第120話
ガリア王国
プチトロア内イザベラ執務室。
何故か不機嫌なイザベラと向かい側に座るタバサが居た……
「エレーヌ、最近ここに入り浸っているけど?」
タバサは、ん?
と何を言ってるの、的な表情でイザベラを見ると視線を持っている本に戻した……
「ここは本が沢山有るから……
それに実家に入り浸りは色々不味い」
下を向いたままボソッと呟く!
「あんた?
あの変態魔法衛士隊隊長を振ったんだって……
まぁ正解だけど、あの男泣きは哀れだった」
ツアえもーん!
とか騒ぎながら飛んで行ったから、絶対ツアイツに泣きついた筈だ。
あの身内にとんでもなく甘い奴の事だから、想像も付かない対応をして来るんだよ……
そして、しわ寄せは絶対私と決まってる。
今回の贈り物だって、初めて手紙を付けてきた。
これは園遊会での私の台詞に対しての対応かも知れないが……
内容が、ね。
「親愛なる我がアイドル!
イザベラ様。
先のご要望により、今回より手紙を添付させて頂きます。
先ずはシャルロット姫のデビューですが、フィギュアと男の浪漫本にて進めて行きたいと存じます。
必ずヒットさせてみせますのでご安心して下さい。
今回はシャルロット姫も帰省中との事ですので、衣装についてはお二方分贈らせて頂きます。
関係各所に慰問を行っていると聞いています。
ご一緒に廻られては如何でしょうか?
きっと人気は爆発的に上がると思いますよ。
是非、僕も最前列で見たいと思います。
それと珍しいお酒を手に入れたので……
これはライスワインと言って果物でなく、穀物を発酵させこした物です。
燗してよし、冷やしてよし、とお酒では珍しい味わい方が出来るのです。
勿論、常温でも楽しめます。
今回は吟醸酒と言うランクですが、気に入られましたら純米酒・本醸造酒と種類が有ります。
現在ハーナウ領にて試験的に制作しております。
感想等を頂けると大変嬉しく思います。
それとご希望の「そるまっく」ですが、多目に入れておきますが、深酒は美貌と健康の大敵!
イザベラ様の美しさが損なわれない様に程々が宜しいかと……
お酒、控えて下さいね。
次回は、東方より伝わったスィーツを贈らさせて頂きます。
楽しみにしていて下さい。
それと、またご迷惑をかけると思いますが、宜しくお願いします。」
これだけ読むと、ツアイツは私の事を敬いつつも友達感覚なんじゃないか?
それはそれで、同年代の異性と話す事など無い私としても嬉しいし、贈り物は常に私好みを押さえている。
健康に配慮までしているんだけど……
最後の一行で台無しだ!
またってなんだよ、またって!
ツアイツめ、また私に厄介事を押し付ける気だね……
「イザベラ……
笑ったり、悩んだり、怒ったり……
その手紙、そんなに感情を高ぶらせるの?」
目の前にエレーヌが居た!
「なっななな何でもない手紙だよ!
きっ近状報告だね。
それより、今回はツアイツからエレーヌにも贈り物が来てるよ」
「…………?」
「お前も私と慰問に行くんだよ!
さっさと着替えるよ!
おい、メイド。
着替えるから準備しな」
イザベラが声を掛けると、控えていたメイドズが現れて二人を隣の部屋に連れて行き着替えを始めた。
「イザベラ……
ミスタ・ツアイツと結婚するの?」
思わず振り返ってしまう。
相変わらず、上から下までストンな体型だね……
「何でそんな話なんだい?
可笑しいだろ?」
メイドにその胸で必要か?なコルセットを着けられているエレーヌに問い質す。
「イザベラ隊の皆が、ソウルブラザー以外認めないって……
それに公式の場で抱き付いたって騒いでる……」
しまった!
園遊会の時か……
他国の連中は、奴らに警戒させたから見られてないけど奴らは見ていた。
「あっあれは、ちょっとした悪戯だよ」
「それにイザベラ隊はジョゼフ王が承認した部隊。
当然、ジョゼフにも報告が行っている……」
「なっ何だってー?」
「ジョゼフは、それは良いではないか!
って手を叩いて笑ってたそう……」
着替えの途中だけとしゃがみこんでしまった。
ヤバい……
周りを固められた?
これが狙いかツアイツ?
抱き付いたのは私だし、それは無いか……
でも、周りはそうは思ってない。
考えてもみなよ!
無理だろ、私達は……
確かにアイツはハンサムだし有能だ。
友人としてなら、好きと認めてもいい。
ウチの連中とも仲良くしてるし、ガリア全土に広がる男の浪漫本ファンクラブも浸透してるから、私の婿になっても反対派は少ないだろう。
どちらかと言えば、賛成する連中の方が多い気がするよ。
反対する奴らは、公式ファンクラブの連中が何とかしそうだ……
お父様はツアイツを気に入っているし、あの黒衣の女など姉弟みたいな関係らしい。
あいつの実家も商売としてウチのギルド関係に食い込んできている。
演劇や脚本・物語の売れ行きも良く、国民にも人気が高い。
あれれ?
悪くないどころか、他の候補って居るの?
でも、ツアイツがガリア王になったらハルケギニアは変態で埋め尽くされる……
思考の海に沈んでいたが、エレーヌの一言で呼び戻された!
「でも無理……
ミスタ・ツアイツはこの夏期休暇を利用して、婚約者達の実家巡りしてる。
彼女等も、この機会に喰われる?って言ってた。
三人とも……」
なっ何だってー!
「この私が!
大国ガリアの王位継承権第一位の私が、四番目だって!
貴族ってのは序列が有るんだよ!
第一夫人は私だろうがー」
きょとんとした顔で、私を見ているエレーヌに言われてしまった。
「イザベラ、ミスタ・ツイアツと結婚するつもりなの?」
しまった……
ついカッとなって言ってしまった。
ドアの外から、
「「「ウォー!デレデレキター!」」」
とか聞こえた。
信じられない事だが、王族の私達の着替え姿を覗いている奴らが居るとは……
素早く上着を羽織り、既に着替え終わったエレーヌと2人で無礼者に教育を施す事にする。
「エレーヌ、逝くよ……
外に居る不埒者に天罰をくわえにね!」
無言で杖を構えて頷くエレーヌと扉に向かう。
私の手には一升瓶と言う、ツアイツからの贈り物の鈍器を持って……