第84話
ド・モンモランシ伯爵邸
豪華な応接室にて……
流石は歴代の水の精霊との交渉役をしてきた家柄。
多少、財政的に厳しくなっても受け継がれた屋敷や装飾品には目を奪われます!
そして現実逃避はこの辺で終わりにしましょう。
現在、応接室で向かい合って座っているメンバーは……
ド・モンモランシ伯爵と夫人に挟まれる様にモンモランシーが座り、向かい側にキュルケとルイズに挟まれる様に僕が座ってます。
その他のメンバーは別室にて歓待を受けています。
キュルケとルイズは、共に実家を代表して援助の件を相談する為に……
建て前ですが。
ド・モンモランシ夫人も、当初は凄く友好的でしたが、ルイズ&キュルケの爆弾発言の後は……
それとなく娘に聞いたが
「良いのよ。
後から割り込んだのは私だから納得してるの」
何で結婚する前から、そんな話になってるの?
と、少々気を悪くしているみたいです。
確かに跡継ぎの一人娘が見つけた相手は、既に婚約者多数で本人が納得してるが、その中の一人。
じゃあ親としては、納得出来ないかな。
さて、そろそろ本題に入ろうと思います。
「ミス・モンモランシーから大体の事情はお聞きしていると思います。
彼女とは、許して頂ければ結婚したいと思います。
それは別としても、実家が困っていると聞きつけ何かお手伝いは出来ないかとお邪魔した訳です」
「それは……
もし私達が、手伝いはしてくれても娘はやれない!
と、言ったらどうしますか?」
夫人が警戒しながら質問してくる。
援助をタテに結婚を承諾させるつもり?
って事だよね。
「別に僕の気持ちは変わりません。
惚れた女性の危機位、何とかするのは当たり前であり、見返りは求めません」
「「まぁ!」」
夫人とモンモランシーは、感激して両手を胸の前で組んで拝んでいる様なポーズだ。
「そう簡単には行かぬのだよ。
ツアイツ殿」
ド・モンモランシ伯爵は、苦虫を噛み潰した様な表情だ。
「ラグドリアン湖の増水が、一番の問題ですね?
失礼ながら調べさせて頂きました。
言葉は悪いですが、典型的な丼勘定の丸投げ経営かと思いましたが、随分まともな領地経営をしておられる……
干拓に失敗した件と、増水の対応に予算が掛かってしまい、結果的に領地経営が厳しくなっている。
違いますか?」
「流石は10歳にも満たぬ時から、大人顔負けの政務をこなすだけは有るな。
それで間違いは無い。
しかし、日に日に増えていく水を何とかしなければ、いずれ破綻する。
貴殿にどうにか出来るのか?」
うーん。
他国の貴族に此処まで言われても、あっさり肯定したぞ。
それに、食い潰している予算は、被害に有ってる領民の救済なんだよね。
この人は、良い人達なんだ!
「ラグドリアン湖の増水を止めるには……
水の精霊と交渉しなくてはならないでしょう。
力でねじ伏せるのは下策。
だから、水の精霊が何をしたいのかを知る必要が有ります」
「水の精霊と交渉か……
貴殿がか?
笑わせるわ。
代々交渉役を仰せつかっているワシでさえ、決裂したんだぞ!」
全く当たり前の心配だ!
交渉役としてのプライドも有るだろうし……
「僕には、別件ですが……
ガリアのジョゼフ王から、挑まれている事が有り現在対応してます。
その中に、ラグドリアン湖の件が報告されており、それが今回の増水に絡んでいると思ってます」
「ガリアだと?
大嘘ではないのか?」
「信じる信じないは別として、一度ラグドリアン湖の水の精霊と会わせては貰えませんか?」
黙って考え込む、ド・モンモランシ伯爵……
「既にワシは、交渉役を辞した。
どうしても、と言うならモンモランシー、お前がやるのだ!」
いきなり大役を仰せつかったモンモランシーはビックリだ!
夫人からも
「少し早いけど、貴女にもその資格が有るわ。
それに、まだ交渉役として交流が有った時に貴女も水の精霊と会っている。
彼らは覚えている筈よ」
そう言われ、モンモランシーはやる気になった。
「しかし、今日はもう遅い。
ツアイツ殿、我が家の夕食に招こう!
ミス・ルイズとミス・キュルケも共に……
他の方々は丁重にもてなすので宜しいか?」
「分かりました。
一度彼等と話させて下さい」
「良かろう。
部屋を用意するので、夕食の準備が整い次第、迎えをやる」
そう言うと、ド・モンモランシ伯爵と夫人はモンモランシーを伴い退席した。
SIDEド・モンモランシ夫婦
夫婦の寝室に入り、先程の若者について考える。
「どう思いますか?
見込みが有りそうな、若者ではないですか?」
「どうかな?
アレだけの連中を纏められるヤツだからな。
それなりの勝算を持っているのだろう」
「アナタは彼を認めているのですか?」
「モンモランシーはやらん。
彼もそれで良いと言っただろう。
結婚なぞ、卒業してからよ。
あの子は、モンモランシーは誰にもやらんぞ!」
「しかし、あの子の気持ちも考えてあげないと……」
「まだ時間は有る。
そもそも、水の精霊との交渉とて、成功するとは限らんのだ」
「そうですわね……
でも、私は気に入りました!
すっぱりと見返りの無い、無償の愛でも構わないと言い切ったのです。
そこらの、小金持ちに娘を嫁がせるよりマシだわ。
それにモンモランシーがあれだけ信頼している相手なのですよ」
「分かっている………
しかしモンモランシーは、まだ15歳なのだぞ。
まだ結婚など早い!
ワシは嫌だ」
「あらあら……
早く子離れしてくださいね。
アナタ」
どうにも親バカだった。
SIDEツアイツ
家臣の方に待機組の所に案内して貰う。
彼は、先程の訪問の際にド・モンモランシ伯爵の前に守る様に居た人だ!
きっと信頼されているのだろう。
「先程は失礼しました。
つい殺気に反応してしまい杖を向けてしまいまして」
「いえ、此方も疑われそうな態度でしたし……」
「あれから、彼等と話をさせて貰いました。
貴方に向ける友情と尊敬……
いえ崇拝と言っても間違いではない!
ただ者ではない彼等を其処まで惹き付ける事が出来る貴方なら。
どうかお嬢様を宜しくお願いします」
彼はその場で、深々と頭を下げた。
「頭を上げて下さい。
元々、駄目だと言われても何とかするつもりですから。
勿論、彼女に振られてもこの気持ちは変わらない」
「有難う御座います。
それと、旦那様は筋金入りの親バカでいらっしゃいますので、そちらも宜しくお願いします」
そして彼は
「皆さん此方のお部屋にいらっしゃいます。」
と、言って去っていった。
僕に親バカを押し付けて……