5話 『善』と『悪』
突然だが狂戦士、と言うのをご存知だろうか?
名は体を表すように狂った戦士である。
大抵はバーサーカーと言われたりベルセルクとも呼ばれたりしているが、
狂戦士と呼ばれる彼らにも、人の名前があった。
それは『ウルフ』と呼ばれてる一族だった。
狂戦士と呼ばれる人は、オーディンと呼ばれる古代の神の加護を受けた戦士である。
だがその加護は、一部の人間にしか与えられず、その加護を受けた一族をウルフと呼ばれている。
神話の世界で彼らは幾度もその名前を出現させているが、大きくとられる事はなかった。
そんな一族に、不幸にも神にされた二人の兄妹がいた。
一族の一つの家系に生まれた二人は、『神のお告げ』という非現実的な一言で裂かれることになる。
妹の方は善の絶対神に
兄の方は絶対悪と言われる神になった。
絶対悪と善なる神となった兄妹は、家族のように話す事もなく、顔を合わせる度に敵対するしかなく、
ただただ、戦う事を運命にされた悲しき兄妹
その兄妹の名は——————
11:35
釜山広域市 北方
目の前の暴力を見てふと、自分について考えていた。
ただただ、自分の宿命だと決めながらこの
誰よりも不幸で、誰よりも弱くて、そして誰よりも———憎まれた道。
だが何よりも俺は、この道を憎み、怨んだ事はなかった。
この道を否定すると言う事は、俺自身の意味も否定する事になるからだった。
「そろそろ、始めるかな・・・」
大体この数を相手にしろと言っている時点であいつの言ってる事は吹っ飛びすぎている。
『お前ならこの数はものとも言わないだろう?』
だからと言って10万相当のこいつ等を相手にするのは無茶振りにも限度と言うものがほしいところだ。
「久しぶりに体を動かしたからな・・・そろそろガチで行くか?」
機体の操作に慣れ始めて、特性が理解できるようになったので、元々の自分のスペックを反映する事が出来るようになった。
突然の初陣になのにも関わらず、なぜ戦術機と呼ばれるこの兵器がすぐに手足のように動かせるかには、ちゃんとした理由がある。
まず自分自身が狂戦士と呼ばれる類にある事と、世間的にアンラと呼ばれる神の一説の理屈から出来ている。
狂戦士は、バーサーカーやベルセルクと呼ばれているが俺の場合は、ベルセルク————神の加護を受けた尖兵である。
彼等は人間が本来持っている力の30%しか出せないのに対して、80%まで引き出す事が出来るのだがその代償として何かを失う事になる。
代償として失うものはたくさんある。感情、視力、筋力、爪、指、腕、心臓、目そのもの、果てにはこれまでの人生や来世と呼ばれるものまで
文字通り『すべて』が含まれている。非現実的なものから現実的なものまですべてである。
実際それらは本来の80%を出した時に失うものであり鉄自身は最高で65%までしか出してはいない。
そしてベルセルクが人間との区切りがつけられているもう一つの理由は、『武器に分類されるすべての物体を具現化し利用する』事が出来る。
つまりは簡単な例で言ったら『ガラスを剣として使う事が出来る』だが、『空気から火炎放射を作る事が出来る』のもやれないことではない。
ベルセルクはいくつかの部族に分かれているのだが、俺は狼の名を冠するウルフの一族になる。
だがベルセルクの中でも神格化されている存在、神狼———フェンリルと呼ばれるのがある。
フェンリルと言うのは、狂戦士でありながら神に至る存在になったウルフの事を主に言う。
元祖とも言われるフェンリルは北欧神話に出てくるヨムルンガンドの兄と言われるあのフェンリルである。
彼の場合は、とある神がウルフとなった————つまり神下ろしと言われるらしい。
そして一つ注すべき点が一つある。
神下ろしは、元々いる狂戦士に『神を下ろしその御霊を戦士の身体にその力を定着させる』事になることから
神下ろしとなる狂戦士は、二つの人格を持つ『2重人格』になる。
つまり神下ろしの対象となった神が、狂戦士の身体に定着しなければ身体が消滅する事と、お互いの存在を認識しなければ
定着しなかった時同等にその身体が消滅する事になる。
だがしかしその二つの条件が一致した場合、『身体に御霊が定着し』『相互の認識』が完了した時神格化よりも強大な力になる。
つまりはウルフから神格化するより、神から紙卸したほうが力が上と考えてもらえれば速い。
そして俺が神格化して神なった、いや神にされた存在は『絶対悪』や『世界の負』と言われるゾロアスラ教の原典に現れる
アンラ・マンユと呼ばれる神であった。
