幸せワルド計画挿話21・第六部
嵐の様な、襲撃事件。
そして突然の告白……
しかも、私が知らない内に国家間紛争に巻き込まれている。
私は、何を信じたら良いのかしら?
誰かに相談……
は、出来ないわ。
巻き込んでしまうから。
でも、このまま残れば又あの変態に拉致られてロマリア行き……
兄様には、二回も裏切られた。
もう信用出来ないわ。
だからと言って、この隊長さんを信じて良いのかしら?
ガリア王国の問題に、ゲルマニア貴族が尽力……
それを教えてくれたのは、トリステイン王国の魔法衛士隊隊長。
話だけ聞けば、スッゴいヘンよ……
でも、あのロマリア密偵団の変態よりマシ!
決めたわ。
「あのー隊長様?」
長い間、思考の海に沈んでいたせいか?
隊長様は、座りながら寝ていた……
「隊長様、起きて下さい。
起きて」
揺すって起こす。
「うーん、ムニャムニャ。ツアえもーん、後はお願いします」
寝言?
誰ですか、つあえもーんって?
「違います。
お願いします、じゃなくてお願いだから起きて下さい」
「あっ?ああ、おはよう。
突然考え込んだまま、無反応だから心配したよ」
ははは、と笑っているけど熟睡してましたよね?
「私、貴方と共に行きます。
どうしたら良いの?」
SIDEワルド
「私、貴方と共に行きます。
どうしたら良いの?」
ヨッシャー!
ロリゲットだぜー!
「そうか、有難う。
では……
君にも準備が有るだろう。
双子の月が頭上にくる時間にこの場で。
応援と共に迎えに来るよ」
「分かりました。
それと、何故隊長様はマントの内側に私?か姉?の刺繍を施しているのですか?」
「こっこれは……
ちっ巷で人気のマントなのですよ!
可愛いなぁ、と思い貰ってしまいましたが」
「貰って?」
「さっさぁ水汲みにしては、随分時間が経ってしまったようだよ。
早く戻った方が良い!
では今晩ここで」
ボロが出る前に立ち去ろう。
フライでアジトまで帰る事にする。
アジトに戻ると、グリフォンを撫で捲るロングビルが出迎えてくれた。
相棒よ……
撫でられ過ぎで、抜け羽毛が凄い事になってるぞ!
「お帰り。
で、どうだったの首尾は?
ダッシュ達はスッキリしたって帰って来たけど」
「勿論、成功だ。
今晩迎えに行き、そのままツアイツ殿の下へ連れて行く。
後はツアイツ殿に任せるつもりだ!」
「つもりじゃないだろ、マダオがぁ!
それ本当に成功したの?
ちょっと説明しろ!
正座でだよ」
いきなり拳骨で殴られ、訳も分からず説教をうけた……
しかも、先程の話もさせられるし。
全てを話終わったら、溜め息をつかれるし……
「ダッシュに説明して、先にツアイツ様に報告させな。
それと共犯者共の遍在ABCは消しときな。
いつバレるか分からないからね。
変装に使った衣装や仮面も燃すんだよ。
女のカンを舐めるとバレるんだからね」
結局、何もしなかったこの女に仕切られて後片付けをする。
「それじゃ夜の迎えは私も同行するよ。
このグリフォンに乗ってね」
すっかり懐いてる、二匹のグリフォンの顎を撫でながら恍惚とするこの女……
私が幸せになったら、仕方ないが相手を見繕ってやるか。
動物相手に興奮しては、先が思いやられるからな。
ヤレヤレ!
私も丸くなったものだ。
その時のジョゼット……
随分長い間、水汲みに行っていたのに、周りはまた妄想してたの?
で、納得されてしまった。
今夜で、この修道院ともお別れとなるのか……
でも、私が居たらみんなに迷惑がかかるから。
皆が寝静まった頃にそっと起き上がる。
同室の子らを起こさない様に、そっと部屋を出る。
荷物は僅かな着替えと一冊の本しかない……
私の唯一の私物の本。
いつかこのシンデレラの様に、私も社交界にデビュー出来るかしら?
