第125話
薄暗い地下の牢屋でメンヌヴィルさんと向かい合う。
彼女は拘束されベッドに座っている。
僕は両側にワルド殿とシェフィールドさんを配して対峙している。
「坊ちゃんの両脇の奴らは護衛かい?
随分臆病じゃないか?」
ムキムキの女性が、顔を赤らめながら悪態をつくのは可愛いものだ。
「護衛?違うよ、家族だよ。
それとメンヌヴィルさんで実験したいんだ」
実験って言葉を聞いて雰囲気が変わる。
「また俺の体で良いように遊ぶのか?
畜生がぁ!」
やはりトラウマなんだ……
「そう、実験だ。
貴女の症状は水の秘薬の副作用……
どんな薬か知らないけれど?
僕は義姉の病気を治したい。
だから貴女で治療の実験をするんだ。
恨んでくれても構わない」
「…………?
治すだぁ?
何を言ってやがる。
俺だって散々やってみたが無理だったんだぞ!
そんな簡単に……」
メンヌヴィルさんの言葉を遮ってシェフィールドさんに話し掛ける。
「お姉ちゃん。
お願い……」
「あらあら甘いわねぇ……
女、動くとどうなってもしらないわよ?」
抵抗しようとした、メンヌヴィルさんもシェフィールドさんの迫力に負けてか大人しくなった。
いよいよ神の頭脳ミョズニトニルンたるシェフィールドさんの真骨頂が見れる……
コピーしたアンドバリの指輪と水の指輪を左右の人差し指に嵌める。
深呼吸して、メンヌヴィルさんの頭を挟み込む様に掌を当てて目を閉じる。
集中力を高めているのか、うっすらと額に汗が浮いてきた。
メンヌヴィルさんは……
苦痛なのか、歯を食いしばっている。
長い……五分位か?
その時、シェフィールドさんの填めている2つの指輪が鈍い光を発し始めた……
「ぐっぐががががっ……」
小刻みに揺れながら苦痛に耐えている。
余りに激痛だと、オルレアン夫人やカトレア様の治療は無理か?
一際光が強くなり、コピー指輪が砕け散った!
「ふぅ……
成功ね。
アカデミーの秘薬とは、筋肉強化等の肉体のポテンシャルを高める薬みたい。
でも素の肉体が、そんな強化に耐えられないから……
耐えられる肉体に変化したのね……」
「お姉ちゃん、有難う。
でも随分痛がってた」
ベッドに倒れ込んだメンヌヴィルさんを見る。
そこには、普通の30代の女性が居た。
若い頃は綺麗だったろう面影が伺える。
多分、下級貴族のお嬢さんだったのだろうか……
「お姉ちゃんは大丈夫?」
肩で息をしているシェフィールドさんを見て心配になり声を掛ける。
「平気よ……
でもコツは掴んだかしら。
次は痛みも少しは抑えられるわ。
彼女は肉体的変化が大きかったから痛みも強かったのよ」
「メンヌヴィルさん。
気分はどう?」
だいぶ落ち着いた彼女に声を掛ける。
「何だって、あんな拷問をするんだぁ?
やっぱり貴族の坊ちゃんだな。
そんなに若い癖になん…で…?
目が、目が見えるぞ?」
はっとして、自分の両手を見ている。
さっき迄のムキムキの手ではない、華奢な手を……
両手で顔や肩、足等を触りまくり確認している。
「かっ鏡、鏡はないか?」
どうしても確認したい事。
それは顔なんだね。
僕は鏡を錬金して彼女に渡した……
「これが、俺……
見る影も無く中年のくたびれた顔だ……
でも、記憶にしか残っていない本当の私の顔の面影が有るんだ……
これが本当の私か」
薬で失われた年数は戻らない。
でも、仮初めの体よりはマシな筈だと思いたい。
「貴女で実験した事は謝りませんよ。
それと傭兵、白炎のメンヌヴィルはレコンキスタに雇われて僕を襲い……
そして返り討ちにあった。
そうさせて貰います」
「くっくっく……
あーっはっはー!
甘いぜ小僧。
だが、俺の過去を消してくれて何をさせたいんだよ」
少し吹っ切れたのか、言葉は粗いが口調は少しだけ優しい?
「仮初めの姿の貴女が受けた暗殺の証拠が欲しい。
後は、ご自由に……」
メンヌヴィルさんはポカンとして……
「それだけかよ?
野に放てば、アンタを付け狙うかもしれないぜ!」
んー精一杯の強がり?
TSメンヌヴィルさんも結構可愛いね。
年上だのに失礼な事を考えてしまった。
「僕に必要なのはそれだけです。
証拠と引き換えに金銭を要求するなら応じます」
開いた口が塞がってない……
「狂人メンヌヴィルに随分な台詞じゃn」
「傭兵メンヌヴィルは僕が殺したんです。
貴女は……
何と呼べば良いんですか?」
「……好意に甘えるぜ。
証拠はアジトを教えるから捜索しな。
そこに全てが有る……」
そう言ってベッドに横になってしまった。
「体を休めて下さい。
回復したら解放します」
それだけを言って、シェフィールドさんを促し外に出る。
「坊ちゃん、俺に名前付けてくれよ。
そうしたら雇われてやっても良い。
回復したら、復讐したい奴も居るから……
それが果たせたらだけどよ」
「アカデミー評議会議長ゴンドランですか?」
「そうか……
今はそんなお偉いさんかよ。
有難うよ、坊ちゃん」
そのまま布団を被ってしまった。
拘束具も縮んだメンヌヴィルさんでは、すっぽ抜けた様だ……
もう逃げもしないだろう。
「良い名前を考えておきますよ。
後で食事を運ばせますから」
そう言って部屋から出る事にした。
外に出ると、何やら手帳にメモをしているワルド殿が……
随分大人しかったけど、何をメモしてるのかな?
「ワルド殿、何を?」
「流石はツアイツ殿!
あの狂人をも口説くとは、参考になります!
これが、私に足りない物なのですね。
難しい……
これを本当にマスターしなければ、ジョゼット殿との薔薇色のニャンニャンは……」
薄暗い廊下で妄想タイムに突入したワルド殿を置いて、シェフィールドさんと自室に戻る事にする。
「これから、アルビオンのウェールズ皇太子を招いた宴が有るのですが、シェフィールドさんって彼と面識有るのかな?」
「…………?
アルビオンでは、流石に私も知られてないと思いますけど……
何故ですか?」
なら大丈夫かな?
「では、シェフィールドさんも宴に参加して下さい。
テファも出ますし、折角ですから楽しみましょう!」
これから大変だから、今夜位は良いよね!