第4話 加護受けし狼
XXXX年■■月□□日
それはあまりにも突然で、そして残酷な現実だった。
その日はただ、普通の日常と何一つ変わらない日だった。
いつも家族の中で早く起きている俺は朝食の当番だった。
故意に寝ている自分の手が届かないところにある目覚まし時計を止めた後
1階に下りて冷水を飲み、再度自分の部屋に戻って寝巻きから室内着に着替えて
もう一度1階に下りて朝食の準備をする。
朝食の準備が終わった頃には父はすでに食卓に着いていてその日の予定を確認してからテレビを点けていた。
母は俺と一緒に朝食の準備をしていたから、食卓に皿を並べていた。
3歳になる俺の妹は、上の部屋で寝ている。
父と母が朝食を食べ終わった頃に俺が朝食を食べ始めていた。
俺が食べ終わった頃には父は玄関を出る頃で、俺もすぐに食器を片して自室に戻り制服に着替えていた。
そして鞄の中を確認して学校に向かうために玄関に下りたら、母が妹を連れて玄関にいるのが分かった。
そして母と妹に「いってきます」といってから家を出る。
それが俺、彩峰秋鶴の変わらない朝だった。
学校に着いてからはクラスメイトと軽い挨拶を交わして教室に入る。
HRが終わった後はいつもどおり読書をしているか、数少ない友人達と会話を交わしている。
それこそ6人ぐらいしかいないが、部活も6人とも同じ部活に入っているのだ。
名前は『世界研究部』通称『世研部』とも言われているのだが、実はいわく付きでもあったりする。
なんでも二重人格の集まりだとか、人間じゃないのがいっぱいいるとか、入部をするとラリるとか
根も葉もない噂が後を立たなかった。
放課後部活動の終わりの時間になると部活をしていた生徒は学校を出ることになる。
俺は親友達とは別の方向になるから、学校を出た後はすぐに分かれるのだった。
自宅から学校までは2駅挟んで向こう側であり、駅まで相当の距離があるからいつも自転車を使っている。
そして自宅の近くの駅に着くと、自転車置き場に向かって自転車を取り自宅に向かう。
その日も変わらない日常だった・・・・・・・・はずだったのに。
自宅のすぐ近くになって人通りの少ない十字路に出た瞬間、それは突然起きた。
横から急に2tトラックが飛び出して、俺は跳ねられた。
宙を舞って2、3度地面に叩きつけられてやっと止まったのだった。
大体引かれた時点でなぜ俺が死ななかったのも不思議だが、理由は二つある。
一つは、俺はある事件を境に体を鍛える事に専念していた事と。
もう一つは、俺はそこらじゅうにいる人間とはかけ離れている存在だからだった。
「あれれれ?なんでこいつは死んでねぇんだ?」
「別にいいジャン。後でしっかり殺すんだからサ」
「それもそうだな、ヒャヒャヒャヒャ」
「こいつのせいであいつを殺れなかったんだからなぁ。相応の死に方をしてもらわねぇとなぁ!」
明らかに殺意がある言葉や、下品じみた笑い声。
聞いた事がある声かもしれないが、心当たりは確実にあった。
現に今はただの中学生ではあるが、小学校の俺の唯一無二の友人の事である事が。
今現在進行形で俺の親友を見事に裏切って、無意味な一方的悪意を持っている奴らが。
抵抗した、反抗もした、訴えもした、だがしかし大人達もあいつを救う事をしなかった。
しかも仮にも教師である立場の人間が生徒を『教育』と称して太鼓のバチで叩くというあるまじき行為をした。
ここで無意味な死を迎えるのは受け入れたくなかった。だがしかし、何かで刺された感覚がした後
視界は消えて体は動かず俺は————死んだのだった。
その中で俺は呟いた、まだ死になくない。と
そして俺は——————この世界から『彩峰秋鶴』という人生を閉じた。
そう、確かに『彩峰秋鶴』という存在はあの世界から消えたのだった。
今思ってみれば、これが始まりだったのかもしれない。
そして俺は、【世界渡り】になった。
1997年11月20日
10:50
光州作戦第1前線付近
彩峰萩閣side in
『ちゅ・・・・・あや・・・・彩峰中将!』
「ん、ああ。どうした?」
『まもなく作戦空域に入ります』
「分かった、すまぬな」
HQからの通信で放心状態から目覚めた俺は、操縦桿を握りなおしていた。
随分と懐かしい記憶を掘り返していた気がした
そう、この世界に来る前の俺の記憶だった。
「まさかお前だったとはな・・・・・」
意外だった、まさか落ちてきたのがあいつだったとは思わなかった。
この世界に渡ってもう長くいるが、あいつが落ちてきたのは初めてだった。
思いに耽ってたら、急に秘匿通信で繋いできた女性がモニターに現れた。
『隊長・・・・なぜ彼に沙霧中尉をつけたのですか?』
モニターに現れたのは、沙霧とは別の小隊を率いている駒木少尉だった。
彼女は沙霧中尉の副官としても活躍しているが、戦術機適性は中の上程度でもある。
少々生真面目すぎるところもあるのか、鉄の事はやはり快くも思っていないらしい
「理由はある。一つは戦力の問題だ、前線に兵士をほとんど持っていかれた現状で
後方の兵士が極端に少ないために猫の手だろうがBETAの手だろうが借りたいぐらいだからな。
二つ目は彼の今後についてだ。」
『鉄殿の今後、ですか?』
彼女の質問に対して俺は、自分の考えを伝えていった。
小牧少尉は言葉の意味が理解できていないのか、疑問な表情を浮かべていた。
