046 模擬戦なの
1週間の間に、少しだけ明るくなったリラちゃんと手を繋いで家を出ます。今日はアースラに行って、達也君と私、高町なのはの能力測定です。
「……なのは、楽しそう」
楽しそうかな? ……うん、でも。ちょっとだけでも私が魔法を教えた達也君が、どれくらいの結果が出るのかっていうのは楽しみだな。
「そうかな? でもリラちゃんはアースラに行くの平気なの? 無理に来なくてもいいって言ってたけど」
お父さんがリラちゃんを家で預かると決めた後にリンディさんに連絡しました。その時には保護者が見つかったって扱いにするから、来なくても大丈夫って言っていたのですが……。
「……うん。でも、なのはやタツヤの応援したいから」
「ありがとう。どこまで頑張れるかはわからないけど、精一杯やってくるね」
達也君と違ってある程度完成された魔導師なので、私は戦いの中での能力も確認しなきゃいけないとかで、模擬戦をすることになっています。ユーノ君は大丈夫って言ってたけど、本当かなぁ……。フェイトちゃんと少しやりあっただけだから、自分の実力がどれくらいなのかよく分からないんだよね。
「それじゃあ次はビューノだな」
ちょうど達也君の測定がはじまるところだったので、リラちゃんと一緒に見ていました。今までみてきたよりもずっと綺麗に発動できていたので、いい結果が出てるといいな。
達也君の後にもう1人やったら私の番みたいなので見せてもらいながら待つことにしたのだけど……。
ビューノって誰かな? 他にいるのはアーチャーさんくらいだから、他にも手伝ってくれた人が居たのかな?
「ふむ、それで私は何をすればいいのかね?」
前に出たのはアーチャーさんでした。えっと……ビューノ・アーチャーって名前なのかな? それともアーチャー・ビューノ? どっちでもアーチャーって名前に違和感を感じるなぁ……。
「あ、なのはちゃんもう来てたんだ」
私が疑問符を乱舞させているところに達也君がやってきました。アーチャーさんのことはこれ以上気にしてもしょうがないし、切り替えないと。
「うん。達也君としてはどうだったの?」
「とりあえず一通り魔法を使っただけだから、今のところ何も分からないかな? 上手くできたとは思うんだけど……。結果が出たらエイミィさんが教えてくれるって言ってたから待とうか」
「もう出てるよ。あ、こんにちはなのはちゃん」
達也君と話していると、端末を片手にエイミィさんがやってきました。達也君はどんな魔法が向いているのかな? 射撃魔法とかは結構よかったと思うけど。
「それで達也君の適正だけど、基本的には典型的なミッドチルダ式の魔導師に近いかな? 射撃魔法なんかは高い適性を持ってるけど、自己強化なんかは余り向いてないみたいだね」
もちろんまだまだ使ってない魔法はあるみたいなので、これで完全というわけではないのですが、基本的な方向性はわかるみたいです。他に試したものでは、結界魔法はそれなりに使えるみたいですが、バインドは余り向いていないみたいです。バインドって結構便利だから、向いてたらすごく強いと思うんだけどね。
あと、意外なことに防御魔法に関してはかなり高い適性を持っているそうです。ミッド式の魔導師には防御魔法が得意な人は余りいないみたいなので、これが「基本的に」とついた理由だそうです。それを言ったら、私は「砲撃魔導師」なんてもっと珍しい魔導師なんだけどね。
「じゃあはじめるぞ。君は自力で結構な種類の魔法が使えるらしいから、とりあえずは誘導弾から行こうか」
あ、アーチャーさん(とりあえずこう呼ぶことにしました)の測定が始まるみたいです。
「誘導弾か……ならばこれかな」
アーチャーさんはそう言うと、真っ黒な剣? を取り出しました。えっと、非殺傷設定なんてなさそうだけど、いいのかな?
