第108話
男の浪漫フィギュア!
巷で人気のこの人形ですが、生産地は本拠地ゲルマニアのハーナウ領と、トリステインのド・モンモランシ領にて絶賛増産中!
格付で、ハーナウ領産の方がより高級かつ高精度で有り、主に中級会員以上のカタログ注文品。
ド・モンモランシ領産は、初級会員のカタログ注文を扱っている。
原型師は全てツアイツが行っているが……
大変かと言えば、そうでも無かった。
元々、錬金で色々なゴーレムを作れる腕をもつツアイツ。
妄想力を総動員すれば、幾らでも小さな女の子ゴーレムを作れるから……
困ったのは、一部着せ替え可能な可動関節を持つ高級品だ。
他のフィギュアは、服を着た状態にてカタを取り、彩色する。
此方は主にド・モンモランシ領で増産に次ぐ増産を行っている。
プラスチックが錬金出来ないので、カタを取ったら鉄を流し込み彩色する。
金属製が一般的だ。
少数の物は素材を変えて試行錯誤中……
まだまだ時間が掛かるだろう。
現代のフィギュアとは違うが、手工業がメインのハルケギニアの技術ではこれでも頑張って量産している方だろう。
魔法の使えない平民でも生産が可能なのだから。
そして着替え用の衣装についても、領内の女性を中心に雇用し生産に励んで貰っている……
職が増えれば景気も向上する。
一時的とは言え、領地の立て直しを図るド・モンモランシ伯爵は随分助かっている!
これなら、トリステイン貴族の中で力を取り戻すのも早いだろう。
さて、ツェルプストー辺境伯の独り言の様な提案でも、義父上になるならば叶えねばなるまい。
それに、気になる一言が有った。
「……彼女は、そうそう表には出れない理由が有るのだから?」
これは何を意味しているのか?
義父上が、テファが元平民で配下の貴族と養子縁組したとの偽情報に騙されるとも考え辛い……
まさか、ハーフエルフだとはバレてないと思うのだが……
ツェルプストー家に滞在して直ぐに始めた事が、ヘルミーネ・イルマ・リーケさん達のフィギュア制作だ。
彼女達を屋敷に呼び寄せてフィギュアの原型を制作し、彩色して見本を作る。
これは、キュルケやツェルプストー夫妻も大変興味が有るらしく、実際に目の前で行う事にした!
場所は、応接室だ。
「ツアイツ殿には、毎回新しい事を始めるので驚かされますわ!」
「義息子よ。
我が娘達を人気の出る様に頼むぞ」
「えっと、私もフィギュアになるのかしら?」
見学者側の三人が、ソファーに座り紅茶を楽しみながら会話している。
僕の方はモデルさんに着替えて貰い、それを見て妄想爆発させて錬金する。
最初は、ヘルミーネさん。
活動的な美人な彼女は、どんなポーズが似合うだろうか?
ライトメイルを着込んだ彼女を凝視して考える……
うん、決めた!
凛々しい彼女は、ギャップ萌えにする。
両手を後ろに組んで、俯き加減に少し下を向いたポーズだ。
腕を後ろにまわす事により胸が強調される。
当然ミニスカでロングブーツ!
絶対領域は生太ももだ!
これならお姉様好き受けするだろう。
妄想開始!
キタキタキター!
30cm程度のミニゴーレムが完成する。
幾つかポーズを変えて更に錬金する。
「ふぅ……
まだ色を付けてないので、イマイチかもしれませんが、一応完成です」
先ずはヘルミーネさんが手に取り、じっくりと見る。
「私とイメージが違う気がしますが……
本当にツアイツ殿の中の私はこんな感じなの?」
ギャップ萌えを強調した表情と仕草に自信が無さそうだ。
「ええ。
ヘルミーネさんの内面の優しさと女らしさを表してみたのですが……
気に入りませんか?」
「ツアイツ殿……
それは、もしかして口説いてます?」
悪戯っ子の表情だ。
これが、トリステインから多淫と言われる由縁かな?
「まさか!
と言えば魅力が無いの?
と返されそうですが、貴女を美しいと思っても立場が許さないですよ……
お互いにね」
キュルケの立場も有るから、やんわり断る。
ふと見れば、キュルケと夫人は安心した様な表情をしている。
そんなに信用ないのかな?
それにヘルミーネさんは、全くの悪戯心だな。
ニヤニヤしているし……
「では次は……イルマさん」
「私の番?緊張するわね」
彼女は、落ち着いた感じの知的美人だ。
服装はゆったりとした上着にロングスカート。
露出は少ない。
んーどうするかな?
やはり知的美人と言えばメガネだ!
そして胸元の開いたシャツにタイトスカート。
それにマントを羽織らせる……
ポーズは脚を組んで椅子に座らせてみた。
脚の組み方を幾つか変えて錬金する。
妄想開始!
キタキタキター!
女教師キター!
ヘルミーネさんと同様に錬金が完了。
イルマさんは、出来上がったミニゴーレムをマジマジと見詰めて
「ツアイツ君、エッチね。
私こんな体の線を露出する衣装もポーズもしないわよ」
頬を染めて言われてしまいました。
「イルマさんの知的さを全面に押し出すにはこれが良いかと。
この衣装は東方での女性教師や第一線で知的労働を行う女性の服装らしいです。
イルマさんにピッタリですよ!」
「ツアイツ君……
何の臆面も無く女性を誉めては、誤解されますよ。
私も誤解しようかしら?」
イルマさんは……
にこやかで表情がよめないな。
この笑顔、カトレア様に似ている感じだ……
ヤバい、ヤンデレか?
「ハハハハハ。
ソレは勘違いですカラ……」
「ツアイツ君、何か言葉使いがヘンよ?」
「兎に角、彩色してから又見せますので。
次は……」
ツェルプストー一族の女性は、皆さん一筋縄ではいかないですね。
その頃のアンリエッタ姫!
トリステイン王立劇場。
歴史有る荘厳な建築物で有り、専属の劇団を抱える。
支配人はアンリエッタ姫直々の訪問を最初こそ歓迎したが、今は何て厄介なんだと感じていた。
「……ですから、この脚本で秋に公演をしたいのです。
これには、アルビオンのウェールズ皇太子もお呼びしますわ。
先の園遊会にで、お話しましたの」
にこやかに話すアンリエッタ姫に、殺意に近い感情を覚えた。
他国の王族を呼ぶ演劇を1から初めて、僅か60日にも満たない期間で完成させろ……と。
しかも、この脚本はゲルマニアで流行っている魔法を演出に使う、我々には未知のものだ。
今から間に合う訳が無い。
「ウェールズ様とツアイツ様と貴賓室にて3人で観れるなんて、今から楽しみですわ!
支配人、これはトリステイン王立劇場の後世に残る名演劇にして下さい。
では、失礼しますわ」
言いたい事だけ言って、帰って行ったアンリエッタ姫を呆然と見送る……
扉を出る時に、お付きの銃士隊の女隊長が申し訳無さそうに頭を下げてくれた。
しかし、悪いと思うならアンリエッタ姫を止めてくれ!
途方に暮れたが、王族の命令に逆らえる訳が無い。
スタッフ全員に召集をかける。
プライドが邪魔をするのだが、最悪の場合は脚本を書いたゲルマニアの貴族に助力を頼むしかないかもしれない。
ソイツが、脚本をアンリエッタ姫に贈るから大変なんだ!
脚本の表紙に書いてある名前を読む。
ツアイツ・フォン・ハーナウ……
ん?
確か、アンリエッタ姫がウェールズ様とツアイツ様と3人で……
と、言っていた。
どういう事なんだ?