第88話
こんばんは!
ツアイツです。
深夜のド・モンモランシ伯爵邸にて、密談の最中です。
相手は、ド・モンモランシ夫妻。
内容は、これからのトリステインについて……
既に、レコンキスタの魔の手はこの国にも及んでいると教えました。
そして、どうでも良いけどどうでも良くない家……
ギーシュ君の実家の取り込みを協力して欲しい。
グラモン家は、武門故なのか、貿易を持ち掛けても色好い返事が貰えず、どうするか保留していたんです。
元帥ですから、いざアルビオンに増援!
の時には、役にたってくれる筈ですが、ゲルマニア貴族たる僕の印象が悪い様な……
しかも、ヴァリエール公爵サイドからの交渉にも乗り気じゃないんですよね。
プライドなのか、愛国心なのか……
はたまた只の脳筋なのか?
きっと女性絡みで攻めれば食い付いてくると思うけど、其処まで出来ないのは何故かな?
なので、比較的友好なド・モンモランシ伯爵にお願いをしようと思う。
「時にド・モンモランシ伯爵は、アンリエッタ姫の動向をどう思いますか?」
ド・モンモランシ伯爵は溜め息をついて
「最近の姫様は、積極的に色々動かれている。
自身の周りを固める様に若い貴族との交流や、銃士隊の設立。
それと……」
何だろう?
僕を見て黙り込んで。
「……それと?」
「アンリエッタ姫は、君に対して並々ならぬ感謝を常に周りに言い触らしている……
人生観を変えてくれた恩人だと」
あの、アホタレ姫がぁー!
余計な事を言い周りやがって……
「それは、光栄なのか迷惑なのか……」
「そうだな。
迷惑以外の何物でもないだろうな、君からすれば」
僕も溜め息をつく。
「だからですか?
僕に対するトリステイン貴族の反応の悪さは……」
「そうだな。
だから最初は驚いたよ。
グリフォン隊の、彼等の態度が……
今は理解しているがね」
穏やかな笑みを向けてくれるオッサン。
なに、俺には分かってるんだ的ですか?
「……困りますね。
アンリエッタ姫には。
しかし、彼女の思いは危険だったのです。
今のトリステインが不安定な時期に、ウェールズ皇太子に始祖に愛を誓った手紙を送ろうとしたんです」
「なっ!
本当なんですな。
今、貴族で話題になっている、天空の高貴なる方と地上の姫の例え話は……」
「ご存知でしたか。
しかし、一方的に愛を向けているのはアンリエッタ姫ですね。
ウェールズ皇太子の気持ちは微妙だ……
だから捏造した恋文を公表して結ばれ様とした」
ド・モンモランシ伯爵は、ふと思ったのか
「何故、ツアイツ殿はアンリエッタ姫に其処まで信頼されているのだ?」
当然の疑問ですよね。
「簡単な事です。
秘密ですが、ウェールズ皇太子は大きいオッパイが大好きです。
しかしアンリエッタ姫は底上げの偽物の乳。
僕は、巨乳教の教祖として数多の女性の豊胸化の実績を持つ……
アンリエッタ姫は、内密で僕を頼ってきたんです」
「伝説のバストアッパー……
報告書は本当だったのですね」
ド・モンモランシ夫人の目が輝いた!
「因みにモンモランシーも実践中です。
既に半年も経たずして4センチアップ……
中々の素質をお持ちで」
「「…………」」
夫妻は黙り込んでしまった。
「ツアイツ殿……
義母たる私にも指導をお願いします」
ド・モンモランシー夫人がかなりマジな目で頼み込んで来た!
「ええ、構いませんが。
既にモンモランシーに全てを教えて有りますので、聞かれれば良いかと……」
ド・モンモランシ夫人はご機嫌だ!
「コホン!
して、アンリエッタ姫は恋文は思いとどまったのですな?」
「ええ、止めました。
今その暴挙に出れば、トリステインを国を売って恋を掴んだ姫になるから、と」
「良かった。
まさしく、そう言う疑念を持つ貴族も出るだろう」
「しかし……
僕は、レコンキスタが蜂起して戦局が膠着した時期を見計らい、アンリエッタ姫に行動に出ては?
と教えました」
「なんと!
我が国の姫を唆したのか?」
僕は、紅茶を飲んで一息ついた。
そして、僕の考えをド・モンモランシ夫妻に伝える。
「レコンキスタ……
アルビオンを攻め落とせば次はトリステインです。
その後は、聖地に向かうか、ゲルマニアを攻めるか……
兎に角、トリステインは既に安全では無いのです」
ド・モンモランシ夫妻は黙って頷く。
これは、想定内だったのだろう。
「なれば、各個撃破を狙うレコンキスタの思い通りなどせずに、アルビオンに協力して勝つべきでしょ?」
「戦火を自国に持ち込まず他国でヤレって事だな」
「身も蓋もないけど、その通りです。
そして、アンリエッタ姫には自ら援軍を率いてアルビオンに、ウェールズ皇太子の為に参戦しろと教えました」
「そこで、グラモン家の取り込みに繋がるのだな」
ド・モンモランシ伯爵はニヤリと笑った。
「反対するのは、レコンキスタから賄賂を貰っている売国奴ですよ。
彼等を一掃にして、膿みを全て吐き出すべきでしょうね」
「ヴァリエールとウチとグラモン。
援軍に参加を唱えれば、王宮を動かせる。
そして反乱鎮圧に成功すれば、アルビオン救国の中心人物である、アンリエッタ姫は対等以上の立場で婚姻を進められる訳か……」
「どうです?
トリステインのメリットは大きいですよね?」
「ふぅ……
貴殿は本当に、アンリエッタ姫の恩人ですな。
しかし、これは君の計画の一部だね?」
ニヤリと笑う。
「そうです。
戦力が無ければ、有る所から引っ張れば良い。
そして、引っ張った相手にもメリットは大きい。
違いますか?」
「何ともアレだが、この国の腐敗もあの母娘の責任は大きい。
なれば、好いた相手に嫁がせてやるから、国の事もちゃんとヤレ!
ですな。
腐敗した貴族を一掃出来るなら……
あの頭の弱い姫を操るのも、国の為ですし仕方がない訳だ」
僕に負けず劣らず、ニヤリと悪代官の笑みをたたえる。
「これは、アルビオンとトリステインの腐敗貴族を一掃し、両国の友好の為の婚姻なのです。
立場はこちら、トリステイン側が上でですがね」
悪役2人の密談に、ド・モンモランシ夫人は引き気味だが、良く考えなくてもトリステインの為だから、アンリエッタ姫を唆す事は賛成だ!
これは、相当良い物件を娘が引き当てた!
と、我が子ながら誉めてあげなければと思う。
家の復興を無償の愛で手伝い、水の精霊の加護を譲り交渉役と干拓の手伝いを約束させた。
しかも、トリステイン王国の行く末まで考えている。
これを当たりと言わず、何を当たりと言うのだ!
夫は、親バカで結婚をズルズル伸ばす気らしいが、ヴァリエールやツェルプストーの娘達も中々の美人で性格も良さそうだ。
愛はね、有限なのよ。
誰よりも多く寵愛を受けるには、早く結ばれないと駄目だわ!
どうしましょう?
今夜にでも、モンモランシーと相談しなくては!
ここにも、暴走する母親が居た!