052 はやてちゃんの誕生会みたいです
「待たせたわね」
今日ははやてちゃんの誕生日会ということで、みんなで集まっています。さすがに誕生日当日に全員の都合が合わなかったのでその週末になりましたが。
それにしても。
「今日はみんな可愛いね」
先に来ていたなのはちゃんとリラちゃんもそうでしたが、アディリナちゃんとアリサちゃん、すずかちゃんも普段と違った格好をしています。特にアリサちゃんは普段は下ろしている髪を結い上げているので、受ける印象が全然違います。
「そう、かな?」
「そうだよ」
小首をかしげているすずかちゃんに向かって頷くと、嬉しそうに微笑みました。
「でも達也もずいぶんしっかりした服着てるじゃない」
「せっかく可愛い女の子ばかりでパーティーやるんだから、服くらいいいものを着て行きなさいって母さんが」
普段はTシャツにズボンをはいているだけ、なんていう動きやすさ重視の格好ですからねぇ。おめかしをして、というほどではありませんが、自分の容姿を良く見せるための服装をこの年齢のうちにすることになるとは思いませんでした。
「じゃあ、みんなそろったし、はやてちゃんの家に行こっか」
なのはちゃんに促されて、全員で歩き出します。
はやてちゃんの家に着き、チャイムを鳴らしたのですが、反応がありません。もちろん、車椅子で生活している以上、位置によってはすぐに同行できない場合もあるんでしょうが……。
「達也君、はやてちゃん大丈夫なのかな?」
すずかちゃんも同じ疑問を持ったのか、不安そうに僕に尋ねてきます。車椅子の小学生が独り暮らし、という安心できる要素がどこにもないのが原因なんでしょうけれど。
「んー……もう少し待ってみよう? すぐにインターフォンに出れる場所にいるとは限らないし」
「お待たせしました、八神です」
僕の答えに被るように、インターフォンからはやてちゃんの声が聞こえてきました。
「あ、はやてちゃん。なのはちゃん達と一緒に遊びに来たよ」
「なんや、すずかちゃん、ほんまに来てくれたんや」
まるで僕たちが来ないかもと考えていたような言い方ですが……。まあ両親を亡くしているんでしょうし、小学校にも満足に行けてないとは言っていたので、友達ともなかなか遊べず、もし来なかったら、という不安もあったんでしょうね。
「それではやてちゃん、あがらせてもらっていいかな?」
「あ、ごめんな、もちろん入ってもらって大丈夫や。ただ、外国におった知り合いがちょうど来てけど、気にせんといてな」
外国の知り合い……ですか? はやてちゃんの生活費を出してくれているという人が、確かイギリス人だと言っていたので、そのつながりでしょうか。
まあ、その人たちに対してはやてちゃんが好意を持っているみたいなので、きっと悪い人たちじゃないんでしょうね。
「すまない、主が待たせたようだ」
玄関が内側から開けられるとともに、どことなく硬さを感じる声をかけられました。……が、そこにいたのは桃色の髪をした、非常にスタイルのいい女性でした。この人が、はやてちゃんの言ってた外国の知り合い……でいいのかな? それにしても、主?
