第86話
ラグドリアン湖に棲まう、水の精霊……
彼?彼女?は、モンモランシーの姿を借りて僕と対峙している。
水の精霊は、赤く発光をしている……
やはりアンドバリの指輪が問題なんだ!
交渉は続く……
「毛色の違う単なる者よ。
何故、そなたがアンドバリの指輪の件を知っているのだ?」
「それは、有る事件を追っている時に得た情報です。
しかし……
指輪とラグドリアン湖の増水と何の関係が有るのですか?」
「毛色の違う単なる者よ。
我はこの湖より移動する事が出来ず、指輪を探せない。
ならば、我が通る道を作るだけの事」
よし!
増水の理由が聞けた……
「それで増水ですか!
しかし途方もない時間が掛かりますね」
「毛色の違う単なる者よ。
我には時間と言う縛りは無い。
何時かは、水が指輪に届くだろう」
幾ら時間を掛けても無理なんだけどね。
「水の精霊よ。
それでは……
何時まで経っても指輪迄たどり着けませんよ」
水の精霊は、発光を繰り返している。
疑問に思ってくれたかな?
「毛色の違う単なる者よ……
何故そう言い切れる?」
ヨシ、これで後は言いくるめるだけだ!
「オリヴァー・クロムウェル……
この名前に聞き覚えは有りますか?」
「その名前は覚えてる……
我が祭壇を荒らした、単なる者がそう呼ばれていた」
「そうです!
アンドバリの指輪を盗んだ張本人です。
彼は、天空のアルビオンで己が野望の為に自分の王国を作ろうとクーデターを企んでいます」
「………?
単なる者よ。
それが我とどう関係するのだ?」
良い質問だ!
「オリヴァー・クロムウェルは、アンドバリの指輪を使い勢力を伸ばしているかもしれない。
指輪は貴重なマジックアイテムだ。
どちらにしても、アルビオン大陸からは持ち出さないでしょう……
貴方が幾ら増水しても、天空のアルビオン迄は届かないのではありませんか?」
「確かに我では、空に浮かぶ国に行く手立ては無い。
しかし、それを証明する事は出来るのかな?」
「物理的な証拠は無いです。
しかし僕は、オリヴァー・クロムウェルと敵対しています。
勝てば証拠として、アンドバリの指輪をお返し出来ます。
負ければ……
僕はこの世に居ないので、証明は出来ませんね」
「………毛色の違う単なる者よ。
それはどれ位で、証明してみせるのだ?」
「戦いは最大でも一年と少し掛かると思います」
「良かろう。
期間は、毛色の違う単なる者の命が尽きる迄……
水は元に戻そう」
「出来れば、干拓も手伝って下さい。
指輪奪還に失敗して僕が死んでしまったら……
契約は無効となり水で押し流して構わないので」
水の精霊は……
激しく発光を繰り返している。
何だろう?
欲張り過ぎたかな?
「毛色の違う単なる者よ……
良いだろう。
我が力を貸そう。
腕を向けよ」
やべっ!
この流れはもしかして、水の精霊の一部を寄越す……
って事か?
水の精霊と接触されると、心を読まれる危険が有るんだよな。
「いえ結構です。
独力で成し遂げてみせます!」
「我が力は要らぬと申すか?」
「正直に言えば、貴方の力が欲しい。
しかし、本当に必要としている……
一番貴方の力を必要としているのは、僕ではないので……」
「毛色の違う単なる者よ……
意味が解らぬな」
「もし力を貸して下さるなら……
彼女に、モンモランシーにお願いします。
交渉役として彼女を認め、干拓に力を貸して下さい」
「「「ツアイツ(殿)!」」」
ド・モンモランシ伯爵達は、感極まった声を上げた!
それはそうだろう。
彼等の悲願は、交渉役の復帰と干拓だ!
水の精霊の強力な力を放棄して、モンモランシーに譲るとは思わなかっただろう。
しかし、嘘八百で丸め込もうとしている僕からすれば、水の精霊との接触など避けなければならない。
「姿を借りた単なる者に、力を貸して良いのか?」
「構いません。
彼女の力になる事は、僕にとっても大切だから」
「良かろう。
単なる者よ、腕を向けよ」
モンモランシーが、モンモランシーの姿をした水の精霊に腕を向けると……
一瞬だけ、指が触れ合ってモンモランシーの指に綺麗な水の指輪が有った。
「それが、我との交渉役の証明となるだろう。
我を呼ぶ時は指輪をラグドリアン湖に浸せば良い」
そう言うと、パシャっとモンモランシーの形をした水が湖面に崩れ落ちた。
「交渉は成功だね。
良かった、モンモランシーが正式な交渉役になれて。
直ぐに王室に報告だね」
惚けているモンモランシーにそう笑い掛ける。
彼女も、実家の復興が具体的に動き出した事を感じたのか、ハラハラと泣き出した。
本当なら抱き締めてあげるべきだろう……
しかし、指輪をしている彼女は僕にとっては大変危険だ。
そっと両肩を掴み、母親に押し出す。
ド・モンモランシ夫人はモンモランシーを抱き締めて、共に泣き笑いの表情だ!
周りの観客な変態達も拍手で彼女を称えている!
そっと、ド・モンモランシ伯爵が近づいてきた。
「先程の精霊との会話……
本当なのだな。
何故、命を賭けた戦いに水の精霊の助力を乞わぬ?
一番必要なのは君じゃないのかね?」
いや、要らないんです。
本当に水の精霊の力は!
アンドバリの指輪……
今はシェフィールドさんが持ってますから、その気になれば即解決なので!
本当の悪役はこの場合は僕ですよね。
だって黙って持ってて、コピーを使わせて貰ってから返すんだし。
僕は周りを見渡して、ド・モンモランシ伯爵に告げる。
「僕には、勝利を約束してくれる仲間が居ます。
彼等の力が有れば……
奇跡だって起こしてみせますよ」
「「うぉー!
ソウルブラザー!
任せて下さい」」
竜騎士団員とグリフォン隊員達は感極まって男泣きだ!
ワルド殿とカステルモール殿も肩を抱き合って涙ぐんでいる……
いや、2人には内情を話してるのに、何感激してるのかな?
シェフィールドさん!
貴女まで何を涙ぐんでいるんですかー?
非常に居心地の悪い気持ちになってしまった。
信頼してるのは本当だけど、僕も随分と恥ずかしい台詞だったな……
思い出したら赤面してきた。
イヤーハズカシー!