第82話
ド・モンモランシ伯爵邸……
この日、我が娘を誑かしたゲルマニアの小僧を懲らしめる為に選りすぐりの家臣を集めた。
全員が盗賊や亜人の討伐をこなしている、心強い実践慣れした連中だ!
どんな奴が来ても叩き潰すつもりだった……
しかし、今彼らはワシの周りに集まり密集した防御陣形を組んでいる。
つまり、まともに向かっても勝てず、守りを固めるしか手段がないと理解しているからだ……
最初に現れたのが、現グリフォン隊隊長ワルド子爵を先頭に逆V字編隊を組んだグリフォン隊の連中だ!
国を売りおってコイツ等め……
買収されたのか?
次に現れたのが……
デカい!
デカいぞ、この風竜は!
何とも立派な風竜を後列に配しV字で着陸態勢に入って来た。
この統率された一団は……
ただ者ではないな。
見慣れぬ連中だが、正規の訓練を受けているのは動きを見ればワシでも分かる。
奴め、自国から援軍を呼びやがったな!
するとゲルマニアの風竜部隊か……
そして、その巨大な風竜から降り立った若者が……
ヤツなのだろう。
風竜を操っていた隊長格の男を従え、先に降り立った隊員達が左右を固めながら此方に向かってくる。
何と!
ワルド子爵まで、ヤツの脇を固めていやがる。
しかも自然な感じで……
ゴクリと生唾を飲む。
どうみても普通じゃない連中を20人近くも従えて来るなんて。
ワシの家臣達が杖を握り締めている。
マズいぞ。
暴走されては、一方的にやられかねん。
「待て、待つんだ!
動くなよ……
様子をみよう。
今、仕掛けては此方が不利だ」
最後に竜籠が降りて、遠目でも分かる我が愛娘と……
赤・蒼・桃・黒・金色の女性陣が現れた!
赤は、ツェルプストー!
蒼は、ガリア絡みか?
桃は、ヴァリエールだな。
黒は、東方か?
金は、メイド服だからメイドだな。
娘が、モンモランシーがフライでワシの胸に飛び込んでこようとしておる!
はっはっは!
両手を広げて向かい入れてやらねば。
やはり父親の愛はわk
「ツアイツー!
これが私の両親よ」
モンモランシーが、ワシじゃなくアヤツの腕を抱き締めながら紹介しくさりやがった!
「ただいま!
お父様、お母様。
彼が手紙に書いたツアイツ・フォン・ハーナウ殿よ!
私の旦那様なの」
嗚呼……
輝く笑顔で、なんて事を宣言するんだ。
父は……父はな……
「お初にお目に掛かります!
ゲルマニアのサムエル・フォン・ハーナウが長子、ツアイツです」
くっ……
爽やかに挨拶などしおって!
「あら、想像よりずっとハンサムね。
娘から色々聞いているわ!」
何を和やかに、握手などしておるのだ!
ワシは広げた腕を所在無げにブラブラさせてから、ヤツを睨み付ける。
「娘から、色々聞いておるが……
素直にハイそうですか!
などと、娘を貰えると思うなよ。
何処の馬の骨とも分からん若造が!
叩き出してやる」
啖呵を切った瞬間、周囲の温度が下がる……
我が家臣達が、ワシを守る様に前方に密集した!
皆、もう杖を構えている。
正面を見れば……
デカい風竜の使い手が遍在を展開し、風竜部隊の連中も臨戦態勢だ!
ワルド子爵は、杖剣に利き腕を乗せている。
他のグリフォン隊員も、立場を考えてか、あからさまな敵対行動は取らぬが、同様に何時でも動ける態勢を取っている……
そして、ヤツの真後ろの黒髪の女!
殺気が半端じゃない。
何て連中なんだ……
誰かが動いたら、一触即発だ。
「みんな、落ち着いて!
昨夜も話したけど、僕等は戦争に来たんじゃないんだからね。
杖を納めて!
ほらカステルモール殿も落ち着いて」
「しかし……
この無礼者は気に入りません。
我等がソウルブラザーに、あの様な暴言を」
周りの竜騎士団員も頷く。
「良いんだ。
いきなり娘が、男を連れてくれば普通の反応だから……
ド・モンモランシ伯爵、ここは一つ休戦と言うか、話をさせてくれませんか?」
「……分かった。
取り敢えず歓迎しよう。
ツアイツ殿、ド・モンモランシ領へようこそ」
仕方なく、本当に仕方なく握手をして屋敷に招き入れる。
圧倒的な戦力差に引き下がった訳ではないが、あのまま意地を張れば、容赦なくヤラレテイタ……
特にあの男女の目はヤバかった。
まるで、立場など考えない、ただ目の前の敵を処理する目だ。
一体何者なんだ。
くっ……
第2戦は引き分けだ!
ワシが譲歩したのだからな。
次が勝負だ。
って、何和気あいあいと屋敷の中に、ワシを残して行くの?
「旦那様、どうしますか?
我等では、傷一つ付けられるか?ですな……」
「暫くは様子を見よう。
警戒を怠るなよ」
家臣にそう言い含めて、急いで追い掛ける。
あれだけワシが、険悪な態度だったのに、和やかに談笑しながら歩いていかないでくれ!
ワシが虚しくなる。
SIDEツアイツ
移動の時に、誰の使い魔に乗るかで揉めましたが、能力的にもカステルモール殿のブリュンヒルデが一番大きかったので乗せて貰いました。
辛かった……
地上30mを越えると、トラウマ的な何かが発病してしまうのですが。
空の上には、同乗者のカステルモール殿しか居らず、抱きついたら大変な事になるから我慢しました。
これなら、女性陣の竜籠にすれば気が紛れたかも。
気を落ち着けて見渡せば、見事な技量で飛行する変態達!
変態が編隊を組む……
ヤバい。
これじゃオヤジじゃないか。
自重しよう。
そして、遠目に見えるあれがラグドリアン湖か……
確かに綺麗だな。
さて、そろそろ目的地が見えてきた。
思いもよらず、こんな大袈裟なメンバーで押し掛けちゃうから、気を悪くしないように気を付けないいとね。
どうも、カステルモール殿もシェフィールドさんも、僕等がトリステインと揉めても構わないと考えている節が有るんだよな……
それでも、ねじ伏せられる位に思ってそうで怖い。
娘の恋人がいきなり押し掛けてくる状況で、如何に両親と平和的に話を進めるか……
モンモランシーに聞いた所、父親の娘ラブ振りは病的レベルだ!
しかし、恐妻家でも有るらしい……
突破口は、母親だね。
さて、我々の未来の為に頑張るかな。