「作戦行動中の我々の目の前に現れた突然現れて、なおかつハイヴと思われる物体から出現した
・・・・なんて輩がいたら少尉はどうする?」
『・・・・・・その場で処分します』
「だがその輩が我々をはるかに上回る力を持っていたとしたら・・・・・どうなる?」
『ですがそんなことは・・・・・』
「無い。とは断定できぬだろう?」
ハイヴといえば今現在我々人類の敵とも言えるBETA・・・
正式名称『Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race』
訳すと『人類に敵対的な地球外起源種』の本拠地ないし人類の軍で言うと司令部に値する。
それと同系のような物から出現したら・・・・・現在光州作戦における衛士の大半を死に至らす事になる。
それに落下してきた物がハイヴだったら・・・・・確実にデュラハン大隊は崩壊していた。
大隊の作戦ルートを妨害するように
飲み込み、砕き、踏み潰し、殴り倒し、焼き殺し、捻り切って進んでいくだろう。
もしかしたら、前線にいる大東亜連合を挟撃で全滅————なんてこともあったのかもしれない。
今回はハイヴよりかなり小さい形ではあったが形状、外見などを見ても
あのおぞましい物とほぼ同じと言ってもよかったかもしれない。
正直に言うとあれが落ちてきたと言われたときには自分の死に様を頭の中でイメージ出来たほどだった。
そして小型ハイヴのようなものから戦術機に似たものが現れて、会話を求めていると報告が来たときには
すでにほとんど何があったのかを悟った。
こんな緊張が詰まった状況で現れて、なおかつもっと乱してきそうな奴とは、俺が知っている中で一人しかいなかった。
何があって名前を変えたのかは知らないが、それでもあいつがこの世界に来たのは、ある意味で正解だったのかもしれない。
あんな腐ったような世界よりもまだ人類の敵が確立している世界の方がまだマシだと考えていた。
「それにな・・・・」
『??』
「あいつがどうかは知らないが、俺はあいつを
『中将の知り合い、ですか?』
「知り合いか・・・・・」
あいつを知り合いと言っている奴は、確実に自殺願望者かあるいは、とてつもないサディスティックだろう。
鉄に深く関わっている人は絶対と言っていいほど人間の分類を外れている。
この事は、鉄が話す気になってから他人に話すようにしている。
よく考えてみると・・・・・知り合いではないのかもしれない。
ではなんなのだろうか?
答えは一つしかないだろう。
「友人以上親友未満、というやつかな?」
『なんですかそれは?』
「友人以上の関わりだが、親友の様ではない。という事だよ」
『・・・・・なんとなく、直に会ってみたくなりました。』
「ほう・・・」
彼に興味を持つのは前の世界では、死と同義語と言ってもよかったのだが、この世界ではそうでもないらしい。
彼と俺に関しては本土に帰ってからだな・・・・
「・・・・少なくとも、あいつが死ぬ事はないだろうだからな。」
『なにか言いましたか?中将?』
「いいや、なんでもない。そろそろポイント00に着くぞ、お喋りはここまでだ。」
『了解!』
まずは久しぶりに本気を出す事にするか!
side out
11:27
『光州作戦』前線基地司令部防衛線
『ちくしょう!一体どこから沸いてきやがった!』
『喋っている暇があんだったら手ぇ動かせ!』
どこからともなく聞こえてくる声。
それは確かに俺の周りの兵士達の声である事が分かる。
なぜならここが最後の防衛線だからだった
戦術的や普通に見ても分かるこの戦場は、すでに壊滅状態だった。
元々から防衛の兵にいるべき兵は前線に持っていかれ
突然の敵の行動に基地の兵士も現場の兵士も戸惑っていた。
「なんて思っている俺も、こいつ等にドッキリだけどな!」
と言いながら機体に装備されていた武器の一つを目の前にいるタコのような巨大物体に振り下ろした
袈裟切りにされた白いタコは地面に崩れ落ちたが、同じようなタコが大量に群がってくる。
その後ろからは、盾のようなものを被っているように見えるのがぞろぞろいた。
「こんなに数が多いんじゃあキリがねぇっての!」
先ほど武器で見つけた長い棒の使い道————歪な形をした剣の刃を棒に取り付けた、ようするに鎌を振り回していた。
盾化け(鉄命名)を切り裂こうとすると刃が駄目になるために、タコだけを切り裂いていた。
だがそのうち、盾化けの比率が増えていき————ガキィン!という音と共に刃が中間で二つに割れていた。
「!?ちぃ!」
咄嗟に刃の部分を分離して棒だけになった武器を盾化けに思いっきり投げて、その場から退避した。
上に退避————噴射跳躍でBETA達の行進を避けるが、すぐにロックオンアラートが鳴り出し、もう一度地面に降りなければならなかった。
「さっきから空に逃げた瞬間を狙って来るのはどいつだぁ!?」
イラつきながらも先ほど地面に降りた瞬間に光線が真上を通り過ぎたのは目視していた事で、発射原を特定しながらタコと盾化けを巨大な剣で攻撃していた。
一つの場所に留まりながら攻撃するとすぐに撃破されかねないので、斬ったら移動、斬ったら移動を繰り返し繰り返しをしているうちに疲労が溜まっていき
ついには、剣を振りかぶりすぎて大きな隙を招じ、タコの腕が視界を近づいていき————
(やべぇ!)
