049 結構わがままみたいです
「ふーん……2人は幼馴染ってわけか。いいなぁ、俺も幼馴染欲しかったなぁ……」
リッキー君はどこか落ち込んだ様子でしたが、話してみると意外としっかりしていて、これなら問題なく付き合っていけそうだと思っていたのですが……。
「あれ、達也君?」
「おぉ!?」
翠屋で話していると、すずかちゃんがやってきました。それと同時に、リッキー君のテンションが一気に上がります。……あれかな、友達がいなかったから同年代のこと会うのが嬉しいのかな?
「えっと……この子は?」
席を立って手を握っているリッキー君に戸惑って、引きつった笑顔ですずかちゃんは僕にたずねてきました。
「リッキー・グリーンって言って、母さんや桃子さんの同級生の子供だって」
「あ、そうなんだ。……私は月村すずかです」
なのはちゃんに自己紹介したときのように歯を輝かせながら、リッキー君は笑います。
「う、うん、よろしく……。そ、それじゃあ私はファリンを待たせてるし、もう行くね?」
ケーキを買ったすずかちゃんは、挨拶もそこそこに戻っていきました。
「す、すずかちゃん、用事でもあったのかな?」
まるで避けられるかのような行動を取られたリッキー君をフォローするようになのはちゃんが言葉を上げますが、あれは無理じゃないかなぁ……。
「逃げられたわね」
あ、僕が何か言う前に加奈子さんがトドメをさしています。さらに叫ぼうとしたリッキー君は、加奈子さんに物理的に止められて、まさに踏んだりけったりといった様子です。
「本当にごめんね? 普段はもう少しおとなしいんだけど……やっぱりなのはちゃんやさっきの娘みたいに可愛い子に会えたから舞い上がってるんでしょうね」
「か、可愛いってそんな……」
ストレートにそう言われたなのはちゃんは、顔を赤く染め、恥ずかしそうに身をよじっています。
「いや、なのはちゃんは可愛いと思うよ?」
「もう、達也君まで……。アリサちゃんやすずかちゃんの方がずっと可愛いでしょ?」
そんなことはないと思うけどなぁ。実際にクラスでも(不本意ながら)からかわれてるけど、そのときはなのはちゃんも含めた3人の間に差はないしね。クラスが同じだから、アディリナちゃんが多いのはしょうがないと思うけど。
「あら、すずかちゃんってさっきの子よね? 方向性は違ってもなのはちゃんも十分可愛いと思うわよ」
さすがに桃子さんは自分の娘のことなので、苦笑しながら見守っていましたが、僕、母さん、加奈子さんの3人に褒められて、なのはちゃんはうつむいて黙ってしまいました。
「はぁ……。それにしても、本当にリッキーはどうしたものかしら。あの年でやたらと女に興味があるみたいだし……。実際にうちの人の部屋に勝手に入って、Hな本を読んでたし」
「それはあれなんじゃないですか? 大人が色々とやっているから、興味があるという。クラスにも何人かいますし」
僕は参加してませんけどね。一番仲のいいグループが、アリサちゃんたちを含めた女性ばかりなので、下手に参加すると軽蔑の目で見られそうで……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なるほど、そんなことがあったのね……」
翌日になって、アディリナちゃんにリッキー君のことを話したのですが、何かを悩むように手を額に当てていました。
「アディリナちゃん、どうかしたの?」
「ううん、ちょっと容姿が気になっったのよね……」
容姿、ですか? 確かに銀髪オッドアイと特徴的でしたが、どうかしたんでしょうか?
