第87話
水の精霊を騙くらかした今日この頃……
皆さんどうこの夏休みを過ごしていますか?
僕は、ド・モンモランシ領にてバカンスの最中。
ラグドリアン湖の水の精霊と再び交渉役になれた、ド・モンモランシ伯爵夫妻の手厚い持て成しを受けています。
しかし……
幾ら嬉しいからと言われても、僕は水の精霊とは接触したくない。
最悪、バレたら……
この作戦はご破算です。
しかし、毎日ラグドリアン湖に来なくても良いのに。
毎日が、ドキドキです!
さて今でこそ友好的に接してくれてますが……
ラグドリアン湖の、水の精霊と交渉が成功した夜にモンモランシーの両親と話し合いをした。
あの後、直ぐに王室に水の精霊との再交渉が成功した事を伝え、正式にモンモランシーが交渉役になれた事を証拠の指輪と共に公表。
ラグドリアン湖の増水も治まった事も合わせ、王室は了承した。
これで、ド・モンモランシ家が力を取り戻すのも遠くないだろう……
しかし、ド・モンモランシ夫妻は、僕の言葉を覚えていた。
僕の言った
「色々と複雑な話ですので……
今は説明出来ません。
水の精霊の件も絡んできますので。
そうですね。
水の精霊との交渉が上手くいけば、お話出来ると思います」
と、言う言葉にド・モンモランシ伯爵は
「その言い回しは、ワシにも関係が有る事なのだな……
良かろう。
今は聞かないでおこう」
と応えた。
つまり、水の精霊との交渉が成功した今、全てを話してくれって事だ。
そして、賑やかな宴会を終えて皆が宛てがわれた部屋に帰った後、ド・モンモランシ夫妻は僕を私室に招いた。
ソファーに座り向かい合う。
酔い醒ましに、夫人が自ら紅茶を用意してくれる。
「ツアイツ殿。
先ずはお礼を言わせて欲しい。
再び交渉役になれた事を……
感謝する」
「いえ、僕はまだ何もしていません。
失敗すれば、交渉も何も無くなりますから……」
ド・モンモランシ夫妻は考え込んでいる。
「何故、命を賭ける程の事をジョゼフ王から挑まれたのだ?
それに、オリヴァー・クロムウェル……
反乱の首魁なのだろう?
君の周りには、普通じゃない連中が集まっているのは分かる。
しかし……
国をアルビオンを巻き込む反乱に対抗出来るのか?」
最もな疑問だ。
国家間の陰謀に巻き込まれるにしても、家督も継いでない僕が何故?
って事だよね。
ド・モンモランシ夫妻に一連の流れを話す。
ジョゼフ王の回春から始まった一連の事件の……
ド・モンモランシ夫妻は、大国の王の身勝手さに呆れ、そして僕の根回しにも……
溜め息をついてくれたよ?
「ツアイツ殿。
お話を聞けば、これからの事には希望が持てます。
しかし……
なればこそ、水の精霊の助力は貴方が受けなければ駄目だったのでは有りませんか?」
アンドバリの指輪の件は伏せている。
だから、当事者たる僕の少しでも力になる事は、譲っては駄目だと言っているのだろう。
「既に僕には、アルビオン王家とレコンキスタ……
オリヴァー・クロムウェルの組織ですが、彼等から間者を送られています。
いずれ、僕の周りの人達にも被害が及ぶかもしれない。
ルイズ、キュルケ、そしてモンモランシー!
僕に近い者達が狙われる可能性は捨てきれない」
ド・モンモランシ夫妻は、自分の愛娘が危険に晒される可能性を知って息を飲んだ……
「キュルケは、あれでも火のトライアングルです。
実家の方針で戦闘訓練も受けています。
ルイズは、魔法が不得意と思われてますが、爆発に特化した……
それこそスクエアの僕のゴーレムを粉砕する程の使い手です。
それに、実家からの護衛も影となく付いている」
僕は、紅茶を一口飲んで夫妻を見る。
大貴族たる2人の防御力に驚いたようだ。
「しかし、モンモランシーは水のラインだが、戦闘系のメイジじゃない。
だから、少しでも身を守れる手立てを持って欲しかったんです。
彼女は、正式な水の精霊の交渉役として知れ渡る。
精霊の加護と合わせても、トリステインの重要な役割を持った訳だから……」
「ヤツらも、簡単には害せない……と?」
ド・モンモランシ伯爵が、僕の言葉を繋ぐ。
「そうです。
守ってみせると、大言をほざくのは簡単です。
しかし実が無ければ意味は無いのです」
本当は、水の精霊と関わり合いになりたく無いのですがね。
「すまない。
娘の為に其処まで考えていてくれた貴殿を馬の骨などと……
今なら分かる。
君を罵倒された時の彼等の怒りが……」
「いえ、気にしないで下さい。
惚れた女性の為に動く事は当たり前ではないですか。
僕の方こそ、彼女を危険な立場にしてしまった……
謝らなければならないのは、むしろ僕の方で」
ド・モンモランシ夫人は涙をハンカチで拭っている。
親バカなド・モンモランシ伯爵の方は感激してか、僕の両手を握って振り回す程の握手をしてくれている。
「あなた!
我々も何かお手伝いする事が有る筈ですわ」
「そうだ!
ツアイツ殿、我らに出来る事は無いのか?
結婚はまだお断りだが、婚約者として正式に扱おう。
しかし、婚前交渉は手を繋ぐ迄だし、結婚は学院を卒業後になら考慮しよう」
「はぁ……
それでは、お願いが有ります」
凄い親バカ振りを見てしまった……
婚前交渉って、何言ってるのさ!
それに、卒業後に結婚を考慮って……
考えてやっても良いって事ですよね?
「何でも言ってくれ!
娘以外の事なら出来る限りの事をしよう」
「そうですわ!
未来の息子の為ですから……
協力は惜しみませんわ」
夫婦共に微妙に食い違いはあるけど、協力を申し出てくれた!
そして僕は、どうでも良いけど、どうでも良くない家の取り込みの協力を申し出た。
「実は、レコンキスタは既にトリステインにもその魔の手を延ばしています。
その勢力に対抗する為に……」
「何と!
我が国にも、既に彼等の魔の手が延びてると言われるか」
「そうです!
そこで……」
ツアイツの謀略は続く……