今朝はうっかり予約投稿を忘れてしまったので、お詫びに連続投稿します。
第92話
善意の悪企み……
とでも言うのだろうか?
ヴァリエール夫妻と長女エレオノールが、良からぬ話をしている最中にヤンデレ魔女が乱入する。
「面白そうなお話をしてるのね。
私にも聞かせてくれないかしら?」
この一家は、ツアイツ様に身内とまで言われているのに、彼に良からぬ事をしようとしているのか?
あの年増が、杖を収めて話し掛けてくる。
「シェフィールド殿ですか?
驚きましたよ。
突然の転移魔法は……
我々は、ツアイツ殿に悪意は有りません。
話を聞いて下さい」
前回訪問時よりも、丁寧な対応でソファーを勧められる。
年増の、これも年増な娘が、難しい顔で紅茶を用意してくれた。
残念だけど、私には毒は効かないわよ……
「では、先程のお話を聞かせて貰おうかしら」
殺気で威圧して問い掛ける。
嘘なら、ツアイツ様を害するなら、消えて貰うつもりだ……
私の家族に手を出すなら、レコンキスタより先に潰すわ!
年増の夫が話し出す。
「シェフィールド殿も、ツアイツ殿が今回の件で苦労しているのは知ってるだろう?
しかし、成し得る事の重大さに反比例する彼への報酬は……
余りにも少ないとは思わないか?」
…………?
嗚呼、そうか!
彼等には、事が終わった後でツアイツ様が、我が主の義弟になる事を教えてないわね。
彼等なりに、ツアイツ殿への見返りを考えているのか……
話を進めさせる為に頷く。
「2つの国家を救い、ハルケギニアの争乱を抑えた真の英雄は彼なのだ!
しかし、その功績の殆どが、アンリエッタ姫の物となりトリステインの利益になる……
可笑しいとは、思われぬか?」
こんなブリミル時代に哀愁を感じる様な連中の巣喰う、カビの生えた小国など要らないのだけど……
「それで?
どうするのかしら?」
「私達も考えました。
アンリエッタ姫は、アルビオンに嫁ぐ。
向こうで、それなりの勢力を保てるでしょう。
民と軍部の支持が有る。
この戦乱での戦費と報酬は、レコンキスタに組したアルビオンの貴族連中の領地を要求させるつもりです。
アルビオン内にトリステインの治める土地が出来ます。
だから嫁いだ後も、アルビオンでのアンリエッタ姫の影響力は強い」
なる程、戦後のパワーバランスはそうね。
あの、色ボケ姫でも地盤は作れるわけね。
「しかし、トリステインを裏切った貴族の領地の大半は国の直轄地になるでしょう。
我ら協力した貴族に与えても余る位に、この国の貴族は腐っている者が多い……
これを機に一掃すれば、三割強は減りますから」
はぁ……
何処の国も、役に立たない強欲貴族ばかりなのね。
「失礼ながらマリアンヌ様が、アンリエッタ姫が嫁がれた後のこの国を正常に治める等と夢をみる程、私達は楽観してないわ」
なる程ね……
大体分かってきたわ。
「……それで?
どうしたいのかしら?」
「折角ツアイツ殿が、膿みを出してくれたこの国は、直ぐに元に戻ってしまう。
それでは、彼の努力が水の泡だ!」
ヴァリエール公爵が、最後に気持ちを吐露した!
「それで、アナタ達はツアイツ様をどうしたいの?」
「我がヴァリエール公爵家は、準王家。
始祖の血も濃い。
その我が家の正当跡取りが、ツアイツ殿と婚姻関係を結べばどうかな?
しかも、真の英雄としての働きを公表したら……」
まさか、トリステイン貴族が王家乗っ取りを企むか?
「ツアイツ様をトリステインの要職に据える気なのね?」
年増が、言葉を繋げる。
「まさか、彼はそんな事は望まないでしょう。
欲が薄いと言うか……
オッパイの探求には際限無いのですが。
しかし、この国を思えば何もせずに安穏としているマリアンヌ様では未来が無いのです。
なれば、地盤作りを我らがやらねばならない。
国の為なら、ヴァリエールは立つ!」
「ふーん。
でも、ルイズとモンモランシーもゲルマニアに嫁ぐのでしょう?