「この世界だと髪や目なんて前の世界以上にカラフルなのよね。それでも銀髪オッドアイなんて相当特長的なものだし……」
アディリナちゃんは1人で呟きながら悩んでいます。僕には前の世界の記憶なんて残っていないので、それの何が気になっているのかがわからないんですよね。
「アディリナちゃん?」
「ん? あ、ごめん。リッキー、だっけ? もしかしたら転生者なんじゃないのかな、って」
アディリナちゃんから話を聞いてみると、一部の人には人気があるみたいなので転生者ではないのか、とのことでした。明らかになのはちゃんに近い僕と、本来いなかったアリサちゃんの妹であるアディリナちゃんは、真っ先に疑われる立場にいるんですよね……。
「アディリナちゃんの心配は分かるけど、リッキー君は心配しなくても大丈夫だと思うよ? 加奈子さんがかなり厳しくしつけしてるみたいだし」
実際、昨日家に帰ってからも、色々と好きなことをしようとするリッキー君が加奈子さんに叱られていましたしね。僕の部屋を漁ろうとした時なんて、しばらく身動きが出来ないくらい身悶えていましたし。
「そう? ならいいんだけど、気をつけなさいよ? 達也は前にも襲われてるんだからね」
心配そうに僕を見つめるアディリナちゃんには、本当に心配をかけてしまいましたしね。それに、そのときにはアディリナちゃんの気持ちも……。
ま、まあそれは置いておきましょう。普段とは全然違うアディリナちゃんが可愛かったのは僕だけの秘密です。
「それでなのはが言ってた男の子には会えるの?」
放課後になって、なのはちゃんから話を聞いたアリサちゃんが、リッキー君に会いたいといってきました。一応すずかちゃんも面識自体はあるので、1人だけ知らないという状況が嫌だったみたいです。
神奈子さんたちの今日の予定は聞いていなかったので、母さんを経由して確認してみることにしました。
「うーん……でも私はリッキー君にあえて会いたいとは思わないかなぁ……」
自宅へと電話をかけている間に、2人がなのはちゃんに詳しく話を聞いていますが、なのはちゃんは何ともいいがたい表情を浮かべています。まあ基本的にあのテンションで相手をしていたのはなのはちゃんだけでしたしね。
「そんなのは聞いたから分かってるわよ。ただ、どれくらいすごいのかは見てみたいじゃない」
「別にいいけど……後悔しても知らないよ?」
結局なのはちゃんは2人に押し負けていました。丁度そのあたりで加奈子さんから是非来てくれ、という言葉がもらえたので5人で行くことになりました。
このメンバーだと、僕の家だけが全員で遊ぶのには少し手狭なので、家に集まるのは結構久しぶりだったりします。
「お邪魔します」
普段は強気で、自分が思ったことをズバズバと言うアリサちゃんですが、こういうきちんとするべき部分だと普段とは違って、正にお嬢様といった振る舞いをします。しっかりとした教育を受けたんでしょうね。
「いらっしゃい。加奈子ー、達也たち帰ってきたわよ」
母さんが出迎えてくれ、すぐに加奈子さんはやってきましたが、リッキー君はいませんでした。
「はじめまして、達也君のお母さんの友達で、加奈子・グリーンです。よろしくね」
「あ、私は——」
「ごめん、ちょっと待って」
まずは加奈子さんから自己紹介をします。アリサちゃんたちが続けようとしたところで、口を挟みます。どの道リッキー君が来たらまたしなきゃいけないんで、一緒にやったほうがいいですよね。
「加奈子さん、リッキー君は?」
僕がそう尋ねると、加奈子さんは眉を下げて言葉につまりました。
「えーと、ね? リッキーったら「遠くまで来てわざわざ野郎の友達なんか増やしたくない」なんて言って、出てこようとしなかったのよね」
……なるほど。まあある意味でリッキー君らしいといえばらしい気もします。
「それで、謝るためにも私が来たんだけど」
そこで言葉を切ると、加奈子さんはアリサちゃんたちをじっと見つめました。
「見事に女の子ばっかりだね。しかもみんな可愛いし」
さらっと付け足された褒め言葉に、みんなの頬がぱっと赤く染まります。そして、母さんと加奈子さんは僕たちを完全に放置して、2人でお喋りをはじめてしまいました。
「そうなのよね。全く、どうやって引っ掛けたのか知らないけど、あの人とは似ても似つかないわよ」
「あら、もしかして……みんな?」
「うーん……1人は分からないけど、残りはそうかな?」
このまま放っておくといつまでも話してそうだし、割り込まないとまずいかな?