このサクセスストーリーを書いた作者に会ってみたいわ。
こんな素敵なお話を書ける方だもの……
きっと素敵なおじ様よ。
この本は、大切に袋に詰めて持って行く。
全財産を片手で持てるなんてね……
布団の上にそっと書き置きを残した。
「心配しないで下さい。
皆の迷惑にならない様に出て行きます。
今まで有難う御座いました。
それと、本を一冊貰っていきます!」
簡単な書き置きだが、覚悟の家出と思うだろう!
この判断が、正しいか分からない。
けど、ここに居ても何も変わらない日常を繰り返し、誰も知らない内に死んでいくだけだ。
あのワルド様……
何かを隠しているみたいだけど、悪い感じはしなかった。
最悪、逃げ出そう。
待ち合わせの場所に行き暫く待つと、夜空にグリフォンが二匹現れた。
ワルド様と緑色の髪の女性が降りてくる。
「あんたがジョゼットかい?
この阿呆が迷惑かけたらしいね。
それで、本当に私達と一緒に来てくれるのかい?」
「なんだ、阿呆とは失礼だな。
きちんと説明したし、承諾を得たんだぞ」
何か、夫婦漫才みたいな掛け合いをしながら近付いてくる。
ワルド様……
ちゃんと、良い人が居たのね。
あの掛け合いは、夫婦の阿吽の呼吸なのかしら?
「じゃ、行こうか!
こっちに乗りなよ」
何か言いたそうなワルド様を黙らせて、私を自分のグリフォンに乗せる。
尻に敷いているのね。
そう言われ、人生初体験となるフライトを経験した。
「お姉様は……」
「ん?
ああ、名乗ってなかったね。
私はロングビルさ」
何か、鋭利な雰囲気の綺麗な人だな……
「えっと、ロングビルさん……」
「なんだい?」
「ロングビルさんは、ワルド様の奥様なのですか?」
うわっ……
飛行姿勢の乱れたグリフォンにしがみ付いて、落下を防ぐ。
「危ないです!」
「危ないのは、アンタの頭ん中だよ!
何で私がアレの嫁なんだよ?」
違ったのかしら?
「いえ、息の合った掛け合いに、尻に敷いている様な言動でつい……」
本気で怒ってる?
「私には、好きな人も居るの!
どっちかって言えば、アイツの好みはアンタだよ」
私?この仮初めの?
それとも本当の私?
「今回だって、アンタを不遇な環境から救う為に此処まで来たんだ。
最後はツアイツ様任せにする気らしいけどね」
「私を助ける?」
「そうさ!
ツアイツ様が、アンタがロマリアに利用されそうだ!
って言ったから、わざわざ此処まで来たんだ。
一応、善意のつもりだから安心しな。
悪くはしないさ」
ツアイツ様って?
ワルド様の年下の恩人の方なのかしら?
「ツアイツ様って、ワルド様のご友人の?」
「そうだよ!
アイツには勿体無い程の、素晴らしいお方だよ。
私が仕えているのも、その人さ」
何故か……
ラヴ臭?惚気?
でも、ワルド様の年下って、ロングビルさんからも年下よね?
ロングビルさんってショタなのね!
「ロングビルさんの好きな方がツアイツ様なのね?」
「………いや、そんな事は……
私は年上だし……
でも求められたら……」
グリフォンの手綱捌きが、怪しくなる。
「ひぃー落ちます、落ちますから!
ロングビルさん落ち着いてー!」
恋バナは、危ない環境でしたら危ない!
ジョゼットは、その話題を振った事を後悔した……
「お願いだから、正気に戻ってー!」
ワルドの幸せは、ツアえもんの手腕にかかってしまった!
ジョゼットをセント・マルガリタ修道院から連れ出す事には成功!
ロマリアに悪感情を持たせられたし、ジュリオとの仲違いもさせられた。
しかし、ワルドとの仲を進展させる事は一つも出来ていない。
そして、愛読書の作者がツアイツだとも気付いていない。
大丈夫なのか?
幸せワルド計画は?
※本編に続きます!