044 ジュエルシード集めも終わったみたいです
「クロノ執務管! ジュエルシードを発見しましたが、残った全てが同時に起動しています!」
僕の特性が分かった後どれから手をつけるべきか、などを話し合っていたところ、突然アラートが鳴り響きました。すぐにクロノさんに連絡が入ったので何が起きているのかはわかったのですが、大丈夫なんでしょうか。残りのジュエルシードが全て発動したということは6個の同時励起ですよね?
「わかった、すぐに向かう。……フェイト、なのは。悪いがさすがに僕一人だと厳しそうだから手伝ってくれないか」
なのはちゃんとフェイトちゃんは元気良く頷いて、クロノさんと共に部屋を出て行きました。さて、置いてきぼりにされた僕はどうすればいいんでしょうか。
「達也君、折角だし封印の様子見て行く?」
見せてもらえるのなら見て行きますけど……。
「でもエイミィさん、僕に見せちゃってもいいんですか?」
「ん、平気だよ。協力者になってるし、そもそも規制しなきゃいけないような事をするわけでもないしね」
なるほど。まあ基本的には部外者であるなのはちゃんが協力できている以上、特に問題ないのかもしれませんね。
エイミィさんに連れられて行った部屋にはリンディさんがいて、大きなモニターになのはちゃん達の様子が映し出されていました。リラちゃんはリンディさんがいるのを確認すると、エイミィさんの後ろにいた僕の、さらに後ろに隠れてしまいましたが、なのはちゃんやフェイトちゃんの声が聞こえると、おそるおそるではありますが顔を出して、モニターを見はじめました。
なのはちゃん、フェイトちゃん、クロノさんの3人で10mはあろうかというタコを囲んでいます。あれが今回の暴走体なんでしょうね。
「うわー……あれは確かにクロノ君の手には余りそうかなぁ」
「どうしてですか?」
クロノさんに相手の説明をした後に、呆れるように呟いたエイミィさんに尋ねます。クロノさんってなのはちゃんやフェイトちゃんよりも強いんですよね?
「タコの周りにジュエルシードがあるでしょ? あれが常時バリアを張ってるみたいなんだ。だから、ジュエルシードをどうにかするためには、あのバリアを抜かなきゃいけないんだけど……単純な魔力の瞬間放出量ならなのはちゃん達の方がずっと強いからね」
なるほど、そうなんですか。色々と操作しながら僕の質問に答えてくれるエイミィさんを横目にとらえながら、戦いをはじめようとするなのはちゃん達を眺めます。
「どうやら作戦も決まったみたいだね。クロノ君が注意を引いている間になのはちゃんとフェイトちゃんがチャージ。なのはちゃんの砲撃でバリアを抜いた後に、フェイトちゃんがタコをノックダウンしてから封印、だって」
なのはちゃんの魔法はバリア貫通能力が高いらしいので、射抜くのにはもってこいですね。それに、フェイトちゃんの魔法は電気系統のものばかりですからね、海中の相手には効果抜群でしょう。
それにしても、クロノさんはすごいですね。ある程度動いているとは言っても、チャージを始める前と比べたらその動きが遅くなっているなのはちゃんやフェイトちゃんに向かう足は攻撃して止めながら、自分に向かってくるものは全て紙一重でよけています。
『Divine Buster』
っと、チャージが終わったみたいですね。さっきの測定の時よりも太くなった桜色の奔流がタコに向かって飛んでいきます。タコの前で拮抗したと思うのも一瞬、あっという間に押し勝ち、小さくないダメージを与えています。
なのはちゃんは相手への着弾と同時に上空に抜けて、それと同時にフェイトちゃんが全く同じ軌道で魔法を放ちました。海水で濡れていることもあって、かなり大きなダメージになりました。
「あのクラスの砲撃を受けてもまだ元気なのか」
愚痴るように言いつつも、クロノさんも攻撃に加わります。なのはちゃんも慌てて魔法を撃ちはじめますが、チャージ時間がしっかりとれないからか、最初の一発に比べると威力が下がっているみたいです。それでも3人による集中砲火を受けてタコは沈黙、周りに浮いているジュエルシードも封印して事なきを得ました。
「クロノ、お疲れ様。なのはさんもフェイトさんもありがとう」