アヴェスターによるとアンラ・マンユは病や災害などを司る、ようするに『負』を司る神であり、もう一人の神と対の存在なっている。
その対の神は、『善の神』と呼ばれるスプンタ・マンユである。
この二人は原典にもあるとおり元々は兄弟とも言われているが、どちらが兄であり弟であるのかは明らかにされていない。
スプンタ・マンユはアンラ・マンユと違い、幸せや正しい道に導く神と言われている。
そして俺には一人の妹がいたといえば、すべて分かるであろう事がたくさん出てくる。
つまりはスプンタ・マンユと言う『世界の善』と戦の神のオーディンの加護を受け神格化に至ったその名は、鉄彩音であり
神下ろしで狼の名を冠する事になったアンラ・マンユと呼ばれる神の過去の名は、
オーディンの加護を受けてなお、神下ろしという儀式によりその力と神の運命を背負わされたその名は、鉄光成と言う
なぜ俺と妹の彩音がお互いに神の存在と呼ばれるようになったかは今は説明の必要のない事である。
つまりベルセルクの特性が二つあり、『すべての兵器を扱える』と『人のリミッターを外せる代わりに感覚を麻痺させる』と言うのがあり
そこに神下ろしの影響により、『肉体の制限がなくなる』と『どんな影響があっても感情と理性を保つ』事ができる。
だが他にも絶対悪としても力があるのだが、それは今使わなくても乗り切る事が出来る。
ウルフの特性で『兵器の最善の使用法』を戦いながら理解して『人のリミッターを外して』反応速度と筋力等の力を本来の50%まで引き出して
神下ろしの影響で、『人のリミットを解除する代わりに感覚を麻痺させる』という特性のデメリット部分の『感覚麻痺』を無くすしてしまう。
それが、神下ろしされたウルフの絶対的な人間の枠を超えた力である。
では、始めようか———————
「さぁ、最悪の混沌を見せてやるよ————」
これは戦争などではない、神罰だ
11:30
釜山広域市 西方
彩峰中将side
朝鮮半島司令部から西方約15km先にある沈海区と呼ばれる所に近い『安骨洞』と呼ばれる場所周辺の住民説得を最後に
住民達を司令部のすぐ近くの釜山北湾に停泊中の国連所属の空母に住民を避難させるのが今回の主目標である。
安骨洞以外の平地の場所は高速移動型の8輪鉄鋼車で避難をするのだが、安骨洞には港がある故に海からの避難による
即時撤退作戦に変更された。
理由としては、BETAの侵攻が速過ぎるからだった。
BETAの速過ぎる侵攻速度に上層部は慌てだし、国連軍はすべて司令部の北部に位置する梁山市を中心に軍を展開した。
つまり現在原住民の脱出を優先し動いている軍は、国連軍所属にはなっているが帝国陸軍の第1機甲大隊『デュラハン大隊』と大東亜連合だけである。
本来は我々も前線に向かうべき部隊なのだが、西方よりBETAの接近ありと斥候部隊の報告から司令部は
安骨洞周辺の原住民の脱出補助と西のBETAを食い止めるという作戦に出たのだが・・・・・
「これを見るとどうしても、死んでくれとしか見えんがな・・・」
少数勢力である大東亜連合軍と一個大隊でしかない『デュラハン大隊』だけでも、連隊に届くか届かないの数であった。
「1個連隊以下1個大隊以上、か。それであれを相手にしろと上層部は言っているからな・・・」
目の前に映るBETAの数は、我々の部隊を含む連合軍を余裕で飲み込みそうな数だった。
どう見てもこれは西と北の割合が同等と見ても誰も疑わないであることが分かる
『で?この数を相手にしろと奴らは言っているのか?』
「そうみたいだな」
今俺が話をしている相手————大東亜連合軍第一大隊長の崔中将と言うのだが、始めてあったときから初対面とは思えないぐらい気さくな奴である
彼になぜ国連の犬と言われている日本人の俺に普通に話しかけるのか?と聞いてみたら
「万国共通で言ったらそうだな・・・・・人類みな兄弟ってやつだな!」
と、にこやかに返されてしまいしばらく腹を押さえながら笑うのを堪えそうになったのはちょっとした余談だ。
『国連も無茶を言ってくれるな、この数は北と変わらないのではないのか?』
「数云々の話をしても仕方あるまい、早く奴らを片付けなければな・・・・・」
機体をBETA群の方に向けて噴射跳躍体制に入ろうとした瞬間——————
『HQより全部隊に告ぐ!第3防衛ラインよりBETA群出現!直ちにデュラハン大隊は防衛ラインに急行せよ!』
『なんだと!?』
「くっ・・・・こんな時に!————デュラハン01より各機!避難が終了次第07と08はそれぞれの中隊を率いて防衛ラインに向かえ!
