第113話
トリスティン王立劇場
無駄に豪華で格式有るこの劇場は既に戦争の様な状態だ……
「だから、無理でもやるんだ!
アンリエッタ姫が、アルビオンのウェールズ皇太子を正式に招待したんだ!
もう変更は効かないし、駄目なら皆打ち首だ……」
舞台セットや設備の担当者が口々に騒ぐ!
「無茶苦茶だ!
この脚本の舞台効果は、魔法で行うと有るが……
詳細が不明だし、ノウハウも無いんだぞ」
「こんな精密な挿し絵で舞台効果を書かれたら、観客はお粗末な物では納得しないぞ!
この本は既に売れ捲ってるんだろ」
「これは劇場内では無理なんじゃないか?
野外で自然の池や森を利用しないと……」
役者陣も黙っていない!
「こんな奔放な役作りは、今までの伝統や格式を重んじた演技では……
それに台詞回しも従来と違う。
書き直しは出来ないのか?
せめて著者にも演出家として協力して貰わないと……」
大勢の関係者に詰め寄られる支配人。
「それは無理だ……
その著者のツアイツ・フォン・ハーナウ殿はゲルマニア貴族であり、まだ学生だ。
トリスティン魔法学院に留学中だが、今は夏期休暇で自国に帰省中だ」
皆の間から溜め息が漏れる……
「何とかならないのか?
彼は数々の演劇の脚本を書き、自らも役者として主演男優を演じたんだろ」
「そうだ!
無責任だろう。
脚本だけ寄越して知らんぷりは……」
「そうだ!
呼び出そう、でなければ終わらないぞ」
口々に支配人に詰め寄る劇団員達。
しかし、支配人からの言葉で絶望に突き落とされる事になる……
「私も最初はそう思ったよ……
でも、脚本を貰った時に技術指導や共演等の話も有ったのだ。
利権に絡むし、此方のプライドも有った。
ゲルマニアの貴族の書いた演劇など、教わらなくても出来る!
そう断ったのだ。
しかも王宮貴族達は、脚本自体も無償でアンリエッタ姫に献上した物として扱った……
今更、頭を下げてお願いに行っても無理だろうな」
「そんな……
なんで、そんな扱いをしたんだよ!
彼の素性を聞いて学生とは驚いたが、脚本は素晴らしいし、ゲルマニアの劇場で公演しているのも参考の為に皆で見に行っただろう」
「確かに新し過ぎるとは思ったが、面白かった」
「そうだな、参考になった。
学ぶ物も多かったのに……」
「全ては旧体制然としている我らのせいか……」
「しかし、せめて打診だけはしてみては?
背に腹は代えられないぞ」
一縷の望みに賭けるか?
「じゃあ誰が頭を下げに行くんだよ……」
歴史有る故にプライドが邪魔をしてしまった。
しかし、頼まれてもイエスとは言わないツアイツだと思う。
アンリエッタ姫フラグは、立てちゃ駄目だから……
SIDEウェールズ皇太子
教皇ヴィットーリオとの会談で、何とか理想の結果を勝ち取れた!
これで、レコンキスタは犯罪者の集まりだ。
大義名分を失った軍事クーデターなど成功するものか!
意気揚々とアルビオン行きの空中船に乗っていた。
「ウェールズ様、ジェームズ陛下より緊急の手紙が鷹便で来ました」
配下から手紙を受け取る。
何だろう。
いくら何でも私の抜けた一週間やそこらで、危機的状況に陥る事は無いだろう。
まさか、既にレコンキスタを殲滅したのか?
などと考えながら、手紙を読み進める。
「なっ何だと!
船長、急いでゲルマニアのハーナウ領に向かってくれ。
出力最大、風石の消耗など気にするな」
大声で指示を出すウェールズに周りの者達が慌ただしく動き出す。
「どうなされました?
ロマリアとの交渉は望みうる最高の物でしたのに」
船長と側近が集まり、訳を聞く。
「ツアイツ殿に影響されて、レコンキスタに組する貴族は少なかった。
しかし、武装蜂起した彼らも未だに美乳派等とほざいているのだ……」
「はぁ……
既に欠片も有りませんな。
美乳派なんて意義は」
彼も男の浪漫本愛好者で有り、巨乳派だ!
「そうだ!
誰も美乳派など気にもしていないだろう。
しかし、敵は既に有りもしない美乳派だが……
乳を戦乱の道具としていると思う奴も居るんだ」
周りは急に大人しくなった。
レコンキスタは、美乳派。
なら、これを討伐するのは、ツアイツ殿の唱える教義に反するのでは?
上級会員になれない?
「ウェールズ様、一大事ですよ!
それはお断りだ」
「私だってそうだ!
永遠の中級では、テファたんのお着替え下着が買えないんだよ」
「…………ウェールズ様もテファたんがお気に入りなんですね。
私もです……
これはマズい状況ですね」
「幸い父上が、ゲルマニア皇帝に親書を送っている最中だそうだ。
領内侵入の許可が下り次第、連絡が有るから直ぐに先方に向かえるように近くで待機だ。
後はツアイツ殿と交渉なのだが……」
側近達が期待に満ちた目をウェールズ1人に向ける……
もしかしたら、巨乳派教祖に直接会えるかもしれない。
彼の婚約者たるテファたんも、この目で見ることが出来るかもしれないと。
他国の貴族を戦争中の自国に招く事は難しい。
しかも彼はまだ学生。
でも、巨乳派教祖の彼が、この戦争は乳を巻き込んでないと唱えねば、士気に関わる問題だ。
せめて、書状か会報でコメントを頂かないと皆は納得しないだろう……
「難問だよ、これは……
私達は教祖をオッパイ戦争へ関われと言うのだ!
他の会員達が黙ってはいないだろう」
変態教皇の会談などより、よっぽど気の重いウェールズだった……
最悪、私が土下座をしてでも頼み込むしかない!
船は晴天の大空をみるみるハーナウ領に向かっているが、ウェールズの気持ちは晴れなかった。
少し前のヴィットーリオさん!
ウェールズ皇太子には良い様にやられてしまったが、反教皇派閥の一つを潰せただけでも良しとするか。
これから、ジュリオとムハムハタイムなのだ!
「ヴィットーリオ様、これは何の服なのでしょうか?
サイズが合わずキツいのですが……」
ヴィットーリオの寝室に現れたジュリオは、ハーナウ領から密輸した
「男の浪漫本原寸衣装シリーズ・体操服ブルマ仕様」
を着ていたが、丈と腰周りが短くイマイチ似合っていない。
「ふむ……
男の娘のジュリオでも小さいか?
仕方ない。
破らない様に丁寧に脱いでこちらを着てごらん?」
ヴィットーリオが差し出した服は、ブレザーだ!
「これは、学生の制服でしょうか?
結構可愛いですね」
「男の娘」のジュリオに高○生の制服……
ヴィットーリオの興奮は最高潮だ!
「じゅじゅじゅジュリオー、好きだー!」
「あん!
教皇様落ち着いて……」
折角着せたブレザーを脱がしつつ、ヴィットーリオは考えていた。
この「男の娘」に似合う衣装を201セット、ハーナウ家に発注しよう。
金を払う気は無い事をちらつかせて……
この要求の対応によって、彼がブリミル教をどう思っているのかが、分かるだろう。
思考は腹黒い事を考えていたが、手はジュリオを悪戯する事に余念がない。
「ヴィットーリオさま……
だめぇ、だめです」
桃色空間?
お盛んなヴィットーリオだった……
ツアイツは、ウェールズとヴィットーリオから難題を押し付けられようとしていた!