第93話
アンリエッタ姫、今回も暴走する。
トリステイン王宮のベランダから、城下町を見下ろしながら思う。
愛するウェールズ様の事を……
嗚呼、あの雲は私に笑いかけるウェールズ様の様だわ!
そして、他国の貴族ながら一番信頼しているミスタ・ツアイツの事を。
何時でも私に的確なアドバイスをしてくれる、大恩ある他国の貴族。
そして、明らかに今迄より一回りは確実に大きくなった我が乳!
まだ、ウェールズ様を落とすには心許ないが、巨乳の階段を登り始めたわ。
これで、ウェールズ様は私の虜に……
※妄想が終わる迄、暫くお待ち下さい。
……はっ?
最近時間の経つのが、早くないかしら?
今朝の報告書では、ド・モンモランシ伯爵から、水の精霊との交渉役を娘が成し遂げた、と。
ラグドリアン湖は、私とウェールズ様の馴れ初めの場所。
最近増水騒ぎで、その大切な場所が酷い事になっていると聞き心を痛めてましたが……
これで又、園遊会をかの地で行う事が出来ますわね。
園遊会……
そうだわ!
新しく交渉役になったと言う、彼女の御披露目を合わせて大々的に園遊会を催してもらいましょう!
他国の王族や、彼女はトリステイン魔法学院の生徒……
なら学生のお友達も呼んでも不自然じゃないわ。
久し振りに……
いえ、初めてウェールズ様から私信を頂いたわ。
何でも、最近ゲルマニアの演劇に大変興味が有り一度その作者……
トリステイン魔法学院に留学中のミスタ・ツアイツに会って話がしたいと。
これは、ウェールズ様に会えるチャンス!
しかも、愛している御方と信頼している御方に挟まれて演劇とか見れたりして……
嫌だわ!
アンリエッタ、困っちゃうわ。
城下町を見下ろせるバルコニーで、一国の姫がイヤイヤと身を悶えている。
見下ろせる=見上げる事も出来るのだが、幸い彼女の痴態を見ていたのはアニエス隊長だけだった。
彼女が、脳内疑似両手に花デートの妄想を堪能中、アニエス隊長も色ボケしていたりする。
こちらは、一度だけお会いした黒衣のお姉様。
シェフィールド様の事を……
因みに彼女のお仕置きは、減給とある工作を行う時に銃士隊をあげて全面協力をする事。
工作とは、恋文の搬送役として銃士隊を使う約束をさせた事だ!
そんな色ボケた2人の思いは、思い人に会える機会はド・モンモランシ伯爵よりもたらされた。
「アニエス隊長!
お母様の所に行きます。
ド・モンモランシ伯爵のご息女が水の精霊との交渉役になれたとか。
これはトリステイン王国の力を各国に知らしめる事が出来るわ。
大々的にラグドリアン湖にて遊園会を行い、その場にて公表する必要が有ります。
これから忙しくなるわよ」
「ははっ!
して、遊園会にはあの変態もお呼びになるので」
アンリエッタ姫は、自分の信頼するミスタ・ツアイツを未だに変態と呼ぶアニエス隊長に眉をしかめたが……
他国の貴族を警戒する。
これも隊長の仕事だと割り切った。
「勿論ですわ。
ウェールズ様からもミスタ・ツアイツとの会談の機会を与えて欲しいと……
私に、直々にお手紙を頂きましたから。
国賓としてお呼びしますわ」
アニエス隊長は渋い顔だ!
「流石にそれは……
あの変態でも、立場が有りましょう。
姫様、自重して下さい」
ミスタ・ツアイツの立場?
また失敗してしまったのかしら……
「…………?
そうなのかしら?
では、普通に招待状を送りますね。
さぁお母様に報告しなければ」
いそいそと、マリアンヌ王妃の部屋に向かうアンリエッタ姫の後を慌てて追いながらアニエス隊長は溜め息をついた。
いくら気に入らぬ変態でも、最近のアンリエッタ姫の口から出るのはあの男の誉め言葉ばかり……
流石に他国の貴族を誉めちぎるのは、姫様にも変態にも良くない事だ。
何とかしないと……
お姉様にも被害が及ぶかも知れないし。
まさか私が、あの変態を気遣う事になるとは。
苦笑しながら、アンリエッタ姫と共にマリアンヌ王妃の部屋に向かった。
ヴァリエール公爵邸に有る巨大な池?
中心に島も有り、橋も架かっている一寸小さい湖みたいな池の前に、沢山の人が集まっている。
これから久し振りに、キュルケと水のゴーレムの演劇を披露する為に。
思えば、ロミオとジュリエットが初めての演劇だったな……
うっかり両親やツェルプストー夫妻に見せてしまったから、周りに言い触らし廻られて大変だった。
そして、二作目の演目はシンデレラだった!
しかもツェルプストー辺境伯邸に軟禁されて仕上げた作品だ。
「レディース&ジェントルメン!
今日の演目はシンデレラ。
これは私の二作目にして、一番小説が売れたお話です!
では、お楽しみ下さい!」
目線でキュルケに合図を送り演技を開始する。
原作との違いは、スタート時に虐げられていたシンデレラ……
キュルケが演じると、ゴージャスボデーにこの美貌。
全然悲壮感が無いです。
しかし、キュルケの演技は素晴らしく灰被りの少女からダンスパーティーで注目を浴びるレディへの変身は見事!
ヴァリエール家のメイドさん達から、溜め息が漏れていました。
僕の魔法制御も、それなりに上達したので中々の盛況でした。
思えば、最近は暗躍する事が多かったから良い気分転換になりました。
シェフィールドさんには初めて見せたのだが、随分と魅入ってくれましたし。
それだけでも演劇をして良かったかな。
それと……
久し振りに、カトレア様も気分が良かったと庭に出て鑑賞してくれました。
エレオノール様は……
心此処に有らず?
何やら悩み事が、有りそうなので聞いてみよう。
こうして考えると、ヴァリエール公爵家の皆さんには、随分世話になってるよね。
この一件が片付いたら、何か恩返しをしないといけないね。
等とツアイツが考えていた頃……
この一家は、ツアイツを何とかトリステイン王国と縁を強めようと行動していた。
全て、シェフィールドさんの掌の上で……
エレオノール頑張れ!