他の部隊は原住民の避難を急がせろ!」
『了解!』
突然防衛ラインに現れたBETAに混乱をしていた部隊は萩閣の正確な命令により慌しさが静かになりそれぞれの成すべき事に戻っていった。
しかしこの一時凌ぎの命令ではすぐに司令部はBETAに食い尽くされてしまう事は目に見えている、それをどう回避すべきか思案をしていた時
さらに最悪な事態に急変していった。
『03より01!北部の国連軍が徐々に後退していきます!このままでは前線が持ちません!』
「ここでそうくるか・・・!」
前線の後退によって戦況は徐々に劣勢を極めていき、萩閣自身も選択を迫れていた。
北部の国連軍の救援に向かえば避難に専念している大東亜連合軍は壊滅し
かといってこのまま避難を優先していけば国連軍は壊滅———日本の国内情勢にも響き、最悪売国奴と己が名は歴史に刻まれていく。
そして司令部の防衛に軍を回せば、最悪司令部は護れていても国連軍内の日本衛士は腰抜けと同郷の者といわれ続けていく。
避難の後に救援を回すのでは遅くなり
司令部の救援と前線に部隊を送れば確実に原住民の避難は遅れて大東亜連合と共に原住民はBETAの餌となる・・・・
なればここでヤツの力を使わせてもらうのが一番の打開策だ
答えにたどり着いた俺は、すぐに鉄に秘匿回線をつないだ
「・・・・鉄殿、頼みがある」
『こいつ等を潰してから前線の救援に向かってくれないか、だろ?』
こんな切羽詰った状況だから分かってるのか、頼む前に内容を予想されていた。
だが予想されていたのは想定内だった。問題はこれからの内容だった。
「なら話は早い、やってくれまいか?」
『・・・・・・・条件がある。』
「なにかな?」
『訓練兵からでもいい、俺を兵役に付かせろ。』
「ほう・・・・・」
まさか鉄からそんな条件を提示してくるとは思わなかった。
自分の中では彼の性格は、いつも争い事は好まずに平和的な方法で鎮圧していこうとしていたヤツだと記憶していた。
やはり何年も会っていないとこうも性格は変わる物なのか・・・・つくづく時間の流れは早いものだと自覚して行った。
しかし彼の条件がこれだけとは思えなかった。なにか続きがある、そう頭の片隅で考えていた。
『それと俺の使う機体は俺自身で作らせろ。』
「・・・・・・・・・・・・・!?」
『どうした?条件が飲めないのか?』
「いや・・・・何というか・・・・」
『??』
こんな状況の中で一つだけ言わせてほしい事がある。
場違いでもいい、嘘だろ?と言って笑ってくれてもいい、とりあえず何でもいいが一つだけ言わせてほしい。
多分こいつに戦術機を作らせたら、世界の情勢がガラリと砂時計のように改変する。多分、いや絶対に。
これは俺が知っている限りの鉄光成の本人曰く『少しいじった』と言っている、少しじゃない改造なのだが・・・・
普通のワゴン車を『少しいじって』スポーツ車並のスピードを出せるようにしたり・・・・
100円の火薬に『少し何かを足して』サバゲー顔負けの簡単お手軽爆弾を作り出したり・・・・・
俺が知っている中でも古いほうに分類されるゲーム機を『少しだけ部品を取り替えた』だけで近代のゲームが出来るようになったり・・・・
『ちょっといじった』だけでこの有様なのにそれを一から作る?絶対に言えることが一つある。
こいつが物を作ったり、改造したりしただけでも魔改造顔負けの大改造になる事は必須である。
できれば物理の法則は無視した作り方はしないでほしいかな・・・・・・
『で?いいのか?悪いのか?』
「・・・まぁ、なにもデメリットはないからな。いいだろう。」
『なら決まりだ。よろしく頼んだぜ?彩峰中将?』
「ああ、ならば北は任せたぞ?
『・・・・まだはえぇっての!』
そういった瞬間に鉄との回線は途切れた。
これで北の国連軍と司令部の壊滅の可能性は激減された。たった一人の兵士にすらなっていない、たった一人の人間の力で
少し心の片隅でまた救われる人が増えたと思うと、やはり嬉しく思えてきた。
だが同時に悲しくもなった。
「デュラハン01より各機に告ぐ!デュラハン07、08は中隊を率いて司令部の防衛に向かえ!他は原住民の避難を第一優先として、西部より接近するBETAを迎撃せよ!」
『了解!』
彼は人類を生命体と認識しないBETAでも涙を流す、そんなこの世界では誰もしないほど心が脆い人間だった———
「崔中将は連合軍を率いてBETAの迎撃を優先してください!」
『了解した。』
だがそんな彼の心は誰も理解せず、ただ馬鹿にするだけかもしれないがそれでも彼は涙を流し続けるだろう———
「成すべきことは成した————後は機を熟すのを待つのみ、か」
それが彼の唯一の世界に対する、謝罪でもあったから。
どうも、陽炎です
最近少しだけ収入が入ったのでとうとう買ってしまいました・・・・・
漫画オルタ1から8巻までとトタルイクリの1から3巻までを!
いや~まりもちゃんの同期の新田はマジイケメンですね!
サイドストーリーはやりたかった・・・・
駒木中尉は沙霧と同じメガネ属性だったなぁ・・・・
買ってまりもちゃんのシーンが修正なしであったときは涙を流しました
やばい、また泣きそう・・・・
今回で感想、質問、賛否両論ある方は感想版までお越しください!
待ってます~
・・・・・・・9巻まだかなぁ~