
僕がそう言うと、なのはちゃんは少しだけ元気をなくしましたが、すぐに元気を取り戻しました。何が楽しみなのかは分かりませんけど、いけば分かるのかな?
「折角の休みなのにすまないな」
アースラに来るとクロノさんが出迎えてくれました。聞いた話だと、結構なエリートのはずですが、クロノさんが出てこなきゃいけないような事態なんでしょうか。
「達也、久しぶり」
「フェイトちゃん!」
あれ、フェイトちゃんまでいるんですね。なのはちゃんが嬉しそうにフェイトちゃんに近寄っていきますが、この2人仲良かったんですね。アースラが来てから仲良くなった可能性もありますけど。
「久しぶり。フェイトもこっち来てるけど、何かあるの?」
「ううん。達也となのはが来るって聞いてたから会おうと思って」
あ、わざわざ来てくれたんですね。でもジュエルシードの探索はいいんでしょうか?
「ジュエルシードは、私は基本的に封印要員としてアースラで待機してるだけだから平気だよ」
そのことをフェイトちゃんに尋ねてみると、そう答えが返ってきました。なのはちゃんがいるときはまた別みたいですが、探索自体は専門外なフェイトちゃんを捜索隊に投入するくらいなら、切り札たるクロノさんを温存した方が得策なんだとか。
「だから、ジュエルシードが発見されるまでは私はやることが無いんだ」
「話が盛り上がっているところ悪いが、そろそろはじめたいのでいいだろうか」
っと、そうですね。忙しいであろうクロノさんを余り待たせるわけにはいきません。そう思ってクロノさんのほうを向くと、なのはちゃんよりもやや濃い茶色の加味をした女性が来ていました。年齢は那美さんよりやや下で15〜6歳といったところでしょうか。後ろにも誰かいるみたいですけど……。
「達也君ははじめましてだね。アースラの通信主任をやってるエイミィ・リミエッタです。今日は2人のデータ取りをするからよろしくね」
「清水達也です。今日はよろしくお願いします」
「そう言う訳で、基本的にはエイミィにやってもらう。……エイミィ、頼んだぞ」
どうやらクロノさんは、その紹介のためだけに来てくれたみたいですね。厳しそうな人ですけど、こうやって気を遣ってくれるあたりいい人なんでしょうね。立ち去っていくクロノさんの後姿を眺めながらそう思いました。
「了解。ほら、リラも挨拶して」
エイミィさんが後ろに隠れていた子を前に押し出しました。
短く切りそろえられた綺麗な水色の髪と瞳をしているのですが、エイミィさんの服を握ったまま話そうとしません。年は僕たちとほぼ同じみたいですし、人見知りしてもおかしくは無いんですが、表情からはおびえが見て取れるので単純な人見知りではないのかもしれません。
「……わたしはリラ。リラ・ガルバン。あなたは……?」
なのはちゃんとフェイトちゃんもどうしたものかとお互いに話していましたが、その話を聞くと、リラちゃんは大きく目を見開いてから僕に問いかけてきました。
「清水達也だよ」
普段よりも優しい声色になるよう気をつけながら答えます。エイミィさんが驚いているみたいですが、どうかしたんでしょうか?
「びっくりした。リラちゃんって色々あって対人恐怖症気味なんだけど……」
あれ、でも普通に僕に話してきましたよね?
「何があったのか聞くのはさすがにまずいですよね……?」
「うーん……。達也君やなのはちゃんにも無関係じゃないから簡単に説明しておこうかな」
最初はどうするか悩んでいたエイミィさんでしたが、リラちゃんが小さく「いい」と答えたことで僕たちに話すことにしたみたいです。
「管理局が人手不足だって話は聞いてるよね? だから、高ランク魔導師やレアスキルを持ってる人たちって、入局すると結構優遇してもらえるんだ。……紹介した人も含めて、ね」
レアスキル……希少技能ってことかな。アリシアちゃんに驚いていたプレシアさんやローザちゃんの反応からすると、僕の霊感もその対象になるのかな?
