第85話
ラグドリアン湖……
トリステインの、いやハルケギニア随一の景勝地で有り、対岸はガリア王国。
そして、珍しく精霊との接点を持てる場所。
代々ド・モンモランシ伯爵は、このラグドリアン湖に棲む水の精霊との交渉役を担ってきた……
そして今、僕等の目の前にはその水の精霊が、透明な体をモンモランシーに似せて向かい合ってる。
しかし、僕は言いたい。
今のモンモランシーのオッパイは、トップがあと4センチは大きいぞ!
造形は正しくして欲しい。
「水の精霊よ!
彼女の姿を借りるのは良いのだが……
バストサイズが違う。
トップをあと4センチ大きくして欲しい。
彼女の正確なサイズは84だ」
そう指摘して、水の精霊は固まり、そしてオッパイサイズを直して……
呆れた口調で問いかけてきた。
「これで良いのか?
単なる者よ……
天空の双子の月を湖面が写した回数が三千回を越える程の年月を経て、問い掛けた最初の言葉が……
オッパイか?」
「ええ、それは譲れない!」
モンモランシーに本気で二の腕を抓られた。
「何で、見せても触らせても無いのに、正確な寸法を指摘出来るのよ?」
顔を真っ赤にして、本気で怒っている。
「……いや、男って好きな女の子のサイズを正確に計るスキルが有るんだよ。
ねぇワルド殿?」
ワルド殿は大きく頷き
「我ら紳士は、スカウターを標準装備してますぞ。
ミス・モンモランシー!
普通なのです」
僕とワルド殿は、何言ってるの?
的な態度を取ったが……
カステルモール殿は、何故かショックを受けてしゃがみ込んでいた。
「私はマダマダ彼等の域に達していないのか……」
風竜騎士団及びグリフォン隊員は、尊敬の眼差しだ!
「噂のバストスカウターは実在のスキルだったのか!」
「流石はソウルブラザー!
そこに痺れる、憧れるー!」
因みに、ド・モンモランシ伯爵と夫人は、呆れた様な表情で固まってた!
湖面を冷たい風が流れた……
僕はポツリとワルド殿に話し掛ける。
「ワルド殿、やはり僕等はハルケギニアでは規格外なのでしょうか?」
ワルド殿も、ばつが悪そうな顔をして
「それは、今は置いて起きましょう!」
水の精霊との交渉の先制攻撃は「オッパイ」だった。
「ギャハハー!
兄さんスゲーよ。
水の精霊に、ダメ出しするなんてよ。
流石だぜ!
6000年の記憶を持つ俺でも聞いた事ねーよ」
デルフは、凄いご機嫌で僕をヨイショしてくれた!
何故こうなったのか?
時間は少し遡る。
ド・モンモランシ伯爵一家の夕食に呼ばれた初日。
呼ばれたのは、僕とキュルケとルイズのみ。
他の連中は、別の部屋でお持て成しを受けている。
僕等は、復興と援助に直接関係の有る家の代表だから……
「ツアイツ殿、貴殿の事は色々と耳にしている……
勿論調べもした。
眉唾の様な調査結果も有ったがな」
「はははっ……
耳が痛いですね。
それで、どのような?」
ド・モンモランシ伯爵は笑いながら
「本人に聞くなど無粋だろう?
それは、良いのだ」
「そうですわね。
確認をするのが、怖い物ばかりですからね」
夫人も優雅に笑っている。
そんなに怖い事したかな?
両隣のルイズとキュルケに聞いてみる。
「ねぇ?
そんな怖い事したかな……
ギーシュとお遊びの決闘した位じゃない?」
「…………うーん」
「本人に自覚が無いって怖いわ……」
否定の言葉を言われ、黙り込まれた……
「それで、ガリアのジョゼフ王には何を言われているのだ?
あの無能王の事だ。
どうせ娯楽絡みだろう?」
結構、本質を突いた質問が来た!
ほぼ正解です。
まだ教えられないケド……
「色々と複雑な話ですので……
今は説明出来ません。
水の精霊の件も絡んできますので。
そうですね。
水の精霊との交渉が上手くいけば、お話したいと思います」
ド・モンモランシ伯爵は考え込んでから
「その言い回しは、ワシにも関係が有る事なのだな……
良かろう。
今は聞かないでおこう」
流石は、人外との交渉役を務めた程の人物だ。
言葉尻だけで、正解に推測してきたぞ。
これは、簡単には丸め込めないかな?
「有難う御座います」
「難しいお話はそれ位にして、何かツアイツに質問とか無いの?
お母様は?
ツアイツも、私の両親に何か聞きたい事は無いの?」
モンモランシーが、場の空気を変える為に明るく質問タイムにしてくれた。
お陰で夕食は、それなりに友好的だったかな……
最後に、ド・モンモランシ伯爵が
「明日の朝食後に、ラグドリアン湖に案内しよう。
モンモランシー、水の精霊への呼び掛けの方法は分かるな?」
「はい!お父様」
「お前が最後に水の精霊と会ってから八年は経つが……
彼等なら覚えているだろう。
頑張りなさい」
そう言って、夕食はお開きとなった……
そして
モンモランシーの指先の血を一滴垂らして、彼女の姿を真似た水の精霊にダメ出しをして現在に至る。
「これ迄とは毛色の違う単なる者よ。
何故、我に呼び掛けたのだ?」
たまらず、モンモランシーがお願いする。
「水の精霊様。
ラグドリアン湖の増水で、民が困っております。
お願いします。
増水を止めて下さい」
水の精霊は、自身を構成する水を揺らしながら
「それは出来ぬ。
我にも必要な事なのだ。
単なる者よ」
「そんな……」
モンモランシーは、ガックリと膝を付く。
僕は彼女の肩をポンポンと軽く叩いてから、水の精霊に話し掛ける。
「水の精霊よ。
その理由を教えて下さい。
僕等に解決出来るかもしれませんよ」
モンモランシーの姿を借りた水の精霊は、同じ様に水面を揺らすと
「毛色の違う単なる者よ……
そなたには関係の無い事だ」
うーん。
毛色の違うって……
そう言う個別認識は嫌だな。
「ズバリ聞きます。
アンドバリの指輪の件ですね?」
水の精霊は、今度は体を赤く発光点滅させた!
ヨシ!
食い付いたな。
「毛色の違う単なる者よ。
何故、そなたがアンドバリの指輪の件を知っているのだ?」
これからが、交渉の本番だ!