第130話
ヴァリエール公爵家
トリステイン王国最大級の権力と邸宅を持つツアイツの嫁(予定)の実家で有り、女性陣の強いお宅でも有ります。
久々に来たツアイツからの手紙を前に、夫妻が悩んでいた……
「あなた……
義息子に刺客を差し向けるなどと。
私、ちょっと行って話を付けてくるわね」
真面目な顔でカリーヌが、烈風のカリンとして、ちょっくらレコンキスタ潰してくるわ!
的な事をサラッとのたまった。
「待て待て待てぇ!
お前が1人で片付けたら、今までのツアイツ殿の努力が水の泡だ」
落ち着け、我が妻よ!
ヴァリエール公爵は自身も有能なのだが、妻はバグキャラだからとても気を使う。
「レコンキスタは、当初の計画通りアルビオン・トリステインの連合軍で潰す。
問題は、このリスト……
売国奴の処理だ」
ツアイツから貰った、レコンキスタから賄賂を貰っている貴族の一覧と証拠。
我が国の腐敗貴族が、こんなに居るとは……
しかし、ツアイツ殿も良くこれだけ詳細な証拠を集められる物だな。
「それと、義息子はエレオノールの事をとても心配しています。
僕のエレオノールをゴンドランの様なキチガイの近くには置いておけないから早く引き取りたいと……」
アレ?
そんな文面だったか?
「これは、義息子に貰ってもらいましょう。
これで娘達の内、2人が片付きました。
カトレアは……」
「カリーヌ、落ち着け!
そんな内容の手紙ではないぞ。
なにやら、タングルテールの虐殺の真相や実験小隊を使った非合法な行い。
それに人体実験等を行っている、か」
「チッ!
あの娘の気持ちも考えて下さい」
舌打ちされたぞ。
妻は出逢った頃から規格外だったが、こんなに変な性格だったか?
これもツアイツ殿の影響なのだろうか……
「これだけの裏付けが有れば、こやつらを失脚させるのも問題無いだろう。
後はタイミングだな。
王党派は、ダータルネスまで失った。
端から見ればピンチだ。
反攻作戦の折に、増援を打診するべきか……」
「確かに、実情を知らねば一方的にレコンキスタが侵攻してますわね」
まさか、周りの連中もツアイツ殿がオッパイだけで操っているとは思うまい。
考えれば危険な男だな……
人間の欲望を突いて人を動かすのは、悪魔の所業だ。
しかし、彼の話に人は進んでそれに乗る。
何故ならば、性癖の話には悲壮感もなければ罪悪感も無い。
性癖など皆が持っている普通の感情だし、バレても仲間意識が生まれるだけ。
しかも非合法でも犯罪でもないからな。
躊躇するのは、ホ〇の疑いが掛かるし……
味方で良かった。
彼に敵対する=僕は女性は好きじゃないんだよ!
的な疑いをかけられそうだ……
違うと言うなら証拠を見せろ!
しかし、彼の幅広いジャンル以外の女性好きなタイプを証明しろなど……
他にどんなプレイが有ると言うのだ?
「どうしたの、あなた?」
「ああ、何でもないんだ。
これはド・モンモランシ伯爵とグラモン元帥とも話し合わねばなるまい」
見通しはたっているので、さほど心配はしていない。
「ご主人様、王室より書状が届きました」
メイドが、アンリエッタ姫の印の有る書状を持ってきた。
嫌な予感がする。
兎に角、書状に目を通す……
誰だ?
アンリエッタ姫に、ツアイツ殿の怪我を教えた奴は?
全く余計な事を……
「あなた、どうしましたか?」
無言で妻に書状を渡す。
黙って読み出す妻を見ながら、手を打たねばならぬと実感した。
「あなた……
この緊急召集は?」
「誰かが、ツアイツ殿の怪我の件を教えたらしい。
アンリエッタ姫は、敵討ち宜しく立ち上がるつもりだ。
しかも、有力貴族全てを集めるとなると……
この資料を早速使う羽目になるやもな」
溜め息をつきながら、ド・モンモランシ伯爵に会い下話をしてから王宮に向かうつもりだ。
「さて、これはツアイツ殿には出来ない我々の仕事だ!
これを機に、腐敗貴族を断罪する……」
「そうですわね。
私達に出来る事をしましょう……
私も元マンティコア隊の隊長として、王宮に行きます」
烈風のカリンが二十余年振りに王宮に行く、か。
妻の全盛時を知る奴らには、良い歯止めになるだろう……
しかし、これは言っておかねばなるまい。
「カリーヌよ、破壊活動は程々にな。
王宮を壊すと色々大変なのだよ……」
無言で向ける笑顔は……
共に冒険した時の、懐かしい悪戯っ子の笑みだ。
それはそれ、これはこれ!
の顔だ……ヤレヤレ。
こんな妻の笑顔を再び見る事が出来るとはな。
悪くは無いぞ、ツアイツ殿よ。
久々に血が滾る思いだ……
「竜を用意しろ!
ド・モンモランシ伯爵家に向かうぞ」
兎に角、グラモンも交えて腐敗貴族に当たらねば、もしもの事も有る。
ツアイツ殿に、大人の仕事を見せるとしようか。
SIDEアルビオン王党派
サウスゴータに最終防衛線を構築し、レコンキスタに備える準備でごった返している。
サウスゴータは城塞都市。
時には籠城も検討しなければならない。
これには、かなりの手間が掛かる。
しかし、平民を味方に付けた為か諸侯軍と平民達とが協力して効率良く作業を行っている。
皆の意気は高ぶっていた!
先程のウェールズ皇太子の演説……
「私はツアイツ・フォン・ハーナウと会見をした。
彼は気持ちの良い青年で有り、君らファンクラブ会員の行動を誇りに思うと言ってくれた!
そしてレコンキスタに対して、彼らの教義は嘘で塗り固めた方便で有り、これは我らの教義に反しない戦いだと言ってくれた!
レコンキスタはそんなツアイツ殿に刺客を送り込み、彼は主犯を倒すも重体。
そして、共犯者の傭兵共は逃げ出した。
しかし、我ら王党派は傭兵共を捕まえ、レコンキスタが!
オリヴァー・クロムウェルが!
この暗殺を指示した確かな証拠を掴んだ!
それが、この指示書で有り捕まえた彼らだ。
私はツアイツ殿の傷が癒えれば、レコンキスタを倒した新生アルビオン王国に……
彼を心の友として。
また国賓として迎えたい!
その為には、君達の力が必要だ。
共に戦い、レコンキスタを我らが敵を倒そうではないか!」
この演説を聞いたファンクラブ会員達は、自分の信念に間違いが無い事を涙し、平民は素晴らしい教義を広めている御方を害した(元)ブリミル教司教に対して、敵意を抱いた。
しかし当然演説には、避難しているブリミル教関係者も居る訳だから……