咄嗟に左腕の肘を盾にして軌道を逸らそうとしたが——————突然視界に迫っていた腕ごとタコが吹き飛んだ。
『鉄!無事か!』
「沙霧中尉!?」
なにがあったのかがすぐに理解できなかったが、突然沙霧中尉から通信が入り無事かを確認してきたのが分かりすべてが理解できた。
他人に『俺が守られた』と、言う事だった。
それならばここでなら使っても良いかも知れない、と頭の中で沙霧中尉に感謝しながら考えていた。
俺が俺であるが故の、俺にしかない絶対力を。
『鉄!いったん下がるんだ!これ以上は戦線が持たん!』
「だからどうした!ここから後ろには下がりようがねぇ!」
『だがしかし「お前らは何を背負って戦ってるんだ!?」・・・!!』
「すぐ考えりゃ分かるだろ!俺たちの後ろには、何があるかぐらい!」
今もなおBETAは後ろに通り過ぎていく。自分達の遥か後方にある、司令部よりもっと後ろにある列島へと。
もし自分の記憶と状況を考えてみたら、この戦闘で後方に下がった場合—————最悪、日本列島に被害が出る。
それだけは避けなくてはいけなかった。いや、絶対に阻止しなければいけなかった。
今まで得た情報と予想と仮定を立てると間違いなく現地住民の説得に時間を持っていかれて、今回の戦闘に責任を押し付けられるのは————彩峰中将だった。
この世界で唯一知り合いの可能性が一番高い人間をここで死なせるわけには行かなかったし、何よりも死なれたら気分が悪くなる。
『後方に下がれないなら、ここで叩くしかあるまい!一気に・・・・』
<だったら後先考えずに行動するのは、君の性分じゃないの?>
「・・・・・・・」
『何を黙っているんだ!聞いているのか!?』
<別に問題はないよ。この世界は、あの世界とは明らかに違うから>
「良いんだな?」
『一体何を言ってるんだ!光線級から片付けるぞ!』
沙霧中尉が俺とあいつが話している最中に何かを話しているが、全く聞こえてなかった。
俺の頭の中にあるのは、この現状を一番効率よく打破できる方法しか思い浮かばなかった。
「俺だけが奴らの先頭に出る!あんたは中将の方に向かえ!」
『何を言っている!血迷ったか!』
「俺とお前は一緒じゃねぇんだ!てめぇがここで死ぬ価値はねぇ!」
『貴様ぁ・・・黙って聞いてれば!「軍人が死に場所を求めるな!」!?』
軍人は国の力であり、盾であり、忠を尽くす人間である。
だがそれ以前に————人である。
人である限り生に足掻かなければならない。と、俺は思う。
国を護ると言って死を見出すのは馬鹿のやる事だ
親がいて、兄弟がいて、自分の身を案じてくれる人がいる。ゆえに生き残らなければならない。
だって何よりも生き残ってほしいと思うのは、その人たちだと思うから。
「てめぇが今すべき事は、中将に起こっているすべてを正確に伝える事だ!俺の予測を伝えるから二度は言わん!よく聞け!
今回の奇襲は任意的なものだ!」
『!?一体どういう事だ!任意的なものとは「とっとと伝えに行け!俺はもう行く!」待て鉄!どういうことだかまだ』
「とりあえずそれだけを伝えろ!すべてが終わったら説明する!いいな!」
『なれば言う事は一つだ!——————生きて帰れ!』
「了解したぁ!」
BETAの波を掻き分けようとした瞬間に言われたその一言。その一言は、前の世界では絶対に言われる事のない台詞だった。
つい反応して了解、などと言ってしまったが後悔はない。後はすべてを喰らい、斬り、無残に散らすだけだった。
神の加護を受けし悪神の半身は、今自らの願いを叶えるために狂いだす。
お久しゅうございます、陽炎です。
最近バイトを始めたのでさらに忙しくなってしまい
投稿が遅れてしまいました
感想にあった事に関しては光州作戦後に判明するようにします
ご意見ありがとうございました。参考にさせていただきます。