「ごめんなさい、リッキー君来ないのなら自己紹介してもらっても大丈夫ですか?」
加奈子さんは母さんとの話をすぐに止め、アリサちゃんとアディリナちゃんの話を聞いてくれました。その後は居間へと行き、ずっと加奈子さんと話をしていました。
当初の目的である、リッキー君を見るというのは完全に忘れていますが、加奈子さんとの話に一番積極的だったのが、今回一番強く主張していたアリサちゃんだったので別に問題は無いと思います。アリサちゃんだけでなく、すずかちゃんもでしたが……。
「その事件でうちの人と出会ったのよね。最初は「何このうっとおしい奴」なんて思ってたんだけど、解決に協力している間に少しずつ惹かれて……最後には私が追いかけて行っちゃった」
おどけたようにそう締めくくったところで、アリサちゃん・すずかちゃんから黄色い悲鳴が上がりました。その横では母さんが呆れたようにため息を吐いていましたが……。
「いきなり高校辞めたからどうしたのかと心配してたけど、そんな理由だったのね……」
「あ、あはは……。すぐに帰るって言うから親だけ説得して、朱美とかには軽く電話で話すくらいしか出来なかったからね。その節ではご心配をおかけしました」
まあ、友達がよく分からないまま居なくなったら不安になるでしょうね。
……連絡が取りやすくなったとはいっても、急に居なくなったら僕もきっと心配するでしょうしね。頷きながら話を聞いているなのはちゃんたちをちらりと見て、そんなことを思いました。
「あ、もうこんな時間なんだ」
ふと時計を見たすずかちゃんがそんな言葉を零しました。窓の外を見てみれば、もう夕焼けもその余韻を残しているだけになっています。
「当初の目的とは違ったけど、楽しかったです。加奈子さん、ありがとうございました」
「いえいえ、私もアリサちゃんたちとお話できて楽しかったわ。でも、もともとの目的ってなんだったのかしら?」
「えーと……達也の家に男の子が来てるって聞いて、その子がとてもおも……楽しそうな子だって言うから一目見てみたいな、と思ったんです」
ああ……やっぱりアリサちゃんの中でも、面白そうな子、という認識だったんですね。見てるだけなら面白いかもしれませんが、自分が関わるとなると、僕はちょっと遠慮したいです。
「それなら、最後に顔だけ出させるわね。明日の昼には出て行っちゃうから、もう会えないだろうし」
明日には大阪にいって、加奈子さんの両親に会ってくるそうです。もともとはそっちが主目的だったみたいで、リッキー君の希望や、母さんと桃子さんが揃って海鳴にいるということで、こっちに来るのを決めたそうです。
「……から何で行かなきゃいけないんだよ!」
「もう帰るんだから、顔を見せるだけよ。諦めてさっさとしなさい」
リッキー君は抵抗しているみたいですが、僕たちの待つ玄関まで引きずられてきているようです。
「……ほら、さっさと入る」
柱をつかんでいたリッキー君ですが、抵抗むなしく僕たちの前に連れてこられました。諦めたかのように僕たちのほうを見たリッキー君は、目を大きく開いて動きを止めました。
「はい、これが私の息子のリッキーよ」
「あ、あはは……。わざわざありがとうございます。それじゃあお邪魔しました。達也もまたね」
アリサちゃんとアディリナちゃんは苦笑を零すと、お礼と別れを告げて出て行きました。
「はっ! リッキー・グリーンです! よろしくお願いします!」
再起動を果たしたリッキー君は眩い笑みを浮かべて名前を言いますが、その頃にはなのはちゃんを含め全員が帰っていました。
「……何やってるの?」
「あれ、達也? いや、さっきアリサがわざわざ俺に会いに来てくれた気がするんだが」
まあ間違っては居ませんよね。珍獣(リッキー)を見に来たといった方が適当な気もしますけど。
「アリサちゃんは来てたよ? さっきまで加奈子さんと話してて、たった今帰ったけど」
「ちょ、え!? 何で呼んでくれなかったのさ!」
いや、なんでも何も。
「会わないって行ったのはあんたでしょ?」
「うん。友達を紹介したいって話は加奈子さんにしたし、会いたくないって言ったっていうのも聞いたよ?」
「……。
あ、そうだよ! 今からもう一回会いに行けば好感度アップじゃない!?」
僕と加奈子さんの言葉に再び固まったリッキー君でしたが、再び再起動を果たすと、慌てたように言いました。
「残念ながらもう下がりきってるわね。それに、あんたの入り込む隙間はないから諦めなさい」
会いに来たのに、「会いたくない」なんて言っちゃったら駄目ですよね。
「……な、なら明日はやてに——」
「明日は母さんの実家に行くから駄目よ」
結局何も出来なかったリッキー君は無言のまま俯いて戻っていきました。
ところで、はやてって誰なんだろう。知らない間に知り合いでも作っていたのかな?
遅くなりました。
4月から新社会人になるわけですが、送別会的なものが入っていたり、体調崩したりで本当に遅くなってしまいました。
後ははじめて筆が止まるという体験をしたのも原因だったりします。
ところで、にじファンは大変なことになっていますね。
もう少し進んでいたら、この小説も削除対象になりかねないところだったので、そうなる前だったのはある意味でラッキーだったのかもしれません。