051 プレゼントを買いに行くみたいです
「それで達也、一体何を買うつもりなの?」
はやてちゃんの誕生会前に、プレゼントを買おうとデパートに来てすぐに飛んできたアリサちゃんの質問に、腕を組んで考え込みます。
プレゼントを買うにしても、はやてちゃんのことはほとんど知らないわけですし、何がいいのかも一緒に考えたかったんですよね。
「うーん、それも相談しながら決めたかったんだけど……」
「あ、じゃあ何グループかに分かれて選ばない?」
あ、それでもいいですね。みんなでわいわいと選んでいくのも楽しそうだと思っていましたが、分かれたほうが良いものが選べそうです。
「その方が色んな種類の意見が出てきそうだし、それでいいんじゃないかな? んー……2人ずつの3グループに分かれて、でいい? で、決めたらここに戻ってきて全員で何を買うのか決めるって感じで」
「それでいいんじゃないかな?」
「じゃあどうやって分かれる? はやてって子のこと知ってる達也とすずかとなのは別の方がいいんでしょうけど」
まあさすがに何も知らないのに買うのは無理だし、そこは別々にするのは当然ですね。あとは……リラちゃんはなのはちゃんと一緒のほうがいいかな。すずかちゃんはもとより、僕ともあまり接点があるわけでもないですし。
「じゃあリラはなのはと一緒でいいとして……」
アディリナちゃんも同じことを考えたのか、そう言って、確認を取るように皆を見回します。
「じゃあ私はすずかと行くから——」
アリサちゃんの方を見て苦笑を浮かべたアディリナちゃんの言葉の途中で、服が引っ張られるのを感じました。
「……私と行って」
普段から感情をあまり表に出さない喋り方をするリラちゃんでしたが、今のリラちゃんからはどことなく緊張を感じました。はやてちゃんに会ったという話をしてからどことなく様子が変でしたし、何か言いたい事があるんでしょうね。
「リラちゃんと……?」
確認のために問い返してみると、リラちゃんは小さく頷きました。まあ、特に誰かと一緒に選びたいというのがあったわけではないですし、リラちゃんと一緒でもいいかな。
そう思って、みんなに伝えたのですが……。
「何? 達也は私と行くのが嫌なの?」
「嫌って訳じゃないけど……」
予想以上にアリサちゃんが反対してきました。何だかんだと一緒に行動をする機会は多いのですが、二人で、ということになると滅多にないので納得できないわけではありません。さて、どう説得したものでしょうか……。
「ゴメンね、アリサ」
後ろから、聞いたことがある声ですが、聞いたことのない声色の言葉が聞こえてきました。誰なのかと思って振り返ってみると、リラちゃんでした……まあ僕の後ろにはリラちゃんしかいないわけなんですけど。
それでも、苦笑を浮かべたリラちゃんははじめて見ますし、今までと違って訥々と話すのでなくはっきりと言うその姿は、僕達に多少なりとも気を許してくれているから……だと嬉しいですね。
「……」
どこか怪しいものでも見るかのように、アリサちゃんがリラちゃんと僕を交互に見てきます。……リラちゃんはともかく、僕がそんな風に見られるのは心外なんですけど。
「……大丈夫、アリサやすずかが心配するようなことじゃないから」
「……」
「……」
「……まあ納得しておくわ。じゃあすずか、行きましょう」
しばらく見詰め合っていた二人ですが、大きく息を吐いたアリサちゃんがそう言うことで、ペアが決まりました。アリサちゃんがすずかちゃんと組めば、必然的にアディリナちゃんはなのはと組むことになります。
「ただし! 達也、終わったら話があるからね!」
びしり、という音が聞こえてきそうな勢いで僕に指を突きつけたアリサちゃんはそう言って、すずかちゃんと一緒にデパートの中へと消えて行きました。
「達也、私も思うことがないわけじゃないから、一緒に話をさせてもらうわよ? ……じゃあなのは、私たちも行きましょう」
「えっと……じゃ、じゃあ達也君、また後でね」
どこか怖いものを感じさせるアディリナちゃんの言葉にうなだれていると、リラちゃんが優しく肩を叩いてくれました。
「……頑張って?」
……誰のせいだと思ってるんですか。
とりあえず、ということでおもちゃ売り場などを見に来ているわけなんですが、はやてちゃんにここにあるものをプレゼントしてもしょうがない気がします。