そう考え込んでいる僕の姿を、管理局に対する忌避感を持っていると勘違いしたのか、エイミィさんは慌てて言い訳するように付け足しました。
「あ、もちろん私たちが入局を強制してるわけじゃないよ? ただリラちゃんがレアスキルを持ってて、結構苦しい生活をしてたみたいだったから半分売られるような形になっちゃたんだ……」
正に人身御供というわけですか……。そういう分野に疎く、人並みの幸せが得られる家庭に生まれたことは幸せなのかもしれませんね。
「まあそういうわけで、直接管理局と関わりのないなのはちゃんや達也君なら、同い年だし仲良くなれるんじゃないのかな〜って思ったんだけど、ここまで簡単に打ち解けるとは思わなかったかな」
互いに自己紹介をして、微かにではありますが笑みを浮かべいるリラちゃんたちを見ながら、エイミィさんは嬉しそうに言いました。
「さ、それじゃあ測定をはじめよっか。まずはなのはちゃんからだね」
「はーい」
両手を叩いて注意を引くと、エイミィさんはテキパキと準備を進めていきました。
「まずは使える魔法を順番に使っていってもらおうかな。あ、使う前に、推定でいいから威力ランクだけ教えてね?」
『All light』
威力ランク? と首を傾げているなのはちゃんを半ば無視するような形でレイジングハート(この間教えてもらいました)が答えます。この間久遠が壊しちゃったから、再発防止のためなんでしょうね。
なのはちゃんがエイミィさんの指示するままに桜色の弾を飛ばすのを眺めていると、リラちゃんが近寄ってきました。
「……タツヤ、なのはやフェイトと仲いいの?」
僕の隣に座ったのはいいのですが、視線はなのはちゃんを見たままです。
「なのはちゃんとは幼馴染だし仲はいいよ。フェイトちゃんは……どうなんだろう。決して仲が悪いわけじゃないんだけど」
最初は攻撃されたわけですしね。その後は謝ってくれて一応の関係改善はしたとは思いますが、フェイトちゃんとは余り一緒に行動していないから何ともいえない状況なんだよね。
「……そっか」
会話が途切れてしまいました。ここで、リラちゃんは、と聞くのはさすがにまずいでしょうし、どうしたものでしょうか。
「……タツヤは聞かないの?」
? 僕が言葉を考えていると、リラちゃんが不思議そうに尋ねてきました。でも、聞くって何を?
「……みんな、私の能力(ちから)は何って聞くから」
ああ、そういうことですか。そもそも僕にとっては魔法も霊力も超能力も『不思議な力』で一括りにしてますからねぇ。どんなものを持っていようとあまり気にするつもりはありませんよ。
「言いたくないのなら別にいいかなって」
「……そっか」
「リラちゃんはアースラに来てどれくらいなの?」
再び会話が切れますが、今度は何とか沈黙を避けることが出来ました。出来ましたが……ちょっとまずかったかもしれません。
「……2週間。エイミィとクロノは、私をかばってくれたから好き」
エイミィさんには懐いていましたし、クロノさんは民間人を危険に晒すことを良しとしていないみたいでした。リラちゃんの境遇だと、管理局の人を素直に受け入れるのは難しいかもしれませんし、信頼できる人がいたのは不幸中の幸いといったところでしょうか。
「エイミィさんはまだ分からないけど、クロノさんは信用できそうだよね」
リンディさんは……大人になると汚れ役も引き受けなきゃいけないときがあるんでしょうね。話しているときも、なのはちゃんやフェイトちゃんを引き込もうとする意図が少しですが見えました。なのはちゃんがそれに乗ったときは、僅かですが複雑な表情をしたので、本人としても不本意な部分があるんでしょうけどね。
「じゃあ次で最後かな? 砲撃魔法でディバインバスター。威力ランクは……Aか。なら大丈夫だからあれに向かって撃っちゃって」
気付けばなのはちゃんの計測ももう終わるみたいです。かなり大きな部屋の対角線上に光る球体が見えます。大体100mほど離れているんですけど、これ当たるんですか?
