第129話
トリステイン王国
トリスタニア王宮……
ここにも、ツアイツに交友の有る姫が居る。
暴走特急アンリエッタ姫……
イザベラ姫とは真逆の評価を受けている、トリステインの花。
そして彼女の周りに居るのは、女性ばかりの銃士隊と遍在ワルド隊長。
当然、遍在ワルド隊長は何も教えない。
グリフォン隊の隊員とも、そこまで親しく言葉を交わす事は少ない。
まして女性が男の浪漫本ファンクラブ会報を読むなど有り得なかった。
故に、ツアイツのデマな重傷情報は中々伝わらない。
しかし思いもよならい相手から、その情報はもたらされた……
トリステインで色を語るならグラモン!
最も、その後ろに「ボケ」が付く程に色ボケな一族だが、それ故に初級会員が多くいた。
財政厳しい連中が多く、なかなか中級になれないのだが……
ちょっとした会談の中で、グラモン元帥が零した一言をアンリエッタ姫は聞き逃さなかった。
「アンリエッタ姫が、大変興味をお持ちの演劇ですが、脚本家のツアイツ殿が急病らしいですな……」
ただアンリエッタ姫の興味対象の情報を何気なく言っただけだったのだが……
アンリエッタ姫の反応は過剰だった!
「なんですって!
グラモン元帥、どう言う事なんですか?
何故、ミスタ・ツアイツがご病気なのですか?」
多少興味が引ければ良いと思った一言に、過剰に反応されグラモン元帥は困ってしまった。
しかし会話を振ったのは自分なので続けるしかない……
「はぁ……
配下の話では、賊に襲われたらしいですな」
「賊!
その不埒者達は捕まったのですか!
誰なんですか?」
矢継ぎ早の質問に思わず及び腰になる。
「詳細は不明ですが……
今アルビオンで軍事クーデターを起こしている、レコンキスタ関係らしいですな。
しかし、主犯格はツアイツ殿が倒したとの事です」
アンリエッタ姫は、呆然と黙り込んでしまった……
「そうなんですか……
その情報を詳しく集めて下さい。
宜しくお願い致しますわ」
そう言って、自室に引き上げてしまわれた。
残された貴族達の憶測は酷い物だったが……
純粋にファンクラブ会員は、姫様が懇意にしているツアイツ殿の事を心配している。
なんとお優しい、姫様なんだ!
と思っていた。
しかしレコンキスタに買収されている連中は、アンリエッタ姫がレコンキスタに敵意を持ってしまった!
拙い状況だ!
そして、それを誤魔化す為に、ツアイツの悪い噂を有る事無い事言い触らしてまわった……
中には、アンリエッタ姫の興味を引く為の仮病だ!
ゲルマニアは治安が悪いし賊は虐げている自国民だ!
等と色々だ。
まぁこの噂を言っている連中は、ヴァリエール公爵らにチェックされ、反攻作戦の時に粛正されるのだが……
SIDEアンリエッタ
何という事でしょう。
ツアイツ様が大変な時に、のほほんとしてしまいましたわ……
許せません!
許せませんわ、レコンキスタ……
私の師で有り、恩人たるツアイツ様に手を掛けるなど……
もう待てませんわ。
私の愛の軍団を率いて、アルビオンに乗り込みますわ!
ウェールズ様と手に手を取って、敵討ちをします。
思いたったら即行動!
無駄に、決意と覚悟を固めてしまった。
「アニエス隊長を呼んで下さい。
それと緊急会議を開催しますわ。
有力貴族を全て王宮に集めなさい」
見ていて下さい。
ツアイツ様の敵は私が必ず取りますから……
悪意なき善意の塊……
しかしツアイツの作戦を乱すのは、何時もアンリエッタ姫だった。
その頃のオッパイ教祖ツアイツ……
会報に負傷と発表した後、直ぐに想わぬ数のお見舞い客や見舞品が殺到してしまった。
本来なら、この空き時間で
「幸せワルド計画」
を自ら同行して進めるつもりだったが、ひっきりなしに来る見舞い客の対応が大変だ!
直接会えばバレる可能性も有るので、面会謝絶にしてしまったから更にいけなかった。
ツアイツの症状は相当に悪い!
そう周りに思わせる状況を作り出してしまった。
ベッドの上で胡座をかいて座りながら頭を抱える。
こんな大騒動になるなんて……
ちょっと騒ぐけど、直ぐに収まると思っていた。
嬉しいけど、予想を超えてしまった。
見舞い品も山積み。
水の秘薬も山積み。
面会を求める客も列をなしている……
これは、直ぐに元気になった!
じゃ問題だろうか?
折角の休みも、厳重に警戒した屋敷の自室に籠もりっきり……
唯一の楽しみは、テファや久々にメイドズと居られる時間が多い事だ。
テファには、良く学院の話や外の世界の事を聞かせている。
メイドズとは、色々だ!
勿論、添い寝も……
と、思ったがシェフィールドさんが監視している気がして自粛中だ。
でも、こんなにノンビリしたのは久し振り……
学院に入学する前以来かも知れない。
そうそう!
ワルドズ&ロングビルさんはセント・マルガリタ修道院に向かった。
女性とは何たるか!
を相当勉強させたので、多分大丈夫だと思いたい……
ジョゼットが駄目なら、後はケティしか居ないぞ。
しかし、ケティはギーシュの為に残してあげたい。
しかし、彼女は……
彼女なら、ワルド殿の地位や容姿で迫れば口説けそうな気も、しないでもない。
それは最後の手段だ!
頑張れワルド殿!
などと考えていたら誰か来たようだ……
「旦那さま、お昼をお持ちしましたわ」
ワゴンを押しながらテファが部屋に入ってくる。
僕のお世話をする事をエーファにお願いしたらしい。
しかし健康体なのに、食事の世話や体を拭いたりと介護までしてくれる。
寝たきり老人扱いだが……
「もし誰かに見られたらどうするのですか?
怪我人らしく普段からしていないと駄目ですよ」
と、ウィンクしながら言われてしまった……
ならばと、着替えや清布で体を拭いてくれる時に、上半身を見せ付けるのは忘れない!
「恥ずかしいです、旦那様……」
と、萌尽きそうな表情で言われると……
ヤバいかもしれません!
などと、病人ライフを満喫していたら、アルビオンで戦況に動きが有ったと報告が来た!
レコンキスタにより、ダータルネス墜ちる。
王党派は、最終防衛線をサウスゴータに移したそうだ。
しかし、周辺住民の全てを移動させ、ダータルネス守備隊も死傷者は居なかったし施設も破壊したので、レコンキスタは暫くはダータルネスの復旧に時間が掛かるだろう。
ジェームズ一世が指揮する今回の戦……
ハルケギニアの常識を破り捲りだ。
あの頭の固い老王が、こんな戦い方が出来るなんて……
各国が、多数の間者を放ち情報を集めている。
負ければ弱腰の老王……
勝てば、国民を最も大切にしながら戦った英雄になれるだろう。
大多数の男の浪漫本ファンクラブ会員貴族にとっては、そう理解していた。
しかし従来の貴族にしたら、平民を守りながら戦うなど負けたらどうするんだ!
と、思われていたが……
想わぬ所で評価が分かれてしまったジェームズ一世だが、ハルケギニア中の平民からの支持は高い!
勿論、男の浪漫本思想を広めた教祖としてのツアイツの人気も鰻登りなのだ。
次話から挿話
「幸せワルド計画」
を6日間に渡り掲載します。
不遇な変態紳士ワルドさんの活躍?をお楽しみ下さい。