「それで、何か話でもあったんですか?」
とりあえずプレゼント選びは保留にして、リラちゃんに向き直ります。4人と別れてからリラちゃんはずっと無言のままなので、何か話があるのなら早いところ確認しないと精神的にきついものがあり、率直にたずねます。
「……ん」
小さな声とともにこくりと頷いた後は、また無言になります。
「……タツヤは」
リラちゃんが話し出すのを待っていると、ようやく意を決したのかリラちゃんが話し始めました。
「……タツヤは、何がしたいの?」
何って……なに? 漠然としすぎていて何を尋ねたいのかが分からないのですが……。
「何、って言われても……とりあえず、はやてちゃんの誕生日を祝いたい、くらい?」
「……そうじゃなくて」
はっきりと言えない理由があるのか、歯に何かが挟まったような様子のリラちゃんを見ていると、求めている答えを言いたいとは思いますが、こればっかりはどうにもならないですしね……。
「……」
何かを悩むように考え込んでいたリラちゃんでしたが、大きく息を吐くと強い意志を感じさせる目で、こちらを見てきました。
「……タツヤは、転生って言葉知ってる?」
もちろん知ってますけど……ああ、そう言えばノートのおかげで一方的に知ってはいましたが、リラちゃんとは僕やアディリナちゃんが転生者だって言う話はしてませんでしたね。
「知ってはいるけど、どうしたの?」
ただ、リラちゃんが何を思っていまさらその話題を持ち出してくるのか、というのが分かりません。おそらく、はやてちゃんに関してだと思うんですが……。
「……私が転生者だ、って言ったら信じる?」
「信じてもいいかな、とは思うよ?」
実際、魔法とか幽霊とか吸血鬼……はちょっと違うけど、とにかく超常現象には事欠きませんからね、この世界。まあこの世界では超常でも何でもない日常だったりするんでしょうけど。
「……じゃあタツヤは転生者……だよね」
疑問形でもなく確認なんですね。んー……今までの出会いを思い返してみると、アディリナちゃんの場合は、割と簡単に今みたいな関係が築けたんですよね。ただ、ローザちゃんの場合は……まあ最終的には上手いことまとまったわけですし、話しても大丈夫……かなぁ。
よくよく考えてみれば、他に転生者だっと知っている、エミヤさんだとかリッキー君だとかについてはこっちが一方的に知っているだけですし。
反応が読めないのはしょうがないですが、なのはちゃんや桃子さんには心を開いているみたいですし、僕たちとも仲が悪いわけではないので話しても問題ないでしょう。……僕の願望が混じってないとは言い切れませんけどね。
「うん、転生者だよ」
「……そっか」
リラちゃんはそう小さく漏らした後は何を言うでもなく、沈黙を保っていました。
僕からも特に言うべきこともなったので、また一人プレゼント選びに戻ります。……と言っても、ここには良さそうなものはないわけで、僕にも何を選ぶのか、というビジョンがないので困っているわけです。あ、そうだ。
「リラちゃん、何かいいアイディアでもないですか?」
せっかく側に他の人がいるのですから、聞いてみればいいんです。リラちゃんがこの世界の知識を持っているかどうかは知りませんが、少なくとも同じ女の子なんですから、何か案を出してもらえるかもしれませんし。
「……聞かないの?」
「? 今聞いてるけど」
「……そっちじゃなくて、私のこと」
リラちゃんのこと……ああ、転生についてですか。正直個人的にはどうでもいいから聞くという考えすら思い浮かびませんでした。
「別に転生に関わるようなことで聞きたいことなんてないですしねぇ……。あ、もちろん、何か話したいということがあるんなら聞きますよ? でも未来の話は聞きませんから」
これはアディリナちゃんとも話し合った結果です。未来を知ってしまえば、知らなかった時よりも『自分の望む』未来に近づくことはできるでしょう。でも、その時にもっと上手くできたんじゃないのか、という悩みや、これだけ出来たんだから前よりはマシだという自己満足が入る可能性があります。
もちろん、知らないままであることを嘆くこともたくさん出てくるでしょう。それでも、この世界を生きた、と胸を張って言うためにも知らないままでいよう。