「赤原猟犬(フルティング)——!」
アーチャーさんを渦巻くように魔力が取り巻き、アーチャーさんの言葉とともにその魔力が爆発するかのように膨らむのを感じました。そして、ものすごい速さで目標に飛んでいくのは分かったのですが……。
「……なんというか、アンバランスな魔法だな」
呆れたようにクロノ君が言っていますが、私もそう思います。感じた魔力の大きさや飛んでいった速さはすごいのに、標的にしたスフィアが無事残っています。
「おそらく、武器を模すことでイメージの補強か何かにしているんだろうが……燃費の悪さが尋常じゃないな」
さっき使ったフルティング? が威力C、弾速AAというのだからすごいですよね。そもそも、フェイトちゃんの直射魔法、フォトンランサーでも弾速はA+なのに……本当に誘導弾だったのかな? それに、燃費の悪さは結構シャレにならない次元だったみたいで、何と私のディバインバスターより魔力を使っていたみたいです。
それから、広域攻撃魔法はゲイボルグって名前の槍をうちあげて細かい礫を撃ち出していました。これ攻撃範囲はそれなりに広かったけど、威力がC+でした。しかもやっぱり魔力を相当使うみたいで、結果を聞いたアーチャーさんは落ち込んでいました。
「ま、まあ近接戦闘での立ち回りは優れていたから、近代ベルカ式に転向したら化けるんじゃないか?」
近代ベルカ式というのは、1対1での戦いに主眼を置いた接近戦を基本とした魔法です。古代ベルカ式、という使い手のほぼ居ない魔法を再現したものらしいです。どっちも実際に見たわけじゃないので何もいえないんだけどね……。
クロノ君の言うとおり、アーチャーさんはクロノ君との模擬戦では一方的にクロノ君を押していたのでそのほうがいいのかもしれません。
「最後になったが、なのはだな。さすがに君たちの戦いをこんな狭い場所で行うわけにはいかないから、海上に行こう」
気付かれないように、ほっと息を吐きます。私の戦いは、どう距離をとるかがポイントになってくるので、かなり広いと言ってもこの空間だと不安が残るので、その制限の無い海の上になったのは本当に助かりました。
あれ、でも君たちって……私と誰?
「それではなのはさんとフェイトさんの模擬戦をはじめます」
海の上に行くとフェイトちゃんがいて、クロノ君に代わってリンディさんが指示を出していました。フェイトちゃんもよく分かっていないみたいでお互いに、「どうしたんだろうね」って話していましたが、どうやら私たちが戦うみたいです。
「なのはは聞いてた?」
「ううん。私も今はじめて聞いたよ」
誰の発案なのかは知りませんが、もっと早く教えてもらいたかったです……。
「別に負けたからと言って何かあるわけではないので気にしないで下さい。……それじゃあ、何かあればお互いに一言どうぞ」
模擬戦だからいいのかもしれないけれど、テレビで放送している試合みたいです。リンディさんも何かのってるみたいだし。
「じゃあ私から……フェイトちゃんとは何回か戦ってきたけど、まだ勝ってないよね。だから、今日は私が勝つよ」
「なのは……。うん、でも私の方が先に魔法に触れてるからね、まだまだ負けないよ」
2人で軽く拳をぶつけ合ってから、どちらからともなく笑いをこぼします。最近はずっと一緒に行動してたから、こんなことになるなんて思っていなかったけど、せっかくもらえた機会だし、それに達也君も見てるからね。私は負けないよ、フェイトちゃん。
フェイトちゃんと大体100mほどの距離をとって、はじまる合図を待ちます。
私とフェイトちゃんの相性はお互いにいいとは言えません。私は距離をとらなきゃいけないのに、機動力で完全にフェイトちゃんに負けています。苦手とする近接戦闘も、フェイトちゃんは十分にこなせるので、中近距離を維持されたらなす術もなく落とされると思います。その一方で、フェイトちゃんはフェイトちゃんで足を止めずに出来る攻撃だと、私の防御を抜くのが難しいという問題があります。
私のディバインバスターもそれ単独だと決め手にかけるので、上手く使わなきゃいけないんだけど……今日はもっとすごいのも用意してきたからね、フェイトちゃん!
