第1話
5歳の誕生日に日付が変更した途端、激しい頭痛に襲われた。
転生してからの5年間の記憶が、頭の中に流れてくる。
早送りのビデオを見ている様な、どこか自分なのに自分でない人生を見せられている変な気分。
時間にすれば5分位か、それとも1時間位だろうか。
自分の置かれている状況を理解する事かできた。
僕はゲルマニアの伯爵ハーナウ家の長男
ツアイツ・フォン・ハーナウ。
母親はアデーレ
父親はサムエル
新興貴族として一族の傑物と言われた曽祖父が、商売に成功。
金で爵位と領地を買い繁栄させ、凡庸な祖父が領地を維持。
両親の結婚を期に爵位と領地の殆どを譲り隠居した。
ご意見番みたいな感じで、自身の館に引き篭もっている。
この祖父も凡庸と言われているが、急に拡張した領地を無難なく収めていた手腕を考えれば、有能だった
のではないのか。
僕はこの祖父には、かなり可愛がられている記憶が有る。
父親については子供の前では領地経営の話題が上がらないのか、5歳までの僕に興味が無かったのか良く
分からない。
追い追い調べていく事としよう。
母親は良くも悪くも貴族の深窓のお嬢様であり、政略結婚だったらしいが夫婦仲は悪くはない。
そしてかなりのスレンダー美人である。
腰とか凄い細いし、まだ20歳前と思われる儚げな人である。
父親は……
少しお腹が出てきた事を気にし始めたが、体格のガッシリした美丈夫の中年のロリコンである。
だって妻との年齢差が一回り以上は有る感じたし。
勝ち組だな父上。
そして、僕ことツアイツ・フォン・ハーナウであるが……
何というか、我侭に育てられた典型的な内弁慶の泣き虫の餓鬼である。
しかも一人では夜も寝れない。
しかし貴族とは親子であっても一緒には寝ないので、現在進行形で一緒に寝ているこの女性は。
乳母の娘のメイド見習いのナディーネ12歳!
結構、いやかなり可愛いロリ巨乳の女の子だ。
どうやら僕は、我侭で乳の大きい若い女性としか一緒に寝れないらしい。
しかも何人かのお気に入り添い寝部隊がいるらしい。
貴族様万歳!
もう既に勝ち組!
神様有難う。
しかし、しっかりと頭を胸の谷間に押さえ込まれているこの状況でも、マイサンは反応してくれない。
精神はこんなに興奮しているのに、体が無反応とはEDじゃないのかと心配になってしまう。
しかし巨乳好きとは母親に喧嘩売ってないか?
自分ながら恐ろしい子供だ。
などと考えていたら、ナディーネちゃんが「う〜ん」とか寝返りをしながら布団を蹴って序に拘束も解いてくれた。
風邪をひかない様に布団を掛けてあげて窓際の椅子に座り外を見る。
そこには双子の月が優しく世界を照らしていた。
しかし、これからどうしようか?
記憶が蘇ったとしても現状からいきなり性格が変わったり、賢くなったりすれば怪しいどころじゃない。
それにもう少しすれば朝になり、他の使用人や両親達とも会わなければならない。
対応を考えておかなければボロが出て直ぐに怪しまれてしまう。
この時僕は子供の体を舐めていた。
しっかり対策を考えるどころか、夜更かしなんかした事も無い子供の体力か性能のせいか……
すっかり椅子で寝てしまっていた。
目が覚めたのはナディーネが叱責されている声でだった。
メイド長が僕を起こしにきたら、若様が椅子で寝ていて使用人がベットで寝ている。
たいした事では無いと思うのだが、貴族絶対主義のこのハルゲニアでは大変な失態らしく
「僕の前じゃない処で厳しく処罰するので、お許し下さい」
とナディーネを連れ出そうとしている。
ヤバイヤバイヤバイ……
このままでは(僕主観では)無実の女の子が酷い目にあってしまう。
しかし昨日の自分と違う対応をしては怪しまれて、最悪両親に報告とかされれば問題だ!
この危機回避の秘策は……
恥ずかしいが泣こう、大声で!
「ナディーネを虐めちゃ駄目ー連れていっちゃ駄目ーわーんわーん」
恥ずかしい魂のレベルで恥ずかしい。
メイド長も、若様に泣かれては何も言えずナディーネに次からは気を付けなさい。
と、一言いった後で外に待機していた他ののメイドを呼び寄せ、洗顔やら着替えやらという羞恥プレイを
敢行し退室して行った。
僕の羞恥プレイの最中、ずっと下を向いていたナディーネがいきなり
「若様すいませんでした。どの様な処罰も受けますので許して下さい」
と、頭を下げて恐怖を滲ませた顔で、僕の言葉を待っている。
これが貴族と平民の壁か……
いくら幼くても、貴族には絶対服従が刷り込まれているのか。
一瞬固まってしまったが、なにか言わなければ収まらないだろう。
他の使用人しも示しがつかないのだろう。
なによりナディーネの気持ちを回復してあげないと可哀想だ。
僕は少しばかり気取った口調で
「では罰としてナディーネには、僕の恋人1号になって貰う。
これから他の男に言い寄られても若様の売約済み!