無事封印を終えて戻ってきたなのはちゃん達をリンディさんが出迎えます。なのはちゃんもフェイトちゃんも、拍子抜けしたような表情をしているので、予想していたよりも簡単だったんでしょか。
「これで今回の事件は終わりなんだけど、プレシアさんがもう少し安定するまでフェイトさんにもいてもらうことになるし、今度はもう少ししっかりと能力を測りましょうか」
「そうですね。達也もある程度時間をおかないと必要なデータが揃わないので、その時間も欲しいですね」
「それじゃあクロノが言っていた通り、来週にまたやりましょう。フェイトさんも特に拘束する必要はないので、それまでは連絡さえ取れるようにしてもらえれば、自由にしてもらって構いません」
えっと、ここは解散でいいのかな? それじゃあ僕はもらう物だけもらって帰りたいですね。
「エイミィ、達也に教本を渡してもらっていいか? 僕はフェイトたちとこれからの予定について詰めておくから」
「……私も行く」
部屋から出て行こうとしたところで、リラちゃんがエイミィさんをじっと見つめて言いました。エイミィさんは頷いていましたが、リンディさんがストップをかけました。
「待ってちょうだい。……リラさん、あなたが管理局についてどう思っているのか聞いてもいいかしら」
エイミィさんから聞いた話からするとリンディさんは避けられているようなので、都合良くいたこの時に聞こう、ということなのでしょう。まあ当然と言えば当然なのですが、やっぱりリラちゃんはリンディさんから逃れようとエイミィさんの後ろに隠れてしまいました。
エイミィさんは2人の間に挟まれて困ったような顔をしています。エイミィさんとリラちゃんの様子を見たリンディさんは、漂っていた緊張感を吹き払うかのように息を吐き出すと、柔らかく微笑みました。
「ごめんなさいね、別に入局を強制するつもりはないのよ。ただ、あなたがどうしたいのかを聞いておかないと、これからどう扱うのかも決まらないから、あなたの意思をしっかりと確認しておきたかったの」
確かに確認は必要ですよね、とリラちゃんの方を見ると、エイミィさんの影からこわごわと出てきて口を開こうとしていました。
「……私、入局しなくてもいいの……?」
「ええ。私たちにそれを強制することはできないわ。……まあ入ってくれたら嬉しいかなー、とは思うのだけどね」
最後はおどけるようにリンディさんは言います。
「……あんまり入りたくはないけど、私一人じゃ生活できない……」
あー、そういう問題もあるんですね。確かに、10歳にも満たないような子供が一人で生活するのは難しいでしょうね。
「そうね……私が保護する形にしてもいいのだけれど、そうなると管理局から無言のプレッシャーを掛けられそうだし……」
リンディさんにもいい案がないようで考え込んでいます。どうしたものか、とクロノさんやエイミィさんも一緒に悩んでいると、おずおずとなのはちゃんが手を上げました。
「あ、あの、家でよければお父さんとお母さんに聞いてみますけど……」
全員の視線が集まって、なのはちゃんはびくりと肩を震わせました。経済的な負担とかは知りませんが、士郎さんや桃子さんなら魔法のことについてもある程度知っていて、それでいて管理局との関わりはほとんどないので適当といえば適当です。
「そうね、聞いておいてもらってもいいかしら? 来週までに決まらなかったら、最悪私が保護責任者になってもいいわけだし」
最悪、アディリナちゃんやすずかちゃんに話して、という選択肢がないわけではありませんが、何も知らないうえに子供の我儘で負担を掛けさせるのもどうかと思いますしね、頭の片隅に置いておくだけにしましょう。
「私はアリサ・バニングスよ。よろしく、フェイト」
とりあえず問題ごとは片付いだだろうということで、翠屋でフェイトちゃんをアディリナちゃんたちに紹介しています。現在は休日の午後3時とそれなりに込み合う時間なのですが、ゴールデンウィークで遠出している人が多いのか、思ったほど混んではいませんでした。
とりあえずなのはちゃんはリラちゃんを士郎さんに紹介して、預かることについて聞いているようです。ここで上手くいくと早いんですけどね。
「で、フェイトはいいんだけど、なのははどうしたのよ?」
