第102話
ベアトリス姫殿下が退場した頃、アンリエッタ姫は念願叶ってウェールズ皇太子と同じテーブルに座っていた。
「ウェールズ様、お久し振りで御座います。
今日は私の国の為に有難う御座いますわ」
「いや、水の精霊には興味が有ってね。
素晴らしい物だったよ。
これでトリステインも安泰だね」
向かいに座っていたアンリエッタ姫が、一気に隣の椅子に移動し、にじり寄った。
「トリステインの安泰は、アルビオンとの連携が必要不可欠ですわ!
両国の絆をもっともっと深める為には……」
「あーっと、そう言えばツアイツ殿は何処かな?」
身を乗り出してにじり寄るアンリエッタ姫を言葉で牽制するウェールズ皇太子は真剣だ。
「ツアイツ殿ですか?
参加はしてますが……
それでウェールズ様、演劇に興味がお有りとか?
実は私、ツアイツ殿に脚本を書いて貰いまして……」
しっかりとウェールズの手を握り締める。
「アンリエッタ姫!
近付き過ぎですよ。
周りを見て見て」
アンリエッタ姫とウェールズ皇太子の攻防は続く!
SIDEツアイツ
何人目だろうか?
男の浪漫本にサインして渡したのは……
調子に乗って増刷し捲った為か、何冊もの本を持った男達に挨拶をされ、握手しサインをする。
未だに料理にありつけない……
目線の先にのし掛かる様な体勢のアンリエッタ姫が見えた。
「あれは……
アンリエッタ姫と、あのイケメンがウェールズ皇太子かな?」
目が合ったイケメンが、物凄いお願い顔で僕を見ている。
アンリエッタ姫に何かを言われたアニエス隊長がダッシュで、近づいて来て僕の手を握り強制連行する。
「ちょ、いきなり何ですか?」
「頼む!
姫様が暴走する前に来てくれ。
私ではお止め出来ん!」
アニエス隊長に手を引かれ問題のテーブルに案内された!
遂に、ウェールズ皇太子とご対面だ!
「これは、ミスタ・ツアイツ!
さぁさぁ、どうぞ私の隣にお座り下さい。
ウェールズ様。
彼が、ツアイツ・フォン・ハーナウ殿ですわ」
仮にも彼等は王族だ!
此方から名乗る事にする。
「アンリエッタ姫、お招き有難う御座います。
これはこれは!
アルビオンのウェールズ皇太子ですね。
お初にお目に掛かります。
ゲルマニアのサムエル・フォン・ハーナウが長子。
ツアイツ・フォン・ハーナウです。
お見知りおきを……」
貴族的作法で挨拶をする。
「アンリエッタ姫と積もる話も有りましょう。
野暮な私は気を利かせますので……
お二人の時間をお楽しみ下さい」
一礼して去ろうとするが……
「まぁ!
嫌ですわツアイツ殿。
まだ早いですわ」
「ちょ一寸待ってくれ!
2人にしないで……」
「まっ待ってくれ!
これ以上は、お止め出来ないのだ。頼む……」
真っ赤になってイヤイヤをするアンリエッタ姫。
しかし、他の2人に引き止められた。
チッ……
脱出失敗か。
大人しくテーブルに戻る。
「ミスタ・ツアイツに書いて頂いた脚本。
真夏の夜の夢ですが、先ほど正式に我が国の劇団に依頼しましたわ。
芸術の季節、秋には観たいですわ」
オイオイ……
夏期休暇も半ばだぞ。
秋って、もう日にちが無いぞ。
哀れ、トリステイン王立劇場……
「そうですか……
時間も厳しいと思いますが、歴史有るトリステイン王立劇場ですから平気ですね」
「是非、ウェールズ様とミスタ・ツアイツもご招待しますわ。
そうだわ!
公開初日にお二人共ご一緒に観ませんか?」
益々哀れな……
ふとウェールズ皇太子を見れば、真剣な表情で僕らを見ている。
「ウェールズ様?
アンリエッタ姫の顔を真剣に見詰めてますが……
愛されているのですね。
やはりお邪魔でしたか?
すみません。
空気が読めなくて……」
「まぁ!
ウェールズ様ったら。
さっきは周りを見て気を使えと仰られたのに……
もう、はっ恥ずかしいですわ」
アンリエッタ姫は、感極まって恥ずかしそうに両手で顔を隠して走り去って行った。
「アンリエッタ姫!」
慌てて、アニエス隊長が追いかける。
僕は、ウェールズ皇太子に向き合って話掛ける。
「ウェールズ様は、僕に何かお話が有るのですか?
この園遊会にてアンリエッタ姫から引き合わせたいと依頼が有りましたが……」
「漸く君と2人で話が出来るね。
僕は君に、このハルケギニアをどうしたいのか……
教えて欲しいんだ。
勿論、一貴族として又巨乳派の教祖として」
近くの使用人を呼び、飲み物を用意させる。
当然お酒だ!
「どうにも抽象的な質問ですね?
どうしたい……
僕の大切な人達と幸せに暮らしたいですかね」
ウェールズ皇太子は、グラスを一気に空けると代わりを頼む。
「他の人達は?
自分の周りだけが幸せなら良いのかい?」
「アルビオンの次代を担うウェールズ皇太子なら、国民全てを幸せにする考えでなければならないでしょうね?」
「…………それは、理想論だが確かに努力はするよ」
「僕は、ウェールズ様より権力も財力も無いですが……
自分を慕ってくれる人達の為なら他に犠牲を強いても守るつもりです。
全てを幸せにとか、理想を唱えるより今大切な人達の事を考えるので……
手段、選びませんよ。
それで罵られようが、敵対されようが覚悟は出来てますから……」
ウェールズ皇太子は黙り込んでしまった。
大切な人達の為なら、悪い事でも何でもやる!
そう聞こえただろう……
「悪役になれる覚悟か……
建て前とプライドを尊重する我々には、言えない言葉だね。
だから君の周りの人達は、幸せ者ばかりなのか……」
「言うだけなら簡単です。
実が無ければ、力が無ければ、ただの戯れ言ですよ」
「有難う。
覚悟と言う意味を考えさせられたよ……
僕はまだまだ甘かった。
アンリエッタ姫も手紙に書いていた。
決意と覚悟……
君は、アンリエッタ姫も守るべき者なんだね」
そう言って穏やかに笑いかけるイケメン!
ばっ馬鹿言うな!
アレは僕と僕の周りの幸せの為に、アンタに押し付けるんだよ。
変な誤解するなー!
「…………違います。
彼女の望みを叶える為に、(一方的な)協力関係に有りますが……
彼女を守るのは適任者が居ますから」
そう言ってから、ウェールズ皇太子を見詰める。
「僕かい?いや僕は……
ほら、アレだよ?
その立場が何だから、難しいかなーって……」
笑顔でトドメを刺す。
「僕は、手段を選ぶつもりは有りませんから……
アンリエッタ姫を宜しくお願いします。
彼女は一途な女性ですよ。
それと、巨乳派教祖としてお約束しましょう。
彼女の豊胸……
お望みでしたね?
確実に希望通りに仕上げてみせます。
では、失礼します」
席を立ち貴族的作法に則り、一礼してテーブルを離れる。
ウェールズ皇太子よ……
変な誤解をせずに安心して暴走特急アンリエッタ号の尻に敷かれるが良い!