第74話
アンリエッタ姫を見送る。
怒涛の展開で、最後は腹心の筈の銃士隊の隊長が乱入するなど、普通では考えられない展開だったが……
何事も無かった様に、アンリエッタ姫の馬車を両脇から護衛している隊長ズ……
それと、何か企んでいてそれが成功した時の顔のツアイツ。
絶対何か企んでいる……
危険と分かれば、関係者にも黙って処理する。
極力巻き込まない。
この子は、そういう子だ。
多分、先日知らされたガリア絡みなのだろう……
お母様からの手紙では、カトレアの治療の目処もたったらしい。
勿論ツアイツが、だ。
今まで私達が散々苦労して探し回っても駄目だった事を何の対価もなく、ポンと提示したらしい。
条件は有ったが、無いに等しい物だ。
ルイズと婚約してしまったが、危なかった。
カトレアの病気が治れば、次女だし他国の貴族に送り込む事は可能だ。
少々年は食ってるが、カトレアの怖さはあのホワホワしてるけど、押しが強く勘が良い事だ。
ヴァリエール家の血筋を顔しか受け継いでない、性格と乳は誰に似たのか分からない三姉妹最強の乳を持つ女……
しかも、今まで男性との接点も少なく超箱入り娘だし、自分を救ってくれた男に尽くせと言われても断らないだろう……
ルイズよりも、手強いのがカトレアだ。
知らない内に
「あらあら、まあまあ」
とか言って、関係を結んでしまうかも知れない……
それはさて置き
「ツアイツ殿……
ちゃんとお話をして貰いますよ?」
彼の首根っこを掴んで、再度ラボに入る。
納得する迄、話し合わないといけないわね。
今夜は帰さないから……
SIDEアンリエッタ
豪華な馬車の中、アンリエッタはソファーに埋もれながら先程の話を吟味する……
流石は我が心の師。
まだ二回しかお話していませんが、会う度に人生を変えさせられる……
前回は、決意と覚悟を!
今回は、我が婚姻について……
しかも両国の膿を出す事まで視野に入れている。
凄いわ!
そこに痺れるし、憧れてしまう。
謀略では、ウチの王宮雀など足元にも及ばないのではないでしょうか。
しかし、私の考えの甘さには本当に嫌になるわ。
同じ事をするにしても、時期を誤るだけで、こんなに差がでるなんて……
ミスタ・ツアイツには、どんなお礼をすれば良いのかしら?
それと、彼に剣を向けたアニエス隊長……
少し、お仕置きが必要ね。
何となく、ワルド隊長も私よりミスタ・ツアイツを優先した様な……
それは考え過ぎね。
彼の忠誠心を疑ってはいけないわ。
そうだ!
恋文の内容も、ミスタ・ツアイツにチェックして貰いましょう。
その方が、安心だわ。
ふふふっ!
ウェールズ様以外の殿方の事を考えて楽しくなるなんて初めてね。
ルイズと結ばれるらしいし……
私達と合同結婚式なんてどうかしら?
これなら、トリステイン、アルビオンそしてゲルマニアの友好に貢献出来ないかしら?
うん。
ミスタ・ツアイツには内緒のサプライズになるわね。
これ位しかお礼が出来ないのが、今の私の立場……
やはり、もっと発言力を高める事を探さなくては。
ツアイツが抑えたと思った、アンリエッタ姫の独走癖はパワーアップして彼にリターンされていく……
その脇を馬に乗り護衛しているアニエス隊長は、馬に揺られながら思考に耽る……
感情的に、あの変態に切り掛かってしまった。
あの間合いで止めたワルド隊長の力量も凄いのだが、この私を良い様にしてくれた……
あの、黒衣のお姉様は何方なのだろう?
あの怜悧な瞳に、全身から漲る殺気。
嗚呼……
どうにかなって、しまいそうだ。
あのお方のお名前は何というのかしら?
あの変態との関係は?
部下?
まさか恋人?
いやいや、そんな事は無いだろう。
てか、それは嫌だ。
アカデミー見送り組
王宮組が帰る中、ツアイツの首根っこを掴んで引き摺っていく。
今度は私専用のラボに通して、先程よりも小さめの応接セットのソファーに座らせる。
「ツアイツ殿……
貴方の事ですからアンリエッタ姫に話した事が全てでは無い事は分かってます。
さぁキリキリと話しなさい」
誤魔化されないように、真剣な表情で問う。
貴方は、私達を裏切らない……
それは信じている。
ツェルプストー辺境伯やお父様に話した事と同じ内容で有ろう事を話してくれた。
まさかガリアのジョゼフ王のナニが、アレでこの事件を引き起こしたなんて……
流石に、淑女だから粗チン云々と罵らなかったけど。
彼もその件では、何故か周囲を警戒していたわ。
シェフィールドとか言う女が乱入するとか何とか……
彼女は、絶対何処かで聞いてるらしい。
彼のプライバシーって……
深く、本当に深く溜め息をついた。
「貴方という人は……
確かにそれなら上手く行く確率は高いわ。
ド・モンモランシとグラモンの取り込みの目処も有るのね。」
彼は、黙って頷く。
「ド・モンモランシの娘を誑かして、実家を建て直して嫁にするのね?」
ルイズ以外に既に女を作ってるなんて、何で私にコナを掛けないのよ?
何かムカムカするわ……
「えーと……
怒ってます?」
「ええ、かなり怒ってます!」
「しかし、かの家の協力は必要ですかr」
「お黙り!
今夜は飲むわよ。
付き合いなさい」
さて、部屋で呑むか外に繰り出すか……
どうしましょう?
先ずは、トリスタニアのレストランで豪華に2人きりで夕食。
その後、アカデミーに送って貰い、私の部屋で飲み明かしましょう。
彼の計画には、全面的に協力するわ。
でもね。
アンリエッタ姫の恩人となり、トリステインに貢献するって事は、アルビオンの危機を救うって事も合わせるとね……
貴方は、トリステインとアルビオンを救った英雄になるのよ。
しかも、計画が成功した時の、アンリエッタ姫の影響力は絶大になっている。
彼女が、イエスと言えばね……
言わせるけどね。
始祖の血を引く私達を娶ろうとも文句は出ないのよ?
何処からも、文句は言わせないわ。
今回の件で、貴方の見返りが殆どないのは、余りにも可哀想だから……
仕方ないから、私もご褒美に付けてあげる。
家督は元気になった、カトレアにあげるから平気ね。
さてと、今夜は美味しいお酒が呑めるかしら!