開始の合図とともにフェイトちゃんが突っ込んできした。でも、それは分かっていたよ! サイズフォームになっているバルディッシュの魔力刃を受けないように、レイジングハートで押さえ込みます。単純な力勝負になってしまえば、フェイトちゃんも私とそう変わらないので、そのまま一気に持っていかれることはありません。
フェイトちゃんがさらに力を加えるのに合わせて後ろにとび、少しでも距離をとります。これだけあれば!
『Devine Shooter』
温泉で負けちゃってから、ユーノ君やくーちゃん、レイジングハートと話しながら組んだ誘導制御式の射撃魔法。これでフェイトちゃんの行動を制限できれば、勝機が見えてくるはず。
4発を同時に発動させた私に、フェイトちゃんは一瞬驚きの表情を浮かべましたが、その傍らには金色の発射スフィアが浮んでいました。やっぱり、そう簡単にはいかないよね!
「シュート!」
あえて複雑な軌道は取らずに、そのままフェイトちゃんに撃ち出します。フェイトちゃんも同時に魔法を発射。私の防御力なら、これくらいの魔法は難なく受けきることは出来るけど……。足を止めるのは問題外、それに、はじめて使った魔法にフェイトちゃんの挙動が一拍遅れているのが分かります。ここは、強引にでも前に!
A+という弾速で迫る直射型の射撃魔法に対して突っ込んでいきます。速いけど、発射後の軌道変更は難しいんだったよね。
飛行魔法を制御して、フォトンランサーを何とかかわしながら、4発のディバインシューターをフェイトちゃんに。さらに追撃用の魔法も同時に組み立てていきます。
これで3発目。自分の速度も加わって、恐ろしい速さで掠めていくフォトンランサーに気を取られないよう、意識を研ぎ澄ませて一直線にフェイトちゃんに向かいます。
「シュート!」
さっきの4発は防がれましたが、それは織り込み済み。本命は、着弾時の爆発に紛れて放つこっちだよ!
かなりの近距離から発動したディバインシューターはフェイトちゃんに向かって真っ直ぐに進みます。これなら! そう思った時、視界からフェイトちゃんが消えました。
『Blitz Action』
高速移動魔法!?
『Flash Move』
半ば本能的にこっちも移動魔法を展開することで、背後から振るわれた戦鎌を避けます。くーちゃんに鍛えられてなかったら危なかったよ。
これまではほぼ五分か私がちょっと押してるくらい。相性はお互い似たようなものだけど……。
「個々の魔法の錬度とかを考えると、長引かせるとまずい……かな?」
『Yes, I agree』
やっぱり、そうだよね。でも、ディバインシューターを使った機動の制限は出来ているから、まだ何とでもなるよね。
その後も、射撃魔法を中心に中距離から近距離での戦いが続きました。一度はフラッシュムーブを使った上空からの奇襲に成功しましたが、結局防がれて反撃で貰ったダメージの方が大きい始末。……でも、本当の目的はダメージじゃなくて、近くても積極的に戦いに行く姿勢を見せること。
私の切り札は、遠距離にあるから。それを切るだけの、一瞬の時間のために。相手は格上なんだから、決めるときは一撃で決めないと。
残った魔力はお互いに半分くらい。これまで続けたことのない長く持続する緊張に、私の心が悲鳴を上げ始めますが、もう少しだけ我慢だよ。ここまで致命的なミスをしないでこれたから、もう少し。
基本的に魔法を撃つだけの私と違って、フェイトちゃんはデバイスを大きく振り回す必要があります。だから、フェイトちゃんも息を乱しているんですが……。
「これが終わったら、私も、もう少し、体力つけないとね……」
『Yes』
集中力を維持し続けなきゃいけないこともあって、私も呼吸が荒くなっています。本当に体力つけないとなぁ……。
離れていましたが、フェイトちゃんが表情を引き締めるのが分かりました。……来る! フェイトちゃんの大技に合わせて、こっちも準備を始めます。必要なだけの時間が稼げるよう、念入りに式を編んで、と……。
何とか凌ぎきってから。そう思っていましたが、フェイトちゃんの詠唱が予想以上に速く終わりました。……! まずい!
