第134話
深夜の私室で、ダッシュと向き合う。
驚くべき事だが、ワルド謹製の遍在達は本体と思念を交信出来るらしい。
何て規格外にも程が有るぞ!
彼にソファーを薦め、自分も向かい側に座る。
「では、問題を聞きましょうか。
ミス・ジョゼットの件ですか?」
ダッシュは言い辛そうに
「ミス・ジョゼットについては、本体とラブラブにはならなかったが、セント・マルガリタ修道院から連れ出す事には成功した。
既に此方に向かっている」
問題って、それは取り敢えず成功だよね?
「それなら問題では無いのでは?」
それとも、連れ出すのがバレてしまったか?
それなら厄介だが……
「違う。
トリステインに居る遍在から連絡が有った。
アンリエッタ姫が、ツアイツ殿の襲撃事件を聞きつけ……
キレて暴走した!」
あっあの問題児め!
気持ちは嬉しいのだが、たった半月程度も大人しく出来ないのかよ。
「それで詳細は?」
「先ず、例の捏造手紙だが……
既に銃士隊の手により、アルビオン王党派へ向かった。
彼女らの人数が極端に減っている事を考えて複数班で行動してると考えられる。
今から回収は不可能だな」
よりにもよって、今の覚醒ウェールズに相談無しで向かっても難しいぞ。
「それは……
以前よりもアルビオン側の状況が変わってますし、僕もウェールズ皇太子と面識が出来た。
今の彼なら、手紙一つではアンリエッタ姫の思惑に乗らない可能性が高い。
でも先ずはって?
他にも有るの?」
ダッシュは、言い辛そうに
「アンリエッタ姫は、王宮に主要な有力貴族の召集をかけた……
つまり腐敗貴族の炙り出しと、アルビオンへの増援の派兵案を一気に決めるつもりだ」
「ヴァリエール公爵やド・モンモランシ伯爵と連携して?」
「いや、単独だ。
ヴァリエール公爵やド・モンモランシ伯爵には、政務担当の遍在から手紙を送ったが……
召集には大体一週間は掛かると思う。
しかし、対応の時間が足りるか疑問だな」
仕掛ける側の謀略とは、段取りが八割以上重要なんだよ!
アンリエッタ姫には、腐敗貴族の話はした。
しかし、証拠はヴァリエール公爵の手の内だ。
会議でいきなりアンリエッタ姫が、腐敗貴族に詰め寄っても証拠が無ければリッシュモン等は言い逃れるだろう……
証拠をその場で突きつけても、屋敷や関連施設を同時に抑えなければ。
時間を置いては、老練な彼らなら巻き返しは可能かもしれないし、下手に暴走する可能性が有る。
どうせ捕まるならと、レコンキスタと合流されても厄介だ……
「何てパッピーな思考してるんだよ姫様は……
不味いですね。
詰めが甘すぎて取り逃がす可能性が高い」
「此方の手勢はグリフォン隊と銃士隊の半数……
ヴァリエール公爵やド・モンモランシ伯爵の手勢を今の段階で動かす事は不味い。
王都に兵を向けるなど、何を言われるか分からない」
「全く正論だね……
そして完全に人手が足りない。
時間も無いし、僕が行っても打てる手が無い」
2人共黙り込んでしまう。
「ここは、義父上を信じましょう。
幸いにして証拠は有るし、召集前に情報も渡せた。
大丈夫だと思う、思いたい」
「全く問題ばかり起こしますね」
深夜に男2人が向かって溜め息をつく。
アンリエッタ姫……
行動は立派なんだが、準備がまるで無いって、どんな教育をされてきたの?
マザリーニ枢機卿の苦労が身にしみて分かった。
悪意が無いだけ手に負えない。
いや邪なエロ思考故の暴走かな?
※彼女の脳内では、既に三角関係にまで発展しています、いや3Pか……
「ダッシュ殿、会議は義父上達に任せるとして、我々も最悪の事態を考えて行動しましょう」
「なる程、流石はツアイツ殿ですね。
して、打つ手とは?」
まだまだ手は有る。
アンリエッタ姫とウェールズ皇太子が結ばれなくても構わないならね。
「我が閣下に謁見します。
アルビオンと軍事同盟を結ぶらしいですから。
ゲルマニアからの増援も視野に入れましょう。
そして王党派にテコ入れましょう。
僕は謁見後にアルビオンに向かいます」
トリステインの増援が見込めず、レコンキスタに腐敗貴族が合流するのが、最悪のパターンだ。
ならば、王党派の強化か別からの増援を考えれば良いだけの事。
しかし、未だ治療中の僕が屋敷から出ると言う事は……
無傷で彷徨く訳にはいかないだろう。
嘘をつき通す為には、真実を織り交ぜなければダメだ。
「重傷の僕が動かざるを得ない。
その為には無傷じゃ何かの拍子にバレるかもしれない……
ダッシュ殿、僕に魔法で怪我を負わせて下さい」
「嫌です!」
即答されたー!
「お願いします。
今、こんな事を頼めるのはダッシュ殿しかいないのです。
貴方が、ダッシュと言う名前を貰ったのを聞いた時は嬉しかった。
僕は貴方をワルド殿の遍在としてでは無く、一個人として見ています。
重ねてお願いします」
そう言って頭を下げる。
「ツアイツ殿……
私を1人の男として見てくれているのですね。
有難う御座います。
分かりました。
では、覚悟は宜しいか?」
ニコリとして承諾してくれた。
「勿論です。
しかし、仮にもメンヌヴィルさんを倒した事にしていますから……
正面側でお願いします。
出来れば左半身から左腕までで。
移動や書き物に不便は困りますから」
「メンヌヴィルは白炎、つまりは火のメイジ。
傷は火傷ですね。
では……
紫電纏いし我が一撃を受けて下さい。
それと治療の準備は平気ですか?」
ライトニングクラウドか?
ちょうどサイトが受けた傷と同じか……
「僕も水のトライアングルですから大丈夫。
水の秘薬も、見舞いの品で山積みですから」
チラリと部屋の隅に積んである見舞い品を見る。
「分かりました!
では行きますよ。
手加減はしますが、覚悟して下さい。
紫電纏いし我が一撃を……
ライトニングクラウド!」
ダッシュ殿の杖剣から紫色の稲妻が僕に伸びてくる……
衝撃に耐える様に目を瞑り身構え……
るが、一向に衝撃が来ないのだが?
「アレ?
ってアレー?
しっシェフィールドさん!」
目の前には、デルフを避雷針の様に構えて仁王立ちのシェフィールドさんの後ろ姿が……
ヤバい、ダッシュが殺される!
「ちょシェフィールドさん違いますからね!
ダッシュ殿には僕が頼んだ事ですから!」
ダッシュ、逃げろ!
何時も、この妄想小説を読んでいただき有難う御座います。
今日は……
シェフィールドさんヤンデレBAD END
をお昼にアップしてみます。
本編には、全く関係有りませんが(笑)