そんな疑問も何のその、元気よく返事をしたなのはちゃんの魔法は易々と球体を撃ちぬきました。これって、臨海公園で見た魔法なんでしょうか。
「結果は、と……。うわー、発射速度には難があるけどすごい射程だね。それに何でこんなに高いバリア貫通能力持ってるんだろう……」
エイミィさんが色々と言っていますが、僕にはよく分かりません。もちろん、言葉から意味を推測することは出来ますが、それがどれくらいすごいのかが分からないのでいまいち共感できません。
「なのはちゃんは射撃や砲撃魔法に優れてるね。射撃魔法が得意な人は多いけど、これだけ砲撃魔法の適正が高いのは珍しいなぁ……」
なるほど。なのはちゃんは随分と攻撃的な適性を持っているみたいですね。僕も攻撃魔法が使いたいとは言わないので、せめて人並みに使える魔法が何かあってほしいです……。
「次は達也君だね。そういえば、達也君については何も聞いて無いんだけど、どんな魔法が使えるの?」
どんなって。
「念話とそれを通じて僕の視覚聴覚を相手に送る魔法だけですよ?」
僕がそう言うと、なのはちゃんは驚いていましたが、エイミィさんは気にした様子もなく、カードのようなものを取り出しました。
「じゃ、これに簡単な魔法は全部入ってるから立ち上げて」
そう言って僕に渡してきました。これもデバイスなんでしょうか? そう思いながら受け取ると、僕の手の中で小さな杖になりました。
「魔力量に問題はなし、と。じゃあまずはシュートバレットからいってみようか」
えーと……またですか。この普通に出来るでしょ? って感じで渡されても全く発動する気配の無い感覚。
「あれ、発動できない? じゃあ次はプロテクションに……」
魔法の種類を変えながら色々と試してみましたが、どうにも発動する気配がありません。どうにもならなかったので、忙しいであろうクロノさんも呼んでみんなで話し合っています。
「こうやって魔法が使えないのは今回が初めてなのか?」
「いえ。念話のときも使えなくて……」
「でもデバイスなしだったら、使えない人もいるよね。聞くことは出来ても、送信が上手くできない人とか」
あ、やっぱりいることはいるんですね。
「だが今は使えているな。どうやったんだ?」
「どうも何も、デバイスを貰っても使えなかったから基本的な理論を全部説明してもらいました。あ、感覚伝達の魔法のときも理論は説明してもらいましたね」
僕が念話を使えるようになった経緯を説明すると、クロノさんとエイミィさんが渋い表情をしました。えっと……なにか問題があったんでしょうか?
「そういった簡単な派生術式のときは、デバイスがあれば問題なく使えるはずなんだが……」
え、そうなんですか? でも全く使える気がしませんでしたけど。
「そうだな……とりあえずはシュートバレットの理論を説明して、使えるかどうか試してみよう」
どうも、お手数をおかけします……。そう思いながら、15分ほど説明を受けると、何とか発動できるようになりました。
「……なるほど。おそらく、自身がしっかりと理解している魔法じゃないと発動できないみたいだな」
えっと、つまり?
「本来なら感覚だけで出来る部分も理論立てて構築できないと発動できない、ということだ。咄嗟に組み換えを要求される戦闘行動は不可能だな」
あー……つまり魔法の才能も無いってことですか。
「あ、でも魔力量はあるみたいだから、役に立たないというわけじゃ……」
慰めてくれるエイミィさんの優しさが身にしみます。
「……タツヤ、頑張って?」
リラちゃん……。慰めてくれるのは嬉しいのですけど、同年代の、それも女の子にやられるというのは結構辛いものがあります。
「すまないが、発動できないわけじゃないと分かったから、少しずつでいいから魔法を覚えていってくれないか? 現地協力者という扱いにする以上、適正を含めたデータを提出する必要があるんだ。もちろん、教本はこちらから提供する」
まあ魔法自体は使ってみたいですし、本でも何でももらえるのならやりますよ。
*
遅くなりました。
理由としては、今後の展開に悩んだり……もしていましたが、メインは唐突にMHP3をやりたくなったのが原因です。
とりあえず一応の予定も決まり、書く元気も出てきたので、しばらくは最低でも隔日で更新できると思います。