それが、二人で出したこの世界で過ごしていくスタンスでした。……それでも、いきなり闇討ちとかは勘弁してほしいので、ノートで転生者や進行状況だけは確認していますけど。
「……なら、私は何も言わない」
そのようなことを伝えると、リラちゃんは優しく微笑んでそう言いました。
「でも、どうして僕が転生者だとわかったの? ある程度以上の確信があったとは思うんだけど……」
「……本気で言ってる?」
「本気ですよ」
確かに普通ではないくらい大人びているという自覚はありますが、アリサちゃんやすずかちゃん達といればそんなに目立ってはいないと思うんですが……。
「……もともといなかった人物が、ここまで深く原作の美少女に関わっていれば、知識を持ってる人からすると一目瞭然」
なるほど……。じゃあつまり、エミヤさんやリッキー君にも転生者だと疑われているんだと思ったほうがいいんでしょうね。まあ今までなにもされていない以上はすぐに何かをしてくるってことはないと思いますが、隠す意味が余りないということも含めて頭の片隅には置いておいたほうがいいかもしれませんね。
「それで、達也たちは何を選んだの?」
リラちゃんから出た意見が良さそうだったのでそれに決めて待ち合わせ場所に戻ると、アリサちゃんとすずかちゃんのペアがいました。
「僕たちはブックカバーと栞のセットだよ」
本を読むのなら、ということで出た意見でした。文庫用・新書用がそれぞれ入っていて、そのブックカバーと意匠のそろった栞のセットです。
「あ、そうなんだ。私たちはぬいぐるみでもどうかなって」
「そうそう。犬と猫のぬいぐるみなら私やすずかからならちょうどいいかと思ったのよ」
確かにその組み合わせなら二人の話題にもつながりますし、いいかもしれません。それに、はやてちゃんも女の子ならぬいぐるみとかは好きそうですし。
「でもブックカバーと栞かぁ、図書館にも通ってるんだし、その線から考えてもよかったのよね」
まあでも、同じようなものになってしまえば決めるのは楽かもしれませんけど、お店で一緒になって、わざわざ別れた意味がなくなってしまいそうですね。
「そんなことよりも」
満面の笑みを浮かべているアリサちゃんですが、何故かプレッシャーを感じます。……何かしましたっけ?
「何かリラとあったの? ずいぶん仲良くなったみたいだけど」
リラちゃん……ですか? そう思って振り返ってみれば、確かに今日別れる前よりは楽しそうな表情を浮かべています。せっかく可愛いんですから、こうやって笑っていたほうがいいとは思うんでが……ってこれが原因ですか。
一応、後で話をするということになっていますし、話さないわけにはいかないんでしょうけど……そのまま話す訳にはいかないでしょうし。
そう悩んでいたら、いつの間にかリラちゃんがアリサちゃんの側に行き、何かを耳打ちしていました。
「達也、後でアディーとすずかと一緒に話し合いましょうか」
「えー、と……出来れば遠慮したいかなぁと思うわけなんですが」
今のアリサちゃんは怖いですし。
「お・は・な・し、しましょうか」
「ハイ」
怖くても拒否できない自分の身が恨めしいです。あぁ、なぜか増えていくのは女の子の友達ばかり。神様……は信用できないですね。と、とにかく何でもいいので、このグループに男の子が混ざることを切に願います。
当然ながら、アリサちゃんから話を聞いたすずかちゃんや、戻ってきたアディリナちゃんも僕との話し合いには乗り気でした。そんな僕たちを見ているリラちゃんは楽しそうだったので、リラちゃんが僕たちとも仲良くなったのが唯一の良かったことだと思っておきましょう。
……そうとでも思わなきゃやってられません。
ちなみに、プレゼントは僕たちの選んだブックカバーと栞、アリサちゃんたちの選んだぬいぐるみ、なのはちゃんたちの選んだデジタルフォトフレーム、全てを贈ることになりました。僕たちの親がみんなお金を出してくれたおかげですね。普段あまり何かを頼んだりすることがない僕たちなので、常識的な範囲内ですが、4軒分もあれば、以外といろいろ買えます。
遅くなりました。
本当にすいません(土下座)。
遅くなれども書いてはいくつもりですので、見捨てないでいただけると本当に嬉しいです。