第132話
トリステイン王国
トリスタニア王宮
その一部屋……
グリフォン隊隊長室で遍在ワルドは、本体に代わり政務をこなしている。
本体は、ジョゼット攻略の真っ最中だ!
「ワルド隊長、アンリエッタ姫がお呼びです」
宛てがわれた部屋で、グリフォン隊の訓練メニューや備品申請書と格闘していた遍在ワルドは、呼びに来た銃士隊員を見上げた。
確か最近……
銃士隊の副隊長になったミシェルだったか?
「ああ、ミシェル殿か。
分かった、有難う」
軽くお辞儀をして退出していくミシェルを見送る。
うむ、美形だが微妙な乳だな。
それに年齢も守備範囲外だ……
アニエス隊長のネコと噂も有るが、ロリじゃねーから私には関係ないな。
しかし、ロマリアが薔薇ならトリステインは百合か?
確かに国の紋章も金色の百合だけどな。
「くっくっく……」
我ながら上手い事言った的に笑ってみる。
さて、アンリエッタ姫の呼び出しか……
どうせ、碌な事では有るまい。
待たせる訳にもいかず、早足に彼女の下へ向かう。
「全く本体め。
面倒臭い事ばかり、押し付けやがって……」
愚痴の一つも零れ出た!
アンリエッタ姫政務室前……
アンリエッタ姫の部屋の前に居る銃士隊員に取次を願うが、直ぐに許可がでた。
「アンリエッタ姫、魔法衛士隊長ワルド。
お呼びにより参上いたしました」
貴族的礼節に則り挨拶をする。
アンリエッタ姫は……
何だ、また妄想中かよ。
ソファーに座り、真っ赤になってクネクネしている。
ハッキリ言って、我らと違うベクトルの変態だな。
「嗚呼、ツアイツ様……
私には心に決めた御方が……
いやですわ、そんな強引に、そこは違います……
ウェールズ様まで一緒になって攻められては、体が持ちませんわ……」
「コホン!
アンリエッタ姫、お呼びでしょうか?
姫、アンリエッタ姫?」
ハッとなり、現実世界に戻ってきた様だ……
「あら?ワルド隊長……
こほん。
ご苦労様です。
お呼び立てして申し訳ありませんわ」
ワタワタと真っ赤になって取り繕うが、知らない振りをするのが大人の優しさだ。
「いえ、これも職務ですから」
2人の間に沈黙が流れる……
「コホン!
実は、一週間後に有力貴族を集めた会議を行います。
内容は……
ワルド隊長なら教えても良いでしょう。
アルビオン王党派への援軍を送る為の会議です。
しかし、レコンキスタに取り込まれた貴族も居るとの情報が有ります。
ワルド隊長には、彼らを押さえて頂きたいのです」
オイオイオイオイ……
ちょっと待てよ。
何で、そんな話になってるんだ?
「つまり、裏切り者をその場で捕らえよ、と?」
「そうです。
しかも複数の有力貴族が関与しています……」
真剣な顔で、トンでもない事を言い出したな。
「我らグリフォン隊だけでは、不足ですな。
他に応援は居ないのですか?」
「銃士隊が居ます。
しかし、彼女らは別の任務で半数が割かれてしまいますの」
「別の任務ですか?」
アンリエッタ姫は、悪戯っ子の様な笑顔で
「秘密ですわ!」
と宣った。
ああ……
多分、ツアイツ殿の注意してくれと言っていた手紙の件か。
これは、本体とツアイツ殿に報告しないと危険だな。
「了解しました。
では、準備に取り掛かります」
一礼して部屋を出る。
廊下を歩きながら考える……
またアンリエッタ姫は暴走を始めた。
腐敗貴族の炙り出しは立派だが、手順も証拠も手段すら彼女は持って無い。
騒がれて逃げられるのがオチだ。
無謀過ぎる……
自室に戻り、ディテクトマジック・ロック・サイレントを念入りにかけて椅子に座る。
「本体及び分身……本体及び分身、聞こえるか?
アンリエッタ姫が、また暴走を始めたぞ。
どうする?
彼女は有力貴族を集めて……」
ラインが繋がっている本体とダッシュに思念を飛ばす……
長い間、本体達と交信した為か軽い疲労を感じた。
ふぅ……
本体と分身が、丁度ツアイツ殿に会いに向かっている途中で良かった。
これで対策を考えてくれるだろう。
さて、私に出来る事を進めるか。
本棚にズラリと並ぶ男の浪漫本の背表紙を眺める。
漢力を回復しないと、体の維持に支障をきたす。
「ふう……
子供の時間でも読むか」
これから遍在の至福の時間が始まる。
「これが有るから、働けるのだよ……」
本体に判断を委ね、ゆっくりとロリっ子本をニヤニヤしながら熟読する遍在。
彼の漢力は急激に回復していった。
「そうだ!
ヴァリエール公爵とド・モンモランシ伯爵にも手紙で報告しとくか」
寡黙なダッシュと違い少し口の悪い政務担当遍在だが、ちゃんと優秀だった!
SIDE本体ワルド
グリフォンにてハーナウ領に向かう途中、トリステインに居る遍在より思念を受け取った。
「あの暴走姫め……
下準備もせずに何を考えているのだ。
これは、ツアイツ殿と相談しなければ拙いぞ」
そう思い、隣を飛んでいるロングビル&ジョゼットに話し掛ける。
「すまない!
トリステインで問題が発生したので、先にツアイツ殿の下へ向かう。
後からゆっくり来てくれ!
ミス・ジョゼット。
最後まで護衛出来ずにすなまい。
我が国(ツアイツ&サムエルのオッパイ帝国)の危機なのだ!
また後で会おう」
そう言って、己の相棒に全てを託す!
ワルドの相棒グリフォンは牝だ。
ハルケギニアでも有数の変態紳士の使い魔で有るので、性能は彼女らの乗るレンタルグリフォンの比ではない。
一声高く嘶くと、猛烈にスピードを上げた!
瞬く間に、視界から消える。
それを呆然と見詰めるロングビルとジョゼット。
「ワルド様……
飛行中なのに、何故トリステインの問題を知れたのかな?」
「ああ……
アイツも変た……
変人だからね。
使い魔とでも交信したか、魔法衛士隊独自の連絡方法が有るのかも知れないね」
しどろもどろなロングビル。
「でも、お国の為にあんなに真剣に……
格好良いですよね。
働く男性って!」
「はぁ?アレがかい?
アンタ、目は平気かい?」
「とても凛々しいお顔でしたよ。
使命に燃える男の顔でした」
「アイツも黙ってれば、エリート様だしモテるんだろうけど……ねぇ?」
「…………?」
ワルド、知らない所で株を上げていた!
アンリエッタ姫様々か?