第73話
アカデミーの応接室!
ここで、これからのハルケギニアの未来を決める悪巧みが進行していた。
アンリエッタ姫は、怒涛の展開にイマイチ理解が怪しかったが、ツアイツの話に乗ればウェールズ皇太子と結ばれる事を本能で理解していた。
エレオノールは、ツアイツの悪巧みを聞いて一時は怒りを感じた。
しかし、彼が悪意が有ってアンリエッタ姫を……
このトリステイン王国を巻き込むつもりが無い事は、信じていた。
後でしっかりO・HA・NA・SHIするつもりだが、今はこの話の内容を把握する事に努める。
何だかんだと、ツアイツの事を信頼し、自分が何か手伝えるかを探す為に……
「話を進めますね」
あれから、紅茶を入れ替えて貰い一旦休憩してから謀を再開する。
「アルビオンの内乱は決定事項です。
そして、これは我々だけの秘密……
良いですね」
アンリエッタ姫は頷いて先を促す。
「多分、アルビオン北部から反乱の狼煙は上がります。
そして国を二分する戦いは熾烈を極めるでしょう。
しかし、アルビオンの腐敗貴族はこれでハッキリとしますね」
「つまり、国の膿は全て敵になるのですね?」
僕は頷いて肯定する。
「そして、状況は拮抗するでしょう。
この辺は、僕らも協力しますから……」
「そして、この拮抗した状況を打破するのが……
アンリエッタ姫の愛です!」
「私の愛が、アルビオンをウェールズ様を救うのですか?」
「そう!
この状況でこそ、貴女の愛が唯一正当にアルビオンとトリステインに伝わります。
今、貴女がウェールズ皇太子に愛を囁けば……」
「囁けば?」
「トリステイン貴族達は、アンリエッタ姫が国を差し出して愛を手に入れようと思いますね。
つまり属国化です」
「そんな……」
「残念ながら、始祖の血を引く王家の最弱はトリステインです。
しかもトップは空位。
そんな状況で、王位継承権一位の貴女がアルビオンに輿入れ。
この国は割れ、貴女は売国の姫の烙印を押される」
アンリエッタ姫は、この結末は想像してなかったのだろう……
真っ青な顔になりソファーに深く座り込んでしまった。
「アンリエッタ姫……
状況が違えば、貴女は防国の聖女にもなれて、ウェールズ皇太子の愛も手に入りますよ……」
ここで、突き落とした後に悪魔の囁きをする。
売国の姫から防国の聖女……
ウェールズ皇太子の愛。
ツアイツの謀は最高潮に達した!
「レコンキスタとアルビオンの戦いが拮抗した時に、貴女が無償の愛を持ってアルビオンに協力を申し出るのです」
「……それと恋文が関係するのですか?」
アンリエッタ姫は、イマイチ理解が追い付かない。
それはエレオノール様も同じようだけど……
「事実等はどうでも良く、このタイミングで貴女とウェールズ皇太子が始祖に愛を誓った(と、貴女が捏造した)手紙の存在が広まる。
アルビオンにとって、トリステインの助力が欲しい。
しかし、面子等が邪魔して言い出し辛い。
そこで、覚えは無いけどその様な手紙の存在を知れ渡れば……」
「これを信じ(ようとし)たジェームス一世は、ウェールズ皇太子との婚姻を進めようとしますね。
向こうから、お願いしてでも……
つまり立場は此方が上で」
エレオノール様が、正解に近い回答をする。
実際は、滅亡か婚姻か!
まで、追い込んでからこの話を持って行くつもりだけど。
「そうです!
アンリエッタ姫が、自らが
ウェールズ皇太子の愛の為に
アルビオンの国民の為に
高貴な始祖の血を引く王家を救う為に
愛する人を助ける為に
アルビオンに援軍を自ら指揮して送るのです!」
「それは……
私が、愛を掴む為に!」
良し!
駄目押しをもう一つ!
「この国にも、レコンキスタに取り込まれた裏切り者が居ます。
彼らは反対するでしょう!
しかし、反対する連中(リッシュモン達)こそ裏切り者なのです。
そして賛同する貴族は貴女の味方(ヴァリエール、ド・モンモランシ、多分グラモン)です。
貴女が彼らを処罰し、この国をトリステインを正し、そしてアルビオンをも救う……
どうです?」
「私、やります!
両国を救ってみせますわ!」
アンリエッタ姫は、僕の両手を握り締めて騒ぎ出した。
そのはしゃぎっぷりは、外まで聞こえてしまい
バタン!
「姫様、ご無事ですk
きっ貴様ぁー姫様から離れろ!
変態が移るわー!」
アニエス隊長が、応接室に乱入し抜刀して僕に切りかかって来た……
が、ワルド殿が剣杖で彼女の剣を払い、速攻転移してきたシェフィールドさんがアニエス隊長の首を掴んで取り押さえた。
本来は、所属する姫の方を守らねばならぬワルド殿。
王族の会話を盗み聞きして、魔法で乱入したシェフィールドさん。
逆上して、アンリエッタ姫を危険に晒したアニエス隊長。
そして、咄嗟に反応出来なかった僕とエレオノール様……
この緊張感を壊したのは、いえ更に緊張感を引き上げたのはシェフィールドさんだった。
「女、ツアイツ様に剣を向けたな……
言い訳も理由も今は聞かないわ。
だって、これから拷問して聞き出してから殺す」
壮絶な笑み……
これが、黒衣の魔女たる彼女の本来の姿。
こんなシェフィールドさんは嫌だ!
そして僕の方を振り向き、一転して穏やかな笑みを浮かべ
「怪我は有りませんね?
すみませんでした。
驚かせてしまって……
この女は処理しておきますから安心して下さい」
そう言うと、アニエス隊長を引き摺って転移しy
「ちょちょっと待ってー!
凄く助かったけど、彼女は単にアンリエッタ姫を守りたいだけだっから、ね?」
シェフィールドさんの手を握り、彼女の目を見て懇願する。
人が苦労しているのに、当のアニエス隊長は恍惚の表情をしている。
何か「お姉様、素敵……」
とか聞こえているのは、気のせいと思いたい。
シェフィールドさんは、ヤレヤレ的な表情でアニエス隊長を離すと
「女、次は無いわよ。
私もツアイツ様と出会ってから随分丸くなったわね……」
と呟くと、颯爽と転移していった。
まるで台風の様な、そして良いトコ取りな彼女……
何故、恍惚の表情なんだアンタ?
ワルド殿が、アニエス隊長の腕を掴み、取り敢えず外へ出した。
「「……ツアイツ殿。
今の女性は?」」
アンリエッタ姫とエレオノール様が、再起動して聞いてきたが……
「……僕の護衛です。
とある人から派遣して貰ってます。
そして、派遣してくれた人の寵妃(予定)です」
それしか言えなかった。
流石に、ガリア王の腹心で彼を填めようと共に暗躍してます!
は、言えませんし。
こうして、最後はグダグダだったが、アンリエッタ姫と足並みを揃える事は出来た。
そして報告では、アニエス隊長はガチレズだが、お姉様属性のSの筈が、M要素も有りと分かった。
なんで、トリステイン関係の女性達は面倒臭いのだろうか……
僕も疲れて帰りたいのだが、アンリエッタ姫を送り出した後で、エレオノール様に捕まった。
アンリエッタ姫みたいには騙せないって事だ。
そして一連の事件を彼女にだけは、直接話してなかったのを思い出した。
そう、カトレア様の件も含めて……