「いえ、そんなに待ったわけじゃないから大丈夫です」
「お邪魔します」
「……」
口々に挨拶を言いながら——まあリラちゃんは軽く頭を下げただけでしたが、とにかくアリサちゃん達がはやてちゃんの家に入って行きます。
「あれ、なのはちゃん、どうしたの?」
が、ちょうど僕の前にいたなのはちゃんが、急に立ち止まったので、危うくぶつかるところでした。
「……? なのはちゃん?」
「にゃ!?」
僕の声に全く反応しなかったなのはちゃんの肩を軽くたたくと、なのはちゃんは小さく飛び上がって、恐る恐る僕のほうを見てきました。
「入らないの?」
「あ、うん……。えっと……お、お邪魔します!」
出迎えてくれた女性に勢いよく頭を下げると、なのはちゃんは先に行ったすずかちゃん達の後を追って小走りで駆けて行きました。なのはちゃんにしては珍しく、脱いだ靴を揃えることなく行きました。まあ、それでも脱ぎ散らかしているわけではないあたりに、なのはちゃんの性格が表れていますが。
「ふむ……少年、先ほどの子と主はどんな関係なんだ?」
なのはちゃんの方を見ながら、女性が質問してきましたが、主……ってはやてちゃんのことでいいのかな? この家にいる知り合いなんてそれくらいですし。なんでそう呼ばれているのか、とか疑問に思わないわけでもないですが、外国の人なら日本語を間違って覚えただけかもしれません。その割には流暢な日本語ですけど。
「会ったばかりだけど友達、かな? 少なくともなのはちゃんはそう思っていると思うよ」
「そうか。なら、その言葉が偽りでないことを祈っている」
何か、敵意……というほどではありませんが、警戒されているみたいです。メインはなのはちゃんみたいですが、一応僕もされているみたいです。一体何なのかは分かりませんが、しばらくすればどうにかなると思っておきましょう。
「シグナム、出迎えありがとうな」
「いえ、これくらい当然です」
シグナムさん——多分、出迎えてくれた女性の名前だと思いますが——は、はやてちゃんには多少なりとも優しい表情を向けていて、僕たちに対応した時のように半ば感情が欠落したような印象は受けません。
一応、何らかの事情なりがあるんでしょうが、会ったばかりの人に対してそこまでで踏み込むわけにもいきませんしね。とりあえずは、はやてちゃんとは割と仲が良さそうだということだけ分かれば問題ありません。
「んー……ほんまはもう一人来るんやけど、お互い知らへん人がおるやろうし、簡単に紹介だけしとこか」
確かに、今まで見たことない人がシグナムさん含め4人いますし、当然ですよね。
「まずは……っとあかんあかん、最初は自己紹介からやな。わたしは八神はやて、いいます。見ての通り車椅子生活やけど、家事とかは意外と出来るんで今日の料理は楽しみにしとってください。趣味……という程やあらへんけど、本は結構読みます。その関係ですずかちゃんやなのはちゃん、達也君と知り合いました。
で、さっきみんなを出迎えてくれたのがシグナム、そっちの金髪の女の人がシャマル、私らと同じくらいの子がヴィータ、それからうちのメンバー唯一の男がザフィーラや。
知り合い、ゆうても今は亡きわたしの両親の知り合いやもんで直接会ってからそうたっとるわけやあらへんもんで、どんな人か、というのはわたしにもまだ分からん部分があるんや」
はやてちゃんによる紹介を受けて、それぞれ軽く頭を下げました。やはりどの人も感情が希薄な感じがします。
……まあそれでも、ザフィーラさんにはそこはかとない共感を一方的に感じたりもしていますが。おもに男女比で。
「なるほどなるほど、リラちゃんにアリサちゃんにアディリナちゃん、リラちゃんやな。一応覚えたけど、アリサちゃんとアディリナちゃんの区別がつけれるようになるまではしばらくかかりそうやな」
それはある意味しょうがないですね。双子、と言われても違和感がないほど似ているということもあって元々そっくりでしたが、特に今日はおそろいで空色のワンピースを着ているので、初対面の人が区別をつけるのは難しそうです。
「そんなことより達也君」
「どうかした?」
「この中で誰が本命なん?」
いや、誰が本命とかはなくてですね……というか、ものすごい勢いでこっちを見てきたアリサちゃんとすずかちゃんが若干怖いわけなんですが。
「ん……? なんや、半分は冗談やったつもりなんやけど、なかなか面白いことになっとるみたいやな」
半分は、ってことは、残りの半分は本気で聞いてきたという認識でいいんでしょうか?
