第96話
こんばんは!
ツアイツです。
現在、ヴァリエール公爵家に滞在中で寝室にて夢の世界に旅立とうとしてます。
昨夜は、急な園遊会の件で睡眠時間が少なかった。
昼間は、カトレア様のハルケギニア版ムツゴロウ王国に連行されたキュルケとシェフィールドさんを救出したりと忙しかった。
やっと皆から解放され、宛てがわれた部屋で寝る所でした!
思えばこの部屋もヴァリエール家に訓練に来た時から同じだなー!
カリーヌ様も僕に気を使ってくれてるんだなー!
と、現実逃避中。
目の前に居る筈のない人が居ますから……
「ツアイツ様?
ツアイツ様、どうしたんですか?
独り言をブツブツと……」そう!
アルビオン大陸にて工作中のロングビルさんと遍在ワルド殿が目の前に居ます。
「ロングビルさん。
何故此処に居るのですか?」
ロングビルさんはニヤリと笑い……
「元土くれのフーケですからね。
貴族の屋敷に忍び込むなんて簡単ですよ」
クスクスと笑ってくれた!
因みに遍在ワルド殿は、気まずそうに頭を下げてくれた。
本体より余程空気の読める遍在だ!
「それで?
わざわざ出向いてくれた用件は何でしょう?」
そろそろ本格的に眠いのですが……
「アルビオンでの工作ですが、一段落です。
既に己の性癖に自負の有る者達にとって、美乳派に入るなど考えられない事でしょう。
レコンキスタに組した者は、金の亡者と信念無き色狂いばかり……
それにクロムウェルは、そろそろ勧誘に見切りを付けています。
傭兵団に接触し始め、物資の調達・備蓄を始めました」
「ロングビルさん。
取り込み妨害工作はこれで止めましょう。
潮時ですね」
ロングビルさんは何故か不機嫌そうに
「誇り有る変態達の殆どが、ツアイツ様の例の会員になってますから……
最近は攻略の妨害は殆どせず、奴らから財宝を巻き上げる事ばかりしてましたから。
確かに潮時ですわね。
それにもう、アルビオンの貴族で己の性癖に自負が有る連中は、レコンキスタに組する事は無いでしょうし……」
どうやら会員制度は成功したみたいだな。
「でも、何でロングビルさんは不機嫌なの?」
彼女は、鞄から特典第一弾のフィギュア
「完全版ティファニア・プリンセスバージョン」
をテーブルにドンっと置いた。
「で、そいつ等が必ずこの人形を持ってるんですよね?
ツアイツ様は、テファを保護すると約束した!
しかし、この人形が出回っては危険では無いのですか?」
ロングビルさん、本気で怒ってる。
ヤバいなぁ……
「静かに……
この人形がテファを守ってくれる布石なんですよ。
この人形……
フィギュアと呼んでますが、凄い人気です。
既に売れ行きも上々です」
彼女は、まだ不信顔だ……
「このフィギュアは、プリンセスバージョン……
モード大公の血を引いている王国に連なる正当な立場のテファです」
ロングビルさんは、声は潜めているが口調はキツい。
「それは秘密にしたいって言っているではないですか!」
もしバレて、追われる様になるかも?
って不安なんだろう。
「秘密は何時かはバレます。
隠し通せればそれでも良いですが、幾つか手を打っておこうかと……
彼女の姿を模したフィギュアは人気絶大だ!
まだモデルが居るとは発表してないけど、隠してもいないからその内知れ渡るでしょう。
僕の婚約者として。
ゲルマニア貴族の娘として。それが真実と周りは受け止めるでしょう」
ロングビルさんは黙って僕を見詰める。
「テファの過去の偽造も、粗方工作済みです。
孤児で修道院に居る所を僕が見初めて、配下の貴族の養子とし嫁がせる。
ある程度調べれば辿り着く情報。
巨乳派教祖の僕ならば、随分我が儘だが納得はするでしょう。
そしてその話は、ハーナウ家ではタブーな感じにしています」
「……なる程。
どうせバレるかも知れないなら過去を偽造し、それを真実と思わせるんだね。
なら何でプリンセス何だい?
巫女とかシスターじゃないのかい?
その流れなら……」
大分落ち着いてくれたかな?
「一つ目は人気を得る為に、彼女の高貴さは隠しきれない。
二つ目は、最悪アルビオンにバレた時……
ジェームズ一世やウェールズ皇太子と戦う事になっても、此方にも正当な血筋は流れている。
アルビオンの歴史は続く事を知らしめる為に。
三つ目は……」
「ちっ一寸待ちなよ!
あんた、テファの為ならアルビオンと戦争する事も考えているのかい?」
ロングビルさんは最悪僕がテファの為に、アルビオンと事を構える覚悟が有る事を知って逆に驚いた様だ!
「当然ですよ。
どっちが大切なんて分かり切っているでしょ?
それに最悪の場合であって、その手前に幾つか対抗策も有りますよ」
「アンタって……
いや、ツアイツ様を頼って本当に良かったよ。
本当に……
だって、国と戦って迄守ってくれる気だったなんて……」
彼女は俯いて泣き出してしまった。
ポンポン!
と、肩を叩いてハンカチを差し出す遍在ワルド殿……
この遍在ワルド殿、本体より女の扱いが上手いんだけど?
何が有ったんだろう。
「有難うよ……
アンタもハンカチ、助かったよ。
ツアイツ様、本当に有難う御座います」
深々と頭を下げるロングビルさん……
「僕達は家族じゃないですか!
大丈夫、守り切ってみせますから。
アルビオンでの工作は終わりにしましょう。
先にハーナウ家に向かい、暫くテファの相手をしてあげて下さい。
僕は予定が変わり、ラグドリアン湖での園遊会に出てから帰ります。
遍在ワルド殿は、どうしますか?」
遍在ワルド殿は、一言
「本体の元に戻る」
と、言ったが彼はガリアでエターナルロリータの捜索中の筈だが……
「本体ワルド殿は、ガリアで私用で出掛けてますから……
良ければ、ロングビルさんを送りながら我が家で遊んでいて下さい。
サムエル愛の資料館や、僕の書斎を自由にして良いですから」
遍在ワルド殿は、頭を下げて了承の意を表した。
「そうだ!
ツアイツ様、言い忘れましたが、クロムウェルの接触している傭兵の中に厄介な奴が居ます。
白炎のメンヌヴィルと呼ばれている凄腕の火のトライアングルメイジです!」