「んー……孤児ってわけじゃないんだけど、親御さんがいない子を預かれないか士郎さんに相談中。一応あてがないわけじゃないんだけど、その人とあんまり上手くいってないからなのはちゃんが士郎さんに話してみるんだって」
「上手くいってないって……何かあったの?」
さて、どこまで話したものでしょう。管理局のこととかをはっきりと言う訳にもいきませんし。
「……言えないんだったら無理に言わなくてもいいんだよ?」
まあ当たり障りのない範囲で説明しますか。
「那美さんみたいに特殊な力をもってる集団がいて、そこに強く勧誘されてるって感じかな。預かってもいいって言ってくれる人はいるんだけど、その組織の中だと結構偉い立場にいるみたいで、勧誘と分けて考えるのが難しい部分もあるから、なのはちゃんが預かろうかって」
集団や組織って言っちゃったのはまずかったかな? でも事前にある程度話しちゃってるし気にしてもしょうがないか。
などと自分の言葉について考えていると、すずかちゃんたちが複雑な表情をしているのが分かりました。
「その、誘われてるって言うけど、なのはは大丈夫なの?」
そういえばどうなんでしょうか? 管理局については僕自身ほとんど知識がない状態だし……。
(達也、アリサたちって魔法について知ってるの?)
フェイトちゃん? そういえばこの2人の知識については話していませんでしたね。
(知らないよ。魔法じゃないけど、こっちの世界で似たようなものに関わったことがあるから、それに似た何かになのはちゃんが関わってるって説明くらいはしたけど)
「たぶん、大丈夫だと思う」
僕の答えを聞いてから、フェイトちゃんが説明をしてくれました。確かに僕よりは詳しいのでしょうし、説明してもらえるのならありがたいです。
「私もリラの力は知らないけど、一人しか持っていないような希少な技能だと、かなり強引に勧誘を迫ることになると思うけど、なのはは強いま……力を持っていても、探せばそれなりにいるから」
へー、なのはちゃんってそんなにすごい力を持っていたんですね。あのクロノさんが一応一般人であるなのはちゃんに、ジュエルシードの探索に参加することを認めたからそれなりのものだとは思っていましたが。あと、今魔力って言いかけませんでした?
「強い力って、子供なのに?」
「私たちの世界だと、才能が占める割合が大きいから平気で大人でも倒せるよ。それでもなのはの持つ力だと5%いるかいないかじゃないかな。それに戦闘向きだから、入ってほしいんだとは思う」
ああ、やっぱりフェイトちゃんの中でもなのはちゃんは戦闘向きの特性を持ってるっていう認識なんですね。アディリナちゃんたちも何とも言えない表情をしています。まあ普段の、全然運動が出来ないなのはちゃんを知っていたら、大人に勝てると言われても想像できないですよね。僕も、木の怪物に襲われた時や、適性を測った時の様子を見ていなかったら信じられませんし。
「あれ、何話してるの?」
士郎さんとの話が終わったのか、なのはちゃんが戻ってきました。が、なのはちゃんだけですね。
「あれ、リラちゃんは?」
「お父さんやお母さんとお話してるよ。……それで、何話してたの?」
ああ、なるほど。実際何も知らない子を簡単に預かるわけにもいかないし、詳しく話を聞いている、といったところでしょうか? 昔はホームステイ的な感じに他の人を預かっていたりもしたので、問題がなければ、士郎さん達はきっと預かると思いますけどね。
「なのはは随分過激な力を持ってるのね、って話」
「にゃ!? 別にそんなことないよ! クロノ君とかフェイトちゃんの方がずっとすごいし!」
アディリナちゃんに言われ多なのはちゃんは焦ったように反論していますが、正直僕もアディリナちゃんの意見に賛成です。もっと詳しく知ったらさらにそう思うことになると思います。
「なのはは人のこと言えないと思う。条件次第だと私だけじゃなくてクロノも落とせるし」
フェイトちゃんにまでバッサリと斬られて、あたふたとしているなのはちゃんを見ながら、みんなで笑っていました。
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再び遅くなりました。
隔日と言っておきながら3日の空き……。
本当に申し訳ありませんでした。