「……っく!」
バインド。考えてることはいっしょかぁ……。全力で飛翔しましたが、フェイトちゃんのバインドのほうが早く、無常にも空中で張り付けになってしまいました。
10、20……。バインドの発動後も詠唱を続けるフェイトちゃんの周りに、次々とフォトンランサーの発射スフィアが並んでいきます。……前に見た砲撃魔法だったら、どうとでもできたと思うけど、この魔法はどうなんだろう。
(レイジングハート、お願い)
『All right』
まずは、この魔法を凌がなければどうにもなりません。バインドを解けば、発射後の硬直に……何とかできるといいなぁ。まずはともあれ、防御の強化です。あとは、バインドブレイクと、こっちもバインドの用意。それに足止め用の魔法も要るから……。あーもう!
バインド受けなければもっと余裕だったのにー!?
「フォトンランサーファランクスシフト。打ち砕け、ファイア!」
次々と。次々と。次々と。あっという間に視界が金色で埋め尽くされます。
今までに見たことがない速さで、フォトンランサーが飛んできます。貫通力・着弾時の威力どちらも高いフォトンランサーが、動きを止められた状態でこれだけの数を撃ち込まれたら、無事ではすまないでしょう。
……つまりは、これがフェイトちゃんの切り札の可能性が高いわけですが。これを防ぎきってバインドとバスター1発、それにもう少しだけ魔力が残っていれば。お互いの実力差を考えれば、十分すぎるほどの勝機があります。まだまだ、諦めるわけにはいかないよね!
1秒。
次々と着弾するフォトンランサーのダメージを僅かでも抑える為に、真っ直ぐに受けないよう、複数のラウンドシールドを斜めに張ります。
2秒。
絶え間なく降り注ぐ魔法に、ラウンドシールドが軋みをあげているけど、まだまだ大丈夫。くーちゃんにしてもらった特訓は、もっと厳しかったよ!
3秒
バインドブレイクには成功したけど、今下手に動いたらそのまま撃ち落とされてしまうので、唯ただ防御魔法に魔力を注ぎます。
4秒。
永遠にも思えるような時間を何とか耐えて、フェイトちゃんが復帰する前に先手を取ります。魔力量的には、正直ギリギリ。これ以上何かされたら、問答無用で押し切られてします!
「今度はこっちの番だよ!」
『Devine Buster』
威力よりも、速射性を重視した、抜き撃ちに近いディバインバスター。フェイトちゃんはスフィアに残った魔力を集めて撃ち出してきますが、さすがにそんなのに負けるほど弱くはないよ。何の抵抗もなく消し飛ばして、一直線にフェイトちゃんに。避けるだけの余裕が無いフェイトちゃんは、ラウンドシールドで防ぎますが……かかった!
さっきの連続射撃魔法の前から準備をしていた、2つの魔法を起動させます。
一つはバインド。完全に足を止めたこの状態なら、レストリクトロックで完全に止められます。そしてもう一つは——
「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション」
『Starlight Breaker』
レイジングハートの声とともに、今までで一番大きな魔方陣が展開。そして、これまであちこちにばら撒かれた魔力を、
まるで流星のように集束する魔力。だから
「これが私の全力全開!」
何とか抜けようともがくフェイトちゃん。このときに逃げられないようにかなり強固に編んだからね、そう簡単にはいかないよ。
「スターライト、ブレイカー!!」
ほんの少し。制御できるギリギリまで膨らんだ魔力に、トリガーとして私の魔力をこめて発射。
桜色の壁と化した魔力砲が、轟音とともにフェイトちゃんを飲み込んでいきました。
*
更新しました。
これでいいのか分かりませんが、なのはVSフェイトは書いてて楽しかったですw
次回は無印のエピローグ予定です。
ゲイボルグの本来のランクはB+。さらに投影によるランク低下がおきてC+となり、これが威力ランクになっています。
魔法ランクにしちゃうと、ディバインバスター・エクステンションですらAAA+なので、さすがに可哀相かと思って、威力ランクにしました。
……それでも、プラズマランサー(A'sにおけるフェイトの飛び道具)はAAあるんですけどね。
まあだからアーチャーさんはあんなに残念だった、と。