トリステインと外戚になるけど国政に口を出す程の力は無いわよ」
ずっと黙っていたエレオノールが宣言した!
「私が、ヴァリエール公爵家を継ぐわ!
ド・モンモランシ伯爵家とグラモン家。
レコンキスタ騒動を治めた私達が結束すれば、この国を動かせるわ!」
なる程ね。
彼に救って貰ったこの国をより良くする為に、今回のツアイツ様の関係者が立ち上がる訳ね。
アンリエッタ姫はアルビオンに押し付けて、マリアンヌ王妃が動かないなら立ち上がるのか……
「分かったわ。
折角の努力の結果を関係無いヤツらに良い様にされては堪らないわね。
でも、ツアイツ様は私と主とガリアで暮らすから……
その心配は杞憂よ。
ツアイツ様が身内と言ったアナタ達にも悪い様にはしないから。
ツアイツ様はね。
私の義弟……
そして、私がガリアの王妃となるからには、こちらでそれなりの待遇を考えているから心配しないで。
でもそれは……
まだ秘密よ。
お互い彼に知られたくないでしょ?」
くすくすくす……
だからこの国はアナタ達にあげるわ。
「「「はぁ?それはどういう意味なの(なんだ)?」」」
「我が主の希望を叶えたなら、アナタ達が心配する以上の地位も名誉も財もツアイツ様には与えられるわ!
だから心配は無用よ。
彼が、立て直したこの国はアナタ達にあげるわ!
だから、好きにしなさい。
力は貸してあげるから安心して良いわ」
SIDEヴァリエール公爵
なっ?
何を言っているんだ、この女は……
ツアイツ殿が、ガリア王の義弟になるのが報酬だと?
しかも内緒とは、彼は知らないのか?
我らもいずれはトリステインの要職に迎え、彼をこの国に繋ぎ止めようと思ったが、この女はそれをも上回る考えを持っていた。
まさか、始祖の血を引く我が娘達を嫁がせ、この国との関係を高めさせる我らが考えをスッ飛ばして、一気に王族に迎え入れるだと……
ガリア王ジョゼフに嫁ぐこの女の義弟として、ジョゼフ王の義弟にしてしまうだと!
何を考えて……
ジョゼフ王は、噂の無能とはかけ離れた異常者だ。
やるなら強引に推し進めるだろう。
しかも、ツアイツ殿はガリアの一部勢力には既にソウルブラザー扱い。
イザベラ姫との関係も良好だ。
何よりツアイツ殿なら、それでも何とかしそうで怖い。
ガリアでも、十分やっていけるだろう!
この女……
我々よりエグいぞ!
しかし、ガリア王の義弟となれば、始祖の血を引く我が娘達が嫁いでも文句は言えないな。
ガリアとの関係強化……
アルビオンとの関係が悪化しても、問題無いか?
悪化しても、真の英雄が此方に居るのを公表すれば、どうとでもなるか……
それはそれで、有りだな。
SIDEカリーヌ
はぁ?
このイカレ女、カマしてくれるわね……
しかし、ガリア王の義弟なら報酬としては、良いのかしら?
確かにツアイツ殿は、小国トリステインでは収まり切れない可能性が有る。
でも私達は身内だし、彼の立場が変わっても問題無いわね……
しかし、ゲルマニアは黙ってはいまい。
どうするつもり?
SIDEエレオノール
なっ?
折角私が、トリステイン王国を奪ってでも彼と結婚しようと頑張っているのに……
しかし、国内の五月蝿い貴族連中を静かにさせるには、ガリア王の義弟の方が良いかしら?
最終的に私自身が、今回の報酬として彼に嫁ぐ事が目的だから……
それに、年上の私はあの女達より強い立場で嫁ぐ必要が有る。
彼の寵を得る為に……
それにこの女、基本的にツアイツを恋愛対象外に見ているから、味方に引き込めば有利ね。
「その話乗ったわ!」
エレオノールも勝負に出る。
トリステイン王国よりも、自分の未来の可能性に賭けて!