「私としてもそれなり以上に気にはなるけど……やっぱりなのはじゃないの?」
「ふえ!? わ、私!?」
「あ、やっぱりアディリナちゃんもそう思う? 達也君は私たちみんなに優しいけど、なのはちゃんはちょっと特別扱いしてるよね」
別段、なのはちゃんを特別気にかけているつもりはないんですが……やっぱり付き合いが長い分、優先してしまう部分はあるかもしれません。
「なのはもだけど、アディーがたまに達也と二人でコソコソ会ってるのが気になるわ」
何か、僕が一言も発さないままどんどん盛り上がっていきます。正直、こういう話題を本人を目の前にしてするのはどうなんでしょう。……遠回しに何とかしろ、と責められているのかもしれませんが。
「なあ」
「うん?」
話している女の子たちをボーっとしながら見ていると、声をかけられました。話しかけてきたのは、確かヴィータちゃん、でしたっけ。
「あっちのた、高町? ってどんなやつなんだ?」
なのはちゃんのことでいいんですよね? 僕が色々言うよりも、直接本人と話した方が人となりは掴めると思うのですが……。
そう思ってなのはちゃんの方を見れば、見事にアディリナちゃん達全員に詰め寄られて目を白黒させていました。駄目ですね、あそこに僕が行っても巻き込まれるのが目に見えています。
「どんな答えを返せばいいのかは分からないけど、とりあえず優しい子、かな。困ってる人がいたら出来る限り協力しようとする子だよ。
後は、一緒に来たメンバーの中では多分一番年相応な子だろうけど、それでもかなりしっかりしてるよ」
いまのあたふたしているなのはちゃんからは読み取りづらいかもしれませんけどね。
「ふーん」
ヴィータちゃんは興味なさげにそう言うと、シグナムさんたちの方に戻って何事かを話し始めました。
大したことは言えませんでしたが、あれでよかったんでしょうか。
「なんや達也君、ヴィータちゃんもハーレムに入れるつもりなんか?」
いつからこっちを見ていたのか、ニヤニヤという表現がぴったりと合う笑みを浮かべながらはやてちゃんが声をかけてきました。
「いや、そういうわけじゃあ……」
「ならヴィータはおまけで、ほんまの狙いはわたし? んー確かに悪くはないんやろうけど、まだ知りおうたばかりやし、もう少し仲ようなってからやな。あ、でもわたしの初めての男友達やし……は! まさかそれを狙って!?」
はやてちゃん、ずいぶん楽しそうですね。こうやって友達とわいわいやるのはきっと初めてでしょうし、気持ちはわかるんですが、もう少し言葉には気をつけた方がいいですよ?
ほら、アリサちゃん達がすごくいい笑顔を浮かべながらにじり寄ってきていますよ?
「は~や~て~。ちょーっと向こう行きましょうか」
「あー……アリサちゃん? わたしはそんなつもりはなくてやな」
「いいからいこう、はやてちゃん?」
「すずかちゃんまで!?」
「うぅ、ひどい目に会ったの……」
「お疲れ様、なのはちゃん」
精も根も尽きた、といった様子のなのはちゃんを労いますが、正直関わらなくてよかったという思いが消えません。
「達也君……助けてくれてもよかったと思うんだけど」
「んー……下手に僕が手を出すともっと大変なことになったと思うよ?」
最初に出ていた疑いを行動で実証する形になるわけですし。
「……それもそうだね」
「……タツヤはみんなのことどう思ってるの?」
「今は大切な友達、だね。もう少し異性を意識するようになったらどうなるかは分からないけど」
「……そうなんだ」
「うん。あ、もちろんリラちゃんも入ってるからね」
「あ……ありがと。……女誑し」
何か最後にものすごく心外なことを言われた気もしますが、きっと気のせいです、ええ。
「だからわたしは……ん? あ、最後の人が来たみたいやな。ごめんな、ちょっといってくるわ」
唐突になったチャイムに、これ幸いとはやてちゃんがアリサちゃん達から逃げ出します。さすがにアリサちゃん達は追わず、僕たちの方へと戻ってきました。
「……ふう。それにしてもどんな人が来るのかしら」
「分からないけど、仲良くなれるといいね」
この後。
今まで異常に巻き込まれたことのないアリサちゃんも含めて、物凄い勢いでトラブルに巻き込まれていくことを、僕は予想することもできませんでした。
さりげなく短期間で更新。
プロットに致命的な問題があったことに危うく気付いたため、当初の予定とは全然違います。
……さまよいながらも書き続けていくつもりですので、これからもよろしくお願いします。