第75話
ここに、風を極めし2人の変態紳士が、心の主たるツアイツの役に立つ事は何かと悩んでいた。
先日、知り合ったトリステイン王国の魔法衛士隊グリフォン隊隊長と言う、要職に就きながらもゲルマニア貴族のソウルブラザーと懇意にしている彼。
正直羨ましい!
彼の自由さと思い切りの良さが。
その同志ワルドから、連絡が有った。
アルビオンの糞野郎共が、ソウルブラザーにちょっかいを掛けてきているとの事だ。
話に聞く、レコンキスタとアルビオン王家の間者か……
流石にアルビオン王家側を処理する事は問題が有る。
しかし、レコンキスタ側は容赦はしない。
ソウルブラザーには、この様な汚れ仕事を教える必要は無い。
彼の創作意欲に影響が出ては、全ての乳愛好家達から責められてしまうし、何より自分を許せないだろう。
だから、我ら風の紳士がその任にあたる。
人知れず、処理をする為に……
そして、我が遍在を同志ワルドの元に送り込んだ!
SIDEレコンキスタ側間者
トリステイン魔法学院の外壁周り。
何だ?
何なんだ、この学院は?
今回の任務は、正直舐めていた。
たかが、小国の学生を拉致るか殺すかするだけの簡単な任務。
最初は順調だった。
トリステイン王国に潜入する事も、何も問題は無かった。
そして、魔法学院の塀を飛び越えた瞬間に……
鋭い殺気を感じ、身を捩らねばそれだけで死んでしまう威力の風の魔法が俺を襲った。
たまらず塀の外側に転げ落ちる。
受け身も出来ず呻いてしまう。
腐っても、貴族の子弟が集まる魔法学院。
それなりの人員が配置されていたのか。
しかし、逃走には自信が有ったのだが、その隙さえも与えてくれなかった。
相手は1人。
それも塀の内側に居るのかと思った。
転げ落ちた後に体制を立て直して逃走を図ろうとする。
しかし、突然の衝撃に四肢が痺れ、そのまま崩れ大地に顔を付けた……
視界の隅に杖を構えた男が映る。
嗚呼……
トドメを刺されるのか。
ゆっくりと意識が遠退いていく。
SIDE貧乳好き好きブラザーズ
何処の誰だか知らないけれど、双子の月だけが知っている黒マントのダンディー2人が、たった今捕縛した間者を見下ろしている。
「今回はどっちかな?」
「さぁ?
どちらにしても、只ではすまないけどね」
「彼女の尋問に、耐える事が出来れば助かるかもな」
「アルビオン王家側なら、素っ裸で王宮に届けるそうだぞ」
「レコンキスタ側なら、そのまま何処かに消えるらしいな……」
「全く、我らがソウルブラザーも恐ろしい女を御しているものだ」
「……全くな」
「さぁ学院の連中に気付かれる前に処理しよう」
「ツアイツ殿には、こんな闇は見せてはならんからな」
「全く、あの女と良いお主と良い過保護だぞ」
「貴様もな」
「ふふふっ!まあな」
「さぁ運ぶか」
何事も無かった様に静けさを取り戻したトリステイン魔法学院。
ツアイツをどうにかしようとした連中は、彼を慕う有志達の手で闇に葬り去られた。
片や、送り込んでも音信不通。
片や、真っ裸で王宮の前に放置される。
処理された間者の数が20人を超える頃には、どちらも送る余裕は無くなった。
こうして、ツアイツの知らない内に間者騒動は収まった。
生き延びた間者の報告では、全て黒衣の男2人と女1人の手練れにヤラれたと報告された。
巨乳教祖には、黒衣の守護者達が居る。
手を出すと、確実に痛い目を見る!
そんな噂が、アルビオン全土に広がった。
噂をする者達の中には、アレだけの著者なんだし優れた護衛が居るのも当たり前だと認識されていた。
実際は、ガリアとトリステインの実力トップな連中が自主的に集まったトンデモな集団なのだが……
世界には知らない方が幸せな場合も有る。
SIDEレコンキスタ
日に日に状況は悪くなる。
既に、間者として使える者は居ない。
トリステイン魔法学院に送り込んだ連中は、全て音信不通だ。
アルビオン貴族の取り込みは、全体の二割と少しだ。
既に、美乳派など唱っていたのは遠い昔。
金と女と、成功後の要職の空手形で取り込むしか方法は無くなった。
幸い、あの女からは追加の資金を貰えた。
20万エキュー、これなら金に物を言わせて三割は取り込めるだろう。
傭兵を雇う事も始める。
なりふり構わず、聖地の奪還もスローガンに入れた。
私はブリミル教の司教だ!
聖地奪還を唱えれば、敬虔な信者を巻き込めるだろう。
始祖の血を引く王家と言えども、聖職者たる私を殺す事が出来るかな?
教皇に問いたださねばならないだろう。
その間に、攻め取ってみせるわ!
私の名前も出してしまったし、後には引けぬのだ。
見ていろよ!
ハーナウ家の小倅め。
アルビオンを平らげたら、次は貴様の番だ!
アルビオン王国
ハヴィランド宮殿
時を同じくして、ウェールズ皇太子も上がってきた報告書を読んで、深い溜め息をついた。
国家の諜報機関が手玉に取られた。
しかも、殺さずに真っ裸で王宮前に放置とは。
此方の所為だと分かってるんだぞ!
と、言われたも同じだ。
しかも、二度とは任務に就けない程の精神的ダメージを与えて……
そして彼がやったと言う証拠も残さずに。
ツアイツ・フォン・ハーナウ。
何者なんだ?
この私が、プリンス・オブ・ウェールズと呼ばれる私が!
何の手立ても打てぬとは。
仕方ない。
彼は今、トリステイン魔法学院に居る。
ならば、アンリエッタ姫を頼ろう。
彼女が私を見る目が、猛禽類の様で余り会いたくない微妙な胸の女性だが……
裏で駄目なら表で接触を図るしかない……か。
ウェールズ皇太子は、執務室で溜め息をつきながら、アンリエッタ姫にどう頼むか考えた。
他国の王女を介し、更に他国の貴族を呼んで問題無く会える方法を……
やはり、園遊会等に招待しさり気なく接触する。
しかし、ゲルマニアのハーナウ家とは、直接の伝手は無い。
共通の知り合いを介するしかないか……
それとも、魔法学院に生徒として適当な部下を送り込む?
いやそれはそれで、問題が有るだろう。
ぐだぐだ悩んでいるが、要はアンリエッタ姫に会いたくないだけだった。
ウェールズ……
情けない顔をしてるぞ。