045 転生者は続々と来るみたいです
リラちゃんはなのはちゃんの家で預かることになりました。士郎さんたちもその境遇に思うところがあったのか、かなり積極的に誘っていた、とはなのはちゃんの談です。その際に、管理局についてもっと知りたいということだったみたいなのですが、僕は詳しくないんですよね……。とりあえず、リンディさんかクロノさんあたりとどこかで話をしてもらえるように時間を取ってもらうよう話したのと、一応プレシアさんにも聞いてみるために、士郎さん、なのはちゃんと一緒にプレシアさんの病室を訪ねました。
「……まあそういう訳で、私も詳しくはないけれど、少なくともリンディ提督個人は信じられそうね」
大きな組織の例に漏れず、派閥争いや部署ごとの対抗意識など問題が無いわけではないみたいですが、少なくとも前線にいる人たちは戦力が足りない中必死に努力しているそうです。
……だからこそ才能に溢れたなのはちゃんは、ある程度自分で判断が出来るようになるまで深入りしない方がいいみたいですけど。
「なるほど……今日はありがとうございました」
「気にしないで頂戴。なのはさんはフェイトの貴重な友達なんだし、これくらいなんでもないわ」
一緒に話を聞いていたフェイトさんを慈しむかのように、プレシアさんは笑いかけました。結局どうなったのか聞いてはいませんでしたが、プレシアさんとも上手くいっているようで何よりです。
「それで、寝込んでいるみたいですが、体の方は大丈夫なんですか?」
ああ、そういえばリスティさんに見てもらいましたが、結果は聞いてないんですよね。フェイトちゃんやアリシアちゃんが特に暗い顔をしていないので、治るだろうとは思うのですが。そう思いながらプレシアさんを見ると、苦笑しながら話し始めました。
「肺結腫、だそうよ。辛うじて治療は間に合うらしいけど、フィリス先生には「自覚症状はもっと早くからあったでしょう」って怒られてしまったわ」
「ああ、恭也や美由希……私の子供たちも見てもらっていますが、無理をしているとすぐに気付いてもらえる、いい医師ですね」
フィリスさん、若いけどすごいお医者さんなんですね。
「さて達也君、今日はわざわざすまないね。俺はもう少しプレシアさんと話をしていくつもりだがどうするかい?」
そうですね……僕が残っても特に役に立つことはなさそうですし、いなくてもいいかな? クロノさんから受け取った教本にも目を通さないといけませんしね。
「それなら僕は戻らせてもらいます」
そうして士郎さんたちと別れ、自宅に向かって歩いている途中にアディリナちゃんから電話がかかってきました。特に約束をしていたわけでもないのに、アディリナちゃんが電話してくるのはかなり珍しいんですが、どうかしたんでしょうか。
「あ、達也? リラのことでちょっと聞きたいんだけど、時間取れる?」
リラちゃん? 何の話をするのか分かりませんけど、どうやら電話では話したくないみたいだったので、後10分くらいで帰るから僕の家かアディリナちゃんの家で、と言うと、
「じゃあ達也の家に行くわ。20分くらいで着くと思うから」
と言って電話を切りました。余裕がなさそうだったのですが、本当にどうしたんでしょうか。
「お待たせ。……急にごめんね」
家に帰って少し待つと、アディリナちゃんが1人でやってきました。来るのはわかっていたので、飲み物などの準備は終わっています。すぐにも話をしたそうだったので、余計な話はしないでさっさと聞いてしまいます。
「えーとね、リラのことってノートに載ってた?」
リラちゃん? そういえば、アースラにはじめて行った日に見たっきりでしたね。
「ちょっと待って。見てみる」
とりあえず特に隠したりはしていないので、すぐに取り出せます。えーと……。
「あ、転生者欄にあるね」
レアスキルって、もしかしたら神様から貰った能力のことなのかな? 僕は置いておくとして、アディリナちゃんやローザちゃんみたいに、分かりづらいものじゃなくて、漫画やアニメにあるような能力を貰ったら、中にはこの世界でもかなり得意なものが含まれていそうです。
「そう……」
アディリナちゃんは複雑な顔をしています。何かあったんでしょうか? わざわざ確認を取ってきたということは、何かきっかけがあったと思うんですが。
「でも急にどうしたの? 突然そんなことを聞いてくるなんて」
「直接聞かれたの、転生者? って」
……よく聞きましたね。それを聞いてくるということは、ほぼ間違いないという確証があったんでしょけど。それに加えて、相手から攻撃されないという確信がなければ無理だと思います。
「昨日なのはに聞いてみて、私の性格とかは把握してたみたい。まあ私はこの争いに関してはもうどうでもいいから、私やアリサに害を加えなきゃどうでもいいんだけどね」
なるほど、なのはちゃんに聞いたんですね。原作知識があったら、多分存在しないであろう「アリサちゃんの妹」から転生者だろうと当たりをつけたんでしょうか?