と断るように」
と無駄に格好良くいってみた。
違うー!
失敗ーつい願望が口から駄々漏れだー!
激しく後悔をしていると当のナディーネは
「了解いたしました。
その申し出、謹んでお受けいたします」
と5歳児の戯言を真剣な顔で了承した。
「ささ、朝食に遅れますので早く食堂に行きましょう」
と扉を開けて促してくる。
僕は精通もまだなのにイヤラシイ餓鬼と思われてしまったかと、内心ドキドキしながらナディーネの横顔
を盗み見たがその表情の無い顔からは、何の感情も読み取れなかった。
食堂に向かいながらもう既にグダグダになってきた僕の転生人生に、不安が隠せなくなってきた。
「それては失礼します」
と食堂の扉の前でナディーネは下がっていった。
SIDEナディーネ
普段は泣き虫で甘えん坊で手の架かる若様が、初めて私を庇って下さいました。
しかも恋人1号と暗に複数の恋人(妾?)を持つハーレム宣言までされてしまいました。
このハーナウ家の皆様は比較的平民に対しお優しい方々ですが、この先旦那様からお手つきになる可能性
もありますし来客の他の貴族様の伽を申し付かる事も十分有ると考えると、この戯れかも知れない申し出
を受けた事に後悔は有りません。
あんなに泣き虫でお優しい若様ですから、先輩メイドの方々から聞く酷い事はされないと思いますし。
SIDEツアイツ
朝起きてから食堂に辿り着くだけなのに、既に今日一人分の精神力を使ってしまい疲労困憊だ!
しかし前日の記憶通りにテーブルに着き、両親に朝の挨拶をした。
「おはようございます。父上、母上」
「おはようツアイツ。良く眠れましたか?」
アデーレが儚げな微笑でおはようの返事を返してくれた。
「はい母上。
夜中に月が見たくなりついナディーネに我侭を言ってしまいましたが、双子の月の明りが母上のように優しく照らしてくれたので安心して眠れました」
「おやおやツアイツ今朝は詩人だな。
5歳ともなれば女性を口説く台詞が自然に出で来る様になるとは、誰に似たのかな?」
父上から、からかい口調で言われ真っ赤になって俯く僕に母上が
「あらあら。あなたツアイツを苛めないで食事にしましょう」
と助け舟を出してくれた。
ちなみに父上には何人かのお妾さん兼メイドがいるが、全員がスレンダー美女である。
つまりチッパイ派であり、巨乳派の僕とは住み分けが出来ると思う。
因みに今日の朝食のメニューは、サラダにパンにスープである。
スープに野菜や肉等の具材が多く入っているが小説でルイズ達が食べている(自称)ささやかな食事とは
随分と違うが、マナーを学ぶ場で無い日常的に食べる食事とはこういう物で、毎朝あんなフルコースなん
て食べれない。
勿論、来客等で見栄を張る必要が有る時は侯爵家の格に有った食事が出る。
「ツアイツ、今日はお前の5歳の誕生日だ。
来客が夕方から集まり夕食のパーティにて、お前の正式なお披露目をする」
父上から急に言われたので思わずスープを零しそうになったが、何とか零さずに
「分かりました。今から緊張してます」
と子供らしく答えた。
何かスピーチをしければならなだろうかと思い考えておく事にした。
朝食後はマナーの勉強と自由時間というお遊びタイムだが、所詮中世なので伯爵家の御曹司とは言え玩具
は絵本や積木、それに馬や兵士の人形とか…
PSPやDSで遊んでいた事を考えると、どうして良いか分からない。
情報収集の為に誰かと話したいと思っても午後のパーティの準備で、使用人の方々は忙しい。
邪魔は出来ずに両親とは、転生したばかりでボロを出さない様に今は、未だなるべく接触は控えようと思う。
仕方なく一人で積木遊びをする事にした。
せめてレ○ブロックが欲しい。
定期的に様子を見に来てくれるメイドさん達も、大人しく積木をしている僕を微笑ましい?
生ぬるい?
目で見ているのに気づいた。
後で聞いたのだがナディーネが他の使用人達に恋人(妾)宣言された事を話しており、流石は貴族のエロ
坊ちゃんと様子を見にきたが、積木で遊ぶ僕を見て、おませさんね。
位に思って見ていたのだろう。
この時、僕は軽く考えていたが娯楽の少ない職場で格好の面白い話として爆発的に広がっていき、既に両
親の耳にも入っている事を知らなかった。