第119話
「自分が楽しいと思った事は嘘ではない!」
かつて篭の鳥の少女は言った。
ロマリアに良いように扱われた少女の言葉だ!
この世界では、まだ物語に登場していない……
シャルロットの双子の妹。
ジョゼット!
今ならガリアの孤島、セント・マルガリタ修道院に居るはずだ。
彼女の心の支えだったジュリオは「男の娘」になっている。
だから、竜のお兄さんフラグは潰れている。
じゃ竜のお姉さん?
しかし!
このハルケギニアに納まり切らない変態紳士ワルドなら何とか口説き落とせるかもしれない。
このワルド、女性には尽くすタイプだし能力だけ見ればトップクラスだ!
最初だけ大人しくしてくれれば、モテるはず。
原作のジョゼットは、ちょっと世間知らずな頑固者だけど……
これからの事を考えると、此方で押さえておきたい。
しかし……
シャルル派の粛清の嵐に良く生き残れたよね。
普通なら、シャルルの血を引いてる彼女は反乱の御輿として最適だ。
ジョゼフが見逃すとも思えない。
それに、セント・マルガリタ修道院はガリアの孤島とは言え、飛べる手段が有れば誰でも行ける場所。
しかも、ロマリアや花壇騎士団にも情報が漏れてるんだけど……
罠かな?
「ツアイツ殿、黙り込んでどうしたのですか?
その極上のロリッ子は何処に居るのですか?」
目を血走らせて、言い寄る本体を遍在ワルド殿が取り押さえてくれた!
こっちの方が有能じゃね?
「すみません。
かなり問題の有る子なんですが……
それでも宜しいですか?」
キリリと表情を引き締め、マントをバサッと払いながら立ち上がる!
「ツアイツ殿に美少女と言わせる逸材なら、私の覚悟は完了です!」
無駄に格好良いんだけど……
何故だ!
何故こんな態度が出来るのにモテないんだ?
哀れ過ぎて涙が出てきた。
「分かりました。
教えましょう……
彼女は今、ガリアの孤島に居ます。
セント・マルガリタ修道院のシスターですが……
双子を吉凶とするガリアで捨てられたシャルロット姫の妹君です」
流石に目を見開いて驚いた表情をする。
「毎回ツアイツ殿の情報網には驚かされますが……
タバサ殿の妹君、か」
「気を悪くしましたか?
振られた相手の妹など紹介しては……」
ワルド殿は、じっと目を閉じている。
やはり振られた相手の妹では嫌だよね。
「すみませんでした。
この話は無しn」
「素晴らしい!
タバサ殿より更に幼い妹君ですか!
是非、是非とも紹介して頂きたい。
さぁさぁさぁ……」
思わず脱力する。
それで良いのかワルド殿?
「彼女は、ジョゼフ王のシャルル派粛清の難は逃れましたが、マダマダ危険な立場なのです。
それにロマリアが嗅ぎ付ける前に確保したい!」
普通なら躊躇するだろう、問題の大きさだけど……
この男の余裕はなんだ?
「ツアイツ殿。
ミス・ジョゼットとの出会いは入念にシミュレーションしてから望みたいのです。
私に無かったのは、臨機応変さ!
そして、カステルモール殿の様にこの教典たる男の浪漫本を熟読しあらゆる状況に対応出来る男として成長してから、ミス・ジョゼットの下へいきます!」
決意表明をした本体ワルド殿に拍手する遍在ワルド殿……
これが本当の自画自賛?
「そうですね。
ロマリアが彼女に接触するまで、まだまだ時間が有ります。
ゆっくり対応を練りましょう!
それと、本体ワルド殿には食事と休憩が必要かと……
さぁ、此方にいらして下さい」
「ツアイツ殿……
何時も何時も気遣って貰って……」
泣き出してしまった。
駄目だ、このワルドは能力は高いがマダオだ。
これは、僕も同行するかしないと又、悲惨な結果になりそうだ……
なんて手の掛かる友人なんだろう。
兎に角、手段を問わず応援するしかないな。
所在無げに佇む遍在ワルド殿に
「僕も手伝いますから、貴方も協力して下さい」
と頼み込む。
力強く頷く遍在ワルド殿を見て思う。
この不思議に有能な遍在殿と二人がかりで手伝えば何とかなるかな?
取り敢えず、シエスタに何か食べ物を作って貰おう。
食堂に案内しながら、そんな事を考えていた。
その頃のアルブレヒト3世
執務室で1人、アルビオン王国のジェームズ1世からの親書を読む。
一通り目を通してから、目頭を揉む……
我がゲルマニアの貴族。
ツアイツ・フォン・ハーナウの紡ぎ出す世界が、遂に此処まで影響を及ぼすとは……
確かに、あやつの唱える教義にレコンキスタ討伐は違反している。
しかし、あの石頭でプライドの高いジェームズ1世が、此処までゲルマニアに譲歩するなら……
悪くはない提案だ。
ウェールズ皇太子の子供の1人との婚姻も打診してきた。
それに、疲弊が激しいトリステイン王国よりも空軍の抜きん出たアルビオン王国の方が軍事同盟の旨味も有る。
未だにくすぶる、俺に服従しない連中の牽制にもなるだろう。
一貴族との面会許可だけなら、破格の条件だ……
しかし、あやつを国外に出して本当に平気か?
ツェルプストーとの娘と結ばれたと聞くし、我が国との楔は有るか……
良いだろう。
この条件を呑もう!
「誰か!
ハーナウ家とツェルプストー家、それとアルビオンのジェームズ1世に親書を送るぞ。
準備しろ!」
レコンキスタか……
美乳派などと、下らん戯言をほざきおって。
そうそうに、このハルケギニアから退場するが良い!
SIDEウェールズ皇太子
ゲルマニア皇帝アルブレヒト3世から、ハーナウ領への入国と、ツアイツ殿への面会の許可がおりた。
これで何とか、レコンキスタに対抗する我が軍を纏める為の交渉が出来る。
しかし……
何て説明すれば良いのだ?
教皇ヴットーリオは、オリヴァー・クロムウェルを破門し美乳派を否定した。
だが、ツアイツ殿は己の教義に信念が有る筈だ。
やはり土下座しかないのか……
この東方の謝罪方法は、やる方も屈辱的だが、やられる方も居たたまれない気持ちになるからな。
兎に角、誠意を見せるしか無い。