一昨日会った感じだと、積極的に関わる気はなさそうだったんですけどね。まあ短時間での印象なので、本当はどう思っているのかなんて分からないわけですが。
「それで、アディリナちゃんはどうするの?」
「それなのよね。危険なことをこっちに持ち込まなきゃ、好きにすればいいとは思うけど……」
僕としても基本はそのスタンスなんですが、リラちゃんはレアスキルを持っているということで、本人の関与しないところで巻き込まれる可能性もあるんですよね。
「それを確認するのは難しいよね……。とりあえず僕が会ったときの状況だと、管理局に近づきたくない、っていうのが第一みたいだったよ? もともといなかっただろう僕には普通に近づいてきたし」
アディリナちゃんに、リラちゃんに会ったときの状況を話すと、ジト目で見られました。……何かしました?
「達也さ、魅了系の呪いでもかかってるんじゃないの?」
ひ、否定できない……。現状問題があった関係って、ローザちゃんくらいなんですよね。フェイトちゃんも最初襲われたんですけど、その後も何かやらされたわけでもないから気にならないんですよね。
「いや、でも那美さんも何も言ってなかったし、リンディさんやクロノさんも特に触れなかったから大丈夫だと思うけど」
「まあそれは冗談だけど、何で達也だったのかしら?」
そういえばそうですよね。なのはちゃんやフェイトちゃんも管理局に所属しているわけじゃないし、原作知識を持っていたらそっちの方が話しやすそうなものだけど……。
「ま、とりあえずは保留ね。私も達也のことは話してないし、こっちをどうにかしたいのなら黙ってるでしょうしね」
確かにそうですよね、普通は他の人が転生者かどうかなんて分からないわけだし、わざわざ言う必要は無いですね。そう考えれば、ある程度は信じても大丈夫なのかもしれません。
「あらアディリナちゃん、いらっしゃい」
「お邪魔しています、朱美さん」
とりあえずの懸念事項は片付けてアディリナちゃんと話していると、母さんが帰ってきました。まあ片付けたというか、放置することを決めただけなんですけどね。
「あ、そうそう。達也、10日後くらいに高校のときの母さんの同級生とその子供が来るから。桃子と3人でよく一緒にいたんだけど、その子だけ遠くに行っちゃってなかなか会えなかったのよね。それでも同い年の子供を産んでるんだから世界って不思議よね。ま、桃子だけ女の子なんだけどね」
それは確かにすごいですね。仲のよかった友達が偶然同じ年の子供を持っているなんてどれくらいの確率なんでしょうか。
「ん、分かった。でもわざわざ今言う必要ってあるの?」
「ウチに泊まってもらうからね。客間はそのために使うから、要るものはさっさと持っていきなさいよ、残ってるのは捨てるかもしれないし」
「それは大丈夫、特に何か置いているわけじゃないし。……でも、どれくらいこっちに居るの?」
「1週間って言ってたわね。まあウチにずっと居るわけじゃないと思うけど」
ずっとここに居るわけじゃあないでしょうしね。母さんの出身は関西の方みたいなので、そっちにも行くでしょうし。
「達也、男の友達が出来そうでよかったね。でも、友達で同い年の子供か。……私たちだと、同じ人を親に持ちそうだけどね」
いや、だから僕にも友達は居ますよ? アディリナちゃんは知ってますよね?
同じ、かぁ……。女の子の方が恋愛に対する成長は早いって言うけど、僕もそのうち分かるんでしょうか。
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「えーと、これがこうだから……」
「達也、違うよ。その変数は2行前のXを参照しなきゃいけないから……」
ああ、そういうことですか。だから数字が食い違ってたんですね。それじゃあこれで終わりかな?
「うん、一応リングバインドはこれで大丈夫だと思う。とりあえず、次の射撃魔法覚えたら外に行って試してみようか」
ユーノも特にやることはなくなったので、僕に魔法を教えてくれています。なのはちゃんも僕に教えようと一緒にいるのですが、学校に通って勉強したユーノのほうが先生役にあっていたので、頬を膨らませて不機嫌です、とアピールをしていました。
「なのはちゃんもわざわざありがとう」
「うん! じゃあ次はシュートバレットだよね。これはね——」
ご機嫌取りの為に、なのはちゃんにお礼を言うと、機嫌を直してくれました。その後は、自分自身の得意魔法だということもあってなのはちゃんは張り切って教えてくれました。その様子に思わずユーノと顔を合わせて、苦笑いをこぼします。
「もう達也君、しっかり聞いてよ」
これ以上無駄なことをやっているとなのはちゃんに怒られるので、意識を切り替えてなのはちゃんの講義に集中します。ユーノに比べるとまだまだ拙い部分もありますが、自分が理解できているだけあって以外にも分かりやすいものでした。もしかしたら、教師とかそういう職が向いているのかもしれませんね。
「そういえば、達也君が呼び捨てなのってユーノ君だけだよね」
とりあえず魔法の理論は理解できたので、実践のために人気の少ない桜台の登山道に向かっている途中になのはちゃんが聞いてきました。
「うーん、最初はユーノって名前だけは聞いたけど、人間だなんて知らなかったしね。そのときにユーノって呼んでたからそのまま、かな。まあユーノとは友達だと思ってるから……いいよね?」
「うん。僕も達也は友達だと思ってるよ。それに、同年代の友達ってほとんど居なかったから僕も嬉しいんだ」
などと、ユーノやなのはちゃんと話している間に目的の林道につきました。ここなら人通りもほとんど無いし、結界さえ張れば問題なく練習できます。
「それじゃあやろうか」
ユーノが言うとともに、足元に淡い緑色の魔法陣が浮かび、周囲の景色から色が抜けていきました。臨海公園のときもこんな状態だったし、このときには外と隔離されてるってことでいいのかな?
「よし、と。とりあえず、ここを中心に50m四方くらいは大丈夫だから」
と、言われても何を目標にやったらいいんでしょうか?
「そうだね、バインドはそのあたりの石なり木なりを目標にしてやればいいかな? 射撃は……なのは、上空にディバインシューターのスフィア出してもらっていい?」
スフィア? と疑問に思っていると、桜色の球体が20mくらい先に浮びました。あれがスフィアなのかな?
「まあ折角なのはが出してくれたし、シュートバレットからいこうか。とりあえずはじめて使う魔法なうえにデバイスも無いから、無理に当てようとしなくてもいいよ。狙う物があったほうが発動が楽だってだけだしね」
そういうものなんですね。確かに知識がないと発動できなかったけど、念話とかはもうある程度感覚的に発動させられるし、そういう意識面での違いも大きいのかな?
「それじゃあ……」
なのはちゃんとユーノの2人に見られながら、というので緊張しますがなるべく気にならないように集中します。
自分自身の中にある魔力を汲み出して、打ち出すための式に流していきます。間違いの無いよう丁寧に構築した式に魔力が流れることで、少しずつ、目の前に何かが集まってくるのが分かりました。
目標とする20m先まで問題なく届くであろう力が溜まったのを確認してから、発射のための言葉を呟きます。
「シュート」
決して早いとはいえない速度ですが、無事飛んでいってくれました。途中までは真っ直ぐだったのですが、8割くらいの距離を飛んだところで少しずつ予定した進路から右にそれていき、結局は外れてしまいました。
「外れ、かぁ。結構難しいね」
上手くいったと思ったんですけどね、何がまずかったのか……。
「ううん、最初だし悪くないと思うよ? 僕が教えたのって基本の式だから、これを個人に合わせてアレンジしていくんだ。それに何回も使っていれば慣れとかで修正も出来るようになるしね」
そっか……。まあ発動さえ出来ればいいわけだし、これで最低の条件は満たしたことになるから、次はバインドかな?
「もう少しで当てられそうだし、頑張ろう?」
と、思っていたのですが、なのはちゃんの希望によって、もう少しシュートバレットの練習を続けることになりました。まだまだ弾速が足りないので実戦には使えないみたいですが、何とか3回目で当てることが出来ました。
この調子なら、約束の日までに言われたものは全部出来そうですね。
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更新しました。
そして大失敗に気付いたので、42話に手が入っています。
具体的には、登場人物にバルディッシュが追加されています。
……まあそれだけなんですけどねw